クロビカリタケによって巨大なキノコを抱えてしまった俺たちは、人目を避けながらポーリュシカのもとへ行き、治療を受けた。
ポーリュシカは男3人の股間を見た時はため息をついたのに、レビィには迅速に対応していた。レビィの方が大事かもしれないが、なんとも言えん気持ちだ。
クロビカリタケはその特性ゆえ、意図的に情報が隠されていたようで、治療法はしっかり確立されているとのことだった。あの悪趣味なキノコが広く知られるのは嫌だろうな。
ポーリュシカのおかげで無事治ったものの、レビィはまだ引きずっているようで、1人先に帰ってしまった。
俺もさすがに生えてしまったレビィにいかがわしいことをしようとは思えなかったからな。なんだか申し訳ない気分なので、今度何か奢るとでもしよう。
ハプニングを除けば穏やかなクエストを終えた俺は、次のイベントについて思考を移す。『幽鬼の支配者』との全面戦争だ。これは先の『鉄の森』やガルナ島のように、戦わないわけにはいかない。
ただエレメント4やガジル、マスターのジョゼは原作通りにいけば戦わずに済むだろう。
それでもジョゼの魔法兵とはやり合わないといけないが。
来る日までに英気を養おうと思った時、俺はある事実を思い出してしまった。
『妖精の尻尾』が『幽鬼の支配者』へ殴り込みに行くことになった原因を。ガジルがギルドの建物の破壊だけでは足りないと『シャドウ・ギア』の3人を襲って晒し者にし、それにマスターがキレたのだ。
俺は再び頭を悩ますことになった。『シャドウ・ギア』の3人が襲撃されることを知っていて見過ごしていいのか。
命を奪われるわけではないといえばそれまでだ。
だがあの3人は全くの赤の他人ではない。同じ『妖精の尻尾』の仲間であり、加入時から世話になった。
恩を仇で返すのはエロだけで充分だ。
覚悟は決まった。
活気溢れるマグノリアも夜になれば静かなものだ。
俺は人気のない南口の公園にてガジルと対峙していた。
「まさか『異端者』が出張ってくるとは、思っていたよりお前らはカンカンだったか?」
「あの程度では『妖精の尻尾』は動かない。これは俺の独断先行だ」
「ギヒッ。そんなことはどうだっていい。退屈な仕事だと思ったが、大物と戦えるなら楽しめそうだ」
ガジルはこれからの戦いに期待するように口角を上げる。……覚悟を決めたはずだったが、今すぐ逃げ出したい気分になってきたぞ。最もそんなことは出来ないけどね。
俺はエクスカリバーを呼び出し、E・サンダーでレベルアップ。戦闘態勢を整え、先制攻撃だとガジルに向かって走り出す。
「うおおおおおおお!!」
小細工なしに正面からガジルに斬りかかるが、鋼鉄と化した腕で難なく受けられる。
「鉄竜剣!」
「ぐっ」
そこからカウンターとばかりに鋼鉄の剣が襲いかかる。なんとかエクスカリバーで受け止めるも、重い一撃によって俺は後退させられる。
「どうした、『異端者』の名が泣くぜ?鉄竜棍!」
休まる間もなく鉄の棒が向かってくる。受け止めるのが困難だと判断した俺は回避を試みるも、2段目の鉄の棒に当たってしまう。
「ごほっ」
激しい痛みを我慢しつつ、極点眼を発動。剣で視線を誘導し、E・サンダーを帯びた指でガジルの快感のツボを狙う。
作戦は成功し、見事快感のツボにヒットするも、奴の性質を失念していた。
鋼鉄の体に指が弾かれ、逆に痛手を負ってしまう。
「何を狙ったか知らねえが、そんな攻撃では俺に傷1つけることは出来ないぜ」
ガジルは俺を嘲笑いながら口を膨らませる。
マズイ、この攻撃は……。
「鉄竜の咆哮!!」
鉄の刃のブレスを避けることは叶わず、直撃した。全身切り刻まれた俺はたまらず倒れる。
「なんだあ?この程度とは『異端者』の噂は嘘っぱちのようだな」
事実なので言い返せない。
そもそも喋る気力すら残ってないが。もう少し善戦したかったが、ここまでのようだ。
「それにしてもこんなのと『魔人』のミラジェーンが付き合ってるとはねえ。これだと他の男でもいるんじゃないのか」
今なんて言った?
「『妖精の尻尾』を潰した暁には俺の女にでもするか。お前を倒したと聞けば喜んで尻尾を振ってくるだろ」
ガジルの下賤な言葉に俺の怒りのボルテージは急上昇していく。俺が馬鹿にされることは一向に構わんが、ミラを馬鹿にされてこのまま引きさがれねえだろ。
俺は重い体を無理やり立ち上がらせ、E・サンダーを使い本日2回目の絶頂を迎える。これによりエクスカリバーはLv3にレベルアップした。
「おいおい、そんな目も出来るのかよ」
「どんな目をしてるかなんてどうでもいい」
ガジルが楽しそうに笑う中、効果を確認する。エクスカリバーLv3の効果はランダムで卑猥な魔法1つを別の魔法に変化させる。
変わった魔法はE・ファンタジーだ。
「加減はなしだ。お前はぶっ殺す」
「やれるもんならやってみな!『異端者』!!」
「
ガジルの要望通り、俺は魔法を発動した。
「……これはなんだ?」
ガジルが目の前に広がる異様な光景に戸惑いを見せる。
そこにいたのは数え切れないほどのミラだった。
「なんだとはひどいな。お望みのミラジェーンだよ」
「幻覚の類か?幻覚ならいくら『魔人』だとしても……」
「ただの幻覚のわけなかろう。全て実体を持っている」
「なっ!?」
終わりなき妄想は俺の妄想を具現化することが出来る。ミラを呼び出すくらいなら造作もない。
「こんな、こんなふざけた魔法があるわけないだろ!!」
「ハッタリだと言うのか?」
俺は1人のミラに指示してサタンソウルを発動させ、ガジルに向かって火球を放させた。
とっさにガジルは火球を躱し、火球は地面に衝突した。先ほど自分がいた場所にできたクレーターを見てガジルは冷や汗を流す。
「ありえない!!お前は一体何者なんだ!?」
「マーン・K・グロニクル。『妖精の尻尾』の魔導士だ」
狼狽するガジルにしてやったりと、決め台詞を言う俺。
あとは適当にボコって終わりだと思っていた矢先、俺の視界がぐらついてきた。
まさか魔力切れ?予想以上の魔力消費で俺の体に一気にガタが来たのか?
喋ってる場合じゃなかった……。
俺の意識は強制的に闇へと飲み込まれた。
目が醒めて聞こえてきたのは騒ぎ声だった。
覚醒しきってない目で声の主たちを確認すると、マグノリアの人や『妖精の尻尾』の面々だった。
どうやら俺は負けて原作の『シャドウ・ギア』のように木に貼り付けにされたようだ。
みんな心配そうな表情をしていて申し訳ない。勝てるとは思ってなかったが、心が痛い。
1人自責の念に駆られていると、奥からマカロフが歩いてきた。
「ボロ酒場までなら我慢出来たんじゃがな……。ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ」
マカロフは持っていた杖を力強く握りつぶす。
「戦争じゃ」
こうして始まった『妖精の尻尾』と『幽鬼の支配者』の対決は原作とは大きく違った展開になった。
健在のミラに、ラクサスと雷神衆の参戦。これにより苦戦を強いられることなく、圧倒的な蹂躙で『妖精の尻尾』の勝利に終わったのだ。
聞いた話だとエルザ・ミラ・ラクサスのS級トリオで、ジョゼをフルボッコにしたらしい。敵ながら同情ものの惨劇である。
大勝利を収めたが、それでもギルドは半壊状態になったため、現在メンバー総出の復興作業が行われていた。
「木材って結構重いのな」
「どうしたK!俺はこんなにも運べるぜ!」
木材の重さに愚痴を零していると、十数本くらい抱えたナツが何やら言ってきた。お前と張り合う理由はない。
「あ〜でも、お〜も〜てぇ〜えぇ〜」
「だったらそんなに持たなくてもいいだろ」
「やめとけ、K。あの馬鹿には何言っても通じねえよ」
「なんだと!?」
ナツとグレイが口喧嘩をしている中、物陰からグレイを見ている怪しい人物がいた。
ジュビア・ロクサー。元『幽鬼の支配者』のメンバーでエレメント4の1人である。水を使う魔法を用い、中でも自身の体を水にして物理攻撃を遮断する手法は強力だ。
無事グレイにほの字のようで、俺以外には気付かれることなく、グレイの一挙一動を観察している。割とわかりやすいのに、なぜ誰も気付かないのだろうか。
そうこうしているとナツの挑発に乗ったグレイがナツの倍はある木材を抱えて見事に地面にぶちまけていた。
仕事が増えるだけだから無茶はやめような?
「ぐぇー腹減ったなぁ」
「そういや俺も腹減ってきたな」
グレイの言葉にジュビアの目が光った。目にも止まらぬスピードでグレイに弁当を渡し、再び物陰に隠れて様子をうかがっている。
「てか……これ……弁当!!?」
「おおお!!!よくわかんねえけどうまそうじゃねえか」
「冗談じゃねえ。こんな得体のしれねえモン食えるかよ」
せっかくの女の子の手作り弁当を食べないだと!?確かに怪しいかもしれんが、それは許さん!!
「待つんだ、グレイ!!」
「うわっ、急に大声出してどうした!?もしかして食いたいのか?」
「そうじゃない!!弁当のご飯の部分を見てみろ!!」
「あー、なんかハートがあるな」
「俺はさっきグレイに弁当を渡した人を見たが、女の子だった。そしてこのハートマーク!間違いなくお前のファンだ!」
「そう言われても誰からかわからないものを食べる気は……」
「残念だよ、グレイくん。これから君は『鈍感露出魔』と呼ばれるだろう」
「わかったよ!食えばいいんだろ!食えば!!」
仕方がないとグレイは弁当に手をつける。美味しいのか食べるスピードはどんどん速まっていく。
ジュビアも美味しそうに食べてもらえてご満悦のようだ。ピースサインでも送っておこう。
その後ルーシィの実家の件も片がつき、仮設のカウンターが出来たことでクエストを受けられるようになった。
早速クエストに出向こうとすると、エルザがラクサスに対して怒鳴っている。
「この際だ。はっきり言ってやるよ。弱ぇ奴はこのギルドに必要ねぇ」
「それはもしかして俺のこと?」
「「えっ」」
一触即発の場面から一転して、2人とも何を思ったのか押し黙ってしまう。周りもまるで言ってはならないことを言ってしまったかのような雰囲気に陥っている。
「K」
ラクサスが重く閉ざしていた口を開く。
「なんでファントムの滅竜魔導士程度に負けた?」
「なんでって、普通に負けたぞ」
「それがおかしいっつってんだよ!!お前の実力からして負けるわけねえだろ!!」
ラクサスはご乱心なのか、めっちゃ俺にキレてきた。本当に実力で負けたんだけどなあ。判断ミスはあったが、あの博打に勝てなかったら勝負にすらならなかった。
「実は強力な魔法を使ったら魔力が切れてしまってな」
「強力な魔法だあ?」
「もう……幻覚を実体化する魔法」
「「「はあ!!?」」」
ラクサス以外の面々からも驚きの声があがる。
「お前まだそんな切り札を隠していたのか」
「魔力の消費がでかすぎるから使うことはほとんどないんだよ。あの時はカッとなって使ってしまったが」
「それでも使っただけで魔力は切れないだろ」
「調子に乗って長くしゃべりすぎてな、はっはっは」
「…………」
ラクサスが見たことない顔をしている。絶対内心で呆れてる奴だな。
「とにかく!!俺がギルドを継いだら弱ぇモンは全て削除する!!!!そしてはむかう奴も全てだ!!!!」
「やめるんだラクサス!そんなことしたらぼっちギルドになってしまうぞ!」
「黙れK!俺は俺のやり方で最強のギルドを作る!!!!誰にもなめられねえ史上最強のギルドだっ!!!!」
ラクサスは煽るだけ煽って高笑いしながら去っていった。あいつなりにギルドを思ってのことだとはわかっているが、不器用のレベルを超えている。
この不穏な空気をどうにかしてくれ。
「Kすまなかった。とばっちりを受けさせてしまって」
「エルザが謝ることじゃねえよ。こっちも慣れてるし」
「それにしてもいきなりギルドを継ぐって、何ぶっ飛んだこと言ってんのよ」
ルーシィが最もなことを言っている。いくら孫だとはいえ、あれだけ傲慢だとな。
そもそも世襲制が絶対でもないだろうに。
「まあ、ラクサスは一応マスターの孫だからな」
「えーーー!!?」
「だがさっきも言った通りあいつが継いだら『妖精の尻尾』はおしまいさ」
「Kさん随分ストレートに言いますね」
「Kは容赦しないことで有名だからね」
ハッピーよ、間違った情報を広めないで欲しい。それに俺は事実を言ったまでだ。
「もうこの話はいいだろう。それより仕事にでも行かないか?」
「おーいいねぇ。ちょうど行こうとしてたところだったし」
「ナツとルーシィとグレイ、ミラも一緒にだ。思えば鉄の森やガルナ島の件でも一緒に行動してたからな。この際チームを組まないか?」
『妖精の尻尾』最強チーム結成に俺もお呼ばれされてしまった。魅力的なお誘いだったが、チームを正式に組むと下衆活に支障が出そうだったので断ることにした。
ミラも受付の仕事があるからと断っていた。
チームには加わらなかったが、せっかくなのでクエストには一緒に行った。魔法教団を倒すだけのクエストで街を半壊させて、やっぱり組まなくて正解だと思った。
これ以上の心労はごめんである。