11月の下旬、秋風が吹いて肌寒い季節になっており、そろそろ防寒着が必要な時期になった。俺と和音は学校が終わって、一緒に手を繋いで帰っていたところ、和音の何気ない一言からまた話は始まる。
「今日、私の家に来ない?」
和音は寒いのかそれとも違う理由なのか、頬を赤らめながら面と向かって言ってきた。
「うん。いいよ」
と。俺は特に何も考えずに快諾した。そして、現在、和音の家に向かっていた。
和音は自分の家に着いて、いつもの要領で勢いよく玄関のドアを開けて、家に入っていった。和音のこの日常の様子を見ていると俺は何処か安心する。
俺も遅れながら和音の家に入って、いつもしっかりと掃除されている廊下が奥まで続いており、和音は既に奥まで続いている廊下を走り抜けていた。
「ただいま!」
和音の元気印の声は誰かに向かって、言っていた。そして、ワンテンポの遅れて、
「おかえり!」
と和音と似た元気印な声が聞こえてきた。いや、よーく聞けば和音とはまた声の質が違うが、初見ではまず分からないと俺は思う。
俺も靴を脱いで、和音の分の靴を揃えてから、和音の家のラウンジに向かった。
真っ直ぐの廊下を抜けていった先の扉は既に和音が先に開けており、俺もそこへ向かったら、和音に似ている女性が座っていた。立ち振る舞いとか和音よりもずっと大人ぽいけれど。
「お邪魔してます。和子さん」
この人は和音の母の和子さんだ。俺は何回も和音の家に訪れているし、交際も認めて貰っており公認してもらっている。
「いらっしゃい、和葵くん」
和音の天真爛漫な笑顔とは違い、和子さんの笑顔は優しく包み込むような笑顔でそれはそれで俺は好きだ。
「和音は自分の部屋に行ったわよ。あっそうだ」
「…?」
和子さんは俺を引き止めるように手を振り、和子さんはクッキーと珈琲とカルピスをお盆に乗せて、
「これ持ってって」
と和子さんはいつものようにお盆を渡して、
「いつもありがとうございます」
俺はお礼を言い、お盆を受け取った。
そして、奥にある和音の部屋へ向かった。
和音の部屋に着いて、俺は片手でドアを開けた。
「和音、お待たせ」
「あっありがとうね」
「まあ、いつものことだから気にはしていないよ」
和音の部屋はシンプルだが、女の子らしい部屋が目に入っていった。和音の部屋も何回も入ったことがあり、そのまま歩み、テーブルに和子さんから貰ったお盆を置いて、テーブルの側の床に座った。
「それで何するの?」
俺は今日、突然、和音に誘われた形で和音の家に訪れていた。何をするのか全く聞いておらず、ちんぷんかんぷんな状態であった。和音は何故かニヤけた顔をしながら、自信満々にあるものを取り出した。
「今日はこれを観ます!」
和音が取り出したのは、最近DVDに出たばかりの人気作品であるSF映画であった。以前、和音が観たいとずっと話題に出して話しており、映画も行きたかったが、時間が中々合わず結局、観に行くことが叶わなかった。
「あっそれ、和音が観たいって言っていたやつか」
「うん。和葵の好きな種類の映画じゃないけど私は一緒に見たい! いいでしょう?」
和音は俺の側に寄って来て、上目遣いで聞いてきた。俺は和音の不意打ちに可愛いと思いつつ、目を逸らして答えた。
「まあ、別に和音の部屋だし、和音の好きなものを観ようか」
「流石! 分かってる♪」
俺の了承を得られたと同時に和音は立ち上がり、飛び跳ねるように喜んだ。そして、DVDディスクに向かい、セットをした。
やがて、映画観賞が始まった。和音はDVD観賞が始まると俺の隣に来て、俺の腕に思い切り抱きついた。
「あっはははははは、温かい」
俺は一瞬、驚いたが、自然と和音の行為を受け入れて、目の前のテレビに集中した。
*** *** ***
「うわわぁぁぁぁぁっっ」
SF映画が終わって、和音は先ほど見た映画の余韻に浸っており、途中から涙をずっと流していた。どうやら、感動したようだ。
ここだけの話、和音はかなり、涙もろい。悲しいことがあったら泣くし、感動することがあったら、涙をボロボロ流す。その和音の一面を知っているの俺だけで少し嬉しい気分になる。
和音は俺の胸を勝手に借りて、涙を流していた。そんな可愛らしい和音を俺は頭をポンポンしながら、
「ほらほら、落ち着いて」
と一言だけ声を掛けて、和音が泣き止むのをそっと待った。
やがて、和音は泣き止み、俺の胸から離れていった。珈琲も二杯程貰って、日はすっかり暮れている。
「さて、そろそろ帰ろうかなぁ」
俺がそう言って、立ち上がろうとすると和音は俺の手を掴んで、一言だけ言った。
「待って!」
いつものように底抜けの明るい声とは一変、悲痛な表情と少し震えている手から和音から不安を感じ取り、俺にも不安が移ってしまった。
「…どうしたの?」
俺は和音に戸惑いながら、聞き返して、和音は中々、口を開かず口篭ってしまう。
「……いいから、一回座って」
和音に言われるがままに従って、和音と向き合う形で座った。
「………私さ…」
和音が何かを言おうとすると声が思ったように出ないことに気が付いて、和音は言い出そうにも言えないことだと思った。俺はそんな和音を落ち着かせるように一言だけ言った。
「和音のペースでゆっくり言うといいよ」
俺の言葉に安心したのか、和音は控えめながらもいつもの笑顔を見せて、口を開いた。
「ありがとう。実は今日、和葵に伝えなきゃいけないことがあるの」
やけに真剣に言う和音に固唾を飲んで俺は尋ねた。
「何を?」
「えっとね…… 私があと生きられるのが一年らしい……」
和音の言う言葉にこの世の世界が反転したかのような感覚に襲われ、俺は言葉を失った。だけど、そのやがて来る事実に俺は頭の中で理解していても、本質は分かっていなかった。
「……それって…。もう治ることはないってことで一年しか生きられないのか?」
俺は理解が追いつかずも、かろうじて振り絞った言葉で和音に問いかけた。和音は顔を俯きながら小さく首を振った。
「今の所は病気を遅らせることしか出来ないんだ… だけどね、仕方ないんだ!」
和音の下手な笑顔を作ろうとしたが、不安と恐怖に覆われている。そして、俺は腹が立った。多分この感情は怒っている。
「…和音。何でそんなことを言うの?」
俺のナイフのような言葉は和音にとっては図星だったようで、不愉快この上ない顔を浮かべて、駄言を並べた。
「だって、もう私は長生き出来ないもん。それに和葵はいつも私の為に生きていたのを知っているよ」
確かに俺は今まで、和音と一緒にいたのはあの約束があったからだ。だけど、理由はもうそれだけではない。
-だから、約束して。ずっと私と居て-
だからこそ、例え和音があと一年しかない人生でも最後の一瞬までずっと和音といたい。少なくとも俺はそう思っている。そして、そんな風に和音が生きるのを諦めるのはあまりにも不条理だ。
「俺は和音と最後の一瞬までずっといたい。だから長生き出来ないとかそんな悲しいことを言うなよ」
「でも、私いつか死ぬんだよ…」
和音は今にも泣きそうな顔でそう言った。
「だから、どうしたんだ? 俺はずっと和音と一緒にいる。大好きだから」
俺の言葉で和音はさらに大粒の涙を流して、そして本音を語ってくれた。
「……私も、ずっと… 和葵と一緒に生きたい。もっといろんな景色を見たい」
和音の言葉に俺と和音は抱き締めた。そして、和音に
「和音、俺が唄葉が
「え?」
和音は泣きつつも、俺の言葉に耳を傾けた。
「実は、唄葉はね。和音の為に
俺の言葉に抱き締めるのを一旦、辞めて、和音は泣きながらも驚きと戸惑いを隠せない表情をしていた。
「え? どーゆーこと? なんで和葵が知ってるの?」
「前に唄葉が話してくれたけど、もしかしたら近界に和音の病気を治せるかも知れない国があるっていう噂を聞いたんだ」
「それだけの為に唄葉さんは、
「ああ、あの人は元々、
俺の言葉に和音はようやく泣き止んで、俺の提案について聞いた。
「今は、無理だけど、来季のB級ランク戦を勝ち抜いて、遠征部隊に選ばれて、唄葉の向かった国に行かないか?」
和音は疑問を素直に聞いた。
「和葵は唄葉さんの行った国を知ってるの?」
「まあ、一応な。それで俺の提案に関してどうだ?」
和音は申し訳なさそうに答えた。
「でも、誠とかも居ないし、それにボーダーを裏切ることになる。みんなにも迷惑かけられないよ」
と答えた。俺は念を押すようにもう一度言った。
「俺は和音と最後の一瞬まで一緒にいたい。だから、和音の病気を治す手段を見つけるチャンスだと思う」
「で、でも……」
「和音には時間がないんだろう? だからこそ、小さいチャンスでもやるべきだと思う。俺は和音にはずっと生きていて欲しい」
和音は俺の意思が伝わったのか、和音は頬を叩いた。そして、答えた。
「わかった。次のランク戦に参戦して、大暴れしよう!」
和音は笑顔でそう言って、俺も安心した。
和音は俺に小指を出して、俺も和音の小指に自分の小指を絡ませた。お互い誓いあった。
「新しい約束だな。必ず
「新しい約束だね! 私は絶対に生きるよ!」
そして、まだ暫定だが、朝日奈隊の目標も決まった。そして、俺と和音には何も迷いはなかった。
次回は番外編は挟んでから、ようやく原作本編と合流します。
番外編は序章で書けなかった話を書きたいと思っています。
また少し時間が掛かると思うので、お待ちくださいm(_ _)m