ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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・昼食時

居間:
セ「は! やっ!」
シ「それだと焼けてもバラバラになるぞ、セイバー。
  こうやってやるんだ」
セ「さすがです、シロウ」
リ「……緊張感ないわね、貴方たち」
 
屋根上:
ボ「……わずかに聞こえる音からして、焼き目が足りないな。セイバーのマスター」



戦闘お姉さんSexy-Flash!  その3

 

 

 

 

 

 昼食もそぞろに、アサシンとキャスターの話をする俺たち。

 

「並じゃないわね、あのアサシン。それもう、第二魔法の域じゃない」

「第二魔法?」

「そ。魔術とは異なる、本物の神秘よ。

 魔術っていうのは、等価交換の原則を持って、この世界にある『結果』を再現する神秘よ。

 対して魔法っていうのは、その更に起源にある、根源から直接引き出される神秘。結果とか、そういう次元のものじゃないの」

「科学と超能力みたいなものか?」

「うまい例えね。万人が観測できる科学と魔術を同列に扱うのは微妙だけど、概念的には近いものよ。

 ――――魔法は、魔術で再現できないからこそ魔法なの。そして第二魔法っていうのは、並行世界に干渉する力。

 つまりそのアサシンがやったのは、並行世界に、可能性として存在する異なる攻撃を、この世界に呼び出して同時に使った、ってことになるのかしら……。とうてい人間の技術じゃないわよね」

 

 というか、あー、と。何故か遠坂は頭をかかえる。

 

「煩いステッキのこと思い出したわ。あー、あれも第二魔法由来って話だったかしら」

「?」

「なんでもないわ。でも、そう考えると難しいわね。

 キャスターの溜めている魔力量は尋常じゃなかたわ。拠点をかえられたとしても、今度は不意打ちは通用しない。

 そこにアサシンの守りが入るんだから、たまったものじゃないわね」

「剣士と弓兵が同時に戦場に出るようなものですね」

「それだけ聞くと、俺たちが組んで戦えば、なんとかなるんじゃないか……?」

「難しいでしょうね。なんでか、うちのアーチャーはこと貴方に関して、妙に警戒してるみたいだし」

「なんでさ」

 

 俺の反応に、遠坂が頭を抱える。セイバーは苦笑いのようなものを浮かべた。

 

「そーゆーところが原因なんだけど……。まぁいいわ。貴方はそこがいいところなんだから。慎二と違って」

「? あ、そいえば今日、慎二と何かあったって聞いたけど」

「ナックルパート御見舞いしてきたわ」

「なんでさ!?」

「物言いが気にくわなかったからギッタンギッタンにしてやってきただけよ。

 『負けたわけじゃない』『爺さんに取り上げられただけだ』って言って。『衛宮は使えないから、休戦なんて止めてとっとと倒そう』って、同盟組もうなんて言って来たわ。いいかげん煩かったから殴って黙らせたけど」

「いくらなんでも短気すぎるだろ、それ……」

「なによ。いっとくけど被害者は私の方よ?」

 

 それにしても、なんでわざわざ、ピンポイントで俺の名前を決め打ちしてくるのか。

 

「さあ。ライバル意識でもあるんじゃない? アイツ。

 貴方の方が魔術師に向いてる、間桐慎二は人畜無害だって言ったから。同盟組むんなら、半端なマスターじゃなくて衛宮くんの方がいいって言ったし」

「……俺の方が向いてる?」

「ええ。私の見立てじゃね。それが良いことのなのか、悪い事なのかは別にして」

「なんでさ。いや、純粋によく意味がわからないというか……」

 

 むっとした表情で俺を見る遠坂。ちらりとその視線が、虚空のどこかに向けられる。

 

 だが、それは色々まずいだろ。その言い回しは致命傷だ。

 

「けど、不思議って言えば不思議かしら。性格的に誰かと協力なんて考えなさそうなのに、私に言ってくるんだから」

「……いや、不思議でもなんでもない」

「?」

「慎二にとって、お前は特別なんだよ。

 あいつ、元々魔術師の家系なんだろ? なら、似たような血筋だけれど、未だに立派に魔術師の血を継いでいる遠坂がいるんだ。意識しないわけにはいかないだろう」

「あら、対抗意識燃やして、出し抜こうっていうの?」

「いや、だから……、憧れてたんだろうって」

 

 スマン、シンジ。と、内心で両手を合わせ、友人の名誉を地獄にくべる。時に察しが悪い相手と話している場合、友誼より効率が優先されることもあるのだ。このあくま、純真無垢な男子の敵には違いない。

 そして、ここまで言ってようやく理解したのか、困惑するように慌てる遠坂。と、うーんと唸りだして。

 

「……あー、思い出した。一年のころ、アイツに告白されてたわ。私」

「あっちゃぁ……」

「うわー、どうりで懲りずに話しかけてくるわけだ。納得したわ」

「……俺の内心には同情しかわかないんだが、その反応だと、返事は」

「まあ、そういうことじゃない? 忘れてるくらいだし。

 私、相手から勝負をしかけられても乗れないっていうか。基本自分から攻めて行かないと」

「…………お前、じゃんけん弱いだろ」

「え!? うそ、なんでアンタもそんなこと知ってるのよ!?」

 

 口ぶりからしてアーチャーからも同じ指摘を受けたのか……。そりゃ感性的丸出しに先出しが好きだったら、さぞ後だしには弱かろう。

 

「まぁいいわ。とりあえず、士郎にも魔術を教えなきゃいけないんだけど……。工房ってどこ? 貴方」

「工房……」

「何、その反応」

「いや、一応土蔵の方で鍛錬をしてるんだが」

「んん……、なんだか先が思いやられるわね……。とりあえず見ておくわ。貴方はここに居て。一応病み上がりなんだし」

 

 遠坂が席を立つと、セイバーもそれに続く。「休戦というだけであり、水面下では敵対状態ですから」とはセイバーの弁。もっとも、そのセイバーをして安静にしていろと言われるくらいに、俺は落ち着きがないのだろうか。

 

 夕方。そろそろ桜が来てもいいころだというのに、いっこうに来る気配は無い。

 

「大丈夫か、桜。この間、体調崩してたし……」

 

 と、居間の電話が鳴る。セイバーも遠坂もいない状況で、俺は受話器を取った。

 

「はい、衛宮ですが」

『よう衛宮。今日休んだみたいだけど、体の調子が悪いのかい?』

 

 くぐもった笑いが混ざった、シンジの声。

 

「シンジか? 何か用か、話すことなんて……、あー、ご愁傷様」

『おいお前、それは何に対する反応だ? 一体何の話をしてるんだ!?』

 

 大慌てのシンジ。聞けば、ちょっと声色がおかしい。少し引きつったようになっているしゃべりかたは、おそらく頬をガーゼなどで覆って話しにくいからだろう。経験があるので、その状態については理解できる。理解できるからこそ、遠坂の言葉が事実だったことを理解して、なおいっそう掛ける言葉が無い。

 

『うちの爺さんに、お前もマスターになったって聞いたからね。ひとついいことを教えておいてやろうと思って』

「いいこと……? いっとくけど、一応病み上がりなんだ。昨日の夜、アサシンに斬られた。後日に出来ないか?」

『へ……、へぇ、なるほど、それで負け犬みたいに逃げ帰ったと。は! やっぱりシロートは使い物にならないね』

「いや、そういう問題じゃなく……。まぁ、今日はどんまい! お互いお大事にってことだ」

『だからさっきから何だその、つかまり立ちをしそうな赤ちゃんでも見守るようなテンションは!

 いるのか? まさかそこに遠坂がいるってのか!?』

「いや……、…………」

『曖昧に濁さないでー!? そこ重要なところだろ!!』

 

 時に、何をどう答えてもロクな返答として機能しない状況がある。俗に言うやぶへびってやつ。

 

「まぁ、切迫する理由はわからんわけじゃないが……。

 今、席を外してるから、あのあかいあくまの愚痴くらいなら聞くぞ?」

『あかいあくまとは言い得て妙だね……。じゃなくて!

 へぇ、ちょうどいいことを聞いた。――――なぁ、二人だけで話がしたいんだ。今から学校に来いよ、衛宮。もちろん、サーヴァントや遠坂には内緒でね』

「いや、だから……」

 

 遠坂にこっぴどい仕打ちをされた直後のこの反応。明らかに興奮状態にあるしゃべり方。

 

「悪いけど、後日にしてくれないか?」

『後日? へぇ――――桜がどうなってもいいんだ、お前』

 

 ――――――――。

 

「桜をどうした、慎二」

『あ? どうしたって、学校だよ。今日来てなかったから気付いてないだろうけど、桜は倒れてね。

 おかげで僕の準備もはかどったから、マシだけど』

「準備?」

『ああ。

 まぁ、無事だとは思うよ? 物騒なことを言わないで欲しいな。可愛い可愛い僕の妹なんだからさ。どうもするわけないだろ?

 ――――お前が一人で来るなら、な』

 

 言葉に、嫌な感触を覚える。

 

「……回りくどいのはいい。手っ取り早く用件を言え」

『いいねぇ。肝心のところで物分りが良いところは好きだよ、衛宮。

 ――――場所は学校だ。いいかい、くれぐれも一人で来るんだ。いいかげんカタを付けようじゃないか。どっちが、より優れているのかってさ!』

 

 がちゃり、と勢い良く電話が切られた。

 一度だけ室内を見回し、書置きを残す。シンジが出した条件。何かあったら俺からセイバーを呼ぶこと。とりあえずそれだけをまとめて、俺は走り出した。

 

「――――どこに行くんだ」

 

 と、玄関でアーチャーが腕を組んで待っている。

 

「どこだっていいだろ!」

「ふむ。……なら、買い物に行ったと解釈しておこう」

 

 立ち去る俺に向けて、アーチャーは嗤いながらそんなことを言った。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 放課後、まだ辛うじて夕暮れ。

 授業が終わってから時間がそこそこ経っているとはいえ、まだまだ生徒も残っている。自習だったり、部活動だったり。グラウンドの方で蒔寺から嫌味というか、野次を飛ばされながら教室に向かう。

 

 特に場所を指定されたわけじゃないが、3階に上がる。当然のように廊下は無人。

 

 そして――――そこに居た。

 

「桜!」

 

 黒いサーヴァントを従えたシンジ。その手にはナイフと、桜の首元を押さえている。ナイフは少しでも手を狂わせれば、そのまま桜の首を裂くだろう。

 

「おまえ――――」

 

 はじけかける思考を押さえつける。焦るな、衛宮士郎。状況は最悪。何をしたところで、選択は、桜の命を担保にしている。俺のミスは桜の死に直結するのだ。はやるな、落ち着くんだ。

 怒りに任せて一歩足を踏み出したものの、それ以上は進まずにいられた。

 

「――――賢明ですね、セイバーのマスター。

 こちらに近づけば、彼女の無事()保証できない」

 

 桜は俺にとって、日常の側の象徴みたいなものだ。

 だからこそ、今の状況に桜が巻き込まれているというのが、許せない。

 

「シンジ――――!」

「思った通り来たな、衛宮。お前のことだから、馬鹿正直にするとは思ってたよ」

「……なんでそんなコトしてるんだ、お前。

 お前が憎いのは、俺とか、遠坂とかであって、こんな手段とらなくても呼び出されれば、ここまで来たんだぞ―――!」

 

 家族は守るべきものだ。妹は守るべきものだ。

 そんな――――”俺が助けられ無かったものを”――――。

 

「お前、本気でそんなことやってんのか、シンジ!」

「当然だろ。本気だからここで待っていたんじゃないか。

 わからないなぁ衛宮。お前、僕と戦うつもりで来たんじゃないだろ?」

「……さっきまではな。そんな状況見せられて、冷静でいられるかってんだ」

「へぇ? 頼れる兄貴としちゃ、嬉しいこと言ってくれるねぇ」

 

 桜は俯いている。気を失っているわけじゃないだろうが、視線が定まっていない。

 桜は事情を知ってしまったのだろうか? いや、そんなことはいい。今は――――。

 

「どうすれば桜を離す、シンジ」

「そう睨むなよ、衛宮。お前が誠意を見せるなら僕も応えるよ。約束する」

「約束は守れよ、シンジ」

「ああ。僕らの親交に誓って」

 

 今のシンジとの付き合いだけを見ればずいぶん薄っぺらいように感じるかもしれないが、俺たちの仲は存外、長い。友達でいた時間が長いからこそ、今の言葉には虚飾はないだろうと判断する。

 

「で、何をするんだ? 生憎、料理くらいしかできないが」

「いや、衛宮が料理上手だっていうのはもういいよ、桜からも口すっぱく言われてるし……。

 ケリをつけるって言ったろ? でも、ただのケンカじゃ僕が勝つのは当たり前だし。魔術でっていうのも不公平じゃないか。僕は魔術師じゃないんだし。

 だから公平を期して――――ライダーとステゴロしてもらうよ」

「――――言ってくれるじゃないか」

 

 生身でサーヴァントと殴りあうとか。そんなの普通、死ねといってるようなもんじゃないか。

 

「なに、手加減するようには言ってある。

 ま、うろちょろされるのも目障りだから、二、三本、骨折らせてもらうけど。簡単には倒れるなよ?」

 

 ライダーは素手のまま。武器らしいものも、乗るようなものも持ってない。正面から向かい合う俺でさえ殺気のようなものも感じないので、手加減らしきものはする気のようだ。

 

「何がしたいんだ、お前」

「決まってるだろ? ――――単にお前を、ぶちのめしたいんだよ!」

 

 

 ライダーの体が跳ね――――。

 

 

「――――やさしく行きます」

 

 

 そんな言葉と裏腹に、俺の体は簡単に弾けとんだ。

 

 

 

 

 

 

 




・シロウが立ち去った後

居間:
ボブ「・・・・・・」シロウの書き置きを処分する

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