呆気なかったという感想に尽きる。
エバルーの次は「呪歌」をめぐる闇ギルド『鉄の森』との戦いだった。ここで初めての中ボスと言えるエリゴールが登場するのだが、彼は瞬殺されてしまった。
原作だとエルザと『鉄の森』の討伐に行くメンバーはナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピーの3人と1匹。これに俺が加わるのだが、俺だけでなくミラも気になるから着いて行くと言って加わった。
『鉄の森』の悲劇の始まりである。
紆余曲折を経てオシバナ駅に着いた俺たちは『鉄の森』のメンバーと対峙。エリゴールが嘘の目的を語り、上空に逃れようとしたところをミラがサタンソウルで追撃したのだ。
リハビリで力を取り戻しているミラにエリゴールが敵うはずもなく、彼の敗北を見た他の『鉄の森』のメンバーに動揺が走る。その隙を突いてナツ、グレイ、エルザが残りのメンバーを打破し、見せ所もなく騒動に終止符が打たれた。
『鉄の森』の皆さんには敵ながら同情する。
ちなみにゼレフの悪魔として呪歌も実体を現したが、同様に瞬殺されたことは言うまでもない。
『鉄の森』討伐が終わり、ナツが約束していたエルザとの決闘が行われることになった。
実は俺もふっかけられてはいたが、当然断った。了承すればエルザとも戦う流れになりそうだから勘弁だ。
エルザはナツに対して本気で戦おうと、火への耐性がある炎帝の鎧を換装した。くっ、なんてハイレグ具合なんだ。ミラのサタンソウルもそうだが、あれだけキワどい格好に皆何も思わないのだろうか。俺は今すぐオカズにして自家発電したいと思っているぞ。
ギルドのメンバーに見守れながら行われた2人の決闘は原作通り評議院の介入によって中断することとなる。
そうなることはわかっていたのだが、問題は告げられた名前だった。
「マーン・K・グロニクルを逮捕する」
何もやってないのに役割が入れ替わってた。
形だけの裁判ということは知っていたので、おとなしく評議院に連行された。連行される際に周りが思ったより騒がしく、ナツ以外のメンバーが評議院に殴り込みに来ないか心配だったが、それは杞憂に終わった。
と言うのもナツすら評議院に来なかった。エルザは心配なのに俺は心配じゃないというのか。
まあ無駄に拘束されずに済んでラッキーだと思おう。
とっとと帰ろうと早足で出口を目指していると、ある男に声をかけられた。
ジェラール・フェルナンデス。評議院ではジークレインと名乗り、ゼレフ復活のために暗躍しているいけ好かない野郎だ。
ただ実力は折り紙つきで、正面からではまず勝てないであろう。
「裁判中にあくびとは『異端者』は肝が据わってるな」
「それは嫌味か?あんな茶番で緊張感のへったくれもないっつーの」
「ほう?お前は最初からわかっていたのか」
原作知識がなくても激甘管理体制のせいで起きそうになったテロを防いだ功績者を吊るし上げようとしないことぐらいわかる。
俺は何もしてないが。
「用はそれだけか?早く帰りたいんだけど」
「そう早まるな。評議員として黒い噂があるお前には少し話があるんだ」
ジェラールの雰囲気が評議員ジークレインのものからゼレフの狂信者のそれに変わる。
「お前はどこまで知っている?」
気を緩めば押し潰されてしまいそうなプレッシャーとともに、ジェラールは俺に問いかける。この手の圧をブレインで経験していなければ漏らしていたかもしれない。
「さあな。何のことを言ってるかさっぱりだ」
俺は気圧されることなくジェラールの問いに知らないふりをした。
おそらく楽園の塔のことだろうが、まともに答えるつもりはない。下手に刺激したくないのもあるが、何より俺は許せないことがある。
ジェラールがエルザのことを放って男のゼレフに夢中であることだ。あんなにきれいな女の子に想いを寄せられているにも関わらず、本人はゼレフ万歳ときた。ミラと付き合っていなければNTRを敢行していたかもしれない。
「あくまでシラを切るつもりか。まあいい、俺の邪魔さえしなければ問題はない。ただし……」
ジェラールの話が長くなりそうだったので俺は帰ることにした。よく考えれば奴の話を聞く義理はない。
うしろから聞こえる声を無視して足早に俺は評議院を出た。
「K!シャバの空気はどうだ!?」
「俺は牢に入れられたわけではないぞ、ナツ」
ギルドはいつもと変わらない様子だった。みんな俺の帰りを祝福してくれたが、心配していた者はそんなにいなかったらしい。曰く「あまりにもあっさり俺が連行されたから何か考えがあるに違いない」と思われていたようだ。原作知識から抵抗しなかったことが謎の信頼を生み出してしまった。
「結局“形式だけ”の逮捕だったなんてね……心配して損しちゃった」
ルーシィは数少ない心配してくれたメンバーの一人だった。さすが『妖精の尻尾』の常識人枠だ。俺の恋人であるミラにさえ「思った通り大丈夫だったわね」と言われたのに。
複雑な気持ちを抱いていると強烈な眠気が俺を襲い、意識が途絶えた。これはミストガンが来たのだろう。
正体を隠したいのは分かるが、毎回ギルドのメンバーを眠らせるのはどうなんだ。
ミストガンが来れば、ラクサスも現れる。
なぜか原作より少し丸くなっているとはいえ、ラクサスはラクサスだった。ラクサスは自分の煽りに耐えれず、二階に行こうとしたナツがマカロフに抑えられる様を嘲笑する。
「『妖精の尻尾』最強の座は誰にも渡さねえよ。エルザにもミラにもミストガンにも、あのオヤジにもな」
ちゃっかり加えられているミラの名前。力を取り戻しているから当然といったら当然だが。
「あとKもな」
それは余計だったかな。割と仲良くやってるのだから対抗意識燃やさないでくれよ。
とりあえずラクサスのことはスルーして、次はガルナ島だ。
ガルナ島の敵は積極的に戦うつもりのないウルティアの次点がグレイと同じレベルのリオン。S級クエストであることとデリオラのせいで際立つものの、実はそんなに大したことはない。
そもそも流れを見る限り行く必要性もあまりないが、それでもナツたちは依頼書を盗んで行ってしまうのだろう。
問題なのはナツたちを連れ戻しに行くのがグレイではなく、俺かミラになることだ。
ガルナ島はグレイが過去と向き合うターニングポイントであり、本人が行かないと意味がない。俺がクエストを受注して連れていくのもありだが、この後『幽鬼の支配者』も控えていることを考えると立て続けに面倒事はしたくない。
確か原作だと他にナツを連れ戻せる人がいないからグレイが出向いた。
つまりナツたちがS級クエストに行ったことがバレる時に俺やミラがその場に居合わせなければいい。
俺は早速ミラにある提案を持ちかけた。
実に激しい戦いだった。
俺がギルドに遅れて行くために取った作戦、それはミラと一晩中夜の大運動会をするというものだった。私欲が混じった作戦だが、おかげで昼過ぎに起床することが出来た。
ちなみに前回のリベンジだと意気込んでいたものの、こちらのペースに持ち込むことは出来ず、引き分けという形になった。
予定通り遅めにギルドに行ったことで、グレイがナツを連れ戻しに行ったあとに到着した。
事情を聞いてミラが心配していたので「例え連れ戻せなかったとしても、あいつらの実力なら大丈夫だ」とフォローした。実際ウルティアが本気を出さない限り問題ないからな。
責務を果たした俺はいつものようにクエストに行くことにした。
久々に『シャドウ・ギア』のメンバーに誘われ、挑むクエストは「クロビカリタケ」の討伐である。
クロビカリタケはキノコ系のモンスターで、特殊な胞子を駆使するらしい。胞子の詳細は不明だが、モンスター自体大したことがないようなので気を付ければやられることはないだろう。
「キノコのモンスターがいる森だけあってそこら中キノコだらけだな」
俺たちはクロビカリタケを探すために森を歩いてる。この森はキノコ狩りで有名なところで、見渡す限りキノコが生えている。
ゆえにキノコを主食とするモンスターも生息しているが、ほとんどは人間に害はない。キノコの方が毒のこともあって人間に牙を剥いてるくらいだ。
「あ!これってヤセキノコじゃない?」
レビィが指を指したところには波平の毛が生えたようなキノコがあった。ヤセキノコは名前の通りダイエット効果があり、女性に人気だとか。
これがそのヤセキノコらしい。
「食うだけで痩せるなんて夢のようなキノコもあったもんだ」
「でも偽物もいるからもしかしたら違うかも」
ヤセキノコに擬態するキノコとは人間の心理をよく掴んでいる。
だが残念だったな、キノコ君。うちのレビィは既に痩せているから間違って食べてしまうなんてことはありえないのだよ。
むしろもっと肉付きよくなるべきだ。
こんな感じで途中色々なキノコに目を向けながら森を進んでいると目的の奴を見つけた。
2メートルはあろうかという漆黒のキノコ。
討伐対象のクロビカリタケだ。
しかし対象を見つけたはいいものの、俺たちの間に気まずい空気が流れていた。原因はクロビカリタケのフォルムである。
全身黒で覆われたその姿が、チンコのシルエットにしか見えないのだ。
ジェットとドロイはお互い小声で「あれってチンコだよな……」と確認しあってるし、レビィも顔を若干赤らめているから同じ感想を抱いているだろう。
俺たちの衝撃をよそに、クロビカリタケは襲ってくることもなく、メトロノームのようにその場で左右に揺れている。胞子さえなければ害はなさそうだが、あの外見はキツい。
「レビィ、燃やそう」
「え?」
「文字魔法で燃やしてしまおう」
早く倒そうと、俺はレビィにクロビカリタケを燃やすことを提案した。多分それが一番効果的だろう。
俺の提案に乗り、レビィは文字魔法のFIREを発動した。クロビカリタケは先ほどの軽快な動きから燃やされたことで苦しそうにのたうちまわっている。
脅威なのは外見だけだったなと安心していると、クロビカリタケは最後っ屁のごとく頭から大量の胞子を噴出した。予期せぬ胞子の噴出に対応できず、俺たちは胞子を吸ってしまう。
俺は最悪のパターンを想像したが、体に異常を感じない。自覚がないのか、遅延性なのか、様々な可能性が脳裏に浮かぶ。
ふとレビィの方を見ると、こちらに背を向けモジモジとしている。まるで何か恥ずかしいものでも見たかのような様子だ。
ここで俺は自分の体に起こっている異常に気が付いた。
俺のキノコが急成長している。ズボンの上からはっきりわかるレベルにだ。ジェットとドロイも同じことが起きているようで、隠そうと前かがみになっていた。
見た目は最悪だが、性的興奮によるものでなく単純に巨大化しているだけなので直接害がなさそうなのは救いである。
それにしてもレビィの様子がおかしい。俺たちの巨大キノコから目を背けているかと思っていたが、どうもそれ以上に戸惑っているように見える。
しばらくしてレビィが恥ずかしそうにこちらに手招きしてきたので、股間を目立たせないようにしながら近づく。
「K、その……これどうしよう」
泣き目になりながら震える声で俺につぶやくレビィ。
その姿に少しそそられながら視線を下ろすと、あってはならない股間の膨らみを確認してしまった。
思わず叫び声をあげてしまった俺は悪くない。