名前 ロウ
暗夜王国の平民出身の青年軍師。
ガロン王が認める程の知略で白夜王国に奮戦、同じ軍師のマクベスには妬まれている。
気配りが良く殆どの兵からは信頼を寄せられている。
しかし女癖が酷く、告白してもフラれる。
内容によっては女性に恨みを買われる。
主な武器は剣と魔導書、ジャックと言う名の馬(雄)がいる。
モテない軍師と黒い王族
────暗夜王国。
それは数十年以上昔に開国されし夜の国。
陽の光が一筋も照らされず、満月が代わりにその役割を果たしている。
夜空に輝く満月が美しく見えていて、国民にとっては光と同等である。
そして無限峡谷と呼ばれる場所で、一人の軍師を中心に物語が紡がれようとしていた。
暗夜王国と相対となる光で覆われし国────白夜王国との国境線となる地帯であり、二国は嫌悪している。
「はい、終了っと」
灰色の髪の男は持っていた剣を鞘に納め、魔道書を閉じる。
周りには自分が率いる暗夜の兵士、眼前には白夜の兵士の死骸の山────そして僅かな残存兵達。
「くそ…!」
倒れている残存兵の中に風変わりな男女がいた、男は緑を基調とした忍び装束、女は露出が多い服装に棍棒を持っていた。
「…しっかし骨が折れるよな? 白夜の連中を一網打尽にする為とはいえ、こんな危ねえ場所を確保するんじゃなかったぜ」
男は愚痴るように本音を吐いていき、残存兵達の前で中座りになる。
兵士達はもう何度聞かされてきた事か、深く溜息を吐く。
「し…しかしロウ殿。これは王命ですし、こんな事が王の耳に入ってしまったら我々に命がないですよ?」
「いーんだよ。あの
男────ロウは不満をぶちまけていき、平然と自分が仕える国王を否定するような発言に兵士達は冷や汗を流す。
「さて────」
中座りを解き、ロウは棍棒を持っていた白髪の女性を見下ろした。
「お前等を捕虜として暗夜王国へと連行する、下手な真似は止してくれよ?」
「巫山戯るな…! 誰が好き好んで暗夜の…敵国の手に」
「聞こえなかったか? 下手な真似をするなって、仲間がまた死ぬぞ」
拳を握り女は地面を殴りつける、男はリンカさん…と物悲しそうに小さく呟く。
「それにしてもお嬢さん、良い体つきだね」
女────リンカの鍛えた体を見ているロウだが、当の本人にとっては良い気分ではない。
「物は相談なんだが────俺と付き合ってくんね?」
「……は?」
周りの空気が凍りつき、リンカは思わぬ質問に対して呆けた声を濁した。
兵士達は目も当てられぬ光景を目の当たりにして、目の前の可哀相な頭の軍師に呆れるのだった。
暗夜の若き軍師…平民の出身の家柄でありながら軍の幹部に就任したのは十五歳の頃、冷静かつ巧妙な奇策で白夜の軍勢に次々と勝利を収め、下町からは
だが…そんな彼にも欠点がある────この女癖の悪さだ。
兵士や魔術士…侍女に飽き足らず、下町の者にも軟派している。
子供ならまだしも年頃の女子に既婚者…挙げ句の果てには王族まで、あまりにも守備範囲を広げているのだ。
何故、誰も止めないのか?
それは簡単な事である。
「取り敢えず、お友達から始めて────」
「悪いが…そんな事に付き合う気はない」
「え゛」
「────少なくとも、私はお前みたいな尻軽男に心を預けるなど…断じてあり得ない」
「し…尻軽…」
彼が────百戦練磨のごとく、生まれてこの方十年以上フラれているからである。
────暗夜王城…クラーケンシュタイン城。
本国王都“ウィンダム”を中心に迫り上がった壁、そして王都の中心に聳え立つ城こそが暗夜王の治める居城の名だ。
「…ロウよ、見事であった」
王城の謁見の間にてロウは玉座に鎮座する年配の男を見上げる。
暗夜王国の国王────ガロンその人である。
「…はい、峡谷の白夜の兵士共を捕らえた者達を除き、一掃して参りました」
似合わぬ敬語を口にし、ガロンに向けて頭を垂れる。
「相変わらず見事なまでの知略だ…私は思わず感心してしまうくらいだ」
「いえ…王からすれば私めの知恵など些細な事。王の足下にも及びません」
心にもない事を言ってくれる。
顔の半分を仮面で覆った法衣の男────マクベスは憎々しい程に舌打ちし、目の前の青年を睨んでいた。
知略では自分の方がこの若僧より勝っている。にも関わらず、王は彼奴などの策を褒めておられる。
何故この小僧なのだ、此奴の甘い策の何処がいいのだ。
「そう謙遜するものではない。私はお前の知識を高く買っている、マークス達もそう評価しておった」
「有難きお言葉…感謝致します。私めはこれにて────」
「待て」
立ち去ろうとしたが、ガロンはロウを呼び止めた。
同時に驚くべき報せを聞く事となる。
「明日…北の城塞からカムイが城を訪れる、お前もそれに立ち会うがいい」
「カムイ王子が…ですか?」
「嗚呼…異形神ハイドラがそう告げていた。今日はもう遅い、早めに寝て明日に備えておくといい」
畏まりました、と言う言葉を最後にロウは謁見の間を出て行った。
「ったくよー。なーにが異形神だっつーの、唯の石だろーが」
翌日の朝…と言っても夜のように暗いが、ロウは王族達を迎えるべく城門へと急いでいた。
「にしても…カムイ王子か」
カムイ────その名を聞くなり、憤怒の表情から一変して笑みを浮かべた。
数年前のとある日────暗夜王国の属する国シュヴァリエ公国から帰国したガロンが、見知らぬ男児を連れてきた。
男児は妙に怯え、この国の人間には酷く敏感になり…時々癇癪を起こす程だった。
誰もがどうしようもないと思った時、彼に救いの手が差し伸べられた────
鮮明に過ぎる思い出に浸っていると城門前に到着し、門が開かれると幾人もの人間がいた。
「出迎え御苦労だったな、ロウ」
「いえマークス王子、これが自分の役割ですから」
金髪の男性────暗夜王国の第一王子マークスに向かって頭を垂れる、その後ろからラベンダー色の髪を持つ妖艶な美女が現れる。
「カミラ王女…相変わらずお美しいですなぁ」
「貴方も褒めるのだけは上手ね、褒めるのだけは」
美女────第一王女カミラの美貌に鼻を伸ばしていると、冷ややかな声が聞こえてきた。
「全く…姉さんはロウを煽らないでくれない? 此奴は調子に乗ったら何をするのか検討もつかないからね」
「そそそそんなわけないっすよ、レオン王子〜」
法衣を纏った少年────第三王子レオンが蔑むような眼差しを向けていると、ツインテールの少女が駆け寄って来る。
「おはよーロウ! 今日も可愛い女の子に声を掛けてるの?」
「…すいませんエリーゼ王女…俺ってそんなに軽いですか?」
少女────第二王女エリーゼの無邪気な一言が彼の心を抉った。
「軽いな」
「軽いわね」
「軽過ぎ」
「……絶望した、味方が一人もいないこの状況に絶望した」
寂しそうに呟いていると、マークス達の後ろからまた声が聞こえた。
「まあまあ兄さん達、それ以上ロウをからかわない方がいいよ」
「そうですよ〜、意地悪しちゃ可哀想です!」
騎士甲冑を纏った初老の男、頭に頭巾を被った少女とメイド服の少女、尖った耳が特徴の銀髪の少年。
「…カムイ王子、この度は北の城塞からの外出…おめでとう御座います」
「出迎えありがとう、早速で悪いけど父上の所に案内してくれるかい?」
少年────第二王子カムイが無邪気な懇願をし、ロウは笑顔で答える。
「はい、奥で王がお待ちしております」
言われるがままに道案内していると大広間に出る、ガロンはその場で立っていた。
カムイはガロンに向けて頭を下げ、ガロン本人はそれを聞いて彼を高評価する。
更にカムイは他の
カミラとエリーゼは心配そうにしているが、彼は気丈に振る舞って微笑む。
「…さてカムイよ。我が国は東方の白夜王国と今も戦争の最中にある」
暗夜王族には古の神…“神祖竜”の血を受け継ぐ一族、王族が戦場に行けば一部隊を壊滅するのは確かに本当だろう。
だが…兵を草刈りと例え、他者を────家族さえも駒のように扱う、そんな認識の此奴が腹立つ。
そんな苛烈に苛んでいると、如何にも怪しいと言わんばかりの剣が、禍々しさと共にカムイの前に顕現する。
「これは…?」
「魔剣ガングレリ…異界の魔力を秘めた剣よ。その魔剣をお前の腕を以て振るえば、白夜の兵共を殲滅出来ようぞ」
どう考えても怪しさこの上ない、マークスも同じ事を思っているのか顔を顰めている。
「さて…それではお前にその魔剣の力を試させてやろう────捕虜共を此処へ」
ガロンの命令で近くにいた兵士が走り出す、暫くすると先日捕らえたリンカを初めとした白夜兵を連れてきた。
「良いか…此奴等は先日ロウが率いる部隊が先の戦闘で捕虜にした白夜王国の者共だ、お前の力が見たい」
ガロンは不気味な笑みを浮かべて、こう言い放つ。
「その魔剣を以て此奴等を倒してみせい」
無茶な横暴だぜ…ロウはこの光景を見てそう思った。
続