光の中を駆ける者   作:雨音カオル

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今回はあまり進みません。


2:不吉な予感

モスクワから約600キロ離れたロシア第2の都市、サンクトペテルブルク。

俺は半年前、ガンショップを経営する親父とモスクワからこの地へ引っ越してきた。

もともとモスクワでは警官や軍人などに銃を売ってそれなりに稼げていたのだが、ある時「武偵高」なるものがモスクワとサンクトペテルブルクに新設されるという噂を耳にした。

 

武偵というのは凶悪化する犯罪に対抗するため武装した探偵のことで、その育成機関として一般教育だけでなく、実際の活動に必要な知識を教育するのが武偵校らしい。

その教育内容は多岐に渡り、戦闘、諜報、尋問、衛生、果てには超能力といった、旧ソ連を思い起こさせるような内容にまで及ぶ。

 

そんな武偵高が新設されれば(おの)ずと銃などの武器の需要は高まる。モスクワにあるウチの店にとっては実にありがたい話だった。

 

 

だから、親父から移転を告げられた時には訳が分からなかった。

 

理由を聞いても「いや、少し嫌な予感がしてな。」などとはぐらかされ、まともに取り合ってもらえなかった俺は、親父とは30年来の付き合いで同じくモスクワに店を構えるミハイルさんに話を聞いてみた。

しかし結果は同じだった。親父からは何も聞かされておらず、移転の理由も分からないと言う。

 

『お前らはどうだ?何か聞いてるか?』

 

ミハイルさんは、ちょうど店に集まっていた知人の同業者や従業員にも声をかけてくれたが、やはり誰も話を聞いていないという。

 

『わざわざ武偵高がやって来てくれるってのに、グリーシャは何を考えてるんだかなあ。』

 

ミハイルさんでさえ首を傾げるこの移転騒動。俺は深く考えずに親父の決定に従うことにした。

 

そもそも銃を売るのに田舎まで移転するような人間はいないので、それなりの大都市に行くのだろうと思った。義務教育を終えた俺は高校へは進学せず店で働いていたし、何処へ引っ越すことになろうと構わなかった。

 

そんな親父の独断には皆呆れかえり、わざわざ引き留めるような人もいなかった。

ただ1人、ミハイルさんだけは最後まで説得してくれたようだが、ついに親父は理由を話すことも、決定を覆すこともなかった。

 

 

結局移転先はサンクトペテルブルクだった。

移転の理由は武偵高新設にあるのではないかと言う人もいたが、そうではなかったのだろうか。

 

謎は深まるばかりだったが、親父の決定が正しかったことは予想外の形で証明されることになる。

 

移転してしばらくした頃、モスクワにあるガンショップのほとんどが廃業に追い込まれた、という連絡をミハイルさんから受けたのだ。

 




次回は小難しい話になるかもしれません。武偵という存在が社会にどのような影響を与えるのか考えてみると、結構大変そうですよね。
ラストではレキが登場します。主人公の名前もいい加減出さないとな……

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