ロウside
「────僕には、裏切る事なんか出来ない」
カムイ王子の呟きが響き渡る。
暗夜王国はあのおっさんの所為で国政が厳しいが、マークス王子達王族やフェリシアを始めとする従者達が支えてくれる。
俺? 唯興味を持ったから観察してただけ。
リョウマ王子がそれに対して反発するが、カムイ王子は白夜に刃を向ける気はないと語る。
何方も裏切れないと語る王子の答え、そりゃ一つしかないわな。
「すまない…リョウマ兄さん、マークス兄さん。二人共剣を置いてくれ! きっと和平の道はある!! 話し合いで解決する方法を────」
それで解決するなら苦労はしねぇっすよ、カムイ王子。
「もういい…カムイ、お前の考えは分かった。兄である私が断ち切ってやろう、お前の迷いを」
「させるものか…! カムイは俺達の大事な家族だ! お前達などに絶対に渡さん!!」
やっぱこうなるのか。
「面白い…両国の第一王子同士、此処で決着を付けようではないか」
「掛かって来い! お前に勝利して、カムイも国も守ってみせる!!」
また衝突しやがった、って言うかリョウマ王子も頭に血が上りやすいんだな。
如何言う経緯かは知らんけど、カムイ王子は今日まで白夜にいた事。
白夜の女王の結界で守られた此処に来られた時点で、既に女王は命を落とした事。
詳しい事情を知るには、こうするしかねぇ。
「全軍に告ぐ────白夜の兵達を鎮圧しろぉ!!」
血気盛んな叫びと共に白夜軍と戦闘を開始した暗夜軍、そして俺はカムイ王子の下へ────
カムイside
僕の目の前で得物の競合いを繰り広げる二人の兄さん、そして彼等に付き従う兵士達は互いに命懸けの死闘を演じている。
どれだけ叫んでも兄さん達は戦いを止めようとしない…何か手はないのかと思った時、白夜で出会った少女────アクアが話しかけてきた。
「ねぇ…私達の近くにいる部隊に攻撃を仕掛けてはどうかしら…?」
アクア曰く部隊長を討てば戦いを止められるかも知れないと言う、確かにそれしかないと思うけど大丈夫かな…?
そんな不安も抱えていると足音が聞こえてきた。
まさか敵が来た!? と思って振り返ると、見知った顔が此方に向けて走ってきた。
「────カムイ様! 御無事で良かったです〜!」
「フェリシア!?」
無限峡谷で逸れてしまった彼女が汗だくで駆け付けた、彼女はずっと僕の行方を追っていたそうだ。
そしてフェリシアは戦場の殺気に気付き、僕が経緯を説明すると彼女の表情が青褪める。
「両軍!? カムイ様、何て無茶を…!」
こんな無謀としか思えない状況に気が遠くなった彼女だったけど、首を左右に振って真剣な表情になる。
「でもでも、分かりました! カムイ様の敵は私の敵…このフェリシア、きっとお役に立って見せます!」
そう決意した彼女を加えた僕達は、すぐさま戦闘に介入しようと平原を駆け出す。
「────待って、誰かが此方に向かってくるわ」
そう言うアクアに合わせて僕達は足を止める、そして目を凝らすと黒い法衣を纏った見知った顔が剣を手に此方に向かってくる。
「ロウ!」
気が付けば僕は黄金色に輝く剣、夜刀神を鞘から抜いていた。
ロウside
王子達とは違い、俺は竜脈の影響を受けてねぇ河を橋で渡っていった。
カムイ王子の姿を肉眼で捉え、腰に携えていた剣を抜いた。
視界の端になんか見た事あるアホメイドがいるが、それもお構いなしに駆け出す。
カムイ王子はアクア王女に促されて剣を抜く、あの不気味な剣ではなく────黄金色に輝く神秘的な剣で斬りかかる。
あんな啖呵を切ったんだ…その覚悟、見せてもらう。
「止めてくれロウ! こんな事、間違ってると思わないのか!?」
俺の剣を黄金色の剣で受け止める。
「…んな事…あんたに言われずとも理解してるっすよ…」
だからこそ────
「両国の戦争を止める覚悟があるんなら────それを示してみせろぉ!!」
甘ったれた綺麗事だったらその程度、もし本物なら────
ファイアーの魔導書を手にし、掌から紅蓮の炎を放つ。
瞬く間に炎に包まれた王子に踵を返し、両軍の様子を俺は見つめる。
何時の間にか移動していたアクア王女とフェリシアが両軍を攻撃しており、呆れつつも止めようとした────
「…!」
後ろから異様な気配を感知し…素早く振り返った、其処には炎の中から四足歩行の獣がいた。
「は…!?」
異形の存在の顕現に目をぱちくりしてしまい、獣は大きく嘶く。
まさか…カムイ王子か!?
暗夜は闇竜…白夜は光竜の血が王族に流れている、だが王子のはどう見ても何方にも当て嵌まらない。
そう思考を巡らせていた途端、視界が茜色の空で覆われた。
下には平原、目線の先にはカムイ王子…同時に悟った。
「やっべ…」
草原に横たわる俺の横に剣を突き刺し、獣から戻ったカムイ王子は俺を見下ろす。
なんつーか…顔つきが強くなったように見える、白夜にいて何かを見出したんだろうな。
そんな目で見られたら…心が折れちまう。
「カムイ王子」
もう心は決まった、国の皆には悪いが────
「あんたの理想…俺も付き合いますぜ」
「…分かった」
王子の目線を追うとやるべき事をやったのか、アクア王女とフェリシアが走って来る。
後ろからは両国の兵士達が────
「カムイ! 此処は逃げるべきよ、残念だけどリョウマ達は話を聞いてくれる状態じゃないわ」
「仕方ない…ロウ、行くよ!」
そう言うとカムイ王子は立ち上がり、俺の片足を掴む…っては!?
ちょ…待った王子! せめて立つ時間ぐらい、ぎゃああああああ!!??
強く引き摺られながら、俺は阿鼻叫喚の叫びを上げるのだった。
戦場から離れて数刻が経ち、俺達には一時の休息が許された。
だが暗夜と白夜、何方かを選ばなければ双方から命を狙われる立場となる。
…だが、カムイ王子はもう選んだ。
全てを失ってでも選んだ第三の道、その決意を固めた王子にアクア王女は折れた。
「…そうね、そうなのかも」
アクア王女も母であるシェンメイ王妃を思い出したのか、彼女も決意を固める。
「ん?」
そんな二人の会話を聞いていたら、水晶玉を抱えた一匹の獣がやってきた。
心なしか、其奴の頭の頭巾に何処か見覚えがあるんだけど。
「リリス…? どうかしたのか?」
しかも聞き捨てならない名前が出てきた、これがあのリリスちゃん?
「うん…実はそうなんだ」
「…カムイ王子。何か拾い食いでもしました? こんな獣がリリスちゃんの筈が」
「えっと…話せば長くなるんだけど」
すると目の前の地面が光りだす。
「はわ!? この光はなんですか〜!?」
「これも話せば長くなるんだけど」
話せば長くなるってどんだけだよ、光は忽ち広がり俺達四人を包み込む。
やがて光は収まり、目の前には奇妙な家と景色が広がっていた。
「……は?」
俺もフェリシアもその光景に呆気に取られていると、リリスちゃんが説明してくれた。
此処は時空を司る星竜の加護を受けた世界、通称星界と呼ばれている。
彼女はその竜である、人間じゃないと知った俺はがっかりしたけど。
星界は自由に使える事もあり、俺達は身体を休める事にした。
しかし…リリスちゃんが人間じゃないって、折角のお近付きのチャンスが〜。
なんて口に出して呟いたら、女性陣からゴミを見るような視線を突き刺された。
続