ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~ 作:黒兎可
セ「シロウはまったく・・・!」
リ「・・・アーチャー、何か隠してない?」
ボ「隠してはいないぞ」(処分はしたけど)
リ「そう。・・・なら、私たちが居間に帰ってくる間に何があったか、話してもらおうじゃない」
ボ「!!?」
肩の根元から、骨ごと吹き飛ばされる衝撃。
「っ、ぐ――――」
顔を防ぎに入った腕ごと。はじけてはいない。バラバラになどなっていない。代わりに体が耐えられず宙を舞った。ただ完全に麻痺して、感覚がない。
素手じゃ話にならない。何か、片っ端から強化しなければ。
セイバーは言った。俺はサーヴァントに勝てるはずないと。最善の状態を作るコトこそ必須だと。
なら少しでもと――――回路に熱を入れ、薄い学制服を鉄のごとく。
そうでもしなければ、やさしく、と言われた所で次の一撃で終わってしまう。
ライダーは俺が立ち上がるのを一応待っているらしい。シンジは相変わらず嗤っている。ふと、黒いあの顔を思い出す。シンジのそれは、アーチャーの嗤いと違うように感じるのは何故だろうか。
「お覚悟を」
「っっ――――!」
両腕が使い物にならなくされる。動くには動くが、痛覚と触覚が消し飛んでいる。この鈍い反応じゃ、ライダーの攻撃に対応するのは難しい。
ライダーに容赦はない。一切の無駄なく拳を繰り出してくる。無機質な機械のごとく、認識できる速度のそれじゃない。
意識だけでも奪われないようにと、頭に意識を集中させ、守る。
それをどうとったのか、がら空きの胴体ばかりを攻撃してくるライダー。……悶絶するくらいには痛いが、それでも腕をやった程のそれではない?
おかしい。いくら筋力が最低か、それより一つ上であったとしても、ニンゲンの尺度に当てはめられるはずが無い。シンジの指示どおり手加減してるのか?
いや、俺が意識を失わないようにしてるのだろうか。
「――――、っ」
だが、気のせいで無ければ。迫力がない。こと戦闘に意識を向けた時の、サーヴァントが発する魔力に比べて、このライダーのなんと力不足なことだろう。
どういうカラクリかはしらない。だが――――これなら『効率的に』、シンジを出し抜くチャンスがある――――!
「どうした、それで終わりか衛宮? そんなんじゃ全然、格好つかないじゃないか!」
前のめりに倒れこむ俺を嗤うシンジ。
ライダーはわずかに身を引いて、俺の反応を窺う。
「硬いのですね、貴方は」
――――倒れて、たまるか!
思い出せ。己は何を目指すかを。思い出せ。己は何を果たさなきゃならないかを。
ライダーの腕をつかみ、強引に体を持ち応えさせる。どういう訳か、ライダーはそれをはらわない。
「――――! いいぞ衛宮、お前本当におもしろいぜ!
面白いついでに、こんなのはどうだ? ――――ライダー!」
頭に血が回ってない。それでも、意識を保たなければならない。
タイミングはシビア。一歩間違えるだけで、アイツの手元は狂う。だから――――セイバーを呼ぶタイミングこそが、この場において一番重要なそれだ。
だからこそ、叫ぶシンジのそれに、俺はすぐに対応できない。
何かの本を取り出したシンジは、それをなぞり、ライダーに命じ。
「――――”
眩暈は唐突に。
吐き気をともなって、体を打ちのめす。
視界は赤く、感覚は逆しまに。血流が反転するように、体の熱が暴走するように。足がもつれ、再び倒れそうになる。
校庭をみれば、まるで校舎のみが切り取られたかのように真っ赤な世界で。
知っている。倒れている生徒たちの姿を。
知っている。まだ息はあれど、救いを求めて痙攣する姿を。
知っている。無残に倒れ、命をくべられるその有様を。
知っている――――いつかの、赤い残骸を。
「あ……、ぐっ、」
吐き気が強くなる。それでも冷静に、倒れているヒトガタを見る余裕はあるらしい。だから、てらてらと、ヒトが解けていく光景が目に入っても、そこから視線を逸らさないではいられるらしい。
止めろ。
「気に入ってくれたかい? 衛宮。その蒼白な顔が見たかったんだ。
いったろ? 話したかったことって――――この結界、敷かせたのは僕なんだ」
「兄、さん……っ」
桜も桜で憔悴しているように見える。でも溶けるほどではないのは、シンジの近くにいるからだろうか。
嗚呼、セイバーが感じていた違和感はこれか。
おかしそうに嗤うシンジ。
「――――――止めろ」
「自分の立場わかってる? ほら。
それに、大体これは僕の力だ。僕が、衛宮を、ライダーで、ぼろぼろにするための力だ。わかってる? そこのところ」
それで、こっちも。心底思い知らされた。
合理的だ。アーチャーはいっていた。合理はつきつめれば自己中心的になると。……たしかに合理的だろうさ。これは。
「でもまあ、このまま続けても同じことの繰り返しだ。そろそろ飽きて来たし、最後は、パーフェクトなKOで締めようじゃないか!」
「……同じ?」
シンジに言われて、違和感に気付く。今の自分たちの立ち位置に。何故、わざわざ、ライダーの腕を引いて、立ち位置を入れ替えたと言うのに、アイツはそれをどうとも思っていないのか。
「――――距離は五メートルほどです。貴方の我慢強さに、感謝を」
「え?」
今、何といった、このサーヴァント――――。
終わりだ、と、にたりと笑うシンジ。
ライダーが俺の手を振り払い。
――――蹴り飛ばされる。
背中を蹴り飛ばされ――――しかし、それは急所を狙ったものではなかった。
「――――」
体は鉄くずのように麻痺している? 否。腕の感覚が「戻ってきてる」。セイバーと契約してからの回復力が、ここに来て効いて来ていた。
だからこそ、俺も理解した。
この状況を作り出したのは、シンジじゃない――――。
「いいぞ、もう手加減なしだ! 殺せライダー!」
「っ……!? 兄さん、やめ……!」
答えは、果たして、予想を裏切らず。
ライダーは長い髪をなびかせ、一歩踏み込み。今までと比較にならない一撃を――――。
歓喜の声と、悲鳴を聞いた。距離は――――近い。落下する感覚。胸の中央に穴でも開いたんじゃないかって痛み。
だが、生きてる。
今のは、殺すための一撃じゃない。だからこそ――――この状況を作り出した、ライダーに応えよう。
間合いは万全。
落ちる直前に体を反転させ、ノータイムで姿勢を正し。
「終わりだ」
「え?」
ナイフを手で掴む。これくらいは回復する確信があるからこそ――――いや、なくても掴んだかもしれない。麻痺していれば違ったかもしれないけど、痛みが尋常じゃない。
だが、それ以上にやることがある。
残った右手を振り上げ。未だ困惑するシンジの顔面を殴りぬいた。
ぐらり、と倒れる桜を引き寄せ。
あらん限りの意思をもって、告げる――――――――。
「っ――――来い、セイバァァアアアア!!!!!!」
令呪が輝く。輝き、色が一つ失せる。
同時に俺の目の前に出現する、ひずみ。ひびが入り、それらは虚空を貫き――――――。
文字通り、それは魔法だった。波紋を突き破るように、銀の甲冑を身にまとったセイバーが飛び出してきた。
「ま、マスター!?」
現れたセイバーは、シンジを守るように立つライダーに切りかかる。つばぜり合いも数秒なく、距離をとり、俺たちを背後に庇うセイバー。
「――――説明してる暇は無い。状況、わかるなセイバー」
「シロウ……? どうして、このようなことになっているのです!? 体を――――」
「治るから、後でいい。ライダーを頼む。お前でしか倒せない」
「莫迦を言ってはいけない! いくら回復にすぐれるとはいえど、貴方の身は人間なのです、シロウ!」
「そうだとしても、順番が違う――――! 先にやるべきことがある」
「ですが……。
いえ、わかりました。ライダーはここで倒します」
ライダーに向けて走り出すセイバーに、シンジを止めれば終わる。深追いはするなと言っておく。
廊下を走る。視線の先には書物を構えるシンジ。
「わからないかなぁ? 衛宮じゃ僕には勝てないんだよ――――」
放たれる陰の刃。地面から上り立つ三つのそれ。
だが――――そんなもの、当たる訳はない。セイバーの速度にくらべて、そのなんと遅いことか。
流石に手ぶらじゃ不利か。交しながら、ボロボロになった上着を脱ぎつつ。
「――――
魔力を通す。雑念など振り払っているためか、息をするように投影は成功。ねじった服は当然のように棒状の物体へと変化する。
「ひぃ!? な、お前――――!」
「シンジ!」
追撃の三つ。距離をつめたそのうちの一つに、急造のそれをぶつけ、はらい、走る。袖の部分が完全に千切れたが、構いやしない。
今、この場で俺ができること――――現状を覆す、一番の決め手。
「――――――――
遠坂とあの老人は言った。シンジは令呪を与えられているだけだと。
ならば、それに該当するのは、シンジが持つものしかない。
サーヴァントは、魔術師からの魔力供給がなければ存在できない。どういうカラクリかはわからないが。一番手早い方法は、サーヴァントとシンジのつながりを断つことだろう。
だから、俺は。
「――――
切嗣に止められていたそれに、手を出す。今、確実にシンジのそれを破壊できる武器を作り出すために。
連想したのは、小型のナイフ。本を破壊するだけなので、大型な武器でなくていい。
ひぃ、と言いながら、自分を庇うように本を盾にするシンジに。
貫通。
まるであっけなく、本は、破壊される。
と同時に。その切り口から火が吹く。
「な、なんだ、これ――――――」
シンジの驚く声。でも、それ以上に。
「――――――ライダー、止めてぇぇえええっ!」
そんな桜の、ありえない絶叫が響いた。
※
色が、戻る。血の赤から、黄昏の赤に。
「桜?」
動けないでいる。振り返ったままの姿勢で固まる俺。セイバーもまた、見えない剣を下ろして呆然と驚いている。それは、そうだろう。一瞬の間に、ライダーが桜を抱きかかえて、俺とセイバーの間に着地したのだから。
立ち上る魔力は、既に、別物。嗚呼、サーヴァントだ。これはサーヴァントだ。さっきまでのそれとは、根本から異なっている。
「大丈夫、です、せんぱい……、一度張った場所には、簡単には、もう……っ」
「桜」
力つきかけているような桜に、しかし、ライダーは明らかに気を使っている。似たような目を、俺は知っている。さっき、俺の状態を見たセイバーのそれだ。
結界は、完全には収まっていない。その理由が、おそらく、ライダーが桜を気遣っているからだろう。
だからこそ。否応にでも認識させられてしまう。
「……問おう、ライダー。貴女は何をしている」
「――かように。サーヴァントとして、マスターを守護しているだけです」
――――桜が、マスター?
「な、馬鹿言うな、お前は僕の――――」
「シンジ。令呪は資格者の身体に刻まれるもの。私は、その身に聖痕を持たぬモノを、マスターと認めた事は一度もありません」
「な――――お、前」
「桜が作った
どういうことなのか、と。
理解が及んで居ない、そんな状況で。
「――――そういうコトだったのね、ライダー」
当然のように、遠坂が階段を上ってくる。アーチャーが背後で、ナギナタを構えている。
「どういうことだよ、一体。遠坂」
「……おそらく、逆なのでしょうシロウ」
「逆?」
「ええ。話したでしょ? 間桐の血は、既に廃れている。だから魔術師が新たに生まれはしない。
だからシンジは絶対マスターになれないはずだった。だから、間桐臓硯にライダーは召還されたものだと思っていた。
でも、よく考えればもっと簡単だった。だから逆なのよ。
臓硯は手を下すまでも無く――――」
遠坂は、少しだけ苦笑いを浮かべて。
「貴女の方がマスターとして選ばれていた。そうでしょ? 桜。――――間桐の正統な後継者たる貴女ならば」
喉が、動かない。
言葉の意味を把握できない。
なんで? どうして、そんなことになっているのかと。
「…………」
桜はただ、体を小さくしているばかり。
「偽臣の書。……令呪を消費し、その権利を『魔力を持たない第三者に』ゆずりわたすことが可能、と。まぁそんなところね」
「……」
「くそ、もう一度だ桜! もう一度、僕に支配権を――――」
「無理です、シンジ。
なにより、書物は家にあるのでしょう? 今、桜から令呪を取り上げたところで、私は完全に解放され、貴方に従う必要性がなくなる」
「な――――――――! くそッ」
悪態を付くシンジに、桜が声をかけ。
「もう、止めましょう? 兄さん」
「――――桜、お前、今なんて言った?」
「兄さんは……、約束を破りました。先輩を殺さないって言ったのに!」
確かに、シンジは明確に、俺を殺せとライダーに指示を出した。
そして――――シンジは嗤った。
「なら、時間稼ぎくらいはしろよ?」
ぱきん、と。桜の近くで何かが割れる音。
悲鳴を上げる桜と、逃げるシンジ。それを追おうと走る俺とアーチャーだったが。
――――耳につけられていた飾りが砕けた桜。こぼれた液体のようなそれにより。
「桜――――」
「動くなこの莫迦!」
いつのまにか、アーチャーは俺の肩を掴みそのまま後ろに付き飛ばす。
「離れてろ。
「エサ? なんだよそれ、おまえ一体――――」
――――瞬間。
弱まってた結界が、活動を再開した。
「な――――んだ、こ、れ――――」
呼吸さえできない。焼かれる様な痛み。
「ライダーが結果を切ってなかったのが原因ね。……、威力が桁違いに上がってる」
「な――――」
「シロウ!」
セイバーが駆け寄り、倒れかける俺を支える。
眼前では、アーチャーが当然のように斬りかかり、ライダーがそれを抑える。立ちはだかるライダーと衝突しつつ、一旦、お互いが距離をとった。
「記憶にはないが、覚えがあるぞ? ……ここで目覚めぬ眠りに落ちるが幸いか」
「アーチャー! ダメよ!」
「……ッ、世話の焼ける!」
「させません。今の私を、以前の私と同じく考えないことです。
サクラが喰い尽くされる前に、貴方のマスターを私がもらいうけます」
「まて、なんなんだ、これ?」
「暴走しているのよ、あの子」
「はぁ!?」
「詳細はわかりませんが……、この結界、動かしているのは桜なのでしょう。
アーチャーとライダーの口ぶりからして、理性でどうこうできるそれではない」
セイバーの言葉も、理解が及ばない。
が、そうこうしているうちに――――アーチャーの動きが、止まる。
「……やっぱり覚えがあるみたいだ。アンタ」
「そうですか。私が石化させた方々に、貴方のような
「うそ、石化の魔眼……!?」
「っ――――離れろ、このへっぽこマスターども! 本命が来る!」
腰まで石となりつつあるアーチャーは、声を荒げる。
その向こう、ライダーの奥から、赤黒い波紋が広がりつつある。
遠坂の動きが鈍い。
「――――」
死ぬ。俺より強く魔眼に魅入られているせいか、遠坂も動くことは出来ない。
セイバーも遠坂と同じくらいには、動きを阻害されている。
そして――ライダーはさっき、何といった?
その視線は、遠坂に向けられている。一直線に。
「――――、く、いけない、シロウ!」
セイバーの静止を聞くよりも前に、既に体は動いていた。
「え?」
当たり前のように、遠坂を突き飛ばす。その方がきっと、効率的だと判断したんだろう。なんと、なんと楽観的な。
そして――――俺は、轢かれた。
「シロウ――――――――!」
セイバーの叫び声と。
「そんな、い――――いやぁーーーあああ…………!!!」
桜の絶叫とがこだまし――――桜は倒れ伏した。
一方その頃、弓道部にて
冬木の虎「く・・・、みんな・・・、早く救急車呼ばないと・・・、誰か・・・」
????『――――力が欲しいか』
冬木の虎「え? こいつ、頭の中に、直接・・・!?」
????『バビロニアの神々の力が欲しいかニャ?』
冬木の虎「なんでバビロン限定? ――――ガクッ」