ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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若干時間が前後します


戦闘お姉さんSexy-Revenge・・・! その1

 

 

 

 

 

『――――っていうわけで、昨日の夜の駅前の昏倒事件のせいで、お姉ちゃん朝から仕事なのよね~。

 朝ご飯、みんなにゴメンしといて』

「了解」

『あ、あと昨日の事件が、学校で前に起こったことみたいだって突っ込みがどっかから入ったから、なんか学校調査するみたいよ? というわけで今日は学校、休校だから。部活動も禁止禁止。しばらく続くかもしれないから、覚悟しといてね』

「あー、わかった。わざわざ校門まで行かないで良いっていうのは、助かる」

 

 連絡網が死語と化した今の時代、情報弱者の高校生がそんな事実を知るには、担任からの直接連絡か、学校まで行って校門に「休校」の張り紙が出てるのを確認するかしないといけなかった。

 

 早朝。藤ねえから珍しく、時間帯を考えない電話が来た。

 内容が内容なだけに、セイバーが居たときの聖杯戦争時にもこんなことがあったなぁと苦笑いが浮かぶ。浮かぶが、どう考えても不謹慎だと気を改めた。

 

「さて、それにしても早すぎだな……。まだ桜も起きてないぞ?」

 

 二度寝しようか、と壁の時計を見ると、しかし、時刻は既に六時を回っている。そこまで遅い時間ではないし、普段なら桜がキッチンに立っていておかしくない時間帯だ。だというのに、居間もどこもかしこも電気が切れている。

 

「どういうことだ……?」

 

「――――サクラたちなら、まだ寝てるわ。昨日、色々話してたみたいだし」

 

 かけられた声に振り返れば、眠そうに目をこするイリヤの姿。

 昨晩、深夜に「しばらくはセラの好きになんてなってあげないんだから!」と堂々と胸をはり、妙にハイテンションに俺達のもとに現れたイリヤは、そのままなし崩し的に家に泊まって行った。

 

「リンの部屋の準備をした後、そのまま私も巻き込んで、軽く女子会みたいになってたわ。

 まさか『あんな』キャスターが居るなんて思ってもみなかったけど」

「あ、あはは……」

 

 それはそうだろう、と驚きの心境を察する。

 

「私は途中で脱落したけど、キャスターいわく明け方近くまでサクラとリンは話しこんでたみたいだし、目覚まし時計を切っておいたわ。

 流石にそれだと遅刻すると思ったから、シロウと一緒に朝食でも作ろうかなーって思って来たんだけど……」

「そういうことなら、了解。

 ……しかし、なんで明け方まで話してたんだろう、二人とも」

 

 これが聖杯戦争開け直後、桜が家に来た直後とかならまだわからないでもないのだが。このタイミングでそんなに話しこむことがあったかというと、それはそれで謎だった。

 

「難しいことじゃないわ。シロウ。

 リンにとって今が『必要なタイミング』になってしまったって、たぶんそれだけだから」

「?」

「姉妹の会話だってことで、そっとしておきましょう。

 それよりシロウ、何作るの?」

「ん? あぁ……。そうだな、イリヤは何が食べたい?」

「たまご!」

「卵か。んー、じゃあカニ玉かな? カニカマでカニタマ」

「なにそれ、おっかしー!」

 

 ころころと、少女らしく笑うイリヤ。

 平和だ。裏側で現在進行中の「何か」を一瞬忘れられるくらいには、平和な気持ちになれる。

 

「シロウにも見せてあげる。卵割るのは得意なんだから!」

「だからって、あんまり張り切りすぎると砕くぞ? 殻」

「大丈夫、これくらいならセラも文句を言わないんだから」

「とはいうけど、最終的な時間を合わせるからお米が先な」

 

 ええー、と不満そうなイリヤだが、しかしここは折れて貰う。こと衛宮家のキッチンは、俺と桜のダブルシェフ独壇場なのだ。

 

「いいか? こう、ネコみたいな手で……、嫌な顔しないで、ほら。それでこう、優しく磨いていくんだ。大切なのはお米に対する愛情。真心を込めれば、きっと食材も応えてくれる」

「ごめんなさい、ちょっと、私には理解するのが難しい世界ね。食べてくれるヒトに対してっていうのならわかるけど……。

 ……ねぇ、シロウ?」

「なんだ?」

 

 そしてお米の研ぎ方を後ろからおしえていると、イリヤは腕の中から見上げるように、いたずらっぽく笑った。

 

 

 

「――――――シロウは結局、誰が好きなの?」

「――――――ッ!?」

 

 

 

 声にならない声が、喉から漏れた。

 

「な、なんでさいきなり」

「だって、いいでしょ? お姉ちゃんに話してごらんなさいよ~」

「そんなこと言ったって、米研ぎは止めないからな?」

「ちぇっ」

 

 どこまで本気なのかわからないまでも、仕方ないとばかりに顔を背けて俺のなすがままになってるイリヤ。

 そして炊飯器に掛けた時点で、再び話題を呼び起こした。

 

「まぁ確かに、一つ屋根の下に女の子が三人いるって状況なんだし、それに優劣をつけるっていうのは、中々にスリリングなことだと思うけれど……」

「いや、優劣はないからな?」

「でも嫌いってことはないにしても、みんな一斉に相手できるほど、『今の』シロウは器用じゃないでしょ? だったら、やっぱり順番はあると思うのよ。そことのころ、タイガじゃないけど私も気になるかな~」

「みんな一緒って、何の話だよ……」

 

 っていうか、今のってのは何なんだ、今のって。将来的には何か変わってしまうとでもいうのだろうか、まさか。

 からかっているのか、本気なのか、どちらにしても俺の対応できるキャパシティを朝一晩から超えていた。

 

「リン? それともサクラ? まさかタイガってことはないでしょうし……」

 

 そして、選択肢の一発目から藤ねぇがハブられていた。

 

「誰が好き、ねぇ……」

 

 その言葉に、嫌でも脳裏に過ぎる彼女。黒く染め上げられてしまった、黄金の輝き。

 一度送り出したのだから、もう、そこに未練があってはいけない。俺とセイバーとは、そういう風にお互い折り合いをつけようともがいたはずだ。

 だけど、それを除いてということはとうてい考えられない。ある意味であの時、あの瞬間までに俺達のすべてがあった。その事実だけは、変えようがないんだから。

 

 ただ――――――。

 

 その言葉をふと考えた時に、不意に、覚えのない顔が脳裏を過ぎった。

 ウェーブがかった黒髪をした美女のイメージ。顔もあやふやだっていうのに、何故かヒトの話を聞くのが好きな相手だったという記憶が、かすれたように。

 

「どうしたの? シロウ」

 

 なんでもない、と言うほかにない。これはきっと、あのアーチャーの記憶だ。ほとんどがアイツの記憶が残らなかったにもかかわらず、それでも頭の片隅に引っかかるのだから、生前よっぽど気にしていたか、あるいは世話をかけられた相手なのだろう。

 

「んー、動揺してるとは思うんだけど、ちゃんと料理は止めないところがすごいわ、シロウ」

「へ? いや、これくらいは別に問題ないぞ。……いきなり槍を持って居間を破壊するような何かがいなければ」

 

 どんなバーサーカーよそれ、というイリヤだったが、事実はランサーとかいう不届き者だったりする。

 ただ、どうにもこの程度でイリヤは話題を逸らすことを許してはくれないらしい。少しだけ嘆息し、言葉を選ぼう。

 

「…………正直、考える余裕がない」

 

 なんとかひねり出せたのが、こんな情けない一言なのだから我ながら嗤えて来る。

 

「シロウ、その顔は止めなさい。『引っ張られてる』わよ」

「おっと失礼。

 ………………でも本心だよ。今の状況って、どれくらい聞いたんだ?」

「一通りはリンとキャスターから聞いたわ。って、シロウ? まさかとは思うけど、それを理由にして駄目だって言わないわよね」

 

 目を細めるイリヤに、それもない訳じゃない、と続ける。

 

「ただ……。怖いんだよ。少なくとも、身の回りの誰かに被害が及ぶっていうのが。今回の相手は相手だから、そういう感覚は薄いんだけど。『俺』が中心に居て、俺を理由に誰かの悪意がむけられたとき。俺の周りが傷つくのが、怖くて仕方ないんだ」

 

 だからこそ、先行きは不安定で、定まって居ない。

 遠坂から、時計塔に一緒にいかないか、と誘われても居るが。そこに果たして俺が居ていいのかどうか。

 いっそのこと――――そう、最小効率を狙うのなら。俺が独りになればいいのだ。周りに誰もいなければ、誰も被害を受けることはないんだから――――。

 

「だったら、シロウの知らないところでサクラとか、学校の友達とかが大変なことになった時。シロウは助けてあげられるの?」

 

 ――――――――。

 

「それに、尚のことダメ。どんなカタチであれ、シロウはリンと一緒にいなくちゃいけないの。だって、任せられるのがリンだけなんだもの」

「任せるって、何を?」

「シロウがもし、彼を――――英霊『エミヤ』を超えようとするのならば、どうしたって超えなければならない壁があるの。それは、判り易く言えば『完成すること』。

 常に洗練され、研磨され続けるカタチにあるシロウにとって、きっとそれは最も辛いコトの一つになるわ。だって、それはもはや投影というプロセスを、その概念を超えた領域。シロウはシロウだけのカタチを、シロウだけで、本当の意味で成さなければいけないってことなんだから」

「俺だけの、形……?」

 

 何か、こう。そういわれて、何かが。

 それが何なのかと言う事はできないのだけど、それでも自分の中の何かが、すごくしっくりくる感覚があった。

 

「そのために、遠坂がいるっていうことか?」

「それは、近い様で遠いわ。リンがいれば、きっとシロウは『ああなることはない』。そういう意味で、サクラじゃなくてリンなの。シロウがその道を進む上では、今、シロウが考えられるそれに従ってはだめ。

 一度はアーチャーが通った道だってことを忘れないで」

「……ありがとう、イリヤ」

 

 これくらい大したことじゃないわ、と力を抜いて微笑み、イリヤは卵を割り始めた。

 

「あーあ。でもやっぱり、私とキリツグは親子みたい」

 

 ボウルに卵を開ける様は、確かに言ってた通りにはこなれている感じがする。ただ、それと同時に言われた言葉は、よくわからない。そんなの当たり前じゃないか。

 

「そういうことじゃないの。

 それこそ十一年前、キリツグが私を連れて逃げることが出来なかったように。シロウがこんなカタチになってしまう前に、私はシロウのお姉ちゃんになれなかったんだから」

「イリヤ……」

「シロウが悪いわけじゃないし、キリツグが悪かったわけでもない。

 だけど、私も、そう長く時間が残されてるって訳じゃないから。こんなところまで親子そろってってことよね」

 

 それでも。そんな悲しげなことを言いながらも、イリヤは微笑む。無邪気に、爛漫に。

 

「敗者は勝者に従うもの、って理屈はおかしいかもしれないけれど。シロウのセイバーが私のバーサーカーを倒した以上、私は、私の望みを押し付けるつもりはない。

 だけれど、でも、やっぱり、男の子には好きな女の子のために戦って欲しかったかな」

 

 イリヤが何を指し示しているのか、俺にはわからない。だけど、間違いなく一つだけわかったことがある。

 イリヤはきっと、それこそとっくの昔に、何かを諦めたのだ。

 

 すっと、俺は、気が付けばそうするのが自然だっていうように、イリヤを後ろから抱き占めていた。

 

「シロウ?」

「――――俺はイリヤも好きだし、遠坂とか、桜だって、皆大好きだ。だから、関係ないんだ。イリヤが聖杯でも、セイバーがサーヴァントでも。それこそ、桜や遠坂が魔術師だって、それは大した問題じゃない。そんなのは当たり前で、だから、好きな人達のために戦うって言うのは、俺にとっては当たり前だ」

「シロウ…………」

 

 ヒトはいつか死ぬ。起こってしまったことは、もう変えられない。

 だから、イリヤのその思い詰めたような声が悲しくて――――――どうしても、これは俺がやらなくちゃいけないことだと思った。

 

 切嗣の代わり、という意味でも。俺個人としても。

 

 

「………………じゃあ、私も頑張らないとね」

 

 そしてイリヤは少しだけ悲しげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 シロウとリンが出計らったのを見て、私は、サクラと一緒にお茶を呑んだ。

 味はほとんど、よくわからないけど、でも、シロウがいれたほうが美味しいのは、きっと心の問題なのだろう。

 

「イリヤさん、どうしました? 緑茶って苦手でした?」

「大丈夫よ、サクラ。問題はそこじゃないし」

「え?」

「――――――――よく誤魔化せてるわね。私ですら、二月近くは騙されたわ」

 

 よくわからない、という風に頭を傾げていても、私の言葉の指し示す意図は理解できたみたい。

 ええ。そうでしょう。だってそれは、きっと私達にしかわからないことなんだから。

 

「な、何を、言ってるんですか?」

「とぼけてるんじゃないのなら、今の自分の状態がわかってないってことかしら。

 ……いいわ。だったら教えてあげる。貴女は、自分が何なのかはとっくに判ってるでしょ?」

 

 私が、魂の入れものであるように。

 目の前の、サクラもまた。「誰かに意図的に作られた」、異なる形を持つ、もう一つの杯。

 

「私から抜けたものを、すべて回収しようなんて、剛胆なことを考えたものよね、マキリも。それって、一度は失敗するって前提に練った計画だったってことなんでしょうから。

 その感じだと、仕込みはコトミネって感じかしら」

「イリヤさん?」

「サクラ。今の貴女は『満ちてる』はずだわ。なのにそれが貴女の中に滞留していないってことは、間桐桜というカタチを保つ、それを引き起こすだけの奇跡が、どこかにあったってこと。

 だけど、勘違いしてはいけないわ。貴女を蝕む『それ』を抑えた奇跡は、貴女を守るものでは決してない。第三次聖杯戦争の後、この国の悪魔(ヽヽ)すら退けただろうその奇跡は、置換する方向にカタチが固定されている。

 わかるかしら。――――貴女は自分であるようでいて、徐々に、徐々に『あっちと』一つになってるってことよ」

 

 まだ、どれくらい自分が残ってる? と。私の問いかけに、サクラは愕然としてた。

 

「そんな……、でも、私、今だって全然――――」

「無理をしていたのは、ずっと、知ってたわ。でもシロウとリンに軋轢は生じさせたくないから、黙ってた。リンなら、貴女の状況が『聖杯戦争直後から』そうだって気付いたら、すぐ結論に至るかもしれなかったから。

 ……シロウが倒れるほどでなかったっていうのも大きいけれど……、流石に昨日の夜のあれは、やりすぎよ。いい加減、限界が近いってこと。

 それをしなかったら、どうなってるか判ってるわよね?」

「……知りません。どうなるんですか? 私は」

 

 

「――――殺すわよ。自分も、周囲も、何一つ残さず」

 

 

 ねぇ――――、ライダー。

 

 私の呼びかけに。

 本来なら「反転している」か英雄王同様「取り込まれているはず」のライダーは。

 

 

 

「――――――しかし、サクラがサクラであるならば、その程度、些事でしかありません」

 

 

 

 

 かつてセイバーと戦い、アーチャーに殺されたときと、何一つ変わらぬ姿形のままで、サクラの後ろに現れた。

 

 

 

 

 




第三次聖杯戦争後の小悪魔「ノブノブ~!」
バビロンから使命を帯びて「ニャ!? 新手のイロモノかニャ! しかしイロモノ歴ではこっちの方がはるかにパイセンだニャ、この三下ァ!」
第三次聖杯戦争後の小悪魔「ノッブゥ~!!」

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