ケルトに憧れた彼の話   作:里芋(夏)

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ネタ性ほぼ無し。主人公オンリー。戦闘描写が9割っていう三重苦。

文学少女が詰まってヒイコラしてます(春休みの宿題終わってない新規高校生)







ケルトに憧れた彼と迷宮

 

 

 

ーーソードアート・オンライン

 

 

 

このゲームの攻略には、各層に一つある迷宮区十九階(強力なモンスターの巣)を制覇し、その次の階層への扉を守るフロアボス(二十階のヌシ)を倒さねばならない。

 

しかし、始まりの日(茅場の デスゲーム宣言)より一ヶ月経った今なお、第一層(最下層の)フロアボス攻略は為されていない。

 

 

 

…凡そ1万人が参加して、ひと月…七百二十時間をかけた上で、最前線(頂点)最下層(底辺)

 

普通のMMOゲームではまずあり得ない進行度だ。

 

 

 

ごく単純に計算すれば、もし今日フロアボスを倒せたとしても、完全攻略までには百ヶ月(八年ちょっと)かかることとなる。

 

 

 

 

「…あーあ、β(ベータ)テストん時は、クソニート達(ゲーム廃人)がガンガン死にながらダメージ検証とかしてくれたんだけどなぁ…」

 

あん時は楽だった…とぼやくケルト。

 

 

 

彼が今立っているのは、迷宮区十九階。

 

 

平均安全マージンがフィールドマップの二〜三は上を行く塔。

その最上階一歩手前の階層で三体の異形に囲まれたケルトは、しかし笑みを浮かべていた。

 

「グルォォオオオ!!」

 

「グルァァアア!!」

 

「グルゥゥウウウウ!!」

 

 

 

「…ま、楽なゲームなんかつまんねぇし、これはこれでスリルがあっていいんだけどな」

 

浮遊城アインクラッド第一層、迷宮区頻出にして最初の壁。

亜人型モンスター、“ルインコボルト・トルーパー”。

 

彼らは威嚇の雄叫びを上げつつ、各自が持つ武器を振り回していた。

 

 

ケルトは、その肩に担いだ槍をブンッと一薙(ひとなぎ)すると、その穂先をコボルトの群れに向け、構えをとった。

 

 

 

 

「ーー来いよ異形(バケモノ)、纏めて俺の(経験値)にしてやる」

 

 

 

 

…果たして異形はその言葉を理解できたのかできなかったのか?

 

確たる事実は、彼らがその敵意を明確にケルトに向けたということだ。

 

 

 

まず、槍持ちのコボルト…通称槍コボルトが、そのリーチを以って最初に仕掛け(突きを放っ)た。

 

 

 

「…あくまで俺の持論だけど」

 

その言葉と同時、ケルトが右に小さく飛んだ(・・・・・・・・)

 

 

そして突きが放たれ終えた(槍コボルトの右腕が伸びきった)瞬間、その右肩口から腰までをバッサリ切るように上段から槍を振り下ろす。

 

 

ギギャアと醜い悲鳴を上げた槍コボルト。

 

必然、腰の左側に構えることとなった槍で返す一撃、腰の捻りを加えた鋭い突きが、ガラ空きになった槍コボルトの土手っ腹をブチ抜く。

 

 

 

「突きは、決めワザ以外で使っちゃだめだろ」

 

同時、槍コボルトがポリゴン片となり弾けた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、」

 

ケルトは槍をコボルトの腹から引っこ抜き、振り向きざまに一閃。

 

 

 

 

「気付かねぇとでも思ったかよ!」

 

飛び上がって斧を振り下ろそうとしていたコボルト…斧コボルトの一撃を、横薙ぎに振った槍で弾き返した。

 

 

 

下手にジャンプしてしまったことで衝撃を逃がせず、着地後にノックバックでフラつく斧コボルトに向けて放たれた無慈悲な一穿(いっせん)

 

鼻の頭から後頭部にかけて見事に貫かれたMOBは、断末魔を上げることすらできずに絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー刹那、槍を腰だめで構えたケルト。

 

その穂先に青い輝きが宿ると同時、前に出した左脚を軸にしての強引な左回転(回れ左)を敢行。

 

 

「…ッゼアァァァァァ!」

 

 

そのままの勢いで、ソードスキル【ソニックチャージ】を先ほどまで真後ろだった(・・・)場所へ打ち込む。

 

 

空を切るかと思われたその一撃は、ケルトの背後からソードスキル【スラント】を放とうと駆けていた三匹目…剣コボルトの喉元を正確に抉り、振り抜いた勢いのままその体を壁まで吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

このモンスター(ルインコボルト・トルーパー)が【新人達の登竜門】、【最初の壁】と揶揄される所以(ゆえん)、ソードスキルを物ともせず三体を一斉撃破したケルト。

 

 

 

その顔に大した疲労は見られないものの、他のSAOプレイヤーが見たら今の光景は確実に噴飯モノだ。

 

一対三という死をも恐れぬパワーレベリングに、それを成し遂げる圧倒的な技量(プレイヤースキル)

 

 

 

 

ーー攻略組。

 

 

…じきにそう呼ばれる彼らに並び立つ、もしくはその一歩先を行き得る実力。

 

VR初心者であるケルトはそれを、文字通り迷宮区に篭る(・・)ことで手に入れた。

 

替えの武器や最低限の食料・ポーションを買い込み、誰よりも早く安全圏のある十六層に登り詰め、湧いてくるMOBをただひたすら狩り続けた。

 

 

 

 

食事も、休息も、寝泊まりまで此処(迷宮区)で済ます。

 

 

言葉にすれば一行にも満たない(ビギナー)のその行動は、デスゲーム(HP零=死)と化したこのゲームにおいて、自殺とほぼ同じ意味を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、午後四時にトールバーナ郊外の円形広場に集合…で合ってたっけ?」

 

 

 

空腹ゲージを満たそうとメニューバーを開き、視界の端にある数字列を二度見して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在時刻15:40とか嘘だろ絶許ォ!!」

 

 

ケルトは激怒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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