健全魔導士目指します   作:秘密の区域

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曖昧な気持ち(前編)

 ラクサスに遊園地のペアチケットをもらった。彼が言うにこれでミラと遊園地に行ってこいとのことだ。

 

 俺のヘタレ事件はなんとか収束したものの、以前よりミラとの関係がぎこちない感じになってしまっていた。そのことをラクサスは案じてチケットを渡してきたようだ。ただラクサスはすごくニヤニヤしながらチケットを渡してきたので、別の意図もあるのだろう。

 

 ラクサスは「お前が誘えば絶対ミラは乗る」とのことだが、実質デートに誘うようなものだ。成功するように思えないが、未だギルドの一部の面々から白い目で見られていることを考えると、なんらかのアクションは起こさねばならない。『幽鬼の支配者』への殴り込みやバトルオブフェアリーテイルでラクサスが破門になったことからわかる通り、マカロフは仲間を傷つける者には大変厳しい。俺のミラとの不和もミラを傷つけたということで、もしかしたら破門につながる可能性がある。ならば早いうちにその芽は潰しておくべきだ。

 

 俺はダメ元でミラを誘ってみると、ミラはひどく狼狽しながらも了承してくれた。ミラもどうやら俺との仲を修復したかったようだ。それとは別に喜んでいたようにも思えるが、実は遊園地好きなのだろうか。俺も本来の目的と共にデート(仮)を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デート(仮)当日。はりきりすぎて待ち合わせより30分も早く到着したにも関わらず、ミラは既に待っていた。待ち合わせの時間を間違えてしまったかと不安になり、すぐにミラに謝るも、時間を間違えてしまったのは彼女の方だった。

 

「ミラもおっちょこちょいなところがあるんだな」

 

「30分前に来たKに言われたくないわね」

 

 ミラは俺も時間を間違えたと思っているようだ。本当の理由を言うのは恥ずかしいからそういうことにしよう。

 

 その後開園と共に俺たちは遊園地へと入場した。受付の人がレビィに似ていたような気がしたが、気のせいだと信じたい。

 遊園地は人気があるようで、大盛況である。まずはどこに行こうかと悩んでいると、ミラに手を繋ぐように催促された。確かにこの人混みだとはぐれてしまう可能性があるから必要かもしれない。

 しかし恋人繋ぎとはミラも攻めてきたな。きっと俺を気遣って恋人シチュエーションを提供してくれているのだろう。ならば俺も今日は一時の恋人気分に酔いしれるとするか。

 

 そんな浮わついたテンションは最初に訪れたアトラクションであるジェットコースターで崩れ落ちた。大きな体格に、目を引く金髪、どう見ても接客向きではない強面の男。ジェットコースターの係員がどう見てもラクサスだったからだ。

 

「……なんでいるの?」

 

「たまたま遊園地のアルバイトをする依頼があって、それを受けただけだ」

 

「嘘つくんじゃねーよ!お前そういうことするタイプじゃねえだろ!」

 

 俺は嵌められてしまったようだ。おそらく仲直りのついでに俺とミラをくっつけるためにセッティングしたな。入場の受付にレビィがいたことも考えると、間違いなく他にも『妖精の尻尾』のメンバーが紛れこんでいるだろう。

 

「まあまあ俺は気にせず2人で楽しんでくれ」

 

「あー、はい。そうですね」

 

 誘導されて癪に触るが、こんな機会はもうないだろうから言う通り楽しむしかない。ミラも気にしてないようだし。

 

「ちなみにこのジェットコースター結構怖いからビビって漏らすんじゃねーぞ」

 

 誰が漏らすかと思ったが、実際乗ったら怖くて叫びまくってた。急に加速したり、レールが消えたりとファンタジーのジェットコースターは一味違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェットコースターの恐怖から回復し、園内を回っていると、あるものが目にとまった。この遊園地のマスコットキャラクター「ムッチーマウス」の着ぐるみである。既視感はあるが、俺が知っているのはあんなにデブではないし、記憶違いだろう。

 

 ムッチーマウスはなにやら芸をしているようで、周りには人だかりができている。気になって近づいて見ると、ムッチーマウスは鮮やかな剣舞を披露していた。

 

「K見て!すごい剣捌きね。まるでエルザみたい」

 

 ずっと一緒に修行してきた俺にはわかる。どう見てもエルザ本人である。着ぐるみを着てあそこまでの動きが出来るとは恐ろしいものだ。

 

 ムッチーマウスに扮したエルザが一仕事を終えると、撮影の時間になった。ミラが一緒に写真を撮りたいと言い出したので、俺たちは撮影の列に並んだ。

 

「それじゃあ撮るから2人とも肩寄せて」

 

 よく見るとカメラを構える係員はジェットだった。あの特徴的な帽子じゃなかったから気付かなかったわ。それとミラの方に寄らせすぎじゃないか。

 

「いいねー。でももっと大胆に攻めてもいいんじゃないか」

 

「こ、こうかしら」

 

 ジェットの言葉に対応してミラが俺の腕を抱き寄せてきた。俺の腕に伝わるぞ胸圧がぁ!故意に触るのとは違った感覚が襲ってくる。

 

「はい、チーズ」

 

 ジェットの掛け声と共にシャッターが切られた。その場で現像してくれた写真を見ると、俺の腕を抱き寄せているミラと、それにたじたじな俺と、ただ後ろにいるムッチーマウス。

 明らかにメインが背景と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「K、次はここにしない?」

 

 ミラが指を指した場所はお化け屋敷。うん、定番のアトラクションだな。

 

 ただ前例を見る限り、お化け屋敷も相当怖いはずだ。これは気が抜けない。

 

 受付を済まし、中へと入る。どうやら空間操作系の魔法を使っているようで、目の前には本物の墓地さながらの光景が広がっていた。

 霧がかった視界に不安を煽るような静けさ。そのリアリティにビビって、思わずミラの手を強く握り、ミラも驚かしてしまったのはご愛嬌だ。

 

 不気味な雰囲気の中、俺たちはお化け屋敷を進む。すると前方からガシャンガシャンと、鉄が擦れるような音共に何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

 俺は覚悟を決め、前方から迫ってくる者を待ち構える。

 

 現れたのは落武者に扮したフリードだった。

 

「あーはっはっは!それはズルいって!!」

 

 特殊なメイクをしていて一見怖そうに見えるが、フリードなのだ。普段マジメなフリードが頭ハゲ散らかしていると思うと笑いが止まらない。

 ミラも俺に釣られて笑みを浮かべている。

 

 思わぬ配役に爆笑していた俺の肩が不意に叩かれた。

 

 すっかり気を抜いてた俺が振り返ると、そこには血塗れでこの世のものとは思えない異形が斧を持って立っていた。

 

「ぎゃああああああああ!?」

 

 俺は半泣き状態になりながらミラの手を引いて猛ダッシュでお化け屋敷を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お化け屋敷ショックの後も様々なアトラクションを楽しんだ。

 

 所々で『妖精の尻尾』のメンバーがいることにも慣れてしまった。

 

 今は遊園地内のレストランで昼食を食べている。

 

「今日のKはとっても面白いわね」

 

「ミラはなんで平気なのか不思議だよ」

 

 恥ずかしい姿を見せてしまったが、ミラは優しいからそこまでいじってこないため、非常にありがたい。

 

「午後はどこに行こうか?」

 

「この『ウォーターダイブ』なんてどうかしから」

 

「どれどれ……ジェットコースター系統のアトラクションか」

 

 パンフレットを見ると説明に「水飛沫の中、高速の世界を突き抜けろ!」と書いてある。ちょっと勘弁して欲しかったが、水で濡れたミラと天秤にかけてエロを取ることにした。

 

 昼食を終え、『ウォーターダイブ』に向かおうとした時、遊園地の従業員が話しかけてきた。話を聞くと、これから予定しているヒーローショーに出演する演者が急に出られなくなってしまい、その代役を務めてくれないかと頼まれた。ショーは魔法を使うため魔導士でないと出来ないので、たまたま見かけた俺たち2人に白羽の矢が立ったようだ。

 有名になると面倒な面もあるなと思っていたら、演者は2人とも『妖精の尻尾』のメンバーだった。1人は我らがナツ・ドラグニル。アトラクション酔いで出れる状態ではないようだ。なぜ乗ってしまったのか。もう1人はエバーグリーン。こちらは前日に風邪を引いてしまったらしい。

 

 身内が原因の不慮ということもあり、俺たちは仕方なく了承した。

 

 そして案内された楽屋で渡された衣装に着替えた。俺の衣装は軍服を模したものだ。役柄は悪の組織の幹部「アナール大佐」らしい。名前に大いなる悪意を感じる。

 

 ミラはショーの主役である正義のヒーロー「仮面ウィザード」なのだが、問題は衣装だ。体のラインがしっかり出るヒーロースーツなのである。

 観客席を見ると、子供の中にエロそうな顔をした大きなお友達が混じっていることから遊園地側の露骨な狙いが察せられる。

 

 欲まみれの男たちに今から視姦されることを知らないミラはショーの流れを再度確認してきた。大まかな流れは最初に部下の雑魚をけしかけた後、俺とミラが一騎打ちを行う。ミラは途中で俺に追い詰められるも、観客の声援により力を得て逆転するというものだ。

 細かい過程は任せるとのことだったので、せいぜい盛り下がらないようにやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は合図とともに、部下を引き連れてステージに登場した。

 

「よく来たなクソガキども!お前たちをこのアナール大佐が暗黒面に引きずりこんでやる!」

 

 俺の第一声と部下の威嚇するような動きに怖がる観客の子供たち。

 

『大変!組織の幹部のアナール大佐が来ちゃったわ!みんなの声で仮面ウィザードを呼びましょう!せーの……」

 

「「「助けて!仮面ウィザード!!」」」

 

 司会のお姉さんの掛け声とともに観客は仮面ウィザードに助けを求める。すると派手な光を発する演出魔法が発動し、光の中から仮面ウィザードに扮したミラが登場した。

 

「愛と勇気の戦士、仮面ウィザード!私が来たからにはあなたの思い通りにはさせないわ!」

 

 ミラの登場に、観客から大きな歓声があがる。こうして見るとピッチピチのスーツの破壊力はヤバい。大きなお友達が入れ込むのも分かる気がする。

 

「現れたな、仮面ウィザード!部下ども、奴を蹴散らせ!」

 

 部下はミラに襲いかかるも、ミラの手によって次々と倒されてしまう。実際の戦闘経験があるとはいえ、見事な殺陣だ。この後の俺もうまくやれるだろうか。

 

「やはり俺自身がやらないといけないか。かかってこい仮面ウィザード!」

 

 ある程度部下の数が減ったのを機に、いよいよ俺は前に出た。俺は事前に渡された鞭を振り回し、E・サンダーやE・ウォーターで攻撃する。

 一方ミラはそれらを全て避け、俺にカウンターを喰らわしていく。手加減してくれてはいるが地味に痛いし、途中でピンチになることを忘れてないか?

 

「こうなったら……部下よ!司会のお姉さんを拘束しろ!」

 

 想定していなかった命令に部下たちは一瞬戸惑うが、俺の言う通りに司会のお姉さんを拘束した。

 

「はっはっは!司会のお姉さんに手を出されたくなければおとなしくしろ!」

 

「くっ……卑怯よ、アナール大佐!」

 

「卑怯でも勝てばよかろうなのだ!」

 

 俺は無抵抗のミラにガンガン攻撃を加えていった。ダメージを与えることは目的ではないため、鞭を大げさに振りながら、手加減してミラの体に当てる。ミラもそれを理解して、いかにも痛そうな演技をすることで、追い詰められている雰囲気を出す。

 ここまで流れとしては順調だった。しかし不意に悪戯心が芽生えた俺はミラを抱え、彼女の尻を観客に見せつけるように突き出した。当然観客の目線はミラの尻へと注がれる。

 

「一体何を……」

 

「俺に歯向かった愚かなお前には罰を与えないとなあ」

 

 そこから俺はミラにスパンキングを始めた。尻を叩く快活な音が、ステージに響き渡る。

 

「なっ、やめなさい!」

 

「ひゃーはっはっは!!お前らクソガキどもも、俺に逆らえばこんな目に遭うことになるぜ」

 

 純粋な子供たちは怯えているが、一部の子供や大きなお友達は鼻息を荒くしてミラの尻を見ている。

 ここでミラは初めて自分に向けられている目に気付いた。自分の尻に注がれる淫らな視線にミラの羞恥心が高まっていく。

 

『み、みんな!このままだと仮面ウィザードが負けてしまうわ!みんなの声援で仮面ウィザードに力を送って!』

 

 いいところで司会のお姉さんからの声援コールがかかった。最初と同じように観客がほぼ一丸となってミラに声援を送る。何人か俺への声援が混ざっていたことは気にしないでおく。

 声援が起きるとミラは俺を跳ね除けて、サタンソウルを発動した。とてつもない威圧感が会場を包み込み、観客も異様な雰囲気に身を震わせている。

 

「待つんだ!仮面ウィザード!それは洒落にならないって!!」

 

「地獄の業火に焼かれなさい!!」

 

 ミラの手から放たれた火球によって俺は火達磨になった。


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