ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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やっとひむてん11買えた記念


戦闘お姉さんSexy-Revenge・・・! その3

 

 

 

 

「――――ごと?」

 

 家の戸を開けた途端。どこからか、何かが崩れ落ちるような音が聞こえる。

 不審に思って足を進めれば、キッチンで、皿を洗ってる途中で、倒れている桜の姿があった。

 

「――――桜!?」

「ちょ、いきなりどうしたの桜!」 

 

 抱き起し、意識を確かめるように声をかける。桜の顔は赤く、熱を帯びている。体も同様に熱い。

 意識がないのか苦しげに吐息をあげる桜。呼吸は苦しげに乱れていて、どうしようもないくらいにうなされているように見える。

 

 すかさず遠坂が手を額にやる。

 

「すごい熱じゃない。何、季節外れのインフルエンザか何か?」

「――――あれ、先輩? 姉さん? どうしたんですか?」

「どうしたんですか、じゃないだろ! 熱があるならあるって言えって!」

「え? けど、熱くない、ですよ? わたし」

 

 心底不思議そうな桜の様子は、どこか夢うつつのようで。

 

「遠坂――――」

「部屋、開けてくるわ。士郎は運んで」

「了解。じゃ、いくぞ?」

「わっ! せ、せせせせ、せんぱい、わたし、せんぱいにだっこされちゃってますか!!?」

 

 抱きかかえたまま廊下に出ると、桜は声をひっくり返しながら首っ玉に抱き付いてくる。

 ……不覚にもこう、胸に、その、とんでもなく弾力があるナニカが当たってくるが、今はそれを無視するのみ。

 

 離れのベッドに寝かせて熱を測ると、三十七度。思ったよりは低かったが、それでもここまでダウンするくらいには、ひょっとしたら疲れているのか。

 

「桜、魔力、足りてるか?」

「ふぇ? だい、じょうぶ、です」

 

 耳元で遠坂に聞こえない程度に確認しても、桜はそう言って微笑むばかり。

 やがてタオルと常備薬を持ってきた遠坂が、意外と丁寧に桜に飲ませる。

 

「大丈夫? ただでさえ状況は良くないんだから、早く元気になりなさい」

「すみません、姉さん……」

「まぁ崩れちゃったものは仕方ないにしても、あんまりクヨクヨするんじゃないわよ?

 ……って、あれ、イリヤ知らない?」

「あれ? さっきまで、いたと、おもったんですけど……」

 

 ろれつが回ってない桜は、そのままベッドで、目を閉じて寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

  ※

 

 

 

 

 

 慌てていたせいか。直前まで脳裏をよぎっていた、不穏な言葉は也をひそめてしまっていた。

 だが、だからこそ桜を寝かせた後、テレビのニュースを見ていると、脳裏を過るこの感覚は何に由来するものなのか。

  

「あんまり思いつめてるんじゃないわよ。士郎」

 

「――――遠坂」

「ほら。お茶いれたから飲みなさい。キャスターが一人になりたいっていうから暇になったの」

 

 湯呑を置く遠坂だが、その言い分は理由になってるようで、理由になってない。

 

「せっかくだ、飲むよ。ありがとな、遠坂」

「……ふん。別に、私が仕切りなおしたかっただけだし。アンタはおまけよ、おまけ」

 

 妙に熱いそれを一口飲んで、一息つく。遠坂は何を切り出すこともなく沈黙を貫く。

 それが、意外と居心地が悪くない。ほう、と心から一息つける。セイバーといたときのしっくりさとも、桜といるときの安心感とも違うそれは、なんだろうか。

 ……癒し系?

 

「く」

「……、な、なによいきなりアーチャーみたいにニヤけて。言いたいことがあるならあるならはっきり言いなさい?」

「いや。なに他意はないさ。

 ……ただ、こうして何もしないで遠坂といるっていうのも、珍しいような気がしてさ」

 

 考えるまでもなく、俺と遠坂との接点は殺伐としていたし、それに端を発して仲間だっていう認識はできたものの、まかりまちがっても普通の友達というような感じではなかったなとも思った。別にこう、クリスマスパーティーを一緒にするような仲でもなかったし。

 思えば遠くに来たものだというか。妙な感慨深さを覚える。

 

「そ、そりゃ、確かに言われてみればそうだけど……。っていうか、士郎、年寄くさい」

「なんでさ? いや、でもまぁ冗談抜きでいろいろあったからな。セイバーのことも、桜のことも。聖杯戦争のことも、親父のことも」

「……衛宮くんにいたっては、通算で何回くらい死んでるのかしら? ふつうなら」

「言うなって、それは」

 

 実際助けられて感謝はしてるのだ。この出来の良い師匠ちゃんには。

 まぁそれでも、こう終始防戦に回らざるを得ないような関係であるにもかかわらず、その割に一緒にいてくつろげるっていうのが、ギャップがあるというか、アンバランスでおかしいのだ。

 

「俺が遠坂と話し合うようになったのもマスターになってからだし、遠坂だって俺がマスターにならなかったら、こうして知り合うこともなかったろ?

 そう考えれば、マスターになってよかったことが一つ増えたともいえる」

「なんで?」

「まぁ、前から話してみたいとかは思ってたからな」

 

 当然のごとく、それまで一成と一緒にいて声をかけたりしても、軽く流されて終わっていたというのが正直なところだったし。当人、どれだけ一方的な憧れを抱いていても、相手の眼中に入っていないのはそれはそれで寂しいのだ。

 だっていうのに、俺の言葉にふと、ばつが悪そうな顔になる遠坂。

 

「……少し違うわ、それ。貴方はどうだか知らないけど、わたし、士郎のことはもっと前から知ってたんだから」

「――――え?」

 

 なんで? という俺の疑問に、ふと、遠坂は照れくさそうな表情になる。なんでさ、その反応。別に俺たち、話したことがあったわけでもないだろうし。

 

「あくまで私が一方的にってことよ。ちょっとしたトラウマ……、うううん、憧れ、みたいなものね」

「と、トラウマってなんでさ!? いくらなんでも振れ幅が大きすぎるだろ。っていうか憧れ……?」

「そうビクビクしなくてもいいわよ。……いいわ。ちょうどいい機会だから直接グチってあげる。

 四年くらい前だったかしら。ちょうど冬頃かしらね。貴方、どうしてだか知らないけど学校に残って、日が落ちるまでずっと走高跳びやってたことあったでしょ」

 

 ――――――。

 

「すまん、覚えてない」

「まぁ、アンタにとってはそんな大したことじゃなかったのかもしれないけど。わたし、それ見てたのよ。

 ちょうど昇降口から出たところで、こう、ね? 馬鹿みたいに、跳べっこないそれを繰り返してたやつを、なんでかぼーっと、それこそ私も馬鹿みたいに」

「いや、待て。おかしいだろそれ。大体遠坂、昔は学区が違うだろ。一成とおんなじ学校だったんだし」

「た、単なる偶然でしょ? わたしは生徒会の用事でそっちの学校にいってたときだったし」

 

 ともかく、話としては単にそれだけで。

 遠坂が俺の名前を知るのはそれよりもずっと後で。顔だって、すぐに忘れてしまったらしい。

 

「……で? それの何がトラウマになったというんだね?」

「士郎、わざとアーチャーに寄せてるでしょアンタ……。

 んー、ほら。一年前、桜が弓道部に入ったあたりでさ。暇さえあれば様子見にいってたんだけど、たまたま、部員でもないヤツがいてさ。そいつを見て思い出したのよ。

 で、それにショックを受けたわけ。三年経った後だっていうのに、一目でわかるくらいに、私はソイツに衝撃を受けていたんだって」 

「いまいち、要領を得ないんだが」

「簡単に言うとね。羨ましかったのよ。士郎が」

 

 これには、遠坂は肩をすくめながらつづけた。

 

「私の目からみて、アンタは絶対成功できないって、わかってたんだと思う。だっていうのに、それでも挑み続けてた。それに何か意味があるって思ってるみたいに。

 ――――正直言ってさ、わたしには出来ないって思わされた。

 私はこう、できないってわかったことはすっぱり手を引くってスタンスだから。綺礼は機械的だって言ってたけど、まぁ、そのあたり薄情なわけよ。

 けど、時々思うこともあるの。そんなこと考えずに、ただひたすらに物事に打ち込めることができたら、それはどんなに純粋なことなんだろうって。

 実際、士郎はそんなこと続けてたわけだしね? その時は知らなかったけど」

 

 む、むぅ……? 反応が取りづらい。

 

「まぁ、そういうのに迷ってた頃に、いきなり正反対の人間を見せられたわけじゃない? だから、トラウマ。

 なんだか目を離すことができないくらいに――――その背中を追うくらいには、そういうのがあってうれしかったって。私はできないけど、そういうのがあるんだって」

 

 ぐぐっと伸びをすると、遠坂は席を立つ。

 

「どこに行くんだ?」

「ちょっと家にね。秘密兵器……って訳でもないんだけど、もしかしたら必要になるかもしれないし。使わないには越したことはないんだけど、最悪のケースの場合も想定して準備しておこうかしらって」

 

 何故か毒づくような表情を浮かべる遠坂に、俺は終始、疑問符を浮かべるばかりだった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 ――――声が聞こえる。

 

 (イレモノ)は正しく機能せず、頭もふわふわしつつあるのに、声だけはそれでもはっきりと聞こえてきた。

 

 どうしてそんな会話が聞こえてしまうのか。淡々と語られる姉の言葉は、さもそれが、自分だけの思い出であるかのようなそれ。

 そこに自分がいたことさえ気づけなかったくせに、美しい思い出に浸っている――――。

 

 そんな姉に、怒りと、殺意がよぎる。

 それはいつか、わたしが、せんぱいに明かす、とっておきだったはずなのに――――なんで、そんな、過去の、ありふれた、思い出にするのか。

 わたしだけのとくべつを、そんな、かんたんに。

 

「ち、がうっ」

 

 自分の胸の内に沸く感情を否定する。否定すれど、それでも、言葉は正しく私の心を矯正してくれない。

 イリヤスフィールが言い放った言葉を思い出す。すでにこの身は置換されつつあるのだと。

 

 なればこそ、自らの思考が侵されている自覚はある。――――それでも、ふるまいこそ抑えることはできていたはずだというのに、ほんの少しバランスが崩れただけで、もう、この有様なのだから。

 

 だから夢に埋没しようとする。

 でも――――。

  

 

 ――――赤い海の中に視界はありました。

 

 見知った街並はすべてその海に沈んでいて、私は呼吸をしていません。呼吸もできないんじゃなくて、呼吸を必要としていないようで。だから、「ああ、これは夢なんだなぁ」って、そんなことを思ったんです。

 むしろ息を吸えば吸うほど、何かが足りないって、そういう風に。

 苦しいと。何かが足りないと。

 

 だから、それはどこにいてもかわりませんでした。街を見下ろすような高さのところで、下を見下ろして。この苦しさをどうにかしたくて。でもどうにもならないことに、なぜか、腹が立ちました。

 おかしいですよね。夢の中なのに、こんなにいらいらが収まらないなんて。

 いつもなら日記帳に書き留めたりするんですが、でも、不思議とそんな気分にもなりません。

 夢の中だからか、私は少し、普段より暴力的なのかもしれません。

 こんなの、先輩知られたら嫌われちゃいますよね。

 

 だから、気が付いたときに。手がそれこそ、なめらかになるくらいに、べっとりと。色はわかりませんでした。でも。

 その色が、自分の足元に横たわる人たちから流れ出ていることだけはわかりました。

 

 よく見れば、私の手は五本の指のそれではありませんでした。それでさえありませんでした。

 帯が集まったような。それでいて、もっと本質的には繊維でさえないような――――。

 

 マダ、タリナイ――――モット――――。

 

 苦しい。

 足りない。

 この世界に耐えられない。

 

 

『――――いまのうちに死んでおけよ娘。馴染んでしまえば死ぬこともできなくなるぞ?』

 

 

 だから、私は、その赤を全身に浴びて――――――。

 

 

 

「そんなの、嫌、です……ッ!」

 

 

 

 私の意思に反して。でも、私の意思に『即して』、手は、その色を浴び続けることを止めなくて。

 

 

「なんで……、だって、せんぱいだけで、せんぱいだけで私、こんなに、幸せなのに――――」

 

 

 

 

 

『――――殺すわよ。自分も、周囲(まわり)も、何一つ残さず』

 

 

 

 

 

 なのに。ああ、どうして――――。

 どうしてこんなに、気分が『高揚してるのか』。

 

 

 

 

「ライ、ダー ……」

 

「――――サクラ」

 

 自分の言葉に応じて現れた彼女。

 

「イリヤさんに、感謝、ですね……、だって、そうじゃないと、ライダー、気づかれちゃうもの」

 

 ライダーが現れた折。イリヤスフィールはこの場にある種の結界を張った。そのせいか、この場は幼いキャスターにさえ感知されることもなく、ライダーの出現を許容している。

 彼女は、こちらを見下ろすばかり。何も言わず、ただ、守るかのごとく。

 

 だから言わないといけない。まだ善悪の判断が残っているうちに、言わなければならないことだけを残さないと。

 

 そのために、イリヤスフィールが「時間を稼いでくれたのだから」。

 

「もう、わたし、そろそろ限界みたい。だって、何をしていなくても、『あっちの夢も私』なんだから、私は、先輩たちと一緒にいちゃいけないよね」

 

 ライダーは何も言わない。そんな彼女に微笑み、手を向ける。

 

「今の貴女に令呪はありません。サクラ。正しく、私は貴女と契約をしているわけではありません」

「うん。だから、これは、お願い。

 ライダー ――――」

 

 

 

「――――たとえ私を殺すことになっても、先輩のこと、最後まで守って、あげて」

 

 

 

 その言葉をライダーがどこまで履行してくれるかはわからないまでも。

 ただそれだけを希望として、間桐桜は一度、その思考を手放した。

 

 

 

 

 

 




凛ちゃん「やっぱり出すべきか、出さないべきか・・・。宝石剣よりは現実的だと思うんだけど、もはやそれどころじゃないしね、あれは。
 あー、ムカッ腹立ってきた!」
魔紅玉『――――(ほほぅ? ついにこの私の出番が来ちゃうとかいうことですかねぇ? って、あ、ちょっと凛さん、箱ごとぶん投げないでくださいよちょっとー!)』
 
 

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