ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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ボブ「嗚呼、やっぱり作りやすいし、いいよな。なにより作業の手を止めず、機械的に口に運ぶだけで栄養補給が出来るのが素晴らしい」


自爆Dynamic! その3

 

 

 

 

 

 葛木先生を急いで病院に運んだ後。私達は一度、衛宮くんの家に向かった。

 酔っ払った藤村先生が出迎えてくれて……まぁ、その後の私の言い訳は割愛する。正直、ほとんどイリヤが「私も住む!」と言い張ったことに対する暴動の方が大半だったし。

 まぁ、そのイリヤだって突然倒れて。そっちの看病にやっきになるあたり、この人は士郎の姉のようなものだと思った。

 

 そんなこんなんで、藤村先生が力尽きて寝静まった頃。

 

「へぇ……、士郎の部屋の隣で寝てるんだ、ホントに。へぇ……」

「む…………、何です、凛。その、明らかに何か含みのある態度は」

 

 なんでもないと笑いながら、どこか不安そうなセイバーを観察する。本人の希望もあって、例の似非神父から嫌がらせのごとく送られ続けたあの服を着ている。顔色は良好。まぁそれも当然と言えば当然なんだけど。

 

「……感謝します。凛。今私が留まれるのは――」

「あー、いいわよ、それ。どうせそのうち、頃合をみて士郎に返すつもりだから」

「え?」

「桜は綺礼がおさえてるでしょうし、イリヤはそもそも復帰するつもりもない。なら、優先度的には私か士郎かになるんだから、たぶん大丈夫でしょ。

 ……なに、意外?」

 

 意外そうな顔をするセイバーに、私はただ笑うばかり。

 今、セイバーは私のサーヴァントになっている。あの場で倒れたイリヤと、葛木先生とを運ぶためにも、また戦力的にもどうしたって必要だったので。お互い悪い仲でもなかったから、契約したところで険悪にはならないけれど。

 

「イリヤじゃないけど、私も、なんだかんだアイツは嫌いじゃなかったしね」

「…………それは、ああなってしまってもですか? 凛」

「――そうね。嫌いじゃないけど。頭には来てるわ。単に士郎を攫ったとか、そういう理由じゃなくてね」

 

 セイバーは気付いているのかどうか。いや、情報が足りなすぎるから気付いてはいないかもしれない。

 そう思いながら、私はあるものを取り出した。

 

「? それは、シロウの」

「そ。アーチャーが連れ去り際に、士郎が勢い余って落としたもの。

 それでこっちが――アーチャーから手渡されたもの」

 

 士郎の方には、わずかに魔力が残っている。疵だらけの、アーチャーの方とは違う。見た目だけじゃない。その意味合いが異なる。

 

「使われたからには意味があるのよ。『使った私が言うんだから』間違いないわ。

 てっきりあの時、失くしたものだと思ってたんだけど」

「……ひょっとしたら、凛。貴女がランサーからシロウを……?

 とすると――――!」

 

 馬鹿じゃないのかと。そうだ、本気で頭にきたのだ。確証が取れる前からどうしようもなくて。それが確信に至った今じゃ、もう問答する理由さえない。

 

 頑張って頑張って。凡人のくせに努力して、血を流しながら成しえた奇跡があった。

 なら幸せにならないと嘘だ。

 多くのヒトを幸福にするために自分を使ったんなら、そいつらが束になってかかっても負けないくらい幸せにならないといけない筈だ。

 

 けど。生前も死後も、そんな報酬は与えられなかった。

 

 奇跡の在り方さえ自分で否定させられて。死んだ後でさえ、守護者として使役される。

 

 守護者はあらゆる時代から呼び出される。――現在、過去。そしてまだ見ぬ未来からでさえも。 

 ……だから、悔しくなる。誰だって救われない。かつての夢を見る側も。それさえ忘れた残骸を見る側も。変わり果ててしまったその在り方に、胸を痛めるだけなんだから。

 

「誰かのためになろうとした。そんな大莫迦の結末を、わたしはもう知ってる」

 

 望んで守護者となった。死した後も誰かを救えるのならと。生前に救えなかったまだ見ぬ誰かに手を指し伸ばして――悪い運命から救いだせると。

 でも。生前にその生き方さえ壊された男は、そのかつての希望からも裏切られ続けた。

 あいつが呼び出されるのは、いつも地獄だった。彼らが呼び出される、人間が滅びるときはいつだって人間の手で。

 

 だからこそ。誰かの泣いている顔を見たくないと。見捨ててきた誰かのためにと願った少年は。

 永遠に泣き顔を見続け、見捨て続けるしかなくなって。

 

 それが嫌で、嫌で仕方がなかったから――そんな人達を殺したという重責が常に重石になっていたから。いっそ効率的になってしまった。

 

 考えれば当たり前の話。がんの手術とかと一緒だ。患部から侵食するのなら、対策は二つ。外科的に手術するか、患部自体を切除するか。

 

 アイツは、そのために患部ごと切除する道を選べるようになった。――そうすれば、効率的に、「誰かを助けることが出来るのだから」。

 だっていうのに、開き直ることが出来なかった。あくまでも悪でしかないって、だからあいつは嗤うのだ。

 

 いくら理想に裏切られたって――そんなことより、効率的に動ければいいのだから。

 

 

 

 体は剣で出来ていた。

 血潮は鉄で、心は硝子。

 幾たびの戦場を超えて不敗。

 ただ一度の敗走もなく、

 ただ一度の後悔さえない。

 溶けた人形は独り 剣の丘で錆を拾うのみ。

 

 故に我が生涯の意味は問わず。

 その体はもう、鉄屑になっていた。

 

 

 

「なんなのよーって。胸をぽかぽか何度も殴ってやりたくなってさ。

 ……私は苦労したことはない。だから資格はないかもしれないけど、その傷みと努力を信じてる。報酬がないなんて間違ってる」

「凛……」

「だから放っておけなくて。だから――私は私が信じたように突き進む。それくらいじゃないと、あいつが認識できなくなってしまった、そんな人生の意味も、再認識できるんじゃないかってね――――」

 

 その結果がこれなのだから、呆れて笑ってしまう。

 

「……とにかく、アーチャーの行きそうなところを探すわよ。セイバー」

 

 決して取り越し苦労じゃないはずだ。だってあの時、あいつは言ったのだ。

 この俺が出来ない以上、やるのはお前だと。

 

 …………あいつが一体、何を危険視してるのかは分からない。ひょっとしたら、あいつがやっていることの方が正しいのかもしれない。

 

 でも。それでも。

 誰かを救うために行きついた答えが、「そんなの」なんて。それだけは絶対に間違っているんだから――――。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「……?」

 

 まどろみから覚醒して、すぐさま現状を思い出す。思い出すくらいには酷い状況だ。

 手足の感覚がない。動かないし痛い。椅子に縛り付けられている上、猿轡までかませられている。

 

 おまけにどんなカラクリか、魔力も生成できない有様。

 

 がらんどうに壁も、何もかもが崩落したこの場所。見覚えはないが、心当たりはあった。イリヤの城だ。――ボロボロになってから、使用人たちともども城からは退去したらしいというのは聞いていたけれど。

 

 と。左肩に、誰かが手を沿え。

 

 

 

「――――――――体は、剣で出来ていた」

 

 

 

 そんな、普段なら英語を使っているそれを。あえて日本語で呟いて――。

 途端、全身に激痛が走った。

 

 

「な――――!? あ、が、――――」

 

 

 親父から教わった修行。失敗時の傷みに似通っているが、桁が違う。小規模な豆電球に、いきなり落雷が落ちたような錯覚。全身の回路という回路、神経という神経が悲鳴を上げる。

 まるで何か異物を挿入されているような――いや? でも、それがもし本当に異物であるのなら。「ここまでの傷みを」覚える筈はない。 

 

「ああ――――――安心した。

 どうやら錯覚ではなかったらしい」

 

 男は嗤う。俺を見ながら、自分を嗤う。

 段々と傷みが引いていく。異物はどこにもなく、

 

「――――!」

「落ち着いたようだな。

 ……さわぐな。今とってやる」

 

 面倒そうな声をあげながら、アーチャーは俺の口元を引っ張り、猿轡を無理に外す。

 

「アーチャー、お前――――!」

 

 怒りの声を上げる俺なんて無視して、アーチャーは当然のように、持っていた包み紙を開く。出てきたのは白いバンズ、チーズと分厚いソーセージの挟まったそれ。焼きたてなのか香りが香ばしく、嫌でも食欲をそそられる。

 

「食っておけ。当分食えるかわからんぞ」

「何言ってるんだ、お前」

「嗚呼、なるほど。俺に食わせられるのは嫌か。だが我慢しろ。生憎ここには、借金でアラヤから取り立てられる魔術師も居ない。キレイどころもなくて残念だったな」

 

 本当に何を言っているんだろうか、コイツ。

 あんぐりと口を開いていると、問答無用にハンバーガーを突っ込まれる。むせるとちゃんと背中を叩いて、飲み物を飲ませる丁寧っぷり。正直ちょっと気持ちが悪いレベルだ。

 

 このアーチャーがそんなことをするということもだが。なによりその左腕は、完全に治る気配がないのだから。

 

「――――」

 

 肘よりいくらか上の位置から下にかけて、あの出来そこないの黄金の剣で切断されたまま。傷口は、まるで生き物が何かのように剣の先端が蠢いている。どうやらそれが傷口を塞いでいるらしいが、きちりきちりと音を立てるそれには、嫌な感覚がある。

 

「食べ終わったな。なら、しばらくは大丈夫か」

「なんだお前。一体、何がしたいんだ?」

 

 俺の問いかけに、アーチャーは嗤う。

 

「何。俺も効率的ではないと思ってるんだよ。そもそも街を壊滅させたところで、アレを止めることが出来るかは半々といったところだろう。ならばあれごと破壊してしまうのが正解だが、生憎今の状態では、そもそも疵すらつけられん」

「何を壊すって言うんだ? お前」

()

「……渦?」

「英霊の魂を導く、その出入り口と例えればいいか? よくは判らんが、その向こうに『妙なものが』居る。

 おそらく俺が呼ばれたのは、あれが原因だろう」

「お前が呼ばれたって……?」

 

 肩をすくめるアーチャー。口元が嫌そうに歪む。

 

「……何の因果か、この身は反転した身だ。通常、英霊の属性が反転して召還される場合は、同一人物の別側面が強調されるという意味合いが強い。

 だが俺の場合は事情が異なる」

「反転……、何がいいたいんだ、お前」

「わからないか? 正規の俺は――――何があったところで、反転した性質を受け入れられないということだ。

 喜べ、衛宮士郎。お前の望みは叶ったらしい」

 

 その言い回し――どこかで聞き覚えのある言い回しに、俺は嫌な感触を覚える。

 

 切っ掛けはいくらでもあった。だが、その結論には決して至るはずはなかった。 

 でも、それでも。

 

 

「俺に宝具はない――強いて言えば、己が持つ唯一の魔術こそがそれにあたる。この身は錬鉄。一度見た刀剣を、無限に貯蔵する果てのない荒野」

 

 ――――体は剣で出来ている。

 

 心象風景を展開し世界を汚染する魔術――固有結界。

 

「もっとも、この有様のせいで数秒と長く持たない。おまけに魔力も足りず、展開さえままならない。

 だからこそお前に目を付けた。

 ……なにせ俺の固有結界は、他者に譲り渡したことはなかったからな。別な時代に、同じものを持つものはいない」

「なんだよ、それ。それじゃあまるで――――」

 

 まるで俺が、その固有結界を持っているみたいじゃないかと。

 その言葉を紡ぐ前に、男は嗤った。

 

「今、俺とお前との間に擬似的なパスを繋いだ。

 それを起点に、これより俺の世界は――『お前の世界を侵食する』。未熟なお前に、俺の世界は使えない。結果――幾千、幾万の剣が、その内より爆発することになる」

 

 俺の世界。

 

 その言葉が、この流れで指し示すものは、一つしかない。……一つしかない。

 なんでコイツを見ると、こう、鬱屈した気分になるのかが判らなかった。でも今、なんとなく理由を察して来た。

 

 

「――人助けの果てには何もない」

 

 それは、諦めではない。諦める事さえ忘れてしまい。

 

「――他人も自分も救えない、意味のない人生だ」

 

 その意味さえ磨耗し、かすれ、理念を忘却してしまったからこそ。

 その行き着いた先が、間違っているとか以前に――直視したくなくて。

 

 

「せいぜい今の内に精神だけでも、理想を抱いて溺死していろ。

 ――――『俺自身(おまえ)の体』を使って爆裂させるなんぞ、どれだけの規模と傷みがあるかわからないからな」

 

 口ぶりだけで嗤いながら、アーチャーは真顔で俺を見下ろした。

 

 

 そう。つまりそういうこと。

 

 英霊、エミヤ。

 無銘と標榜しながら、その骨子がいくら壊れようと。未来の自分。未熟な衛宮士郎がもがき続け、その理想の果てに立つ姿の一つ。反転していると言った以上、他にも何かあるのかもしれないが――――少なくとも、この男が俺の行く先の一つ。

 

 それを前にして、俺は叫ばざるを得なかった。

 

「――――他に手段はなかったのか! お前――」

「知らん。そもそも、他の手段なぞ判らん」

 

 もう少し外側がマシだったらなぁと肩をすくめるアーチャー。

 

「必要なことだからだ。例えその場所が何処であろうと――相手が俺自身であろうと、例外はない。

 『効率的ならば使う』までだ。

 それとも何か? 衛宮士郎はヒトを助けるために、自分を勘定に入れていると?」

 

 諦観でさえない。他人事のように、すべてを勘定に入れず、その俺は淡々と語る。

 

「入れてないだろう。実は俺もだ。知ってるだろ。

 だから別にいいだろ。

 俺は、俺を殺す。――街一つと引き換えに全人類の生命が保障されるのだ。効率的な駆除だろう」

 

 面白くもなさそうに淡々と語る。それで気付いた。こいつが嗤うのは、相手をコケにしてるとき以上に――――きっと、こんなに変貌した自分に、どこか自虐しているそれなのだろうと。

 

「わかったら眠れ。次に目が覚める頃には――きっと『何も判らなく』なっているだろうけど」

 

 そう言いながら。どこか親しみさえこめるようにアーチャーは言い。――――俺の呼吸を片手で塞ぎ、落とした。

 

 

 

 

 

 




虎「全く。事情はしらないけど、イリヤちゃんだっけ? そんなに無茶してると、士郎が帰ってきても遊べないぞ?」
ロ「うー、それは困るけど――――、待ちなさい、貴女、何?」
虎「ん? なにって、イリヤちゃんそんな高圧的なしゃべり方はいけま――」
ロ「タイガに聞いてるんじゃないの。なんでそんな変な召喚のされ方をしてるのか聞いてるよの――――貴女に(ヽヽヽ)
虎(?)「……」ふふふ、とネコミミらしき何かを生やしながら、不敵な笑みを浮かべる

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