怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

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内容が無いよう(激寒)
どっちかといったら仁奈ちゃん回です。


怠惰な飴とキグルミ

「おはよーごぜーます!」

 

午前10時、事務所のドアが開くと同時に女の子の声が響いた。その女の子は靴を脱ぎ自分の下駄箱へとしまい、慌てた様子だ。服装は普段見るものと違い、モコモコしてそうな着ぐるみは着ていない。

 

市原仁奈、我らがプロダクションのアイドルだ。どうやら今日はひとりでここまで来たようだ。慌てた様子の仁奈ちゃんに我らがちひろさんが声をかける。

 

「おはよう仁奈ちゃん。仁奈ちゃんのプロデューサーさんはまだ来てないよ?」

 

仁奈ちゃんはその言葉を聞いてがっかりした様子だ。

よく見るといつもここに来るときに背負っているリュックと違い、少し大きめだ。何か荷物でも入れているのだろう。

 

「そうでごぜーますか…、じゅーやくしゅっきんでやがりますね。」

 

その言葉に私とちひろさんはクスっと笑みをもらす。本当のことを教えてあげようかと思ったが、少し意地悪で言わないことにした。

 

そんなやりとりをしているとソファから声があがる。

 

「ん…、あー仁奈かー、おはよー。」

 

「杏おねーさん!おはよーごぜーます!」

 

杏が声をかけると仁奈ちゃんは杏の方にテコテコと歩いた。杏は、向かってくる仁奈ちゃんに、隣いーよー、と言い座らせる。ちなみにソファの前にあるテーブルには杏が食べていたであろうお菓子が広がっている。

 

意外に思われるかもしれないが、杏はうちのアイドルの小学生組と仲良しなのだ。面倒くさがりな杏だが小さい子には優しく、約束事も破ったりはしない。片や小学生組も背が小さいこともあるだろうが、お菓子をくれたり、優しくしてくれる杏に懐いている。

 

「ほら、仁奈、あーん。」

 

杏がそのお菓子の袋からチップスを一枚取り出し、仁奈ちゃんの口に運ぶ。仁奈ちゃんは笑顔で食べると、背負っているリュックを降ろして、中をガサゴソしだした。

 

「ねー仁奈、その中身なに?」

 

杏がそう聞くと仁奈ちゃんは、ふふん、といってリュックからあるものを取り出した。

 

「見てくだせー、新作のキグルミでごぜーますよ!」

 

取り出したのは耳が尖り、口な当たる部分は少し出ていて、ギザギザの歯がついたキグルミだ。おそらくオオカミの着ぐるみだろう。

 

「杏おねーさん、着てみやがりますか?」

 

「いやー、流石になー…、そ、そうだ仁奈が着て見せてよ。」

 

流石に着ぐるみを着るのは恥ずかしかったのか、杏が遠慮する。代わりに出された杏の提案に仁奈ちゃんは笑顔で答える。

 

「しかたねーでやがりますねー!杏おねーさんに仁奈の新作を見せてやるですよ!」

 

元気そうで何よりだ。と思い私も仕事に戻ることにした。さっきの杏による、『あーん』はどうにか写真に納められたようだ。後で見せてやろう。

 

仕事をしながらでも後ろでソファで談笑している声が聞こえてくる。

 

 

 

次の日、朝起きると携帯電話に連絡が入っていた。メールのようだ。送り主は仁奈ちゃんのプロデューサーのようだ。

『すまんが、今日は少し用事があっていかなくちゃならなくてな。仁奈を迎えに行ってくれないか?』

 

三船美優。確か仁奈ちゃんのプロデューサーが最初に担当したアイドルだったはずだ。二人も担当するなんてできる人は違うなー。

 

メールを確認し、少し違和感を感じた。確か、仁奈ちゃんも三船さんも同じ女子寮、しかも部屋も同じなはずだ。三船さんが部屋から出て行ったなら気付かないはずがないと思うが…、そう思い手っ取り早く電話することにした。

 

『なんだ、メール見ただろ?迎えに行ってくれ。』

 

「いや、それはいいんですけど。昨日仁奈ちゃんはどこに泊まったんですか?三船さんが部屋にいるなら三船さんに送ってもらえばいいんじゃ…」

 

そこまで言って、そう言えば昨日は事務所の連絡事項が書いてあるホワイトボード見てないな、と思った。

 

『はぁ…ホワイトボード見てないな?美優さんは泊まりがけのロケだったんだよ。そっちが終わったから今日のお昼には帰れるだろうが、そうすると仁奈を送れないだろ?』

 

そう言えばこの人は一昨日から三船さんのロケに付いて行ってるんだった。おそらく渋滞にでも捕まって遅くなるのだろう。

 

「すいません、で仁奈ちゃんはどこに止まってるんですか?」

 

『あ?片桐さんのところだよ。あの人今日オフだからな。頼み込んだんだ。』

 

「わかりました。何度もすいまs

 

……途中で切られた。

 

 

 

午前9時、女子寮の駐車場に車を泊めて片桐さんを待つ。一時間ほど前に連絡したときには起きていたし、おそらく大丈夫だろう。

 

ほどなくして片桐さんが駐車場に来た。声をかけて片桐さんをこちらに呼ぶ。傍らには仁奈ちゃんと何故か杏もいる。乗ってください、と言うと杏と仁奈ちゃんは後ろに乗り込む。お礼を言おうと前を向くと片桐さんが手招きしている。

 

「二人ともちょっと待っててくれ。」

 

車を出て、少し離れたところに来る。何かあったのだろうか。とりあえずお礼を言っておこう。

 

「ありがとうございます。何故か杏も一緒みたいなんですけど。」

 

「あはは、まあ一人も二人も変わんないからへーきよ、へーき。」

 

心の広い人でよかった。それで何かご用ですか、と私が尋ねると、苦笑いして話し始めた。

 

「んー、実は、仁奈ちゃんが何か悩んでるみたいなんだよね。杏ちゃんも気づいてるから心配して付いて来てくれたみたいで…、ほら普段仁奈ちゃんって元気な子だから、さ?余計心配なのよ。で、聞けたら聞いといてくれないかなーってさ。」

 

「仁奈ちゃんに悩み…ですか。わかりました、解決出来るかはわかりませんが任せてください。」

 

頼んだわよ、と言われさらに背中も叩かれて車に戻る。とりあえず後で杏に聞いておこう。

 

 

 

午前9時半、事務所に着き、あいさつめそこそこに、杏はソファで寝転がり持ってきたバッグから飴を取り出して食べていた。仁奈ちゃんは洗面台に向かったようだ。この隙に何があったか杏に聞いておこうと思い、ソファにいる杏に声をかけた。

 

「杏、仁奈ちゃんどうしたか知らないか?」

 

「んー、杏もわかんないんだよね。これから聞きに行こうと思ってさ。」

 

「そうか、俺も一応片桐さんに頼まれたからな、聞いてみよう。」

 

そんなことを話していると仁奈ちゃんが戻ってきた。とりあえず向かい側のソファに私は移り、仁奈ちゃんに話しかけた。

 

「仁奈ちゃん、今日はどうしたの?何かイヤなことでもあった?」

 

私がそう聞くと、仁奈ちゃんは少し俯いたがやがて口を開いた。

 

 

 

「実は、仁奈は、仁奈は妖怪だったでやがります…」

 

……ん?妖怪?私も杏も頭の上にハテナマークが浮かんでいたことだろう。杏の方をそれとなく見てみるがわからないようだ。なのでもう少し聞いてみる。

 

「えー、と。妖怪ってどんな妖怪?」

 

「前にテレビで見たでごぜーます。ニンゲンに化けてニンゲンを食っちまう妖怪でやがります…」

 

私はまったくわからずにハテナマークが浮かんでいたが、どうやら杏はわかったようだ。

 

「あー、プロデューサー。ちょっと仁奈と仮眠室借りていい?すぐ戻るからさ。」

 

「ん、あぁいいぞ?」

 

「りょーかい、ほら仁奈、行こ。」

 

そう言うと杏は仁奈ちゃんを連れて仮眠室に向かった、私やほかの人は何かわからずにハテナマークが浮かんだままだった。

 

 

 

しばらくして、二人は仮眠室から戻ってきた。少し仁奈ちゃんの顔が赤くなっており、杏は少し満足気だ。仁奈ちゃんはこちらに来るとぺこりと頭を下げて言った。

 

「ごめーわくをおかけしやがりました。」

 

「えー、とまあ解決したならよかったよ。」

 

仁奈ちゃんはその言葉を聞くと荷物を置きにロッカールームに走った。それを見送ると納得できない私は杏に聞いた。

 

「で、結局なにがどーなって妖怪になったんだ?」

 

そう聞くと杏は、にっ、と口を広げ自分の歯を指差した。そこは尖っていて、まるで狼のようだった。犬歯だ。

 

「なるほどな、それで仁奈ちゃんは自分を妖怪だって言ってたのか。」

 

「そうそう、ちょうど早苗さんちのテレビで人狼ゲームがやっててさ。そのあと歯磨きしたときに犬歯が目についたんだろうね。」

 

「で、このままだと人狼のゲームみたいに処刑されるかもってことか。」

 

納得した。思っていたよりも可愛らしい悩みで、他の人もほっとしたようで全員作業にもどっていた。杏もほっとしたのかだらけモードに入っていた。

 

「はー、働いたから今日休みにしてもいいでしょー?」

 

「杏は昨日休みだっただろ…、なんで事務所来たんだよ…」

 

私がそう尋ねると杏はうーん、と唸ってから答えた

 

「なんか…居心地いいから?」

 

「…そっか。」

 

私はそれを聞くとカバンを漁り、袋を取り出した。杏が好きなものの一つのミルク味の飴だ。これを杏に放り投げて、もう少しで行くから準備しろ、といってロッカールームに押してやる。

 

デスクに戻ってきた私は携帯電話のメールを開き、朝に来ていたメールを開いて、返信する。内容は、『今度奢ってください。』に昨日撮った写真を添付した。

そしてデスクに向き直ると、杏と仁奈ちゃんの二人の企画について考え始めた。

 

 


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