ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~ 作:黒兎可
我が剣を援け、――――――――」
「シロ、ウ」
不思議と鳥肌は立たない。舞い上がっていた意識は一瞬で冷やし塊り、冷徹に相手を倒すための方策を探っている。セイバーの重ねた指が、強く握られるのを感じて、それは更に深くなる。
セイバーが俺を守るように、俺はセイバーを守る。最初にした約束で、一度は守れなかったそれ。混線した記憶でも同様だったそれを、俺は撃ち破らなければならない。
勝筋自体は見えている。
だが――――それは俺も、
理解できる。目の前の英雄王がどういった英霊であるか、記憶のどこかに引っかかっている。それが何に由来する記憶なのかさえ定かではないが、その在り方を眼前で察知する。
こいつはあくまで蒐集家、ないし強奪者。最古、世界が一つだった時代にあらゆる宝を手中に収めた。だが、自らの武具として仕上げる事はしていない。あれだけの宝物。あれだけの最強の武具を、弾丸のように射出するのが良い例だ。その点で言えば、ギルガメッシュのそれはアーチャーの戦い方と似ている部分もある。
決定的な違いは、それが何であるのか。
贋作か、真作か。
だが、例え贋作であれど真作と打ち合えない道理はない。ゆえに己の世界さえ展開できたのならば、勝機はある。
だが、それが出来ない。
あの未来の俺は、作り手への理解が大きく空洞で、世界自体が断絶しているから。
今のこの俺は、作り手への理解が足りず、魔力が足りず世界を成せないから。
「ギルガメッシュ……ッ」
「ふむ。……いささかこそばゆいな。よもや
愉しげに笑いを噛み殺すギルガメッシュ。その視線は、セイバーと俺を見て、わずかに苛立ちを含んで居るように感じた。
無遠慮な赤い目は、美術品を品定めしつつ――――それについた汚れを、心底憎むような。
「……シロウ、なんとしても初撃だけは防ぎますから、その隙に――――」
「いや、無理だ」
「は――――?」
元よりアイツが現れた時点で、逃げると言う選択肢は出てこない。
逃げる、という行為をとった時点で、どちらにせよセイバーはヤツの手に落ちるだろう。
今のセイバーではあの男には適わない。そもそも性質が違う。軍隊としての戦力に近いあの男に、戦士としてのセイバーが適う通りはない。人間相手ならそれは別だが、こと英雄同士。
そしてそんな展開は承諾できない相談だ。
救えず、キャスターに奪われ。今度は眼前の英雄王と来たものだ。嗚呼まったく、一筋縄じゃいかないにも程がある。
だが、俺はアイツとは違う選択肢をとると誓ったのだ。ここでセイバーを投げ出して、おめおめと逃げ変える事などどうして出来よう。
「……理解に苦しむ。なぜそこの屑にばかり気をとられているのだ。
おまえ程の英霊ならば、我に下ることがどれほどの価値をもつか判るだろうに」
「――――世迷言を。この身は騎士であり、その王。貴様の軍門になど下る言われはない!」
「そうか? しかし、それ以前にその身は女。主に頭を垂れ、仕え、尽くす幸せもあるだろうに。何ゆえ拒む。
道理の判らぬ
「き、貴様――――」
「憤るな。ならば教えよう。我は裁定者。時に北風であるならば、太陽が見えるも道理よ。
我が物になるというならば、この世の全てを与えてやろう。守護者などにならず、死に逝く運命に戻る事もない。誇れ騎士王。お前には、それだけの価値があると認めよう」
「…………だったらアンタ、仮にセイバーを手に入れたとしても、それでどうするんだ?」
ほう? と。ギルガメッシュは眉間に皺を寄せながらも、愉しそうに嗤う。
「誰が割って良いと言った、セイバーのマスター」
「アンタが言ったんだ。口を開くのを許すと」
「たわけ。我の口説きを邪魔することまで許した覚えはないぞ。
しかし、妙な事を言うな。続けてみよ」
「アンタは収集家のはずだ。だったら、アンタの審美眼は確かなものだろ」
シロウ? と。セイバーが不安そうに俺を見る。
言われて自覚する。俺の顔は今、確かに「嗤ってる」。それこそあのアーチャーのごとく、目の前のギルガメッシュに対して、滑稽だと感じている。
何故こんなことがわかるのか。というよりも英雄王本人が判っていないのか。
武器の扱い方を見ていれば、そんなもの一発で理解できるだろうに。
「そんなアンタが、仮に軍門に下ったセイバーを見て、どう思う」
「ぬ?」
「見た通りセイバーは、アンタなんて願い下げって感じだ。アンタはそんなセイバーに価値を見出した。
だったら、そうじゃなくなったセイバーを見て、どう思うんだ」
と。くつくつと小声で顔を覆いながら嗤う英雄王。次第にそれは大きくなり、ついに哄笑となった。
「く――――ふ、ははははははは!
なるほど確かに道理よなぁ。思わず納得してしまったぞ
だが、それは一度手に入れてから考える事。花は散り際こそ美しきもの、それもまた悪くはなかろう。
成しもしないことを考えては、駄女神に笑われる」
「――――世迷言を。
貴様と共に生きるなど、気を違えてもありえません」
「よい。ならば聖杯を手に入れた後、その身に聖杯の中身をぶちまけてくれよう。
さすればマスターなど不要となる」
満足げに嗤う男に、セイバーは目的を問う。
「目的か――問答の時と変わらぬと言えば代わらぬが、心持がわずかに異なるか。
あれは元より我のもの。そして――――我だけが使うと決めたものだ」
「聖杯を――――貴方が使うだと?」
「そう。十年前、貴様のお陰で浴びた『あの泥』。あれが何であるかも、下らぬが理解はした。
この世界は面白いが、同時に度し難い。再び俺が君臨するのに、効率的に使ってやるさ」
「……時を経た結果、得たものが支配欲か。
見下げ果てたな、アーチャー」
「貴様とて、その勝利の剣を他者に振るわれては、腹立たしいだろうよ。騎士王。
俺も同じだ。我が財は等しく、我のみが好きに使うべきだ」
そう言いながらセイバーを見る目は、まるで、彼女もまた自身の財宝だと言ってるかのようで。
それに、苛立ちめいた感情がわいてくる。
閃光と共に戦闘態勢に入るセイバー。
斬りかかる彼女に対し、当然のように黄金の鎧を身に待とうギルガメッシュ。
「よい。刃向かうことを許すぞ」
セイバーの不可視の剣。その上での連続攻撃は、早さもあいまって追いつけるものではない。一撃の腕力は言うにおよばず。魔力を乗せたセイバーの力は、はるかに俺たち人間を凌駕する。
対するギルガメッシュは、常に顔面を守るのみ。
しかし、その鎧は瑕一つつかない。軋みはしているのでダメージは通っているはずだが、それにしても、一体どんな強度をしてるんだ。
「――――
呟きながら、弓と、武具を投影する。今ならギルガメッシュの意識はこちらに集中していない。
骨子も理解も未だ足りないその宝具は、しかし今、この場で作り出すのに適したものでもあった。
つまり、今の俺でも連発できる程度には。
「セイバー!」
俺の叫びに応じて離れるセイバーと、訝しげな顔をして腕を下ろす英雄王。
その顔が、わずかに驚きに染まる。
――――
かつてアーチャーも弾丸と成して使ったそれを、矢のように細めて投影し、構える。中身はスカスカ。宝具としての完成度はとうてい高くない。
わずかな隙を狙っての狙撃。……そういえば言われたっけ。俺は「当たる」事実を視てから矢を射っていると。確かにそれが違わないと思わせる程度には、その一撃はギルガメッシュ目掛けて放たれた。
名を呼び、中身を暴走させる。それによって、初めてヤツを傷つける程度に昇華される――――。
「おのれ――――――貴様まで刃向かうことを許した覚えはないぞ、セイバーのマスター!」
言いながら、背後より大剣を出現させるギルガメッシュ。……いや、大剣というレベルではない。巨大な螺旋を描くそれは、カラドボルグの
コレで少なくとも、俺の投影はヤツの原典に適わないことが証明される。
「失せろ。――――
「はぁ!」
俺に意識をとられた瞬間、セイバーが斬りかかる。嗚呼、茶茶を入れている自覚はあるが、逆に言えば「茶茶を入れることが出来る程度には」なったのだ。
ギルガメッシュに宝物庫を使わせないよう、セイバーは生まないよう攻撃に入る。もしタイミングが出来れば、俺が狙撃。
これなら、いける。防戦しながら徐々に後ずさるギルガメッシュに、そう考えた瞬間。
「――――――思い上がるなよ、小僧。天の鎖よ!」
「!? な――――」
瞬間的に、俺とセイバーの身体に鎖が撒き付く。解けないようなものではないが、身動きを一瞬とられるのは事実。
その間で――――ギルガメッシュは、ナニカを抜いた。
途端。感じた事のなかったほどの悪寒に襲われる。
現れた剣は、どんな伝承にも聞いた事がない。形状、理念、骨子、何から何まで解明できないそれは、剣であったが――しかし剣という概念を内包していないようだった。
「起きろ、エア――――」
「ッ! シロウ――――」
円柱の剣は、吠える。刃が、三つの歯車が回る。
すかさず鎖を断ち切ったセイバーが、俺の前でエクスカリバーを解放する。
両極端な構図だ。片や風を払うことでその姿を放ち、片や風を巻き込むコトでその刃を成す。
「――――
「――――
放たれた二つの衝突。吹き荒れる烈風。
粉々に散る生命の奔流。新星のごとき熱風は瞼を焼く。
身体が吹き飛ばされかけるが、幸か不幸かヤツの鎖が俺をこの場に縛り付ける。
衝突はどれほど続くか。拮抗していた激突は、やがて閃光につつまれるセイバーの背中で終わりを見る。
眼前で崩れ落ちるセイバー。
死んでると思えるくらいにズタズタで。でも、頭のどこかが冷徹に、消えて居ない以上は死んでいないと断言する。
英雄王の哄笑が高く、焼けた大気を超えて空に届くかのように響く。
何が愉しいのか。倒れたセイバーをみようともせず、ただ、ヒトの成した幻想を笑っていた。
「相殺するコトさえできなかったとは拍子抜けだぞ。やはり海魔相手にエアは勿体無かったということだな。
しかし、そうだな。少しは手加減してやるべきだったか。なにしろ相手は女子供だったのだ!」
耳障りな笑いを聞けど。鎖を解いた俺の選択肢は決まっていた。
「さて、では王の寵愛を与えるとするか。多少汚れてしまったが、いずれそんなもの関係ないくらい『正気も蝕まれよう』――――ぬ?」
立ち上がろうとする俺に、疑問符をつける英雄王。
投影――――エクスカリバーは作れない。俺に成せるのは、せいぜい、セイバーにとって失われてしまった選定の剣。
セイバーが叫ぶ声が聞こえるが、正直、頭が理解できていない。どこかに亀裂が入るような感覚が走るあたり、これは、本来エミヤシロウの限界を超えた行為なのだろう。
ギルガメッシュの言葉も理解できない。ただ忌々しそうな表情を浮かべながら、俺の一撃を受ける。
そんな折、取り出した一つの剣。骨子は違うが、理念、背景があまりにも似通うそれは――――。
「子は親には勝てぬ。転輪するごとに劣化する複製ならば、
視たものの衝撃が、わずかに俺を正気に戻す。
次の瞬間には、ごろごろと転がりセイバーの目の前に。
やっぱり何を言ってるか判らない。だけど、こんなに近くにセイバーがいることが、すごく安心する。
傷を負った胴体がきしむ。まるで金属のような感触を覚えるが、嗚呼、そういえば遠坂が言ってたっけ。
動くのはわずかに右腕。左腕の感覚はイカれている。肩から腹に掛けてばっさりと。
何も聞こえない。聞こえているが判らない。そのせいか意識が遠のいていく――――。
ただ振動で、ギルガメッシュが近寄ってきていることが分かる。
……右腕に力を込め、切断されかけた身体を起こす。両足はろくに力も入らず、身体を動かす
一瞬、セイバーの泣きだしそうな顔が見える。
ギルガメッシュが嗤う。何を言ってるのかわからない。
ただ、酷く頭に来てはいた。こいつは結局、セイバーを自分の宝物と同列にしか扱っていない。価値がなくなれば斬り捨てる、王の傲慢さがおよぶ物としかみていない。
無理やりに置きあがろうとすればするほど、傷みが走り、傷から中身が毀れていく。
そのお陰か、ようやくセイバーの声が聞こえた。
「やだ――――シロウ、止めて、それ以上はダメだ……! こんなことで死なれたら、私は――――」
死ぬのが怖くないわけじゃない。ヘラクレスの前でセイバーを庇ったときだって、それは頭で理解したつもりではいた。
キャスターの取引の時だって、セイバーの意思の自由を保障できるように意識していたように思う。
思えば今日のデートモドキだって、もとはといえばセイバーの願いがあまりに希望がないものだと思ったからで。
でも、それを支える根幹は、何だ?
この、自分はどうなってもいいという彼女に対する、苛立ちの根底にあるものは?
嗚呼、なるほど。
酷く周り道をした気がする。こんな、当たり前の、簡単な感情に行き付かないなんて。
なんてことはない。正義の味方になるなんて言いながら、とどのつまり、俺は誰かを慈しむなんてことをしてこなかったのだ。
セイバーは、自分の命の重みを知れと俺に言った。
遠坂は、それが当たり前で、そうじゃないと壊れると叫んだ。
そういう人間なら、きっと幸せになれる。幸せになって、他の人間にその幸せを分けられる。
言われなくても、俺には穴が開いている。大事なところが抜け落ちて、それを無理やり埋めたつもりでいる。そんなんだから、行きつく先の一つがアレになる。
――――でも、だから。自覚した今、その穴に、星の煌きのごとき、見下ろす彼女の姿が入り込む。
例え何度地獄に落とされようと、決して忘れる事のないだろうその美しさを。ただ鮮やかに駆け抜けた、その生涯を、理想を。
だから、守らないと。孤独だったその理想が――――最後に、誇れるものだったのだと、胸を張って言えるように。
「ごめんな。それでも、お前をあんなヤツには渡せない」
「シロウ……、優先順位を間違えないで欲しい。この期に及んで、私の身など――――」
「――――大好きな、一番好きな奴さえ守れないで。
何が、何が、正義の味方だ――――!」
「――――――――」
息を呑む気配がする。振り返る余力はない。音が遠い。色が見えることが幸いで、まだ辛うじて相手を識別できる。
何事か言いながら、剣を振り上げるギルガメッシュ。
自然と俺は、左腕を構えて、右手を添えた。こうするのが自然なことだと、頭のどこかが理解している。左肩、アーチャーから固有結界の侵入を受けたあたりが、きしむ。
意識がかすれる中。
――――真に重要なのは、剣ではなく鞘なのだよ、少年。
誰の、言葉だ?
聞き覚えがあるような、聞き覚えのないような、そんな声。悪戯のようなそんな言葉に、脳裏に過ぎるナニカのイメージ。
エクスカリバーにこそ及ばない閃光が迫る中。
「――――航するは星の内海。夢遠き、春の楽園――――」
巻き込まれるセイバーのことを考えると、自然と、そんな言葉が出て――――。手には、剣のようで剣でないナニカ。
違和感を覚える前に、気が付けばセイバーが俺の手をとり――――。
――――気が付けば、光が止む。
傍らのセイバーと、眼前で、わずかに血を流すギルガメッシュ。しかし殺意を持ったまま、ギルガメッシュはこの場から立ち去る。
崩れ落ちる感覚の中――――しかし、気が付くと肉は繋がり、傷口はみるみるうちにふさがっていた。
音も次第に返ってきて、セイバーの声が聞こえる。
ふわりとやわらかな感触に包まれる。無理に魔力をひねり出したせいか、いますぐ眠りを欲する精神は。
「――――やっと気付いた。シロウは私の鞘だったのですね」
「……これ、普通、立場逆じゃないか?」
そんな愚痴をこぼしながら、いつくしむような、安心するような、大切なものを愛でるようなセイバーの声を聞きながら――――。
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「あれ?」
気が付けば、見慣れた天井。
「シロウ? もしやまた、記憶が……」
「あ? えっと、そうみたいだけど……。ギルガメッシュが逃げて、それで……?」
「あれからずっと倒れて、先ほど起きたところでした」
「ずっと俺の手当てを」
「いいえ。傷は塞がっていたので、汗を拭く程度です。
凛はかなり驚いていましたが、傷が塞がっているのを確認して今は寝て居ます」
「そうか。……じゃなくて。お前だってケガが酷かったんだから、そんなことしなくていいんだ」
「……同じことを言うのですね、シロウはやはり」
「え?」
「つい、今、丁度同じことを言われたところです」
くすり、と笑うセイバー。洗面器の中の氷水にタオルをつけしぼり、汗をかいた身体を噴いてくれる。とうか、俺、上裸。少し気恥ずかしい。
「で……、その格好は……」
追求するのが躊躇われたけれど、でも、どうしても聞かざるを得なかった。
――――セイバーは、冬場とは思えないような薄着をしていた。
闇に浮かぶ白い身体は、あんまりにキレイすぎて、よこしまな気持ちが入らないほどで。
「おかしいでしょうか? この格好は」
「い、いや、そんなことはないけど……、困ってるというか、その。
なんだってそんな……、か、風邪引くぞ」
「――――いいえ。
シロウ」
セイバーが俺の頬に手を当てて、うるんだ目を向けてくる。
距離が近すぎて、エミヤシロウの思考はショートしていた。
「今の貴方は、外郭だけを繋げた状態。未だ完全な回復には至っていません」
「……え? え、えっと」
「時間をかければ回復はするでしょうが、それではおそらく、桜のタイムリミットに間に合わない。凛の繋ぎ直したパスでは、貴方の内側までの回復は不十分です。
ですから――――私と今、パスを繋ぎ直してください」
それしか方法はないのですと、セイバーは頬を赤らめながら。
遠坂の言った言葉が思い出される。サーヴァントとマスターのパスを繋ぎ直す方法。一つは時間がかかる以上、選択できず。一つはそもそもやりかたがわからない。
とすると、残る選択肢は一つしかなくって。
つまり、それは、俺がセイバーを――――。
「お、おい……! ヒトの気も知らないで……っ」
「あの、やはり嫌でしょうか?」
「そんな訳あるか。そんな訳ないから、困ってるんじゃないか」
いつもなら「マスターなのですから、必要ならば命じてください」くらい言ってのけそうなセイバーも、不思議と強制するような素振りは見せず。
でも、それが更に俺の内をかき乱す。
「俺は……、お前が好きなんだ。だから、そういうことに迫られてじゃなくて。
もっと、ちゃんと、お互いがちゃんと触れ合うためにしたかったっていうか……」
「…………乙女のようなことを言うのですね、シロウは。
ならば、不本意ですが私から言わなければいけませんか」
「セイバー?」
セイバーの両手が、俺の頬に添えられる。
照れたように微笑みながら、セイバーは。
「でしたら、こう考えてください。
そういうことを抜きにして、シロウ――――」
段々と顔を近づけて、ささやくように。
「――――今だけ、私の時計を動かしてください。
剣を抜いた時から、止まったままの
――――例え、ひとときのユメでも構わないから。
やわらかな感触を覚えると同時に。俺は、セイバーに合わせて目を閉じた。
花「――――王の話をするとしよう」
息「いや、テメェどうやって座に干渉してきてんだよ!」
花「聞きたくないかい? リアルタイムの王の話」
息「(絶対ロクなこと考えてないだろ、コイツ)」
※両者ともに直接の出番はありません