しかも巨大なたいまつである。
だから私たちはみんな目を細めて
そのそばを通り過ぎようとするのだ。
やけどする事を恐れて。
―ゲーテ―
「お邪魔します」
放課後、高坂たちのスクールアイドル活動を手伝うことになった俺は高坂たちに、いや、高坂に自宅だという和菓子屋''穂むら''へ連行された。
「すみません、無理やり連れてきてしまって」
園田が声を潜めて耳打ちしてくる。
「気にするな、こういうことには慣れてる」
「そうですか……、すみません」
本当に、理不尽な教師のおかげだよ。全く感謝してないがな。
分かるぞ、お前も高坂に振り回されているんだろ? 同情するぞ園田。
園田と二人、小声で話していると左前の方から高坂の声が聞こえた。
「こっちだよ比企谷くん! ついてきて!」
なぜかいつも元気な高坂に、俺は嘆息を漏らすとそれに続いた。
× × ×
「まず、矢澤にこを説得しなければスクールアイドル活動は始められない」
そんなことは由比ヶ浜似の高坂にも分かるだろうが一応確認する。
「分かってるよ。大丈夫」
南が首肯すると園田もそれに続いた。
「先ほども言いましたが、矢澤先輩は高校に入ってから何かあったんだと思います。絢瀬会長も何か知っていると思います」
これもまた確認なんだろう。まあ、アホの子がいるから仕方ない。
そのアホの子はずっと黙り込んでいるが。
「んー、どうしたらいいんだろう。穂乃果ちゃんはどう思う?」
一切口を開かない高坂に南が問う。
だが、高坂は反応しない。
「穂乃果ちゃん?」
「穂乃果?」
再度、南と園田が高坂に問いかけるが話だす様子はなかった。
ずっと下向いてるし。
……もしかして寝てるのか?
俺がこいつ寝てるんじゃないか、と二人に伝えると南が静かに近づいて耳元で何かを囁いた。それ前もやってましたよね、いつも何を囁いているんですか。やはり僕の悪口ですか。
すると突然、高坂が叫んだ。
「だめ! それ私のパン!……あれ?」
「おはようございます。穂乃果」
園田が微笑んだ。
× × ×
結局あの後は園田の一時間お説教コースに入ってしまい、あまり話し合うことは出来なかったが、ある程度方針は決まった。
確か作戦名は「海未ちゃんの時のように誘おう作戦」だったはずだ。
小さい頃、かなりの恥ずかしがり屋だった園田を友達にした時に使ったらしい作戦で、園田はかなり悶えてた。
その話を聞く限りはぼっち向けで、 痛いことで有名な矢澤先輩もどうせぼっちだろうと思い、俺もこの作戦を了承した。
しかし、上手くいくのだろうか。
園田は矢澤先輩が頑固になっているのには何か理由があると考えていた。そのことについて絢瀬先輩が何か知っているということも。
やはり明日、絢瀬先輩に話を聞こう。ぼっちが人にしかも先輩に話しかけるのは辛いものがあるが、生徒会を手伝わされているし、タイミングはいくらでもあるだろう。
本当はやりたくないが、理事長さんご指名のお仕事だ。やる、しか選択肢は残されていないのだ。
働きたくねえ……。
福山雅治の生きてる生きてくいいよね。
不思議なものだ。
子どもの頃は大人になんて――。