ラブガイル!   作:いろはにほへと✍︎

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恋はまことに影法師、

いくら追っても逃げていく。

こちらが逃げれば追ってきて、

こちらが追えば逃げていく。

―シェイクスピア―


なにか溢れそうで

 

 「で、矢澤先輩は?」

 

 さっきから気になっていたのだが、せっかく説得したというのに矢澤にこがこの部屋にいないのだ。

 

 「矢澤先輩なら補習です。もう少しで前期中間テストだというのに、数学の小テストで二十問全てを間違えたそうです。本当にたるんでいます!」

 

 園田が俺たちに内通する。園田は自分にも他人にも厳しくて、高坂たちに恐れられている部分があるから、きっと矢澤先輩もしごかれるだろう。

 まあでも数学なら仕方がないと思う。あ、違うから。自分に甘いとかじゃないから。

 

 「それで、とりあえずは部になったんだな?」

 「はい。ですが一つ問題があって……」

 

 そう言うと園田は心配そうな顔をした。

 

 「問題?」

 

 問題、と言われても俺は全く思い浮かばない。

 元からあった部に入って、部員も八人、つまり五人以上いるのだ。

 最低条件は満たしているはずだ。

 

 「実はさっきお母さんに言われちゃって」

 「何を?」

 

 俺はノータイムで返す。

 すると南は佇まいを直すと、他人の真似をするように表情を変える。

 

 「部の存在は認めます。けれど勉強面が疎かになってはいけません。前期中間テストで誰も赤点を取らないことを条件に活動及び部への支援を認めますって言われちゃって……」

 

 南がしょんぼりとする……。

 天使というか小悪魔というか……。

 というか少し似てたな。

 だが、条件的には難しくないはずだ。むしろ簡単だ。

 赤点は基本的に三十点以下。もともとそんな点数は勉強しなくても取れるようなものだ。数学以外。

 意外と南理事長優しいんだな、と思っていると西木野が口を開いた。

 

 「随分、優しい条件よね。クリアしたら活動していなくて部への支援が全くない今のアイドル研究部に支援してくれるって言うんだから。実は理事長さんかなり優しいのね」

 

 西木野も同じ考えのようだ。すると園田が西木野を制した。

 

 「真姫は遅れてきたから知りませんでしたね。実は今この中に二人、その信じられないほど優しい条件をクリア出来ないという人がいました。この場にはいませんが、矢澤先輩は確定でしょう」

 

 園田が高坂と星空に目配せする。

 

 「大変申し訳ありません!」

 「ません!」

 

 園田と目が合うと二人は同時に机に頭をつけた。

 正直、こいつらだとは思った。高坂はお察しの通りだし、星空は見るからに勉強ができなさそうだ。

 ……なんで星空さんは睨んでいるんだろう。

 

 「数学! 数学だけどうしてもダメなの! 小学生の頃から苦手だったでしょ?」

 

 高坂が園田と南に同意を求めるように訊く。

 

 「凛は英語、英語だけは……だいたい日本人なのにどうして英語をやらなきゃいけないにゃ!」

 「屁理屈はいいの!」

 

 西木野が机をバンと叩いた。同時に俺に名案が浮かぶ。

 

 「高坂は園田が担当するだろ? なら星空は?」

 

 「そうですね……。凛は……、真姫ですかね?」

 

 言いながら園田が西木野を一瞥する。

 

 「な、なんで私なのよ」

 

 まあ、余裕だと言っていたし、園田が西木野を選ぶのは当然だと言える。

 だが、もっと適任者がいるのだ。園田のような自他ともに厳しい人間が。

 

 「俺の元部活仲間に滅茶苦茶頭いい奴がいるんだが、どうだ? 頼んでみないか? 一応女子だ。教え方はかなり上手いし、客観的に見ても美人だ」

 「それは良いですね! ぜひお願いしましょう」

 

 園田が食いついた。

 

 「凛、知らない人に教えてもらうのー? どんな人にゃ?」

 

 どんな人、難しい言葉だ。優しい人なんて抽象的な言葉じゃ受け止められないだろうし、何より優しい人じゃない。

 だとしたら、身近な人で例えるのが一番分かりやすいだろう。

 

 「性格は園田似だ」

 「却下にゃ」

 

 おっとこれはまずい。即答だ。星空の背後で笑っている園田が見える。

 

 「凛、それはどういう事ですか?」

 

 園田はにこにこしながら底冷えするような声で星空に問う。

 

 「あはは、言い間違えにゃ! そう言い間違え! 凛はその人がいいにゃ!」

 「そうですか。分かりました。ではそうしましょうか。比企谷くん、お願いできますか?」

 「はい」

 

 俺は初めて有無を言わさぬ、というものを体験した。




わがままmirrorheart結構好き

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