「た、たすけてにゃ!」
リビングの真ん中に置かれたテーブルを使っている星空が、ソファに座っている俺たちに向かって手を伸ばす。悪いな、星空。生憎だが、俺は助けられないんだ。
「静かにしなさい。そして早くこれを解きなさい。そもそも、にゃ、ってどういうことかしら。猫への冒涜だと受け取ってもいいのかしら?」
星空の間からちらっと雪ノ下が見えた。猫への愛情は相変わらずのようだ。
「にゃー!」
星空が頭を抱えてテーブルに伏す。
……諦めろ星空。
「た、たすけてー!」
「うわあ! わかんないよー!」
叫声が聞こえて振り返る。今度は高坂だった。あと由比ヶ浜。二人で頭を机に擦り付けて、伸びた。
俺? 俺は西木野が担当するということで園田鬼教官からは逃れた。本当は園田にしごかれるはずだったのだが、中一レベルからできないことがばれてしまい、もっとしごかれると思ったが、一番できる後輩に教わることになった。ばれてよかった……。
というか俺以上に由比ヶ浜ができないおかげで逃れた。一色は思った以上にできる子で、南と一緒に矢沢先輩に教えている。小泉は時々こっそり星空に教えては、雪ノ下に甘い、と怒られていた。
おかげで二つあったテーブルは使われていて、「テーブルないし無理だな」と言ったところ俺は床でやるという結論になった。……というか後輩に中一レベルのところで間違っている、って注意されるのなかなかきついんですけど……。
だいたい今日は土曜日だ。本来なら間違いなく一週間で一番幸せな日のはずだ。
遅寝遅起き、昼ごはん。なんとなく本を読んで寛ぎ、気づいたころには夕方六時。その後は夕食をとり、風呂に入って、翌日のプリキュアに思いを馳せながら眠りにつく。それが土曜日のテンプレだ。
そもそも、西木野や小泉、南は勉強会に参加する必要はない。
が、高坂と星空に強制参加させられた。ほんと高坂たちに甘いな。
俺は……参加しないはずだった。だが前に、数学ができないということがばれてしまっていたので、園田による強制参加を食らいました。ついでに無理やり俺の部屋で開催することが決定されました。帰りたいです。
「八幡! ちゃんとやってるの?」
「お、おう戸塚……愛して……間違えた……ちゃんとやってるぞ」
「ホント?」
「ぐはっ!」
遠慮がちに下から覗いてくる戸塚の火照った頬を見て、あと五時間は頑張ろうと思った。
× × ×
強制的な勉強会から三時間ほど経過して、俺たちは今、千葉県民御用達のサイゼリヤにいる。
十時に勉強会が始まったので、今は一時だ。混み合う時間ではあるが、真昼よりは少ないだろう、ともちろん俺の提案でサイゼにきた。
俺の予想は外れて、結構混んでいた。しばらく待って席に着くと、隣の席がカップルのようで声が漏れてきた。
「隣、ずいぶん多いな。何席に別れているんだ?」
「分かんないけど、湯神くん変なこと言わないでよ?」
「当たり前だ。あなたとは違って常識あるからな」
「私だってあるから! というか百瀬さんも入れて三人同時に転校って何の運命なの? しかも同じ学校だし。……ご飯食べる時くらいイヤホンやめたら?」
「いや、無理。今、平楽いいところだから。あなた鰍沢って知らないでしょ」
……いや、どういうことだよ。なんで彼氏さん落語聞いてるの? リア充はこんな感じなの? 友達いたことないからわかんないけどさ……。
変なカップル? の話から耳を離し、テーブルの方に視線を送ると皆一様に不思議そうな顔をしていた。
「どうかしたのか」
俺が問うと、西木野が答えた。
「斜め前よ、ほら右の方の」
西木野が指をさしたほうを見ると、一人変態っぽいのがいたが、普通の二世帯家族にしか見えなかった。
「あの人たちがどうかしたのか」
「分からないの? 耳を傾けなさい」
「ちょっと、先輩。本ばかり読んでないで注文してください。……ドリンクバーは?」
「はいはい、彩花さんと真弓さんは?」
「彩花はー、これとー、これかな?」
「彩花、てめ気持ち悪いんだよ。きゃぴるん、みたいなのが! ああ、鳥肌立った」
「ご、ごめんね。真弓さん。こういうのって年齢制限あるし、気に入らないんだよね? 行遅れみたいで……」
「ほら、そこケンカしない! シロさん、縄はしまう!」
「えー、宇佐くん……、ひどいよ。昨日あんなに縛ってくれたのに」
「縛ってねーよ!」
ふう、なんだ、このサイゼ。変人も御用達なの? というか変態だな、あれ。小泉とか絢瀬先輩とかかなりひいてるし。
……さっさと食って出よう。
次話から完全新作です。これまでのは前のやつのリメイクでしたあ!