怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

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お久しぶりです。

杏の誕生日に間に合った・・・。

さて、突然ですが今回の更新をもって『怠惰な飴』シリーズは一旦休載にします。理由は忙しくなったことと、落単したことが原因です。

それではやっていきましょう。

・・・なまけものフェアリー、当たらなかった。(2万円)


怠惰な飴の誕生日

 誕生日。それは全ての人に一年に一回だけ訪れる・・・、いや唯一一日だけ四年に一度しか訪れないのか・・・。まぁその日が誕生日の人以外は一年に一回だ。その日は皆が一喜一憂する日になる。ある者は自分の欲しいものを手に入れられる喜び、ある者は自分の年齢が一歳増え、お酒を合法的に飲めるようになることへの喜びを、またある者はこれ以上年齢を重ねていくことへの憂鬱を口にする・・・等々、人によって反応は様々であるが、絶対に訪れる運命なので諦めてほしい。

 

 そして今日、9月2日に誕生日を迎える者が一人いる。双葉杏。私の担当しているアイドルは今日誕生日を迎えて、18歳となった。杏の誕生日パーティーは一日違いである諸星きらりちゃんと合同で、というか日を跨いで催された、らしい。

 

 らしい、というのもパーティーが行われた場所が事務所ではなく、女子寮で行われたことに原因がある。我がプロダクションが所有する女子寮。その男子禁制っぷりは住んでいるアイドルが全員女性なのは元より、寮長、警備員に至るまでが全員女性で構成されている。それは私たちプロデューサーであっても関係ない。だが私たちはギリギリ玄関までは許されている。ちなみに女性プロデューサーはどこまでもオッケーらしい。解せぬ。

 

 と、まぁこんな具合だったので私は杏の誕生日パーティーに参加できませんでした。まる。

 

 

 

 夏も終わる。今年の夏は例年にないくらいの雨が続いていた。そのせいだからだろうか、秋の訪れを微塵も感じなかった年になってしまった。去年は秋が始まったと同時に杏の誕生日を祝ったが、今年は杏と一緒に誕生日パーティーをすることが出来なかった。それに私と杏はどこか不器用だ。だからSNSや電話を使って軽々しく言葉にしたくないし、されたくない。少なくとも私はそう感じているので電話での言葉がけはしないことにしていた。

 

私は一人、既に部屋の灯りを消したホテルの一室で思案に耽る。こんなことなら電話でもすればよかった。私が横たわって寝ているベットの横に置いてある電子時計は23時30分を闇の中でも無機質に映し出している。その下には9/2の文字。

 

 私はバっと勢いよく起き上がり、スマホの電源を入れる。部屋の暗さに目が慣れた私はスマホの灯りに目がくらむ。少し期待していたが、着信履歴にも、SNSの履歴にも、どこにも『双葉杏』の文字はない。それはそうか、自分の誕生日にわざわざ仕事のパートナーに連絡するバカはいない。しかも杏は今日、オフの上、アイドル仲間たちとパーティーをしていた。疲れているだろうしなぁ・・・。

 

 そもそもこのようなことになったのも、社長の一存のせいだ。9月は何かと忙しい時期を乗り越え、アイドルも裏方も少し気が緩んでしまう。そこで9月の初めから一週間ほど、どこかへ出張して、そこで色々なことを調べて何かアイドルプロデュースに役立ちそうなことを探してこい、というまるで小学生の研修旅行のようなことをさせられる。今回はそれに私が選ばれてしまったということだ。難しいことではないのだが、その出張先で新たなアイドル候補と出会う可能性があるので、気は抜けない。

 

 しかし、私は杏だけで良いというか、杏で手一杯というか・・・。まぁスカウトが成功しても私が担当するとは限らないのでスカウトをしないというわけにはいかないが。この出張の唯一の利点は移動費だけは会社持ちということだけだろう。

 

 私がうーんうーん、と唸って、結局何もせずにポイとベットに投げ出す。すると突然私のスマホがブーブーと音を出して震える。杏かと思って、私は慌てて画面を見るとそこには千川ちひろの文字、私はがっかりした顔でスマホを耳に当てる。

 

「もしもし、ちひろさん、どうかしましたか?」

 

『あ、お疲れ様です。一応明日からの予定に変更があったので連絡しました。夜遅くに申し訳ありません。』

 

「変更ですか・・・。少し待ってください」

 

 私はバックを漁り、中からメモ帳とペンを取り出してスマホにイヤホンを差してちひろさんに声を掛ける。

 

「お待たせしました。予定変更を教えてください」

 

 私はちひろさんの話を聴きながらメモを取っていった。メモ帳の一ページの下まで書き終わったところでちひろさんの話が終わる。私が電子時計を横目で見ると次の0時まで残り15分となっていた。私は少し焦ったが、もう仕方ないので諦めている。

 

『プロデューサーさん?聞いてますか?』

 

「っ、はい。すいませんボーっとしてました。もう一回お願いします」

 

『はぁ。だから杏ちゃんに誕生日のお祝いを言いました?さっきまで杏ちゃんが事務所にずっといたので、不思議に思ってたんですけど、もしかしたらお祝いしてないのかなぁ、と思ったんですけど』

 

 私は息を飲む。

 

『その反応から察するにまだしてないんですね・・・』

 

「はい・・・」

 

『私はあなたのプロデュースの腕を疑ってはいません。あのサボり魔だった杏ちゃんが嫌々言うとはいっても仕事に向かうようになりましたし、前任の杏ちゃんのプロデューサーはすごい苦労していたそうですし』

 

 杏が仕事に向かうようになったというが、本当にそうだろうか?確かに前よりはだいぶプロデュースが楽になったが言うほどだろうか。まぁ私はアハ体験のように杏の変化を見ているのでわからないのだろうか。

 

『だからこそ私は杏ちゃんとの信頼関係を築けているのだろうと確信しています。しかもあなたが変に頑固なところがあることも知ってますから。でも杏ちゃんとの信頼は信用とイコールではありませんよ。そこだけを忘れないでくださいね』

 

 そういってちひろさんは電話を切る。

 

 わかりました。ならあと10分、電話をしてやろうではないか。

 

 

 

 プルルル、となるスマホを見ているとなぜか気恥ずかしさが沸々と湧いて出てくる。まぁ出なかったら出なかっただし、大丈夫か、と思っていると杏はすぐに出た。私は最初に言う言葉は決めている。というかそれを言ったら切りたいくらいだ。

 

「誕生日おめでとう杏、じゃあな」

 

『えっ、ちょ』

 

 ぷつ、つーつー・・・。うーむ気恥ずかしさのあまり通話を切ってしまった。通話の切れた画面を見ているとすぐに杏から着信が飛んできた。私は出るか迷ったが電子時計の時間を見て出ることにした。

 

「はい、もしもし」

 

『ちょっと!今のは酷すぎるぞ!!』

 

「ははは、悪い悪い」

 

 私は杏に謝る。そしてしばし無言。先に口を開いたのは杏だった。

 

『・・・杏にも出張の話、ちゃんと聞かせてほしかったよ。何も言わずに行くからさ』

 

「そこに関しては悪かったと思ってるよ。俺も言おうと思ったんだけどなぁ」

 

『嘘ばっかりだなぁ。杏ビックリしたんだけど、急にきらりの担当が仕事についてくるからさ』

 

「あー、そういやあいつに頼んだんだったな」

 

 私が出張中仕事できないので、いや仕事はある意味ではしているのか。杏のプロデュースが出来ないのできらりちゃんのプロデューサーに頼んだのだ。しかしここ2日はきらりちゃんと杏の誕生日が続いたので仕事が少ないのだろう。そのことを嘆く姿が目に浮かぶ。

 

「で、誕生日パーティーはどうだった?」

 

『へ?なんの話?』

 

「え、お前の誕生日パーティーだよ。女子寮でやったんだろ?」

 

『プロデューサーが何を言ってるのかわからないんだけど、杏はパーティーなんてしてないよ?いやまぁ確かにきらりの誕生日パーティーはやったけどね?』

 

「そのまま杏のパーティーやったのかと思ってたんだけど、やらなかったのか。なんでだ?」

 

 私が質問すると杏は少し口どもる。なんだろうか、まさか虐められているとかだろうか。でも杏の性格的にそれはなさそうなんだが、うちのアイドルたちはみんな優しいしな・・・。しかし返ってきた言葉は意外なものだった。

 

『・・・だって、ぷ、プロデューサーいないじゃん・・・。』

 

 what?今何か可愛い言葉が聞こえた気がする。もしかして私がいなかったからパーティーをしなかった、と言ったのだろうか?そんな可愛い生物だっけか?私の顔がみるみる赤くなっていく。

 

『あ、あれだよ?ほら、プロデューサーがいないとプレゼントがもらえないみたいな意味だよ!?』

 

「おう、そうだな」

 

『プロデューサー絶対にやにやしてるでしょ!』

 

「いや、してないぞ」

 

 嘘である。めちゃくちゃ嬉しいから口元がにやけるのを止められない。スマホ越しの杏が憤慨する。

 

『くっそー!むかつくな!』

 

「ははは。悪い悪い。ところで杏、今どこにいるんだ?」

 

 私は杏の誕生日に出られないことを知っていた。それに電話で誕生日を祝いたくない。だがそれとプレゼントを用意していないのは別だ。私はちゃんとプレゼントを買っていたし、それを渡す気が満々だった。

 

『え、事務所にさっきまでいたんだけど、今は近くのコンビニだよ』

 

「ほーかほーか、そんなに俺のことを待っていたのか」

 

『違うって!ただちひろさんが私にプレゼントくれるっていうから待ってたんだよ!』

 

「ちひろさんが・・・?」

 

『そう!でもなんでか私をパしらせるし・・・』

 

「そうか、なるほどな」

 

 つまり杏を外に出してから私に連絡をしてきたんだろう。ここでいうプレゼントは私のこととみて間違いないだろう。わざわざ遠回りなことをする人だ。

 

「まぁなんでもいいさ。事務所に戻ったら俺のデスクの引き出しの下から二番目を開けてくれ。その中身をお前にやるよ」

 

『プレゼントあったんだ・・・。最初から言ってよ』

 

「悪いな、じゃあと5分、急げよ?」

 

『はいはい、ありがとね、プロデューサー』

 

 私が通話を切ろうとすると、杏が私を呼び止める。

 

「なんだ」

 

『来年は一緒に祝おうねー。約束だぞ。』

 

 そう言って杏は通話を切る。これは・・・告白かな?というか来年も担当をしてるかわからないし、もしかしたら杏は引退してるかもしれないのに。させないけど。などと色々頭を巡ったがひとまずそれを置いておいて、私は事務所に戻った杏がプレゼントを手に喜んでいる姿を頭に浮かべながら次の日を迎えるのだった。

 

 おそらく杏がプレゼントを見る時間は誕生日に間に合わないのだろう。でもいいのだ。

 

 何故ならその時間はシンデレラの魔法が解ける時間。つまり私のシンデレラがただの女の子に戻る時間だった。

 

 ・・・まぁ、それなら一日前にやれよ、という話なのだが。

 

 

 

 次の日、ちひろさんからプレゼントを手に笑顔の杏の写真が送られてきて私は満足だった。


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