ロウside
星界と呼ばれる異界で、カムイ王子は俺に自分の知る限りの教えてくれた。
あの日マークス王子達のお陰で王城に戻ろうとした時、吊り橋でガンズが待ち構えていた。
ガンズは騎馬に乗るギュンターの爺さんを吊り橋から叩き落とし、爺さんは谷底に消えていった。
それに激怒した王子は魔剣を振るい、ガンズを退けた…だからあのハゲはボロボロだったんだな。
その魔剣に翻弄されて谷から落ちたのだが、リリスちゃんの力で星界に転移したお陰で事なきを得た。
…までは良かったんだが元の場所に戻ったら気絶させられて、目を覚ましたら捕虜だったあの娘────リンカちゃんがいた。
何だそりゃあ! じゃあ何か? 一人で美女と一つ屋根の下で一夜を過ごしたってのか!?
ふざけんなコラ! どんだけ美味しい思いしてんだよ、この純粋王子は!!
…と、話を戻すか。
そんな王子の下に同じく捕虜だった忍び────スズカゼが現れて奴の案内の下、向かった先は白夜王国のシラサギ城。
其処でリョウマ王子と白夜王国の女王、ミコト様と邂逅を果たした。
彼女はカムイ王子を息子として受け入れようとするが、其処に白夜の王族姉妹たるヒノカ王女とサクラ王女が襲撃を受けたと言う報を受ける。
リョウマ王子はカムイ王子に見極めるように諭し、襲撃された村々へと向かい暗夜の軍勢を退けたと言う。
…あの老害、若しくはマクベスのヤローだな、嗾しかけたの。
んで王女達と出会い、城に戻り王子はミコト女王の先程の問いに答えた。
答えは覚えてない…つまりNOだった。
まあ無理もないわな、突然見知らぬ人から親子だって言われたら。
黄昏れる王子はアクア王女に出会い、どうするべきなのかを問われた。
そして今朝、カムイ王子はミコト女王達に白夜王国の街並みを案内される。
…弟君であるタクミ王子からはアクア王女共々煙たがれていたけれど。
王子は兎も角、王女は既に誰もが受け入れているとタクミ王子を諭す。
この調子なら問題なく蟠りも中和されていく、そう思われた時だった。
カムイ王子の持つ剣…
其奴は魔剣を地面に突き刺すと白夜の国民を巻き込んで爆破、魔剣は破片となって辺りに飛散した。
勿論カムイ王子も例外ではない。突然の事態に戸惑いを隠せぬ中、破片が襲い掛かった。
もう駄目だと思った時…ミコト女王が彼を庇い、彼女は致命傷を負った。
彼女は王子の腕の中で息絶え、その際彼女を母と呼んだのはそれが最後だった。
そしてカムイ王子は異形の竜へと姿を変え、襲ってきた敵兵をリョウマ王子等と討ち取ったと言う。
アクア王女曰くその敵兵は暗夜王国の兵士ではなかったそうだ、何だそれ? まさかそれも
敵を倒したにも関わらず母を目の前で失った影響か、カムイ王子は暴れ続ける。
しかしアクア王女が歌で彼の心を静め、竜から元に戻った彼は失った記憶を取り戻したそうだ。
それはシュヴァリエ公国にて
ちょ…それ第三者から見たら誘拐じゃん! あの老害、其処までするか!?
それには驚くどころか呆れるしかない。
詫びて済む話じゃない、怒り心頭に言葉を発したタクミ王子はカムイ王子を責め立てた。
まぁ当然か。大好きだった母親が突然殺された上、折角出来た兄王子がその原因を作った。
何がなんだか分からなくなった彼を白夜の軍師やリョウマ王子が諌める、すると城下町の像が光を放ち、やがて光は黄金の刀へと姿を変えた。
この世に救いを齎す刀、
竜の力は竜石と呼ばれる神秘な石に封じ込めた後、暗夜軍────つまり俺達が行軍してくると言う報を聞き、そして今に至るまでがこれまでの経緯だそうだ。
「…そりゃあ大変な事態になっとったんすね」
「ええ、信じられないかも知れないけれど」
「でも本当なんだ…ガロン王はずっと僕を利用していて、しかもその所為で母上は」
今すぐ信用するのは難しいと思うけど、とカムイ王子は言うが、俺はの答えはもう決まってる。
「信じますぜ」
「ええ〜!?」
俺からのまさかの即答にフェリシアが吃驚する、そんなに驚くことかよ?
「マークス王子から一本取ったってのもあるし、今回の王命にも腑に落ちない所がありました。それにあんな奴よりもあんたに着いていく方が、ずっと命を預けるのに相応しいですぜ?」
俺の言葉にカムイ王子達が感動していた、後もう一押しだ。
「それに一緒にいれば可愛い娘に出会えるし、モテモテでウハウハな生活が待っているかも知れないし」
「…不純な動機ね」
…あり? アクア王女の目線が一気に冷たくなった、その上カムイ王子の耳を塞いだフェリシアが俺をゴミを見るような目で見てるし。
何でこうなるわけ?
その後異界で大体の荷作りと武器の手入れを整え、俺達は元の世界へと戻る。
白夜も暗夜も敵に回した今…何処に向かおうと模索していると、アクア王女がある提案を提出した。
「それなら一緒に来て、誰にも見つからない場所があるの」
彼女曰く生前のシェンメイ王妃から聞かされた話で、この世界の真実の姿と深い絶望だそうだ。
胡座をかいていても仕方ないので、俺達四人はその場所へと赴くことにした。
案内されて半日くらいが経ち、昼下がりの空の下で辿り着いた先は────両国の国境とも言える無限渓谷、あのハゲがギュンターの爺さんを叩き落とした場所だ。
…おいおいおい、まさかと思うんすけどアクア王女? こっから落ちて心中しろって言うんじゃないっすよね?
「まさか…此処が隠れ処だって言うのか?」
「ええ、そうよ。この谷に飛び込むの」
はい、予感的中ーーー!!
フェリシアも洒落にならないとばかり顔色を蒼褪め、慌てて待ったをかける。
彼女曰く落ちても死ぬことはないそうだが、これ死ぬって! 冗談抜きで死ぬわ! いやほんとマジで!!
「…分かった、飛び込むよ」
………What?
あれ〜? 聞き違いかな? 今王子の口からOKが出たような?
フェリシアも必死になって止めようとする辺り、どうやらマジみたいだ。
と言うか信じているとか先に待っているとか言ってるし、行く気満々だよこの二人。
もうあの人らにとっちゃ決定事項なんだな、もう腹は括ったわ。
フェリシアも覚悟を決めたのか同じように吊り橋に足を運ぶ、一時的な静寂が続き、気が付けばアクア王女が橋から飛び降りていた。
同じようにカムイ王子、俺とフェリシアも飛び降りて暗い崖下に落ちていく。
怖い怖い怖い怖いマジ怖い! 軽い気持ちで行ったけどどうしようもなく怖え! これが死ぬ瞬間の浮遊感なのか、そうなのか!?
そんな事を考えていたら光が見えてきた、崖下の先に光が見えるってことはあの世が見えてきたってわけ?
しかし次の瞬間には、俺の中の世界を否定するような光景が広がってきた。
…………何これ?
何で崖下の先に空があるの? 何で岩や大地が浮いてんの? 何で草木や緑があんの? 何で湖が上下逆になってんの?
色々な意味でおかしいんだけど、あれ? 俺の頭がおかしいの? それともこの世界の方がおかしいの?
そんな事を考えていたら草原が視界を覆い尽くし、俺の意識は暗闇に包まれた。
続く