ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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セクシー戦闘お姉さん「攻め時です、桜」


サンド☆Witch★ガンド! その3

 

 

 

 

 

「で、デートって、俺と遠坂が!?」

「そこまで驚くこと? 大体、今でも学校で二人きりで昼食とることだってあるじゃない。魔術関係の話をするときは人払いもするわけだし」

「いや、だけど――」

 

 これは、そういう問題じゃない。何か言い返してやりたいところなんだが、あんまりにも堂々とされすぎていて言葉が出てこない。

 いや、そもそも普段二人きりになるっていったって、聖杯戦争の時の延長上のような感覚が続いているので、そんなに意識しないで済んでいるというのはあるのだけれど。自主的というか、主体的に遊びに行こうなんて誘われるとかは、完全に想定していなかったというのもあってか、思考が沸騰している。

 

 元々、遠坂には憧れていた部分があるので、気恥ずかしさを覚えない訳はない。

 

「大体、どこに何しにいくってんだ?」 

「隣街までよ。買い出しって言っておけば、まぁ、藤村先生からのツッコミもかわせるんじゃないかなってー」

「いや穴だらけだろ、いくら何でも……。というか、どうしてまずデートなんて」

「そういう気分だから。別に構わないでしょ?」

 

 

 

「そんなのダメーーーー!!!!」

 

 

 

 ――――ッ!? だから、耳がっ!

 藤ねえのような叫びを上げる桜に、両耳を押さえる俺。普段ならそれを気遣う立場は桜のはずなのだけれど、どうしてか余裕がないのか、俺の様子など完全にスルーの様子。

 

「ダメです、ダメですったら!

 姉さんとデートなんて、そんなの、絶対ダメーーーー!!!!」

 

 桜は何故か、猛烈な勢いで遠坂に詰めよる。

 と、それに対して遠坂は微笑んで。

 

「ああ、じゃあ桜も来る?」

 

 あまりに軽い様子でそう返すものだから、俺も桜も呆然としてしまった。

 

「イリヤまで居ると流石に大所帯だから難しいけれど、三人くらいならいいんじゃないかしら。

 それに桜がいれば、藤村先生への言い訳も少し楽だしね」

「え、えっと……? 遠坂先輩、なんで……?」

「あら、桜は士郎とデートするのはいやなの?」

「――――!? い、いえ、そういうことを言ってるんじゃありません!」

「ならいいんじゃない?

 士郎も、桜とデートしたいでしょ?」

 

 その聞き方は、遥か遠き妖精の国に膨大な誤解を与えてしまう表現なので、どうにかしてもらいたい。

 いや、まぁ、遠坂と出かけるというのとは別なベクトルで意識してしまうこともあるが……。

 

「じゃ、明日の朝早くに来るから。ちゃんと準備しておいてね」

 

 爆弾を落とすだけ落として、そのままひらりと手を振る遠坂。扉を抜けた後「どうしたの桜ちゃん? すっごい大声だったけど」と藤ねえが現れるまで、俺達は何も言えなかった。

 

「……すまない桜。ちょっと、説得してくる」

「え? 先輩!?」

「藤ねえはそれとなく頼む!」

「あ、ちょっと士郎! 何よその扱いは――――」

 

 桜に一度断りを入れて、走る。

 追いついた先の遠坂は、まるでこちらが来るのを判っていたように、電柱に背を預けていた。

 

「あら、まだ何か用事?」

「待ち伏せしていたヤツの台詞じゃないだろ、それ」

「でしょうね。だって、狙ってやったことだし。ここまでくれば、桜には聞こえないでしょうしね」

 

 くすくすと笑いながら、でも、遠坂はすぐに目を細めて、真面目な表情になった。

 

「……何だ、デートって、こうやって俺を釣り出すための口実か?」

「正確にはちょっと違うかしら。デートに行くつもりがあるのは本当だし。

 ただ、主目的が違うのよ。士郎と遊びにいくのも目的ではあるけど、桜と遊びに行くのも目的だったから」

「えぇ……っと、つまり、はじめから三人で出かけるつもりだったと?」

「正解!」

 

 少しだけ楽しげに微笑む遠坂。だったら、はじめからそういえばいいだろうに……。

 

「だって、そうしたら士郎と二人っきりで話が出来ないじゃない」

「あー、つまり、わざとああいう言い方をしたのは事実と。でもデートには出かけるのは確定事項と……。

 なんでさ、一体何がしたいんだよお前」

「んー、こういう言い方は変かもしれないけど、桜の様子を見たくてね」

「?」

「正確には――――『あの後』の桜を見たいのよ」

 

 遠坂が言ったそれが、何を指し示しているのかはなんとなく察した。

 

「最初はあんまり意識してなかったんだけれど、桜と話してると、たまーに様子が変っていうか。ぼうっとしてるっていうか、熱っぽいときがあるっていうか。

 すぐに元通りにはなるんだけど、やっぱり一度バランスが崩れたっていうのが大きいじゃない? いくら綺礼が施術したとはいえ、完全に排除はしきれていない。だったら、何か不調が起きていてもおかしくないと思うのよ」

「…………」

「何か心当たりでもあるの? 士郎」

「いや。

 でも、だったらやっぱり、ちゃんと本人に言うべきだぞ。それ。あれじゃ桜とまたこじれるだろ」

「仕方ないじゃない。私は遠坂で、桜は間桐なんだし。

 いくら姉妹だって言ったって……、そこのしきたりはあるんだから。私から積極的に、桜をまとめてっていうのは言えないのよ」

 

 つまり……、桜が俺の付属品みたいな扱いである、という流れになって、はじめて遠坂的に誘うことができるということか。

 しかし、なんでそんな回りくどい……。

 

「仕方ないじゃない! 私も桜も立場は後継者なんだから。その時点で家族とか、そういう縁は切れてるのよ。

 だから学校で桜と最初に話しかけるのだって、かなり苦労したんだから」

「……そこの事情はよく判らないが、まぁ、わかったってことにする。

 考えれば、臓硯の虫が桜を監視してるんだったな。そういう理由でも、遠坂が警戒するのは当たり前か」

 

 言うなれば、遠坂は桜の様子を、外に連れ出して観察しようとしているのだ。間桐臓硯の側からすれば、あまり気分の良い話ではないだろう。それを、遊びに連れ出すという名目で、しかもある程度桜から自発的に行動させることで、カモフラージュすることが出来る。

 相手も一応は保護者というか、PTAとかではきちんと仕事はしているのだから、子供同士が遊ぶという風な建前がある以上は、能動的に止めはしないだろう(実際、桜の居候を認めたのは臓硯だったのだから)。

 

「……そこまでは、考えてなかったけれど」

 

 と思ったら、そういう肝心なところでいつも抜けているクセが発動していたらしかった。いや、それが悪い方向に働いていないから、今回はいいんじゃないだろうか。

 

「じゃ、せいぜい楽しみにしてなさい」

 

 そう得意げに胸を張る遠坂は、いい姉なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「――――投影開始(トレースオン)

 

 イメージするのは、常に最強の自分――――。

 両手に持つは、黒と白の夫婦剣。根本的な骨子の理解が甘いと知ってから、武器そのものについて調べるようになった。するとどうだろう、一つだけ確実にわかったことがある。黒く壊れたあの俺は、きっと作り手に対する敬意なんて微塵も抱けなかったのだろう。

 

 だってたった2月といえど、あれから大部分のアイツの記憶が抜け落ちた俺でさえ、時折、こんな効率的でないことをやって何になるという思考が過ぎる。大量の剣を見て、中身がスカスカだろうと弾丸(バレット)を増やせと。

 だが、そういう問題じゃないという認識がどこかにある。――――俺はあいつとは別な道を選ぶと決めたのだから。だったら、まずは今見えているものを、見えているなりに極めるところから始めるべきだろう。

 

 ……まぁ、遠坂たちにバレたらきっと相当なペナルティなんだろうけど。

 いや、それは別にしても、腕に巻いたこの聖骸布、思っていた以上に効果がある。解析の段階でも、アーチャーに流し込まれる以前に近い感覚で行えたのだ。投影は若干痛みが走る程度に抑えられている。この調子なら、そのうち痛みもなくなってくれるのではないだろうか。

 

「――――先輩」

 

 深夜。土蔵で鍛錬している最中だっていうのに。桜は朝のように、俺にそう声をかける。

 

 慌てて剣を隠して見上げると、桜はゆらゆらとこちらに近寄ってきた。

 様子はおかしい。私服、といっても藤ねえのお古を着まわしているらしいのだけれど。この様子は……嗚呼、またあれか。

 

「先輩、また、私――――」

 

 高熱にうなされている様に、足取りは不安定。転び掛けるのを、剣を手放して抱き止める。心なし、こういう突発的なことに慣れたしまった変化が、なんとも複雑だった。

 桜の具合が悪い理由を、俺は知っている。

   

 あれは、聖杯戦争が終わって一週間も経たなかったころ――――シンジに桜を預かってくれと打診された直後のこと。

 

 イリヤも藤ねえも寝静まった折、桜は俺の部屋に来て、同じように倒れた。

 

 普段の桜らしくないほど、艶やに見えるその様子。本人がどれほど拒否をしたのだとしても、桜は本能的に、それを拒否することが出来ない。

 

 だから、当たり前のように、俺は指先を少し切る。 

 流れる血を差し出すと――――桜は口にふくみ、舌でなめる。

 

 わずかに呑むだけで、桜の身体が落ち着き、熱のようなそれじゃない、人間的な温かみを帯びてくる。

 

 初めての時は驚かされたけれども。流石にかれこれ二月もこうだと、勝手みたいなものがわかってくる。

 

 最初、桜は拒否していた。泣きそうになりながら言った。

 血筋の違う遠坂桜を、間桐の魔術師として仕立て上げるためには、あの老人は桜の身体を改造した。結果として、桜は恒常的に、体内の虫に魔力を――――生命力を食われている。

 

 それにより桜は間桐の魔術回路じみたそれを体内に成す事に成功しているのだけれど。成功させられているのだけれども。結果として、魔力が足りずにこう不安定になる。

 

 魔術師の身体――特に体液は、よく魔力が溶けている。

 

 イリヤを血は飲めないと。呑んではいけないと。あんなか細いイリヤから血をもらおうということは、性格的に出来なかったらしく。最終的に俺の方に来るようになっていた。

 

 桜の身体には、未だに爆弾がある。ひとたび起動すれば、遠坂が義務として桜を殺しにかかるくらいには、大きな爆弾が。

 

 

 

「すみません、先輩……」

 

 いいって、と笑い掛けても、桜の表情は浮かない。

 

「前は、押さえられていたんですけど、でも……」

「やっぱり、一度暴走したのが原因か?」

「そっちはもう、大丈夫なんですけど……、いえ、根源的には一緒なんですけど……。

 こんなのだと、姉さんに嫌われてしまいますよね」

「なんでさ?」

「……魔術は基本的に、用途を定めないものでしょ? 何をもって何を成すか、というところまでは限定されていない。

 けど間桐の魔術は違います。これは、最初から”他人から奪う”ことに限定されてるんです。他人の痛みしか糧にせず、喜びを還元する教えがない」

「……桜、それは――――」

 

 二の句が告げなかった。

 嗚呼、そういえば言っていたか。魔術師から生命力さえもらえれば、手段は本来なんでも良いのだと。俺の血液だってその手段の一つなんだから、他者から奪うという思想が根底にある以上、その流れも必然なのか。

 ただ、その話を妙に遠くから、冷静に眺めている自分がいる。

 

 俺の胸元にのの字を書いて、桜は寂しげに微笑む。

 

「あ、でも、そんな顔しないでください。教えは厳しかったし、決して愉快なものではなかったけれど、先輩が思ってるほど辛いものではなかったですから。

 それに……、辛さで言ったら、先輩には適いません」

「俺?」

「今でこそ、まっとうな修練になっているけれど……、以前の先輩がどんな修練をしていたか、見ちゃったこと、あるんです」

「それは、また……。あー、その、見た感想とか、どうかな。

 いやその、親父以外で初めてあの鍛錬を見てもらったっていう感じだし、ちょっと気になるっていうか」

 

 桜は満面の笑みを浮かべた。……苦笑いだった。

 

「えーっと……」

「……何、それは、赤ということでいらっしゃいますでしょうか?」

「あはは、それなら、姉さんのイメージカラー並といえるでしょうねー」

 

 真紅。真っ赤か。まいったぞ、姉貴に似ていないようで充分姉妹じゃないか、桜や。

 

「けれど、わたし、一度しか見てないんです。怖くて怖くて、もう見てられなかった」

「怖くて?」

「何度も何度も止めなくっちゃって思ってました。

 先輩の鍛錬は……、自分で自分の喉に剣を刺しているような。そう言えるくらい、危険なものでした。

 魔術は体に覚えさせるもの。……決して、毎回、そのためだけに回路を発現させるものじゃありません」

「……そりゃ、そうだな。遠坂からスイッチを入れるって教わるまで、そういう考えはなかったな……」

 

 なんとなく、おぼろげだけれど理解はできる。切嗣が何故そんな無茶苦茶なことを俺に教え込んだのか。

 きっと俺は、あれから生き延びて居なければ、その痛みで投げ出したはずだ。投げ出さずに続けたのだとしても、聖杯戦争が起こらなければきっと、ずっとそれだけを続けていて。

 

 そうすれば、どうあがいても魔術師らしい魔術師にはなれない。

 

 俺が魔術師になることに反対していた親父らしいといえば親父らしい。

 

 自分を殺すようなそれを毎晩、誰のためでもなく行い続けた。頑なに、ずっと一人きりで。

 善悪どちらだろうと、一度心に誓ったことは最後まで守り通す。

 

「だから、私や姉さんなんかより、先輩は強いんです。それは魔術回路でも魔術特性でもなくて、心の在り方が純粋だから。

 そんなの、実は出会った時からわかってたんですよ?」

「ぁ――――その、」

 

 そんな顔でしんみり言われたら、反論とかが出てこない。照れながらなんていい返したのかわからないけど、桜は嬉しそうに微笑んで、まっすぐ俺を見つめている。

 

「ですから、先輩――――」

 

 土蔵からの去り際。

 

 

 

「私がもし悪い子になったら――――先輩が、止めてください」

 

 

 

 その言葉を、少しだけ寂しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

 




桜 士郎 凛
 
というサンドウィッチ

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