怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

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今回は志希ちゃんの誕生日に間に合わせるために書きました!
今週は今日と明日で二話投稿します!

志希ちゃん誕生日おめでとう!


怠惰な飴とギフテッド

 ギフテッド

 

 先天的に平均よりも顕著に高度な知的能力を持っている人のこと。たとえ普通の人間が先取り学習により多くの知識を得たとしてもギフテッドとして成長することはない。代わりにギフテッドの、ギフテッドたる所以として、興味のないことには才能を発揮しない。ということにある。つまりギフテッドは自分の興味のある事象に対しては素晴らしい才能を発揮する。

 高い論証能力、独創性、好奇心、洞察力、芸術性、理解力、記憶力etc...。これらを総称してなんというかというと、天才。この一言に尽きる。

 もう一度言おう、個人差はあれど興味のあることに対しては絶対的な才能を発揮するのには間違いない。

 

 さて、私の知っている人間の中に、一ノ瀬志希という女性がいる。彼女は赤み掛かった髪に猫のような目、そして豊満なバストを持ち、服装はどこで手に入れたのか白衣を好んで着ている。それ以外を覗けば雰囲気は、どこか飄々としており、掴みどころがなく、そしてやはりどこか猫っぽい。

 しかし、それらすべては彼女についてを話す皮のようなものに過ぎない。

 

 彼女は俗に言うギフテッドである。ここに来る以前は、確かアメリカだかで研究者をしていたらしい。大学を飛び級してまで没頭していたが、とある理由でこちらに戻ってきた。

 そして彼女はアイドルという一面も持っている。ギフテッドも歌を歌い、ダンスを踊り、見ている人に媚びるのだ。いや、うちのプロデュース方針から言えば『個性を見せている』のだろう。

 そして彼女はとても嗅覚が鋭いのだ。それは面白いことを嗅ぎつける、という話ではない。本当の嗅覚、五感のひとつであり、顔に付いているパーツのひとつである鼻を使って感じとるモノだ。とにかく鼻が利くのだ。この前もお昼に何を食べたのかを言い当てられた。

 

 そんな彼女をプロデュースしている人物は一体何者なのか。それは唯の一般人である。特技は特にない。顔が特別いいというわけでもなく、実家が金持ちというわけでもない。しかし一ノ瀬志希曰く、匂いが他の人とは違う。らしい。あの、一ノ瀬志希をもってしても初めて出会う人間らしい。そのことを詳しく聞いたことはない。プロデューサーと担当アイドルの中だけで話した方がいい内容もある。

 

 しかし、あの一ノ瀬を御せる人間はすごいとは思わないだろうか?

 

 私は彼女が苦手だ。別段嫌いというわけではないのだ。話してみればわかるが年相応なところもあるし、何より話す内容は我々凡人が聞いてもわかりやすいように少し噛み砕いて話してくれるし、内容も興味を引くものばかりだ。なら何がだめなのか。

 

 話しているだけでわかる。才能の差を感じてしまうのだ。この人間には絶対に追いつけない。どんなに努力してもたどり着けない次元があるのだということを理解させられる。

 

 ギフテッドにはもう一つ意味がある。『神様のプレゼント』だ。くそくらえだ。

 

 ただ、好意的に思える部分もある。

 

 そんなギフテッドにも誕生日は訪れる。今日は一ノ瀬志希の19歳の誕生日だ。

 

 

 

 pm.7時。朝から数名の手が空いているアイドルやプロデューサーたちが事務所を飾り付けていく。窓や天井からは折り紙を折ってつくられた飾りが縦横無尽に伸びていた。その作業をしている者たちのなかで一際楽しそうに飾り付けをしているのは志希ちゃんとユニットが同じであり、今回の誕生日パーティーの主催者である宮本フレデリカと塩見周子だ。そこに杏が入ってくる。

 

「ただいまー。おー、おつかれー」

 

「「お疲れ様ー」」

 

 杏のやる気のない声に、二人の声が重なって飛んでくる。フレちゃんと周子さんの二人が飾り付けをしている手を止めて、周子さんが杏に向かって手をメガホン代わりに声を飛ばす。

 

「杏ちゃーん!おたくのとこのプロデューサーさんにも手伝えって言ってくれへーん?」

 

 杏が横目でこちらを見てくる。なんだその目は、こっちにも用事があるんだよ。杏は荷物を持ったままこちらに来た。

 

「プロデューサーは血も涙もないね。志希の誕生日なんだから手伝ってあげなよ」

 

「遅刻してきたやつが何言ってんだ。この俺のデスクの上にある資料の山が見えないの?あそこで作業をしているちひろさんの代わりをやらされてるんだよ」

 

 私は指をさして、窓の方で飾り付けを手伝っているちひろさんを杏に示した。どうやらちひろさんはアイドルの誕生日は祝ってあげたくなるらしく、手伝いたいから誰かが作業を肩代わりしなくてはならない。プロデューサー間でじゃんけんをしたところ負けてしまったので仕方なく私がやっている次第だ。

 

「へー、大変だねー」

 

「大変って言ったら前の志希ちゃんが起こしたバイオハザードだろ。『スナオニナール』とかいうドラえもんセンスの薬品をバラまいたせいで隔離されてたじゃないかお前」

 

 一週間ほど前に起きたこの事件は、事務所内で収まったが大変だった。薬品を吸って、素直になったアイドルやプロデューサーたちが暴れていたからだ。私は吸引しなかったので大丈夫だったが。ちなみに志希ちゃんも無事だった。

 

「・・・杏どうした。顔真っ赤だぞ?そんなそのとき恥ずかしいこと言ってたのか?」

 

「うるさい!あっち向いてろ。止めろ、ニヤニヤするな!」

 

 なるほどなるほど、あとで何を言ってたのか誰かに聞くとするか。とそんなことをしているとケーキが届いたようだ。アイドルお手製のティラミスとショートケーキのようだ。ファンに売ったら何円で売れるのだろうか、プレミアがつくレベルだ。さぁ、あとは私がこの作業を終わらせてしまうだけだ。全員の視線が痛い。

 

 

 

 パン、パパン!

 

『志希ちゃん!誕生日おめでとう!』

 

「にゃはは~、みんなありがとぉー」

 

 全員がクラッカーを鳴らして志希ちゃんを迎える。志希ちゃんは今日はテレビの収録だったので少し疲れているかと思いきやそんなことはなかった。というかケーキの灯りだけしかついていない状況なので、部屋は結構暗くなってしまっていて私の前に立っているはずの杏が見えない。

 パッと電気がつくとみんなわらわらと動き出した。今ここにいるアイドルやプロデューサー陣は、俗に言うcuと呼ばれるアイドルがほとんどであとは別属性のアイドルとLippsのメンバーだけだ。それ以外の人たちは今も仕事をしているか何かだろう。

 

「なーに、やってるのー?」

 

「志希ちゃん、聞いてよ!この人手伝ってくれなかったんだよ!フレちゃんぷんぷんだよ」

 

 嗚呼、今絡まれたくない二人に絡まれてしまった。主催者と主役がこっちに来るんじゃないよ。

 

「誕生日おめでとう。うん、俺は仕事を押し付けられたてたんだけど・・・」

 

「志希ちゃんショック!杏ちゃんのプロデューサーひどい!」

 

 二人してはははー、と笑う。こいつらは・・・、本当はpaのアイドルなんじゃないか?だが元気がないよりは全然いい。担当ではないのでわからないが元気がないよりはあった方がいいだろう。

 そういえば聞きたいことがあったのだった。

 

「そういえばさ、前のバイオハザードで杏はなんて言ってたの?」

 

「んー、教えてもいいんだけどね。やっぱりそれじゃ面白くないよねー」

 

 横目でチラっチラっとこちらを見てくる。交換条件か、いいだろう。

 

「交換条件?まぁ条件次第だけど」

 

「杏ちゃんを実験に付き合わせたいんだけど、いい?」

 

「命に別条がなく且つ、アイドルとして影響が出なくて且つ、すぐに戻せる範囲ならおっけー」

 

 そんなことか、全然いいだろう。もちろん偶にやばい薬もあるので限度はあるがこれが守れるならいいだろう。杏は今日は遅刻してレッスンに行っていたからな。お灸を据えなければ。

 

「やったー!太っ腹ー!」

 

 私が言うや否やたたたーと杏のところに走っていき、驚く杏に何か耳打ちする。すると顔を真っ赤にした杏が何かを言ったが、すぐにまた何かを耳打ちされると大人しく志希ちゃんに付いていった。嘘だろ、杏をあんなに素早く従わせるとはすごいな、どうやったんだ。

 

「こらー!フレちゃんを無視するなー!」

 

 耳元で大声を出されてのけ反って耳を抑えながら振り向く、フレちゃんが頬っぺたを膨らませながら何かを言っていた。しかたない、杏が帰ってくるまで会話しておくか。・・・結構みんなが志希ちゃんを探している。

 

 

 

 フレちゃんとも話が終わり、私は一人でデスクの椅子に座っていた。すると猫が一匹足元によりついてきた。事務所に猫だと、誰かが持ちこんだのかな?そう思い、猫を持ち上げてみると猫が暴れだした。実はだが私は猫が好きだ。だから撫でまわしたかったのだが暴れては仕方ない。首元をギュっと摘まむと大人しくなった。

 ふむ、メスか。なんでここにいるのだろうか。

 

「あー、ここにいた!探したよ」

 

「ん?この猫?」

 

「そうそう、その子って・・・ぷぷ」

 

 私が首元を掴んで猫を志希ちゃんの方に向けるとまた猫が暴れだした。仕方ないから抱きかかえるように私の体の方に寄せると大人しくなった。しかし毛並みというか毛の色というか杏っぽい色だな。お腹を撫でると小さく鳴いた。可愛いなこの猫。

 

「で、杏は?というか教えてくれよ。何を言っていたか」

 

「うーんとねぇ・・・」  

 

 志希ちゃんはチラと猫を見ると、一撫でしてからニコニコしながら言った。猫がまた暴れ始める。

 

「『プロデューサーと一緒に居たーい!』だったかな?」

 

「へー、そうならそうと言えば言ってくれたのに」

 

 私がそう言うと志希ちゃんは少し苦笑いをした。少し悲しそうな顔だった。

 

「頭が良くなるとね、甘えられなくなるものなんだよ?」

 

「・・・それって」

 

 私が言い終わる前に志希ちゃんはどこかに行ってしまった。

 もしかしてギフテッドは思ったより悲しい悲しいことなのかもしれない。誰も助けてくれない、常に頂点にいる感覚は私には図り切れない。

 

「あ、言い忘れてた。あと五分ね!」

 

 急に志希ちゃんが戻ってきて言った。すると猫が先ほどまでとは違い激しく暴れて床に降りると、どこかに走り去ってしまった。なんだったんだ・・・。しかし、志希ちゃんに対する認識を改めなくてならないかもしれない。天才には天才の悩みがあるものなのだろう。

 

 

 

 後日、杏がよそよそしくなったのはここだけの話だ。


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