終日歩んでも嫌になることはないが、
心に憂いがあれば
わずか一里でも嫌になる。
人生の行路もこれと同様で、
人は常に明るく愉快な心をもって
人生の行路を歩まねばならぬ。
―シェイクスピア―
俺は今、生徒会室にいる。何故かって、何故でしょうね。
教室から出た時に東條先輩と絢瀬先輩がいて連行されたんですよね。
……せめて戸塚をくれ……。
「比企谷くんこれ手伝って」
「はいはい」
だからなんで俺手伝ってんだよ。
「なんで俺手伝わされてるんですか」
俺の問いに絢瀬先輩はにっこりと笑って答えた。
「生徒会の人数が足りないからよ」
やっぱり俺に拒否権はないんですね。
仕方ないので手伝っているとコンコン、と二回戸が叩かれた。
残念、正解は三回でした。
「失礼しまーす」と言って入ってきたのは同じクラスの高坂、園田、南。
覚えているのはクラスに入った時に尋問されたからだ。高坂に。
園田大変そうだったな……。
「会長!」
突然、高坂が叫んだ。呼ばれた絢瀬先輩はどうしてか一気に冷めた表情になった。
「だから何度も無理だって言ってるでしょう。それよりもあなたたち直接理事長のところへ行ったそうね」
「行きましたが」
全く怯んだ様子のない園田が答えた。
「規定では先に生徒会を通さなくてはいけないのよ。前も説明をしたでしょう? つまり私たちが許可を下ろさなければ部は作れないの。それに最低条件で生徒五人以上が必要よ。まあ既にアイドル研究部という部があるし人を集めても許可することはないわ」
なるほど……、どうしたらいいんだよ……。
絢瀬先輩の発言で高坂たちは黙り込んだ。
これ仕事無くなるんじゃね?キマシタワー! 俺の仕事はここまでだな? 諦める他に方法がないだろ。
だが、そこに彼女達にとっては救世主が現れた。
「つまり、アイドル研究部に入って皆でやればいいんやない?」
「ちょっと希?」
東條先輩の言葉に絢瀬先輩が狼狽えた。
ホント何言ってんだよ。これで仕事しなくていいと思ったのに。
「分かりました!ありがとうございます!」
無駄に元気な高坂が話を遮るように言った。一刻も早く部として認めてもらいたいのだろう。
「行こう2人とも!」
高坂が先導して、三人は生徒会室を足早に去っていった。三人が去り、部屋を静寂が支配した。だが、絢瀬先輩だけは東條先輩を咎めるように見ていた。
「希、どうしてあんなこと言ったの」
聞かれた東條先輩は一息ついてからおもむろに答えた。
「エリチが出来ひんことやってくれると思ったからや」
東條先輩の一言に絢瀬先輩は眉をしかめた。
「私にできないこと? スクールアイドルのことかしら。 希、あなたちゃんとリスクは考えているの?」
そうか……。
理事長から聞いた彼女たちの話は『スクールアイドルになって学校を廃校から救う』
一見この話はノーリスクハイリターンだ。だが、実際は違う。大成功して一番になるくらいでないと知名度はそう上がらないだろうし、結果が出なくて途中で挫折してしまうような事があれば『良い結果も残せず最後までもやり遂げられない音ノ木坂スクールアイドル』になってしまう。
「さぁ? 比企谷くんも手伝うみたいやし、どうなるのか楽しみやな」
いつも通りの全てを知っているような顔の東條先輩。だからなぜ僕が手伝う事を知ってるんですか。これも東條先輩だからで片付くんですか。
俺が東條先輩に質問しようと口を開いた瞬間、バンと机を叩くような音がした。振り向くと絢瀬先輩がジト目でこちらを見ていた。
「へえ、比企谷くんそっちにつくんだ」
「え、いやまあ」
口ごもった俺を見て絢瀬先輩は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「比企谷くん、あっちだけに付くのは不平等よね? だからこっちのお手伝いもよろしくね。まずはグラウンド五周かしら。どうする希?」
いやその理論はおかしい。だいたいグラウンド五周って関係ないよね。やらせたいだけだよね。
「そうやね、じゃあ五周頑張ってな」
だから、おかしいだろ。