怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

13 / 26
パッションの中ではゆっきと巴ちゃんが好きです。巴ちゃんはcv付きおめでとう!

暗い話が多いとの話でしたが、しばらく暗い話が続きます。申し訳ございません。

今週は二話投稿しております!是非そちらも読んでみてください!


怠惰な飴と野球バカ

「はい!じゃあ今日は最近色々あって休めなかった自分たちへの慰安も込めて、乾杯!」

 

「「「かんぱーい」」」

 

 このメンバーの最年長である男の音頭に合わせて全員がグラスをぶつけると、キンっ、という甲高い音が響く。一口呑むと、今日まで仕事をしてきた分の解放感が一気に押し寄せてきた。

 本日の飲み会は最年長である姫川Pの自宅で行われていた。私たち四人、ここにいる野郎どもは全員プロデューサーである。同期の森久保P、速水P。そして場所提供者である姫川Pのデスクが近い仲間で構成された本日の飲み会は、私のみが明日オフという状態だった。この人たちは明日に影響がないのだろうか。

 

 さて、飲み始めて10分もたった私たちが飲み会の席で何を話すのかというと。

 

「森久保ちゃんさ、うちの杏と本格的にユニット組ませない?」

 

「いいよなぁ、うちの友紀は一人の方が輝くからさ。ユニットをあんまり組んでないんだよなぁ」

 

「姫川さんはもっと酒のCMに売り込みましょうよ・・・。それともうちの奏とユニットでも組みます?」

 

 ・・・と、こんな感じである。プロデューサーという職業はある種、病気といっても過言ではない。続ければ続けるほどアイデアは生まれ、そして使い潰されていく。そのために日々いかなる時もアイドルプロデュースのことを片隅にいれるようになっているのだ。その中でプロデューサー同士の会話はやはりそちらに持っていく傾向があった。といってもプロデュース会話を誰かに聞かれると不味いので、貸し切った個室で飲む、ということもするのだが、やはり誰かの家を使った方が安く済むのは自明の理だ。

 

 酒の席で楽しみなことは暴露話である。といってもそんなに頻繁に暴露があるわけではないが今日は違ったようだ。酒も進み気分が良くなってきたからであろう。軽くなった口はなにを言うか、本人も制御できないことがある。森久保Pは目ざとい人間なのだ。そういうところによく気づく。

 

「そういえばさっき」

 

 急に話を止めてニヤニヤしだしたぞ、コイツ。

 

「いつもは『姫川』って呼んでるはずなのに『友紀』ってい呼んでましたよね」

 

 わかりやすく強調して話している。こいつは性格が悪いわけではないのだが、仕事をしようとしない森久保ちゃんを辞めさせないために追い詰める手段を突き詰めていったら、揚げ足取りが上手くなってしまっていた。職業病だろうか?

 森久保Pの鋭い指摘に場には緊張感が出来てしまった。言った本人は何食わぬ顔で酒を飲んでいるのだが件の先輩は冷や汗が流れている。そして追い打ちの一言を飛ばしてきた。

 

「まあ、問題にならない程度にしてくださいね」

 

 ・・・この言葉は誰が言ったのだろうか。私だった気もするし違う気もする。

 

 

 

「・・・っつーわけなんだけど、どう思うよ杏」

 

「いや、プロデューサー鬼なの?友紀さんがすごい顔真っ赤にしてるけど」

 

 後日、私は杏に相談をしてみた。時刻は夜の8時、今日の戸締り当番は私なので全員が帰るのを待っていたところ杏と姫川さんが残っていた。本当は話すべきではないのかとも思ったが、こういうときに好奇心が勝ってしまうのは仕方のないことだと思う。それに下種なことだがここで私が問い詰めても私が責められる義理はないのだ。

 姫川さんはテレビでいつも通りキャッツの応援をしていたところに知り合いに自分のこういう類の話をされたのだ。まぁ恥ずかしくて当然だろう。

 

「いや、そりゃわかってるけどよ。流石にプロデューサーとアイドルの恋愛に関しては明らかにしなきゃいけないんだよ。仕事だ仕事」

 

「絶対嘘でしょ・・・」

 

 まぁ、こんなので騙される人がいるとは思えないが、一応嘘は言ってないのだ。ここで明らかにしておかなければあとで他のゲスデューサーどもが聞いてきて広めにかかる恐れがあるからだ。だからここで聞いておいて私が協力者となることにしたのだ。建前だが。

 

「あはは・・・、あの人そんなこと言ってたんだー・・・」

 

 姫川さんは顔と耳を真っ赤に染めていた。苦笑いを浮かべて頬を指で搔いていた。そして気まずそうに佇まいを直すと、座り方が急にぎこちなくなってしまった。いつもは大きな声で笑って、パッションの名に恥じない明るさを持った姫川さんが、まるでおびえた小動物のようになってしまった。これは先輩が堕ちるのも無理はない。

 実は先ほど杏たちに語った内容には続きがあった。あの後少しみんなで問い詰めたら先輩はすぐに姫川さんと恋人になったことや、いつから付き合っているかなどの関係性について白状してしまったのだ。つまり今、姫川さんに行っているのは確認作業だ。それにしても姫川Pさん曰く、姫川さんは酔うと甘えてくるらしい。気になる。

 

「はい、しかし立場上否定して頂けるとありがたいのです」

 

「プロデューサーも鬼畜だねぇ・・・」

 

 杏がボソッと言ったが、姫川さんに気づかれないように背中を小突き、黙らせる。

 

「うーん、ごめん!否定はしないよ!」

 

「・・・へぇ、それは何でですか?一応立場があると思うんですが」

 

「ちょっと!プロデューサー、止めなよ!」

 

「黙れ、今俺は姫川さんと話してるんだ」

 

 杏が私に静止の声を上げたが、一喝すると杏は押し黙った。

 

「うーん、難しいんだけどね、うーんとー、そのー・・・」

 

 姫川さんは先ほどまでの可愛らしいテレが鳴りを潜め、少し顔を赤くしてはいるがそれほど恥ずかしくないようだ。話しながら時折唸っているところを見ると、恐らく言葉がまとまっていないんだろう。

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ、落ち着いてください」

 

「あ、うん。ありがと、えへへ」

 

 可愛いなこの人。

 

「なんていうかさ、ここで嘘をついてもこの場は凌げるからなんとかなると思うんだよ。でもさここで一回でもあの人と『付き合ってない』って言ったらさ、ほら、その・・・」

 

「・・・自分に嘘をつくことになる、ですか?」

 

「そう!それ!」

 

 はぁ、これでは完全に私が悪者になってしまった。仕方ないから負けを認めるとしますか。

 

「申し訳ありません姫川さん。お詫びといってはなんですがこれをどうぞ」

 

 そういうと私はスーツの内ポケットから封筒を取り出して頭を下げながら姫川さんに丁寧に渡す。するとお金を渡されたと勘違いしたのか、手をブンブン振りながら全力で拒否をしてきたので、頭を上げて封筒をあけて、中身を少し見せることにした。

 

「これ・・・キャッツの開幕戦のペアチケット!?いいの!?」

 

「はい、元々お詫びのつもりで用意してました。ついでに言うとその日は姫川さんのプロデューサーもオフですよ」

 

「ホント!?やったー!逆転サヨナラだね!」

 

 そして何回も私にお礼を言った後、姫川さんはキャッツの応援歌を鼻歌交じりに帰っていった。

 

 

 

「プロデューサーも人が悪いね。最初から知ってたならそういえばいいのに」

 

 お気に入りのぬいぐるみを抱きかかえ、私のデスクの開店する椅子に座り、私に背を向けた杏が私に悪態を突いてくる。確かにあの二人が恋人関係だったのを知っていたのを杏に言わずに、猿芝居に付き合わせたのは申し訳ないと思うが、そこまで怒るとは思わなかった。

 

「だから何度も言うけど、あんまし広めたくなかったから仕方ないだろ?」

 

「はいはい」

 

 私はため息をつき、本日最後の窓の戸締りを確認して、持っている戸締りチェック表にしるしをつけると、戸締りの確認作業を終えた。荷物の片づけていた杏に先に一階に降りるように示した。

 

 杏たちには言っていないがさらにあの話には続きがあった。

 恥ずかしくて言ってないが、私たちも担当アイドルとの関係性について聞かれていた。そのとき私はなんと答えたか・・・、まぁこれは私の心の中にしまっておこう。

 

「あいつは・・・よし、いないな」

 

 先ほどまで杏が座っていたデスクを確認する。一応デスクの下も。いないのを確認すると私はデスクの引き出しの上から三番目、鍵付きの引き出しを開けて、とある写真を見る。

 その写真にはLIVE衣装に身を包み、笑顔とはかけ離れた顔で気怠そうにしている女の子を背負って、彼女と対照的に笑顔の男が映っていた。しかしこの写真は私のものではなく、とあるニートアイドルの忘れ物らしい。そのアイドルが、珍しくニコニコしていたところを目撃した野球アイドルが忘れ物を私に届けてくれたのだ。いつ渡そうか悩んでいるうちに戸締り当番になってしまっていた。

 

 後日、この写真を返してあげたところ、急によそよそしくなったのは別のお話。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。