この話はかなりオリジナル要素が含まれます。
それと見る方によっては不快な思いをさせるかもしれません、ご注意ください。
4月、この時期は一部のプロデューサーにとっては重要な時期になる。
出会いの季節。新しく中学校、高校、大学などに入ろうとする新入学生をスカウトをしに行く。新しいことに挑戦しようとしてる娘、それからオーディションなども行われる。4月は人の警戒心が薄まる。そこに付け込む、と言うと聞こえは悪いが、そうやってスカウトをするプロデューサーも少なくはない。
それから新しく入ってくるプロデューサーもいるのだ。彼らは通称新人Pとして、先輩の仕事ぶりを生で見るためにあらゆる雑用を共にこなしながら、プロデューサーとしての下地を作っていくのだ。まぁ要は付き人である。当たった先輩や、新人本人の出来にもよるが、早くて半年でアイドルを任せられた者もいるようだ。もちろん私は一年かかったが。
この慌ただしく、どこか落ち着かない時期を、収穫の時期、と呼ぶ失礼な者もいるようだが、我々のプロダクションでは童話に沿って、『ガラスの靴を履ける人物を探す』と呼んでいる。というか私だけなんだが、なかなか秀逸な表現だと自負している。
が、4月にはもう一つの側面があるのを忘れないでほしい。別れの季節である。
この時期、既に契約しているアイドルと今後一年間の方針や、大まかな企画などを話し合う。未成年のアイドルの場合、父兄を交えての三者面談、もしくは四者面談も珍しいことではない。小~大までの学生がアイドルをやる前提条件として、基本的に学業をおろそかにしないこと、だ。当たり前だ、と思われるかもしれないが人気アイドルには勉学を優先する暇が無い者も多い。それ故に親から反対されてアイドルを辞める者も一定数いる。
それを防ぐために基本的にうちのプロダクションではアイドルに成績表の提示を求めている。成績によってはアイドルの仕事を少なくして、勉強させる。もちろんそれはプロデューサーによって違うが、基本的にはアイドルとなる前よりも成績が下回ったらアウト、となる。
これに悩まされるプロデューサーもいるだろう。だが、それ以上にアイドルを辞める原因となるものがある。
受験。これを控えているアイドルwithプロデューサーはとても悩むことだろう。何しろ将来に関わる一大イベントのひとつだ。手を抜くわけにもいかず、現に私が付き人をしていた先輩プロデューサーは、この件で担当アイドルが一人辞めてしまっていた。高校受験は、もちろんだが大変なのは大学受験である。なにしろ、大学に通いながらのアイドル生活というのはとても大変らしい。そのためにも意欲や関心など、大学と仕事の比率を大事にしなくてはならないのだ。ほかのプロデューサーに聞いた話だが、ゼミやコマの入れ方には本人以上に気を使っているらしい。
さて、何故こんなことを考えているかというと。私の担当アイドル、双葉杏にもついにその時期が来たのだ。
「めんどくさいし、大学行きたくなーい」
「お前もうちょい真剣に考えろよ・・・」
本日も自宅警備と言い、サボろうとしていた杏を引っ張ってきた。今日は仕事だが実は杏に伝えてあった時間は一時間ほど遅らせてあった。こうやって話し合いをする時間を設けるためだ。杏はいつも通りとてもアイドルとは思えない格好で椅子に座って・・・いや寝込んでいた。
「あのな杏、こんなこと言っちゃだめかもしれないけどよ。お前がいつまでアイドルをするのかわからない以上は出来れば大学には行っておいてほしいわけよ。わかる?俺の親切心」
「杏は印税とー、不労所得で生きていくからだいじょぶー。だってニートだもん!」
杏はそう言うと、杏はだらけきった状態からをドヤ顔をくりだしてきた。双葉杏というアイドルはやる気がないのではない。やらないだけなのだ。一緒じゃね?と思うかもしれないが本人にとっては違うことらしい。
「いやいや、真面目な話よ。杏はそれでよくても俺が納得しないんだわ。」
「えー、プロデューサーも頑固だなー」
まぁ、このままでは暖簾に腕押しなのはわかっていた。それにしても、最近気づいたのは杏は飴では釣られなくなってきたことだ。前は飴ひとつでなんとかなったが、今ではほかにも要求してくるようになった。やはり今回も何か手を考えなければ・・・
「そもそも杏が大学行ってプロデューサーに得はあるの?」
「いや、そりゃ・・・」
確かに私に得はないが自分のことなのになぜ私に聞くのだろうか。普通は自分のことなのだから私は関係ないのだが・・・。まさか杏はずっとアイドルを続けるということだろうか、もしくは本気で印税で暮らしていくつもりなのだろうか。後者は勘弁してほしいが。
私が言葉に詰まったのをどう思ったのかしらないが、杏は言葉をつづけた。
「はーい、お話おしまーい。」
そういうと杏は私の飴を一つ取って、着替えるためにどこかへ行った。やはり何か対策せねば。
杏の今日の仕事が終わり、私は事務所に残り杏へのアプローチを考えていた。私は杏の言葉を反芻していた。杏が大学に行って私に得がある?いや、当たり前だ。受験をさせないと親がうるさいし、アイドルを続けさせられない。先ほども言っていたが、未成年のアイドル活動には親の承認が必要なのだ。
「待てよ、杏の親?」
私は知らずのうちに呟いていた。聞こえてしまったのだろう、向かいのデスクにいるちひろさんが声をかけてきたが、一言謝って、手を頭にやり、先ほどの自分の言葉を何度も呟いた。杏の親、そういえば一度も会ったことがないのだ。不思議に思うかもしれないが杏がアイドルになるときも電話越しに数分会話した程度だ。杏の両親に会ったことが今まであっただろうか。今までの必要な書類は全て杏が書いていたのだろうか。気になりだしたとき、私は声を出していた。
「すいませんちひろさん、杏の資料を見せてもらえませんか」
私が急に声をかけたからだろう。ちひろさんは若干引いたような顔をしたが後ろの資料室から杏に関する資料を探しに行ってくれた。ほとんどのアイドルの情報が資料室にあるので探し出すのは大変だろう。私も手伝うとしよう。二人で探しているとちひろさんが棚を探しながら話しかけてきた。
「なんで急に杏ちゃんの資料を探し始めたんですか?もしかして進路関係ですか?」
「ええ、まぁ。杏の両親に会って話してみようと思いまして。」
「杏ちゃんですから、大変そうですね。それにしても担当アイドルの実家の電話番号くらい控えておいてくださいよ・・・」
「すいません、初めて会うもので」
ちひろさんが持っていた資料をポトッと落とす。やばい言ってしまった。親の承認なしでアイドルさせているので訴えられると不味いことになるのだ。厳密には許可を貰ってないわけではないので、その弁明をちひろさんに説明すると少し落ち着いたようだ。しかしまだ怒りが収まらないのか、まくし立ててきた。
「何考えてるんですか!それ本当に危ないですからね!」
「わかってます!でもおかしいと思いませんか、電話だけでその後なにも話がないなんて」
「普通はプロデューサーが会いに行くんですよ!」
「杏とはまだ一年目なので・・・、すいません」
ちひろさんは懐かしむようにへぇ、声を漏らす。私と杏はまだ出会ってから一年しか経っていないのだ。この短いペースで人気アイドルになれたのはひとえに杏の実力のおかげだろう。プロデューサー歴一年半である私の実力でないのは確かなのだ。こう考えると杏には助けられてきた。
「それで、杏ちゃんのご両親に会ってどうするんですか?」
「色々です、何をするかは言えません」
そういえば、どうしようか。今は口からでまかせを言ってしまったが、ご両親と何を話すかなんて考えてもいなかった。これからのことと、後何にしようか。ちひろさんはため息をついている。
「どうせ何も考えていないんでしょう?はい、これが資料になります。無くさないでくださいよ」
流石ちひろさんだ、頼んだことを終わらせてくれていた。そしてクールに去っていった。さて、私も色々準備をしなければ、私は少し暗い資料室で手帳を開き予定を確認した。
「にょわ?杏ちゃんのPちゃん!何かようかにー?」
「お願いがあるんだけど。きらりちゃんときらりちゃんのプロデューサーで杏の面倒をみてほしい」
あれから数日後、私はきらりちゃんに頼みごとをしていた。それというのも私が北海道に行っている間、杏の世話をしていてほしいということだ。杏の両親に連絡を取ってみたら、北海道から動けないというのでこちらから出向くことにしたのだ。まぁ普通なのだが。
「でもひとつ約束してほしいに。杏ちゃんを、悲しませないでね?」
「・・・善処する」
すまんなきらりちゃん、それは守れそうにない。
それからさらに数日後、私は北海道にたどり着いていた。杏には出張があると言って抜け出してきて、あんきらの仕事がここ三日であるのできらりちゃんたちに杏を任せてきたのだ。それにしても少し肌寒いがところだ。この寒さで寒がりの杏が生活していたとは考えられない。メモしておいた住所を探し出し、チャイムを鳴らした。中から幸が薄そうな女性が出てきて対応してくれた。こちらもそれなりの対応をしなければ。
「初めまして、私CGプロで双葉杏の担当プロデューサーをさせて頂いている者です」
「あぁ、あの電話の方ですか。私は双葉杏の母です。どうぞ、中へお入りください」
家の中は少し暖かく、外に比べれば天国のような場所だった。リビングに通され、少しお待ちくださいと言われる。暖かさで気が緩みそうになるのを我慢しているとお茶が湯呑に注がれる。それとなく母親を注視すると、杏とは少し似てないような気がする。父親に似たのだろうか。一息おいて母親が話しかけてくる。
「それで話とはなんのことでしょうか」
「はい、双葉杏の進路の件についてお話に参りました」
「・・・あの子の好きにさせてやってください。お金は大丈夫ですので」
何かおかしいな。自由主義な親は知っているが、これでは放任主義ではないのか。もう少し探りを入れようとすると、ある写真が目に留まった。家族写真だろうか。ただでさえ小さな杏がさらに小さい。しかし目を引かれたのは杏の表情、そして両親の顔だ。杏はぴくりとも笑っていなかった。今は笑顔を見せることが多いはずなのに。そして両親の顔は、杏に面影を残す程度でほとんど似ていなかった。
「すみません、あちら家族写真でしょうか」
「え、ああそうですね。大体4年ほど前の写真ですよ」
私がなるほど、という表情をしていると、母親は首を傾げてハテナマークを頭の上に浮かべて質問をしてきた。
「もしかしてプロデューサーさん。ご存知ないのですか?」
私は息を飲んだ。額から嫌な汗が出てきている気がする。私は、これより先を聞いたらもう戻れない気がした。
「・・・何をでしょうか」
「あの子は私の子供ではないんです」
導入部分の話の蛇足感がすごい(小並感)