未来へ向けて無限にあるように思えた。
今、僕は終末の時間から逆算する。
すると、人も風景も
そう。何もかもが違って見えてくる。
僕は、疾走する。
―蜷川幸雄―
「はぁ、どうしたら良いんだろう私」
物音一つしない静かな部屋で呟く。
しばらく思案していると、突然ガチャと戸の開く音が聞こえ、反射的に振り返る。
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
妹の亜理紗が私を心配したのか声をかけてくれた。
私に似たのか、似ていないのか、いい子だ。
「大丈夫よ。どうもしてないわ」
「本当に? お姉ちゃんは無理をしすぎるから心配だよ」
亜理紗が心配そうな表情で呟いた。
「少しくらいの無理は必要なのよ」
私が亜理紗にそう返すと亜理紗は少し怒ったような、呆れたようなどちらともとれない顔になった。
「お姉ちゃんはいつも誰も頼ろうとしないし、その割には責任感とか強いのが心配なの」
亜理紗は本気で心配してくれているようだ。
「お姉ちゃんは優しすぎるんだよ」
亜理紗は小さく言い残すと自分の部屋に戻った。
私の頭の中で亜理紗の言葉が反響する。
私は自分が優しいとは思わない。
いつも周りに厳しい嫌なヤツ。
廃校の話が出た時だって私が一人で案を推し進めようとして生徒会の子たちと言い争いになった。
それでもスクールアイドルのような危うい賭けには賛成できないのだ。
ただ、『矢澤にこ』のことだけは協力したいと思っている。
見て見ぬふりをした私に責任があるのは当然なのだから。
× × ×
翌日、教室に着くと私は希の席に向かった。
聞かなければいけない事があるからだ。
「希、おはよう」
「おはよ。どうかしたん?」
希はいたずらに成功した子どものような顔だ。
「昨日、比企谷くんが私のところにきたの」
「それで何かあったん?」
ええ、もちろん。
「希、あなた比企谷くんに矢澤さんのこと話したでしょ?」
希のことだ。そう簡単に白状はしないだろう、と思いながらも問いかける。まあ、何が何でも問い詰めるが。
「少しや少し」
「その少しが問題なのよ!」
「にこっちがスクールアイドルを始めて失敗したこと、それを見て見ぬふりをしてしまったエリチが無駄に気にしてるってことくらいや」
結構話してますね。
「どうしてそんなことしたのよ。それに無駄にってどういう意味?」
私が不機嫌そうに聞くと希は少し微笑んだ。
「エリチは責任感が強すぎるんよ。それにいつも自分ばかりで自己犠牲的な部分もあるし、気にしすぎなんよ」
いつになく真剣な表情の希に言葉が詰まる。
「そんなこと……」
「実は自覚してるんとちがう? にこっちのことも」
「違うわ……そんなことない。それに矢澤さんのことは私が悪いの」
言い張る私に呆れたのか希はため息をついた。
「はぁ、本当に面倒やなぁ。うちらにも責任があるって言うんなら誠心誠意謝ってそれで自己満足するか……元気を出させるかしかないんやない?」
「元気を出させる?」
私は意味がよく分からなくて復唱する。
「せや。あとは自分でよーく考えるんや」
「ちょっと! ヒントくらい……」
そう言いかけたところでホームルーム始まりのチャイムが鳴って、私はしぶしぶ席に戻った。
× × ×
カチカチと壁時計が時を刻む。
ふと顔をあげるとおばあさまとのツーショット写真が飾ってあり、自然と頬が緩んだ。
私は帰宅してからもずっと、希からの問い、つまり矢澤にこをどう元気づけるかということを考え続けていた。
それでも結局、良い案は浮かばず、もう一日が終わろうとしている。
「……インターネット!」
方法はないかとひたすら思案して、今一つだけ思い浮かんだ案。
インターネットに頼るのは正直好きではないが、方法が考えられないのだからこの際仕方がない、と自分に言い訳してスマートフォンを手に取る。
検索アプリを開き、文字を打ち込む。
「他人を元気づける方法」
検索をクリックするとすぐさま大量の検索結果が表示された。
私はその中から一番上のそれっぽい文言のウェブページを選び、開く。
ページを開いてから少し流していると気になるものが見つかった。
「其の参 好きなものを与えるべし」
「注意 好きなものとはものだけには限りません。好きなことなど幅広い視野で相手を見直しましょう。きっと本当に欲しがっているものが見つかるはずです」
どこかのカルトか、とも思ったが、これが一番しっくりときた。
どうしてか、と聞かれても答えることはできないが、これが正解だと思った。言うならば直感だ。
矢澤にこが何を欲しがっているか、何を求めているか、今は分からないが注視していればいつかは気がつくだろう。
今はそれを見落とさないように気をつけなくては。
絢瀬絵里のかわいさはやばい