怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

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まゆちゃんは本当はヤンデレではないと思っています。しかし書いてるうちにヤンデレっぽくなるのは仕方ないね。

宮城講演が今週末にありますね。地元なのに用事があって行けないのがとても残念です


怠惰な飴とヤンデレ

「疲れた・・・」

 

 現在時刻は10時前ほどであり、私を照らしてくる車のライトの数も減ってきていた。事務所の下にたどり着き、ふと見上げると事務所の中はまだ明かりがついていた。私は小さくだれにも聞こえないように、ご苦労なことだ。と呟くと、階段を上り始めた。

 そもそも今日私の帰宅が遅くなっている理由は、いつも通り杏にある。朝から番組の撮影があったというのに15分も遅れてきたのだ。今日の撮影にはまあまあの大御所が出演する予定だったので遅れるわけにはいかない。しかし今日は迎えに行ってやれないから絶対に遅れるな、という話をおよそ五回はしていた。それでも杏の遅れてきた理由は『寝坊した』ということだけだった。よって撮影が少しだが長引いてしまい、大御所に謝りに行ったり、迷惑をかけたスタッフ方にも謝る必要があったのだ。まぁ、私だけだが。

 さらにその影響を受けて、次のライブの打ち合わせにも遅れがでてしまった。その間、杏はポケットに手を突っ込んだまま話を聞き、少し上の空だったので時間が伸びてしまっていたのだ。今日の杏にはほとほと困り果ててしまった。あきれてしまい、先ほどもかなりの言い合いになってしまった。

 

 私がガチャと、事務所の玄関に当たる部分の扉を開けて、中に入る。あいさつもしてみると誰もいないことがわった。ちひろさんは定時上りだとして、一体誰がここの明かりを・・・?とりあえずまだ事務的作業が残っているので、終わらせるための眠気覚ましとしてコーヒーを飲もうとしてコーヒーメイカーに近づいたときに左の方から声がした。

 

「杏さんのプロデューサーさん・・・?」

 

「どぉぉわ!!」

 

 思わず変な声が出てしまった。慌てて声の主のほうを見てみるとそこにはリボンを手に結んだ女の子が立っていた。あの娘は確か佐久間まゆだ。元々は東北のどっかでロリータ系のファッション雑誌を担当していたが、今のプロデューサーである男と出会ってそのまま事務所を辞めて上京してきたらしい。

 まぁ、この話だけ聞くとアイドルを目指していた女の子が上京してアイドルになった。という美談にも思えるかもしれないが、実はまゆちゃんとプロデューサーが出会って上京するまでは一週間もなかったという話を聞くと、私は身が震える。普通に考えて一週間でそんなことできるのか?通っている高校はどうする?親の説得は?考えてもわからないことだらけだ。前に聞いたこともあったがはぐらかされた。

 

「どうかされたんですかぁ・・・?」

 

「ま、ちょっと残業をね」

 

「大変そうですねぇ、杏さんのためにも頑張ってください」

 

 まゆちゃんは私に労いの言葉をかける。私もコーヒー片手に自分のデスクに向かい、荷物を置いて作業を開始する。まゆちゃんは普段はいい娘なのだ。誰に対しても礼節を持った態度で接しており、なによりも優しい。ファンから人気がでるのもわからない話でもない。

 それは別としてまゆちゃんは何をしているのだろうか。さっきからまゆちゃんPのデスクを漁っているような気もするが・・・。あの生真面目な男が自分のデスクに忘れ物をしてるとは思えないが、万が一があるといけないので一応声をかけておくことにした。

 

「まゆちゃん、何してるの?」

 

「プロデューサーさんの机を整理してるんです。さっき頼まれちゃって」

 

「へぇ、じゃああいつここに来るんだ。よかった」

 

「あと二十分くらいで着くと思いますよぉ」

 

 私はありがとう、とだけ言うと書類をまとめる作業に入る。この書類は杏と他アイドル4人で歌うお花見の曲のCDの件についての書類だ。その5人の中にはまゆちゃんも入っていて、PVを見た限りだと、2人ともソロパートを貰えていて、とても嬉しいこと。今日の打ち合わせはそのためだったのだが如何せん杏の寝坊により、私と杏が少し喧嘩をしてしまい。あまり実りのある話し合いは出来なかった。

 そんなことを考えていると、書類作業は進むはずもなく面倒になってしまっていた。そこにまゆちゃんが話しかけてきた。

 

「大丈夫ですかぁ?杏さんと喧嘩でもしましたかぁ・・・?」

 

「なんで知ってるですかね・・・」

 

「うふ、打ち合わせが終わったあと杏さん、ずぅーと言ってましたから」

 

「そうか、すまないなくだらない話を聞かせたみたいで」

 

 まさか杏もそこまで怒っていたとは。自業自得だったはずなのだが、よく考えたら杏が寝坊していた理由がわからない。またオンラインゲームで徹夜をしていたはずがない。今は私が預かっているからだ。となると別なことで・・・?

 

「杏ちゃんと仲直りしてくださいね。ヒントは差し上げますから」

 

「ヒント・・・?」

 

 ヒントとはなんのことだろうか。まさかまゆちゃんは杏がなぜ寝坊したのかをわかっているのだろうか。

 

「うふふ、明日がなんの日か思い出してみてください。ヒントはこれだけです」

 

「それって・・・」

 

 私がなにかを言おうとしたとき、事務所の扉が開く。私は不審者かと思い振り向くと、そこにはまゆちゃんのプロデューサーがいた。あちらも不審者が事務所にいたと思っていたのか、お互いに肩の力を抜いた。まゆちゃんはプロデューサーに気づくと声をかけた。

 

「プロデューサーさん!」

 

「まゆ、残っていたのか。はやく女子寮に戻れ」

 

「プロデューサーさんが送っていってくれませんか・・・?」

 

「はぁ、仕方ないから行くぞ。すまんな戸締りを頼む」

 

「それじゃあ頑張ってくださいねぇ、うふ」

 

 私が手を振り、お疲れと言うと。二人は扉を閉めて帰っていった。しかし明日が何の日だったかだと?杏とは長い付き合いだが恋人でもないし記念日なんて・・・。あっ。

 

 

 

 次の日、私は少し早起きだった。いや、早起きというか寝てないだけなのだが。そういえばそうだったのだ、私と杏は恋人ではないが記念日と呼べるものはあった。杏と初めて出会った日、杏のファン一号となった日、杏のプロデューサーになった日。今思い返しても辛いことばかりだった。初日からサボってきたからだ。理由も当時は驚愕したものだ。

 

「はぁ、やっと出来た・・・」

 

 あとはこれを持っていくだけなのだが。今は・・・7時か。はぁ、少し休んだら行かなくてはな。もし遅れたら本末転倒だ。まゆちゃんには感謝しなければ。

 

 事務所に行く前に今日こそ杏を連れて行かなければならないので、連絡をしてみる、がやはり出てこない。まぁ怒っているのだろう。仕方がないので目の前の扉の横についているインターホンを押す、中から、はい、という声が聞こえてくる。

 

「拗ねてないで出てこい」

 

 私がそういうと、中からドタバタと音がする。急に勢いよく扉が開いて私の持っている荷物に当たりそうになる。杏は少し息切れしており、はぁはぁ、と言っている。

 

「悪かった。今日は杏と俺が初めて仕事しに行った日だったな」

 

「思い出すの遅いよ、サイテー」

 

 今日は杏と私が初めて仕事をした日、オンラインゲームをして遅刻をして、めちゃくちゃ怒られて帰りに一緒にケーキを食べて帰った。その日にまたいつか一緒にケーキを食べよう、と約束をしていたのだ。

 

「まゆに聞いたんでしょ?まゆからヒント教えたって連絡されたし」

 

「そうだな、あとでまゆちゃんにも何か礼をしなきゃな」

 

 という話をしながら、杏はキッチンの方に消える。私は杏がいったのを見届けると持ってきた箱を取り出す。杏が顔を出したらこれを渡そう。

 

「「ほら、これ」」

 

 杏もキッチンから箱を持ってきた。私たちは数瞬のあと、笑い合って箱をテーブルに置いた。

 

「プロデューサー、これ中身何?」

 

「一緒だよ、杏のと。それよりも部屋綺麗になったな」

 

 杏の部屋は前はゴミ屋敷だった。きらりちゃんとユニットを組んでからはましになっていったが、今日はその中でも一番綺麗かもしれない。というか私も大分変わったほうだ。前は杏の部屋に入ってお茶するだけでも緊張していたが、その後ラジオで度々私がお邪魔していることを杏が喋ってからはファン公認ということになっている。

 

「まぁ、今日くらいはね・・・。まゆがやってくれたんだけどさ」

 

「自分でやれよ・・・」

 

「まぁまぁ!せーので開けようよ!」

 

 私は今日徹夜でこのケーキをつくっていた。あのとき食べたケーキを思い出しながら。あのときも私が作ったケーキと買ってきた飴でこれからのことを話したものだ。

 

 

 

 後日、仲直りをしたことをまゆちゃんに報告しようとしたが、その日は休みだったのでまゆPに話をすることにした。するとそいつは何かをさがしているようだった。そいつは私に気づくと、そうだ、といった顔で話しかけてきた。

 

「なぁ、僕のハンカチしらないか?」

 

「俺がしるわけないだろ」

 

 そういってさっき買ってきた缶コーヒーを飲む。今日は缶コーヒーの気分だ。だが次の言葉で吹き出しそうになってしまった。

 

「おかしいな、一昨日お前が残業してた日だぞ?」

 

「・・・それ本当か?」

 

 確かあのときデスクを弄っていたのはまゆちゃんだったような・・・。よくよく考えたらあのときの会話もおかしかった。もしかしてハンカチ消えたのは・・・

 

「どうかしたんですかぁ・・・?」

 

「ひっ」

 

 後ろからまゆちゃんが声をかけてきた。今日は休みのはずだが、まぁプロデューサーに会いにきたのだろうか。だがちょうどいい、お礼を言っておこう。

 

「すまん、これ仲直りのことのお礼だ」

 

 私がそういって取り出したのは杏と二人で作ったケーキだ。

 

「あら、ありがとうございます。それと・・・」

 

 まゆちゃんはそう言うと、私にしか聞こえない声量で陰がかかった笑顔で優しく言った。

 

「あの日のことは・・・秘密ですよぉ?」

 

 


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