二人の約束   作:雪箱 珈琲店

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同年代の実力者

俺と和音は手を繋ぎながら、ボーダー本部の廊下を歩いていた。曲がり角を左へ行くと廊下のような長い道は無く、少し先に行った場所に眼前に開けた場所が広がっていた。この場所が個人ランク戦ブースへ訪れていた。

 

 

 

 

 

ボーダーにはトリオン兵と対等に戦う為の武器… トリガーという武器がある。トリガーとは、武器を使えるようにする代わりにトリオン体という戦闘体が現れる。実体はトリガーの中に収納される。トリオン体の大きな特徴の一つは実体よりも飛躍的に運動能力が上がる(幾つか例外はあるが)。トリオン体の状態は例え瓦礫に埋もれてもダメージを受けず、実体の方は影響しない。だが、トリオン体にダメージを与えるのは同じくトリガーの武器である。ダメージが深すぎるとトリオン体は消失されて、実体に戻ってしまう。

 

 

話を戻そう。ボーダーはそのトリガーを使って、主に二つのことをやっている。一つは、三門市の平和を守るなどを目的としたトリオン兵と戦う為の防衛任務。そして、もう一つは隊員同士の実力向上を求めたシステム。ランク戦というものだ。

 

 

ランク戦にも大きく分けて二つのシステムがある。今回、俺と和音がやるのは自由にブースを使って1対1で戦うことが出来るソロランク戦だ。

 

 

 

 

和音は着いたが否、元気な猫のように、ブースの観戦用のソファにドサっと座り、中央にある現在戦っている隊員の映像に注目した。

 

「和葵! ヨネくんとミドリンがバチバチやりあっているよ」

 

和音は飛び跳ねるような声でモニターを指で指しながら言った。俺は何テンポか遅れて和音の隣に座って、指の指した方向に目を向けた。

 

 

ちなみに言っておくがヨネくんとはA級部隊に所属している米屋 陽介という俺らと一つ下の高校生で槍を巧みに使っている方だ。

 

ミドリンは同じく、A級部隊に所属している緑川で14歳にして既にA級にいる恐ろしい才能を示している。小柄でスコーピオンという攻撃用トリガーを使う少年の方である。

 

 

「なんだよ。少し見るのか?」

 

俺は先ほどまではしゃいでいるとは違いジッと観察するように二人の戦闘を見ていた。和音は俺の方に振り向いて笑顔で答えた。

 

「うん!」

 

そして、俺と和音はしばし観戦を始めた。

 

「ヨネくんは相変わらず裏を掻くのが上手いね〜」

 

「緑川もグラスホッパーの使い方が上手くなっているよ」

 

俺と和音は二人の戦いを見ながらそれぞれの感想を述べた。

 

「おい、和葵、朝日奈」

 

俺と和音が観戦をしているところ、後ろから聞き覚えのある荒っぽい声が聞こえた。

その声に反応するように俺は後ろへ向くと見覚えのある二人組が其処に居た。

 

「この前の防衛任務以来だな。望月に朝日奈」

 

髪がボサボサで目付きが悪くさらにマスクをしている強面な青年と隣には、眠そうな目とおでこをだした立ち上げた緑灰色の短髪、武士のような風格をみせる青年が立っていた。

 

「おっ、村上くんとカゲくん!」

 

俺が言うより先に和音が先に声を出した。ちなみにボサボサ髪の方が影浦(和音にはカゲくんと呼ばれていて)、武士系男子の方は、村上という人物だ。どちらも俺と和音の同年代でトップクラスの攻撃手であり実力者である。

 

「朝日奈はともかく、和葵がブースに来るなんて珍しいなぁ」

 

影浦は俺の方にジロジロ見ながら問いてきた。俺はとぼけるように答えた。

 

「うん? そうか、カゲ?」

 

影浦は純粋に俺がランク戦のブースに来たことに疑問を感じていた。

 

「お前、個人ランク戦自体あまりしないじゃないか」

 

「まあね。だけど、俺もたまには人と戦って、対人戦闘の感覚を鈍くしないようにしないとね」

 

俺がそう言うと、影浦は俺を見て、

 

「朝日奈もそうだが、和葵。()()()()()()()()()()()

 

影浦は野生のような笑みを浮かべていると和音の何か悪戯する時の笑みとどこか雰囲気が似ていて呆れるような溜め息を吐いた。

 

「そこは褒め言葉として受け取っとくけどお前とは戦わないぞ?」

 

と返した。俺と影浦がそんなやりとりをしている横で、和音と村上も同じような話題を繰り広げていた。

 

「朝日奈、今日は望月と戦う為に来たのか?」

 

「もっちろんよ! 和葵ったらさっきまで寝てたのよ」

 

「それは酷いな」

 

村上は苦笑しながら返した。

 

「でしょう? 和葵はお寝ぼけさんなの」

 

(望月は案外しっかりとしてるし、朝日奈といいバランスだと俺は思うなぁ)

 

村上は心の中でそう思い、話が一つ終えたところで、和音は思いついたように一つ提案をした。

 

「あっそうだ。和葵と戦い終えた後に、一戦交えない?」

 

和音は村上にそう言って、村上は間を置かずに

 

「ああ。いいぞ」

 

と了承した。

影浦は和音と村上の会話を聞いていたのかのように、自然と俺の肩に手を回して、

 

「おい、俺ともやろうや」

 

影浦は俺に戦おうと提案して来た。俺は戦うのはあまり嫌いではないが、俺の戦闘スタイルはある意味、唯一無二というか癖があるというか、とにかく他の人にあまり()()()()()()()()()()

 

「俺は和音との一戦で十分だから、終わったら観戦してるよ」

 

「ああっ?

なんだよ。連れねぇな」

 

「そんなに連戦すると疲れるだろ?

その代わりその後のお好み焼きなら食べに行こう」

 

「あっ、それいいね〜

なら、カゲくん。私と戦おう!」

 

俺の提案に和音は乗ってくれて話を切り替えてくれた。

 

「お前、お好み焼きだけ食いに行くつもりかよ…

まあいいけどよ。なら、朝日奈でもいいから戦えよ」

 

影浦は少し残念そうに言ったが、和音は顔を膨らませながらプンプンとしながら、挑発した。

 

「カゲくんじゃ私に勝てないのに何言ってるのだ」

 

「俺の方が勝ってんだろ」

 

「なら、和葵と一戦してから、村上くんと三つ巴でやろうね」

 

「ぶっ潰してやる」

 

「程々に頼むな」

 

和音は手を叩いて決めた提案に影浦と村上は同意してくれた。ひと段落済んだところで話を収束させるように俺に言った。

 

「私との戦いが終わったら待っててよ!」

 

「ああ、オッケー」

 

と和音の了承をした。俺は和音に分かっていると思うが一応釘を刺した。

 

「だけど、和音。無理はするなよ」

 

俺の言葉に和音だけではなく、影浦と村上も反応したが、口には出さず和音は一瞬だけ表情を曇らせた後、ニコッと笑って了承した。

 

「オッケー!」

 

「じゃあ、私はまず、和葵と戦ってくるから!」

 

 

 

 

和音はニコッとした顔で手を振りながら去って行き、とり残された影浦と村上は、二人のブースに向かう姿を見て、安心したような表情で見ていた。

 

「あの甘甘カップルは相変わらずだな」

 

影浦は何かを吐きつけるように言い、村上は落ち着いたような表情で返した。

 

「あの事件の後、あの二人は何事も無かったかのように振舞ってるからな」

 

「だけど、あの事件から未だに立ち直ってない奴が一人居るけどな」

 

「ああ…

あいつは今何処をフラついているのやら」

 

村上は溜め息を吐いて、影浦は後味悪そうに強引気味にこの話を切った。

 

「じゃあ、俺たちも1勝負するか」

 

「ああ、そうだな」

 

と言い、村上と影浦も戦う為にブースに向かった。

 

 

 

 *** *** ***

 

 

俺と和音はそれぞれ違うブースに入り、早速、和音が先ほど入っていたブースにタッチをして対戦の申し込みをした。

 

『10本勝負の場所はいつものところでいいよね』

 

突然、無機質な声が聞こえ、それが和音の声だとすぐにわかった。和音からの通信のようだった。要件は勝負のルール決めである。

 

「ああ、了解だ」

 

と俺は了承した。和音は尋ねるように

 

『そういえば、和葵』

 

「なんだ?」

 

『ランク戦で戦うのって何時ぶり?』

 

和音は不意な質問に少し間が空けて、恐る恐る答えた。

 

「うーん…

ランク戦じゃないけど、三週間振りくらいだと思うよ。ほら、最後は遠征部隊との訓練の時に戦ったかな」

 

俺は最後に行った対人戦闘の記憶を思い出しながら言った。そしたら、和音は画面越しでも分かるような呆れるような声が飛んできた。

 

『戦わなすぎ! もう、駄目な子だね』

 

まるで親が躾ける一言のような言い分に俺は一言文句を言ってやりたがったがこの場で抑えて、話題を切り替えた。

 

「俺はお前らみたいにバトル大好き人間じゃないし、通常訓練しかしないからね〜」

 

「むぅ、それ言い方ひどくない?」

 

「酷くないだろう。少なくとも表現は間違っていないよ」

 

俺がそこまで言い終えると和音は不意にバカみたいに笑った。

 

「あっはははははは!」

 

「何か可笑しいこと言ったか?」

 

「いいや、むしろ和葵らしい文句だなぁって」

 

「まあ、よく分かんないけど話は勝負が終わってから聞くよ」

 

と俺は言い和音も俺の言葉に反応して、

 

『私こそ、負けないよ!』

 

と返した。

 

 

 

 

そして、戦いの合図であるカウントダウンが始まり、俺の久しぶりのランク戦が始まった。

 

 

 

 

 


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