ラブガイル!   作:いろはにほへと✍︎

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Before you point your fingers,make sure your hands are clean

―Bob Marley―

『誰かを指さして非難する前に、君のその手が汚れていないか確かめてくれ』



始まりは魅力的な提案に

 「試験生?」

 

 俺は目の前にいる女教師の言葉を復唱した。

 

 「そうだ。君と戸塚には音ノ木坂に試験生として行ってほしい」

 

 平塚先生はそう言って、満面の笑みを浮かべた。

 

 × × ×

 

 放課後、今日は部活がないと聞いた俺は、一刻も早くマイエンジェル小町のもとへ向かうために木材屋とかいろいろ躱して昇降口へ急いでいた。

 

 「2年F組 ヒキタニくん。至急、職員室平塚先生のところまで行ってください」

 

 天井に設置されているスピーカーが鳴る。同時にヒキタニくんが呼ばれた。

 平塚先生か、可哀想に。頑張ってね、ヒキタニくん。

 

 「あ、平塚先生だ」

 

 女子生徒の呟きが聞こえた。

 何か嫌な予感がした俺は、すぐに靴を履きかえ、戸を横に引き、天国へのゲートを素早く開いた。

 俺はその勢いのまま、こんなところから早く解放されよう、と力強く一歩目を踏み出した。

 

 「おい比企谷、どこへ行くんだ?」

 

 意地の悪そうな笑顔の独神はそれを許さなかった。

 

× × ×

 

 「なんで俺が。てか、音ノ木坂ってなんすか」

 

 敬語ともいえないような言葉で、俺は率直な疑問を投げかけた。

 

 「君が最適だと思ってな。……ぶっちゃけ私が推薦した」

 「はい?」

 「ついでにもう一人はくじで決まった。……もちろん強制という訳では無いが、内申は当然上がる。どれくらいかと言われてると……、推薦は取れるくらいに」

 言いながら、胸ポケットから煙草を取り出す。

 平塚先生はここが職員室だと思い出したのか、逡巡するように視線をさまよわせる。

  正直、推薦というのはおいしい話だ。

 成績はそれなりだし、私立ならまあまあのところに推薦はして貰えるはず……。

 俺が揺れているのを確認すると、平塚先生は言葉を続ける。

 

 「まあ、君の志望している大学には推薦で行けるだろうな」

 「行きます」

 

 即答してしまう。当たり前だ。センターなんて受けてられるか。

 

 「そうか。戸塚にはもう話がついてるから」

 

 それから概要を聞いて、俺は音ノ木坂学院に共学化試験生として行くことになった。

 

 俺は今、戸塚と音ノ木坂の校門の前にいる。

 理事長からの事前の説明では、初日から皆と同じく八時半までに登校。最初は職員室ではなく理事長室に来いということだった。

 しかも俺だけ。

 ていうか、なんで生徒二人のために理事長出てくんだよ。

 反対する理由も特になく、俺は七時四十分頃 にはすでに駅からの通学路を歩いていた。……ふぇぇ、視線が痛かったよ~。

 

 「八幡、そろそろ入ろ……?」

 

 戸塚が少し顔を赤らめて俺を見ていた。

 ……え? こんなところでラブコメが……?

 

 「そ、そうだな」

 

 しどろもどろに答えると、戸塚ははにかむ。

 

 「寒くて……。ほら、頬なんてこんな真っ赤」

 

 あ、なんだ、ラブコメは始まらないのか。

 

× × ×

 

 突き刺さるような視線に耐えた俺たちは、昇降口で事前に準備しておいた靴に履きかえた。 

 そこから理事長室に向かうために廊下を歩いていると金髪碧眼の容姿端麗な女子生徒が目先が見えないくらいの荷物を持っているのが見えた。

 それを俺たちはしっかりとスルー、できなかったので、持っていたものを少し受け取り、視線で先に行けと送ると少し困った表情をしたが、彼女は、ありがとうと呟いて微笑んだ。

 人に感謝されるのは初めてな気がする。だが、なぜか既視感がある。

 そうだ、あれは中学の頃のことだ。当時、自分の好きだった子が同じシチュエーションで重たそうに荷物を持っているのを見て声をかけて持ってあげたら、ありがとう、優しいんだね、と褒めてくれた。おかげで、その日は夜中までずっとハイテンションで寝つけなかった。

 次の日も少し高めなテンションで登校すると、教室から彼女の声が聞こえた。

 「昨日さあ、ヒキタニ? キモタニだっけ? がさあ、私の荷物いきなり持って急に手伝いだしたんだよね~。超キョドった上にありがとうって言ったら嬉しそうでマジ気持ち悪かったぁ」

 

 まあ、俺くらいになるとこれは良い思い出ですよ。ホント、ホント。ハチマンウソツカナイ。

 

 「どうしたの急に泣き出して」

 

 女子生徒が慌てている。

 

 「いえ、ちょっと思い出し泣きを」

 「ハラショー……。思い出し笑いみたいに使うのね」

 

 少し引き気味の彼女は、そのまま俺を先導して“生徒会室”に入っていった。

 

 

 

 生徒会に関わってるのか、と少し驚いたが口にせず俺も続いて生徒会室に入った。ぐるりと見渡すと、紫がかった黒髪の女子生徒がいた。少し余裕のありそうな表情と見定めるような感じはどこかで会った部活仲間のお姉さんのようだ。つまり関わりたくないです。

 俺は似非雪ノ下陽乃を避けるように静かに物を置き、一礼をして素早く去ろうとした。

 だが、グイっと肩を掴まれ、後ろに引き戻された。驚いて振り向くと彼女は笑みを浮かべ

ていた。似非陽乃さんだよホラ。

 

 「私は生徒会副会長の東条希。よろしく比企谷くん、戸塚くん」

 「よろしくお願いします……」

 

 あ、やべ。とつかわいい……。

 

 「よろしく……、え、なんで名前知ってるんですか」

 

 途中で気づく。

 ねえ、やっぱり陽乃さんなの? 雪ノ下建設の力なの?

 

 「なんでって音ノ木坂初の男子生徒やし、うちとそこにいる生徒会長のエリチ、絢瀬絵里の提案や」

 「よろしく、比企谷くん。実は共学化試験生を提案したのは私たちなの。理事長に提案したら先生をやっている友達に聞いてみるって」

 「あ、あと雪ノ下さんからも電話があって使えなくて廃棄するということになりましたら当校が責任を持って処分するのでいつでもご連絡ください、って言われたわ。ふふっ。あれをツンデレっていうのかしらね」

 

 絢瀬先輩が微笑んだ。一切デレないんですけどツンデレっていえますか。大丈夫ですか。

 すると突然、東條先輩が心配そうな顔で俺に訪ねた。

 

 「そういえば比企谷くん、戸塚くん、この学校に男子二人で大丈夫なの?」

 ……? 何を言っているのかうまく飲み込めなかった。

 思案したところで俺は気が付いた。

 あ、何も言われてないわ。

 

 「ヒラツカアア!」

 

 俺の絶叫が生徒会室に響き渡った。




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復活しました!
初めて見た方、よろしくお願いします!

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