マカロフからギルドへの勧誘を受けた俺は、しばらくフリーズしてしまった。勧誘が来る意味もわからないし、何より「ゲスゲスいこうぜ!」と構えていた俺を迷わす言葉に脳内処理が追いつかない。
突然固まった俺はマカロフや『シャドウ・ギア』の3人に「大丈夫か?」と心配され、慌てて「大丈夫でぇーす!」と陽気に返事をする。
それにしても困った。ギルドへの勧誘は魅力的にもほどがある。俺TUEEEE系を最初考えていた俺にとって『妖精の尻尾』へ加入出来ることはとても喜ばしいことだ。
しかし既に下衆キャラへと舵を切った俺はすんなりと首を縦に振れない。まだ何もしてないのだからやり直せるだろうが、俺はこうホイホイと自分の信念を曲げていいものか悩んでしまう。
加えて俺の魔法は表のギルド向きのものではない。敵が使ってくる方がしっくり来るものだ。
「ギルドへの勧誘ありがとうございます。しかし俺はあなたのギルドに入るべき器ではありません。申し訳ありませんが、ギルドには入りません」
こんな下衆野郎に入られるのも迷惑だろうと、心が痛むが断ることにした。
『シャドウ・ギア』の3人は「どうして!?」みたいな顔をしてるが、俺はお前たちが思っているような人物じゃない。
しばらく沈黙が場を支配した。
やがてマカロフは考え込むような仕草から俺の方へと向いた。
「お主が何を考えているか、何を背負っておるかはワシにはわからん。じゃが一つだけ言えるのはお主が『妖精の尻尾』に入るべき器でないことは決してないことじゃ」
「そんなことは……」
「レビィから話は聞いた。何回殴られても逃げるように催促しても諦めずに立ち向かったと。ワシはお前さんのような人材を『妖精の尻尾』に入れたい」
「…………」
「随分と自分を卑下しているようじゃが、ここにはお前を馬鹿にするような輩は1人もおらん。逆にお前のように何かを背負っている者もおる。心配せんでもワシらはお前を快く受け入れよう」
マカロフの言葉の重みヤベえ。駄目だ、今すぐにでも首を縦に振りそうだ。
耐えろ、俺!ここが正念場だ!
「あと『妖精の尻尾』は美人が多いぞ。エルザやミラにワンチャン感じてみぬか?」
「よろしくお願いします」
結局エルザやミラに釣られて『妖精の尻尾』に入ってしまった。ワンチャンなくても、彼女たちと同じギルドって考えたら、ウキウキしてな。
ただエルザやミラに釣られて入ったのが悪印象だったのか、レビィの視線が痛い。
まあレビィも十分かわいいが胸がな……。うわ、レビィの視線がさらに鋭くなった。
こうして内心ふざけているが、俺はまたピンチを迎えている。
『妖精の尻尾』の新人ということで、今からみんなの前で挨拶をしなければならないのだが、これが問題なんだ。
加入挨拶だから自己紹介しないといけないんだよ。
「マーン・K・グロニクルです。使う魔法は『性的快感を与える雷魔法』など卑猥な魔法です。こんな下衆な俺ですがよろしくお願いします」
言えるわけがない。魔法はまだ誤魔化せるとして名前どうするんだって話になる。偽名を名乗ってもいいが、万が一偽名だとバレた時の説明が絶対にしんどい。
「お前たち、今日はギルドに新しいメンバーが入ったぞ」
マスターの声とともにギルドの面々が一斉に俺の方へと視線を向けた。まだ心の準備が出来てないから、あと1時間くらい待ってください。
「ほれ、何をボーッとしておる。挨拶せんか」
俺の願い虚しく、マスターに促され前方へと立つ。もう待ったはなしだ。ここまで来たからには、腹を括るしかない。もしいじめられでもしたらギルドを抜けよう。
「マーン・K・グロニクルです。魔法は雷魔法や風魔法など色々使えます。みなさんに比べれば大したことはありませんが、どうぞよろしくお願いします」
名前以外は当たり障りのないことを言ったが、肝心なことは名前に対するリアクションだ。
頼む、これからのギルド生活の全てがかかってるんだ。
恐る恐る周りの様子を伺うと名前に関しては何も言われてなかった。
むしろ「あいつ『一本角バルカン』っての倒したんだろ!!強いのか!?」、「色々な魔法か……面白そうだな」と、思っていた反応と全然違ってむしろ怖い。
とにかく俺の自己紹介はコケることなく、無事終了したのでした。
めでたし、めでたし。
俺は広場にいる。確かバイバイだかなんかの事件が終わった後にナツとエルザが勝負していた場所。
そこに俺が立っている。正面にいるのは主人公にして、火の滅竜魔導士ナツ・ドラグニル。どうしてこうなったのか。
あれは自己紹介が終わった直後のことだった。
あの後新人の歓迎会だと飲んで騒いでいたんだが、ナツが「勝負しようぜ!」と言ってきた。
俺は出ましたね、二次創作でよく見るナツの洗礼と冷静に分析した。もちろん俺は受ける気は全くなかったが、下手な断り方をすると、ゴリ押しで勝負させられる可能性が高いことから、誠心誠意を込めた土下座で「勘弁してください」と懇願した。
さすがに土下座する奴を無理やり戦わせるほどナツも鬼ではなかったため、お流れになりそうなところをマカロフが待ったをかけ、今に至る。
申し込まれたその日は俺の怪我も治ってなかったので、日を改めての対戦なのだが、一本角バルカン以上に勝てる気がしない。
そもそも勝負にもならないだろう。相手はこの物語の主人公だぞ。一本角バルカンの時は、奴の性質を利用できたから勝てたようなもので、運が良かったにすぎない。
マカロフはどうやら俺が戦いを忌避していると勘違いしていて「例の雷魔法の扱いには注意するんじゃぞ」と忠告された。
あれは一本角バルカンがテ◯ノブレイクのその先になっただけなんだ。
誤解も解けぬままナツとの勝負の時間になってしまった。
ナツは「楽しみだな!」とやる気100%だ。周りの観客のボルテージも高い。よく見ると俺とナツどっちが勝つか賭けをしている。当然ナツが勝つ方に多く賭けられているのだが、俺にも微妙に賭けられていて、今にも逃げ出したい気分だ。
ここまで散々弱音を吐いてきたが、時間があったのでちゃんと策は考えた。機能するかはわからないが、足掻けるだけ足掻いてやろうじゃないか。
「主人公にどこまで通用するか、試させてもらう」
「火竜の咆哮!!」
ナツは先制攻撃だ!と口から高熱のブレスを吐き出す。
「防ぐ!出でよ、禁具スライム!!」
俺はエロモンスターの一角を担うスライムを召喚した。スライムを引き伸ばし、ブレス攻撃をガードする。
禁具スライムの本来の用途は敵にまとわりつかせ、アンアン言わせるものだが、禁具スライムの耐性の高さを利用し、防具として用いたのだ。
「おお!なんだそれ!!そのブニョブニョで防いだのか!!」
「はは、勇者の剣すら通さないと言われているからね」
俺は涼しい顔で受け答えつつ、次の近接戦に向けて武器を呼び出す。股間に魔法陣が浮かび上がり、出てくるのはエクスカリバーLv1。
召喚だけ見ると真っ当な武器でないように思えるが、実は当たりである。Lv1だと普通の剣でしかないが、レベルアップすることで様々な能力が付加される。
なおレベルアップの条件は「戦闘中に使用者が絶頂に至ること」である。
「E・サンダー……うああああああああああああああああああ!!」
自らに電撃を流し、強制絶頂を果たす。これによりエクスカリバーはLv2へとレベルアップした。エクスカリバーLv2は身体能力と魔力の上昇だ。
突然の自身に電撃を流す行為に周りは唖然としている。
「おい、K!大丈夫なのか!?」
「大丈夫じゃなかったらやってない!」
ちなみに「K」という呼び方は「マーン」と呼ばれたくない俺が広めた呼称である。
「行くぞ!」
先制をかけられたお返しと、今度は俺から攻撃を仕掛けた。渾身の力を込めて剣を振るうも、剣は空を斬り続ける。
確かにLv2になって身体能力と魔力は上昇したが、それでもナツに劣る。
さらに俺は剣術は素人だ。達人であるエルザを相手にしてきたナツには子供騙しに思えるだろう。
「火竜の鉄拳!」
「ぶべらっ」
剣戟を簡単にいなされ、カウンターパンチを喰らった俺は観客の方にまでぶっ飛んだ。なんだこのパンチは。一本角バルカンとは比べ物にならないくらい痛い。『FAIRY TAIL』の魔導士は、これを喰らっても平気な奴がゴロゴロいると思うと、胃も痛くなってきた。
なんとか痛みを堪えて、俺は広場へと戻る。
だが始めのやる気は早くも消え失せていた。もうこれ以上殴られたくない。ここからどうすれば勝てるか、自分が使える魔法から考える。
「……ピンと来たぜ。ナツに勝てる方法が」
俺は魔法E・ファンタジーを発動する。E・ファンタジーとは、俺の脳内のエロい妄想を、対象にも見せることが出来る魔法だ。
エロとは無縁のナツには効かないと思っていたこの魔法だが、効果がある妄想を思いついたのだ。
「狂え、俺の妄想の中でな」
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
俺はナツにとっておきの妄想をぶつける。それを見たであろうナツは頭を抱え、悶絶の様子を見せると、その場にばたりと倒れた。
「ふむ、この勝負はマーン・K・グロニクルの勝ちじゃ」
「ナツが負けただと!?」
「最後突然苦しみだして倒れたが、あいつは何をしたんだ!?」
番狂わせに周りがざわつきだすが、やってしまった本人も驚いている。本当に苦手なんだと実感させられた。
見せた妄想は「エルザ100人にご奉仕される」といったものだ。
うん、エルザにバレないことを祈ろう。
俺は絶賛正座中である。正面にはS級魔導士で『妖精女王』と呼ばれるエルザ・スカーレットが立っている。
そう、ナツに見せた妄想がバレた。
詳しい内容まではバレなかったが、エルザを使ったことはバレた。案の定ガミガミ説教を喰らっている。
エルザめ、実はむっつりスケベだってことを俺は知ってんだぞ。こうなったらジェラールとのラブシーンを……ひいっ!ごめんなさい!!俺が悪かったです!!
そんな長いようで短いような説教から解放された俺は、みんなからの質問攻めにあっていた。質問の内容は俺の魔法に関することがほとんどで、正直に答えるわけにもいかず、はぐらかしつつ答えていった。
その質問の中でレビィから「どうしてあの時エクスカリバーを使わなかったのか」といった質問が来た。
これには2つの理由がある。1つは圧倒的にかっこ悪いからである。股間に浮かんだ魔法陣から出てきた剣だぞ。俺が他人なら正気を疑う。
もう1つはレベルアップをしたくなかったからだ。命をかけた戦いの中で、強制絶頂するなんて正気じゃないでしょ。
ナツとの戦いが終わり、無事『妖精の尻尾』のメンバーになったわけだが、俺は初めに立てた誓いを忘れてはいない。
俺は『妖精の尻尾』に所属しつつ、バレないように下衆道を貫く。
既に種は撒いた。俺がナツに勝ったことで注目度は上がり、特にエルザなんかは、俺のことを気にかけていることだろう。
戦いはこれからだ。