ケルトに憧れた彼の話   作:里芋(夏)

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タグの通り、ウチのストレアは人間です。




ケルトに憧れた彼の邂逅

ーーSwordArt・Online(ソードアート・オンライン)

通称SAOはその日、プログラミング界の鬼才。21世紀の頭脳とも呼ばれた開発者、茅場(かやば)彰彦(あきひこ)の手によって、ログアウト不可、HP全損=現実世界(リアル)での死…という、文字通りのデスゲームへと変化を遂げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーVRアクションの何が良いって、物理エンジンが働いてることと、攻撃の型が決まってねーことだよなぁ」

 

 

誰に話すでもなくそう呟く。

 

 

…強いて言うなら目の前の青豚(フレイジーボア)か。

なんてことを考えつつ攻撃態勢に入る。

 

 

ケツをこちらに向けて草を食む姿に申し訳なく思いつつ、槍で後ろ足を斬り払う。

 

ブギィ!?と醜悪な声が漏れ、豚がこちらに向き直る。そしてその双眸がこちらを捉え…た瞬間にその頭を頂点からぶち抜き、地面を槍で穿つ。

 

地面に縫い付けられつつも数秒間もがいた豚は、そのHPゲージが黄色から赤色ときて空になった瞬間、断末魔とガラス細工の割るような音を残し無数のポリゴン片へと還った。

 

 

 

 

 

「…うっし、レベルアップ」

 

サービス開始から1時間。豚を殺すこと数十匹、やっとの事で上がったレベルに喜びの声が漏れた。

 

いや、こんだけやってレベル4って世知辛すぎね?

 

…ってか空腹ゲージの減り具合がやばいんだけど、これって運動量から消費するであろうカロリーから算出してんのかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まてよ?っつーことは、ガチムチのおっさんキャラはお得?」

 

…だからと言って、1つしか作れないアバターでそんなキャラメイクはしたくないのが、男子高校生の常なんだよなぁ。

 

 

 

「…ま、いいや。ステ振りステ振り」

 

 

相も変わらず敏捷6割と筋力4割の赤い彗星じみた(当たらなければどうということはない)ステータスビルド。

 

 

 

「…お、新ソードスキル解放、ラッキー」

 

新しいオモチャ(ソードスキル)をゲットすると、つい使いたくなるんだよなぁ…と零し、哀れな豚ちゃん(実験台)を木々の間から視界に収める。

 

平原で辺りを見回している豚。

こっち(森の中)に来られたらソードスキル当て辛いよなぁ…

 

 

 

豚が突然横を向き(・・・・・・・・)、後ろ足で土を蹴る。何処かへ走りだす予備動作だ。

 

隠れていた木の裏から飛び出し、全速力で平原を駆け抜ける。腰辺りに構えた槍がほんのり青い光を纏う。

 

豚の走る速度に追いつくのは非常に面倒くさい。が、平原に多い豚はその多くがプレイヤーに目を付けられ(ロックされ)ており、ポップするのを待とうにも10000人のプレイヤーの半数…5000人はこの平原にいるであろうことを考えると、それも非効率だ。

 

 

よって、

 

 

 

「ーー今、この場で殺す」

 

左手を前に、照準器代わりにした瞬間に気付いた。

豚が走ろうとしている方向で剣を構える少女(・・・・・・・)に。

 

目を見開いてこちらを映す瞳。

 

 

 

…ああ、この豚もロックされてたのかという思いと同時、どうしたものかと考える。

 

 

獲物の横取りは友人関係にあってもNG。それがオンラインゲームの常識だ。

 

空撃ちするか?いや、ファンブル(失敗)してもSPは消費されるし、外してから技後硬直の姿を5000人の前で晒すのも恥ずかしいし、何より一発試してみてーし、うん。仕方ないな!

 

「すまん!【ソニック・チャージ】!」

 

 

風を切り、槍を突き出す。

 

 

青い残光が糸を引き、右から左へ体を串刺しにされた豚が急に停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして、豚が弾けた瞬間。

 

止まっていた時が流れるように槍の周りに渦巻いていた風が周囲に吹き荒れた(・・・・・・・・)

 

 

 

それは、【彼女】の方向にも例外ではなく、

 

 

 

 

 

 

乙女の純白(・・・・・)は、白日の下にさらされた。

 

 

 

 

 

 

 

「…きゃっ!」

 

慌ててスカートで隠す彼女。

沈黙の数秒の後、俺にジトっとした視線を向けてくる。

 

 

「…お、おう、すま…ごめんなさい」

 

こういうのは、サッと謝ってサッと流してもらうに限る。

パンツっつったってどうせアバターのだし、ネカマじゃなかったとしてもあんま気にすることはないだろう、多分。

 

ってか、このソードスキル味方が周りいると使い辛いな。

1対多数で囲まれた時用…って感じか。

 

 

 

獲得した経験値やコルを表示ウィンドウをいつも通りサッと消そうとするも、ソレに気付いてしまった。

フレイジーボアを倒すことで稀にドロップするアイテム【獣眼(じゅうがん)】。

これは、はじまりの街で受けられるクエストに必要なもので…

 

 

 

 

 

未だにジトッ…とこちらを見る視線。

 

 

 

「…あ、すまん。横取りしちまって。ドロップアイテムは返す」

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァ。もうちょっとなんかないの〜?女の子のパンツ見たことに対しての感想とかさー」

 

「いや、あんま注視してたわけじゃねーし。

…ってか、それって聞きたいってことか?痴女?」

 

 

「ち、痴女じゃないし!ただちょっと、乙女のプライドっていうか…」

 

 

少女の呟きをバックにストレージを開き、【獣眼】を選択。送り先は…っと。

 

 

「…あ、アイテム送ってくれたんだ。ありがとー…ってさっきのと同じじゃーん。別にこんなもの態々渡さなくてもいいのに〜」

 

ありがとねー…と告げて去っていく彼女。

 

 

「…おいおい、ちょっと待てよ。お前、『はじまりの街』でしっかり探索したか?」

 

 

 

 

 

 

「………え、探索?あそこで何を探索しろっていうの(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

「………ハァ。

お前、ゲーム自体あんまやったことないだろ?」

 

どうしてわかるの?とでも言いたげな表情。

 

 

…このゲーム、感情の波から表情を一々組み立てているらしい。恥ずかしければすぐ赤くなるし。悲しければすぐ泣く。

 

交渉には向かないが、人を信頼することはできる。いいシステムだ。

 

 

「そうだけど…何?他のゲームをやったことがある人は『はじまりの街』を探索するの?」

 

 

 

 

「…まぁ、多分それが一般的だな。

SAOはクエストを受ける数に制限がない。

だから、町中のクエストCPUに声かけてから行くんだよ。レベル上げだけじゃなく、討伐数クエストとか受けてから行った方が時間的にも効率的にも得だろ?

受注済みクエスト画面から、どのクエストがどこの誰が依頼したものかっつーのまでわかる仕様になっているから、報告行くにも一々迷うことねーし」

 

言葉の意味を反芻しているのか、目を瞑って何かを考えている。

 

「……ふぅん。あ!ねぇ、今言ってたクエストCPUって何?」

 

「名前の通り、クエストを依頼してくるCPUのこと。

確か、CPUは全員に個別で名前が付いていたはずだけど、流石にクエストCPU全員の名前までは思い出せねーや。」

 

「…へぇ、そうなんだ。」

 

「そうなんだよ。

…っと、時間とって悪かった。じゃ、俺はこれで」

 

「待って」

 

グエッ…とカエルが潰れたような声が出た。

 

 

唐突に後ろから首元引っ張るのやめなさい、グッとくる(物理)から。

 

「ゲホっ…何だ?まだなんかあるのか?」

 

 

 

 

「………君、幼気(いたいけ)な少女のパンツ見といて何もせずに帰るつもり?なんかもうちょっとこう…あるんじゃないの?」

 

 

 

「…はぁ?幼気な少女(・・・・・)だぁ?どうせ中身おっさんのネカマプレイだろしつけーな。そもそも少女って年齢にも見えねーし、ノーカンだノーカン。」

 

 

「もー!ひどいこと言うなぁ。私、正真正銘女なんだけど。」

 

「あーはいはい。すいませんでしたー。僕が悪かったですー。…っつーか、仮に中身女だったとしても、たかがアバターじゃねーか。気にすんなよ」

 

 

 

 

 

 

「…………自分と外見が全く同じだったら、それって自分と一緒じゃない。」

 

 

「…自分と外見が同じ、だぁ?

アンタまさか、あの【スキャン】使ったのか?」

 

スキャンとは、自分のリアルの顔をスキャンしキャラクターに映す機能(現実を見せる非道)だ。

 

 

 

「うん。アバターを作るのも面倒くさかったし、キャラクターメイクのヘルプウィンドウでよくわからない人はどうぞ…って書いてあったから………。あ、でもプレイヤーネームだけは凝ったかな。」

 

 

自然にそのシステムを使うのはすごいとしか言いようがないな。

 

 

 

………改めて彼女の顔を眺めてみる。

真っ白な柔肌。目鼻立ちは整っていて、人形のような黄金比を保っている。

肩あたりまでかかるウェーブした銀髪や、ルビーのような瞳。こいつは所謂、アルビノ(色素欠乏症)ってやつなんだろう。

 

 

 

 

 

「……ま、いいや。で何が目的だ?」

 

「案内してよ」

 

 

 

「…誰を?」

 

「私を」

 

 

 

 

 

「……何処へ?」

 

「街」

 

「あちらになりますお嬢様」

 

「…殴るよ?」

 

「すいませんでした」

 

 

 

 

 

………両手剣持ちの筋力値でパンチとか笑えないんだが。

 

 

 

「……まぁつまり、色々レクチャーしろってことだろ?いいぜ、別に。最速攻略とかしたいわけでもないし」

 

「あれ〜?意外だなぁ。もっとごねるかと思ったけど。」

 

 

「……参考までに聞くが、その場合どうするつもりだったんだ?」

 

「ハラスメントコードからの黒鉄宮送りだね。」

 

「なんでクエストCPUも知らないくせにんなこと知ってんだよお前」

 

ここにあるやつよね?…って嬉しそうに虚空を指差すのマジでやめてもらえませんかねぇ。

 

 

 

「…ふふふ、冗談よ冗談。……2割くらいは」

 

「割と容赦ねーなお前。」

 

見事なまでに自由気まま。

麗しいお転婆ガールにこっちは振り回されっぱなしだ。

 

 

「むー…」

 

「ん、何だ?」

 

 

 

 

 

「………ストレア」

 

 

「…あ?」

 

 

 

「“お前”、じゃなくて私の名前、ストレア。…君は?」

 

 

 

 

 

 

 

「…ケルト。見ての通り槍使いだ。ま、短い間だろうけどよろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

…因みにこの後、ステータスバーの上に名前が書いてあることを教えたら拗ねられた。

っつーか、恥かく相手が一人で済んだんだから感謝してほしいくらいだ。

 

 

 

 

 

 





迷惑おかけしました。あらすじの通り、改訂版です

…いや、あの性格でヒロイン書こうとしたらめっちゃ難儀したから諦めた…ってだけの話なんですけどね。


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