ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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ちびノブ(織田信長)
ちびデブ(カエサル)

ちびボブ(ボブ)

というのが唐突に脳裏を過ぎったです。


戦闘お姉さんSexy-Flash!  その2

 

 

 

 

  

「シロウは、剣術を習ったコトはないのですか?」

「ああ。藤ねえに教えてくれって言ったり、切嗣(オヤジ)と打ち合ったりしたことはあったけど、ちゃんとはな。特に藤ねえは、全然教えてくれなかったし」

「……きっと、シロウの身を案じたのでしょう。昔から無茶をしていたはずだ」

 

 む、と。否定できない俺に、セイバーは少しだけ胸を張って、目を閉じて笑った。

 鎧姿で竹刀を手に取るセイバー。道場に差し込む光。ぼんやりと見れば違和感まみれではあったけど、しかし剣を構える姿勢は一切の違和感を感じない。確か西洋剣って、盾と剣を両手にそれぞれ持つのが基本だったと思うのだけれど、セイバーのそれは、ひょっとしたら女性だったから、力を出すためにということなのかもしれない。

 まぁ、そもそもセイバーの技量なら、盾などなくとも避けられるし。むしろ一撃の威力を上げるために両手持ちということも、充分に考えられるのだけど。

 

「しかし前も思ったけどセイバー、その格好、疲れないか?」

「は? あ、いえ。マスターが戦う意思を養っているときに、鎧を纏わないのは失礼にあたるかと」

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと?」

 

 訝しげに俺を見るセイバーに、少し苦笑する。

 

「確かに、鎧姿の方が気合は入るけど、気が済まないって訳じゃない。セイバーが動きやすい格好で良いし、何より魔力を使うだろ?」

「それもそうですが……、となると、あの服装で剣を振るうのはおかしくはないでしょうか」

「なんでさ。似合ってるからおかしくはないと思うぞ?」

「……? 理解しかねます。凛からもらった服では、戦闘には耐えられないと思うのですが」

「その格好で戦うな、ばか。女の子には、そういう服のが似合うんだから、それでいいんだ」

「!」

 

 竹刀を手に取り、セイバーはまじまじとこちらを見つめてくる。様子がちょっとおかしい気がする。なんだか、俺の方に意識が集中していないっていうか。

 

「……わかりました。では」

 

 と、一瞬で鎧が溶けて、いつもの服装に。ところで今まであんまり気にしてなかったけど、意外とその服はリボンが多い。遠坂の趣味、なんだろうか……。

 

 そんな雑念を抱えながら、戦闘。……俺からすれば戦闘。

 結果は、まぁ、押して知るべし。無為に何時間もついやして、やっぱり突破口は見えない。

 

「貴方は、魔術師としてはともかく、戦士としては悲観したものではありません。

 ですが間違えてはいけない。貴方は全てが充実した状態でなければ、サーヴァントと戦いにさえならない。最悪の状況では、戦うという選択自体が間違いだ」

「つまり、逃げろと?」

「そういうコトです。シロウの戦いは、自身と状況、その双方を万全に調整することから始まるのです」

「合理的というか効率的というか……、納得」

 

 倒れたまま伸びをして、上半身を起こす。

 

「――――」

 

 そんな俺に、何故かセイバーは微笑む。

 

「ど、どうした?」

「いえ。それでも一日前に比べれば疲弊度合いが違うと思いまして」

「そりゃ、あれだけ打ち込まれればなぁ……。

 そもそも作ったり直したりする方にしか感心がないから、あんまり道具使ってケンカするの苦手だったんだよな」

「作る、ですか」

 

 不思議そうに見つめてくるセイバー。あー、そういえば、セイバーには見せた事がなかったか。

 

「昔、『投影』なんかやったせいかな。こう、構造を見たり、考えたりするのが結構楽しい。そのものの歴史とかを読んでるみたいで」

「なるほど。シロウは職人か、賢人のようなことを言いますね」

「職人って訳でもないんだけどな……。強化の魔術の時にも、解析は必要になってくるし。って、賢人?」

「はい。酷い魔術師(メイガス)でした。あれは」

 

 その時だけ、何故か苦虫を噛み潰したような表情をするセイバー。何があった。

 

 しばらくの無言。まだ体の痛みが抜けないのを察して、セイバーも再開とは言わない。行儀良く正座する佇まいは、本当、綺麗だと思う。

 異性として、という意味じゃなく、在り方として綺麗だと思う。

 

 そんな彼女が戦いを肯とすることには、やはり違和感がある。

 

 今、ここには自分とセイバーしかいない。何か話すにはいい機会だし、ここは――――。

 

 

「……第四次聖杯戦争って、どんな感じだったんだ?」

「――――はい? 何か言いましたか、シロウ?」

「え? あ、いや。その、前の聖杯戦争にも参加していたって言ったろ? セイバー。だったら当時、セイバーがどんな戦い方をしていたのか聞いてみたくって。何か参考にできればと思って」

「はぁ。確かに、それは答え辛いわけでは……、…………」

 

 最初は思案するように。段々と苦悶を浮かべるように変質していく表情。

 

「あー、悪い。言いたくないことがあるなら、それはいいんだ。切嗣(オヤジ)への文句も俺が聞かなきゃいけないんだろうけど、それを思い出して、セイバーが嫌な気持ちになるのも本末転倒というか」

「いえ、シロウの意見は正しい。ただ、貴方が参考に出来そうなものかと言うと、色々と……」

 

 そんなに外道なことしていたのだろうか、切嗣(オヤジ)

 

「そうですね。魔術工房の爆破に始まり、騙し打ち、スケープゴート。挙句の果てに××に××××――」

「業が深い……」

「ええ、とっても」

 

 そこで満面の笑みを浮かべるあたり、セイバーに蓄積されている切嗣への暗い感情がうかがい知れるようで、色々と不安だ。

 

「あ、でもそうですね。乗り物には何度か乗りましたか」

「乗り物?」

「ええ。セイバークラスのサーヴァントは、対魔力の他に、騎乗の技術(スキル)が保障されます。

 今もある程度は乗りこなせますが、当時は更に上を行く状態でした」

「ふぅん。ちなみにどんな?」

「戦闘でいうのならば、一番大きかったのはライダーとバイクでカーチェイスしたことでしょうか」

 

 えへん、と胸を張るセイバー。

 ら、ライダーと……?

 

「ええ。キュイラッシェ――編みこみ鎧として使用している魔力を、そのまま大型車両に注ぎこみ。更には風王結界をまとわせ、そりゃあもう大立ち回りでしたとも!」

 

 よくわからないものの、なんだかとんでもない状態だったというのは理解できる。

 なるほど、セイバーは乗り物に強いと。となると、今、うちで提供できる代物といったら買い出しとかに使うようなママチャ――――。

 

 不意に、脳裏でママチャリに乗りながら、全力でランサーを追い回すセイバーの図が思い浮かぶ。

 なんだろう、違和感しかないのに勝てる気がしない。

 

「し、シロウ? なんですその顔は」

「なんでもない――――っ、っ。

 セイバー、始めよう。休憩はもういいよ」

 

 ひょい、と落ちていた竹刀をひろって、立ち上がるセイバー。と、くきゅるる、と間の抜けた音が道場に響き渡った。

 

「空腹のようです。鍛錬に夢中で気が付きませんでした」 

「そういえば、もうお昼か。

 ささっと材料とか、ソースとか買ってくるから、セイバーは居間で休んでいてくれ」

「シロウ、外出するなら私も付き添いますが」

 

 不意に、再び脳裏を過ぎるちゃりんこライダーなセイバー。

 

「……ですから、何ですその表情は。言いたい事があるならはっきりするべきです、マスター」

「い、いや、本当に大した事じゃないんだ!

 大丈夫、真昼間から襲いかかってくるヤツはいないし、セイバーがいたら逆に目立つんじゃ」

「でしたら変装を、」

「あれを変装とはみとめないでござる」

「ござ……?」

 

 シークタイムゼロ、脊髄反射で即答したよ。

 

「大体目立つとは言いますが、既に一度、私は町を放浪しています。今更ではないでしょうか」

「そういわれればそうかもしれないけど……」

 

 

 結局、セイバーに押し切られる形で、二人して自転車を漕ぐことになった。上はジャージで首にはマフラー。頭にはキャップといつか見た謎のストーキング剣士姿。

 

「~~♪」

 

 そこに自転車を漕ぐためにか、どこからか取り出したホットパンツ姿というのが中々に刺激が強い。冬場だというのに特に気にした様子も無く、セイバーは楽しげに自転車を漕いでいる。説明をした覚えはなかったのだけど、存外、楽しそうだ。

 

 流石に昼間ということもあり、交差点には買い物帰りの主婦さんも多い。そんな中で、ママチャリを駆る少年少女というのは結構場違いな感じもした。

 

「シロウ、大判焼きを! 残存兵力はわずかです!」

「それ、今、新しいの焼いてるみたいだから後でな」

 

 そんなやりとりをしながら、一通り買い物を済ませる。二人分の昼食の材料と、大判焼きとか和菓子。セイバーからのリクエストで、目玉焼き用に卵とか、色々。

 

「ところで、何を作るのですか?」

「ん? ああ、キャベツ切りすぎたから、藤ねえでも簡単に作れるシンプル料理。通称、お好み焼きを――――」

 

 ――と。特に何か理由があったわけではないのだが。

 

「――――が―――ー、だから――――」

「ダメじゃ――――、セラに見つかっちゃうわよ?」

「うん、それは、こまる」

 

 背後から何やら、聞き覚えのあるような声が聞こえる。正確には、会話しているもう片方に覚えがあるというか。

 

 なんだろうと振り返る。

 

「ケーキ、みんなの分?」

「そうそう! 結局セラだって、食べたがってるんだから、買って行けばいいのよ」

「うん。セラ、よく来てる」

 

 そこには。

 看護師さんみたいなメイド服を着た女性と、銀の髪をした幼い少女の姿が。

 

「な――――!」

「シロウ!?」

 

 セイバーが咄嗟に俺の前に構えたお陰で、自転車を倒すことこそなかったものの。

 

 こちらの反応を見て、少女、イリヤスフィールは「あ、シロウだ!」と、楽しげに手を振ってきた。

 

「「……?」」 

 

 イリヤからは、夜のあの時と違い殺気のようなものが感じられない。セイバーもそれは同様なのか、納得がいっていないような顔をしている。

 

「よかった、生きてたんだね。お兄ちゃん」

「何のつもりですか、イリヤスフィール!」

「? あれ、セイバーやる気なの? でも、お日様が出てるうちに戦っちゃダメなんだから」

 

 め! とセイバーをしかるような口調で、イリヤは指を交差させる。どう見ても年相応の、幼い少女の仕草だった。

 

「そう身構えなくていいよ? 二人とも。今日はバーサーカーも置いてきたの。

 今は、リズに見つかっちゃったけど、ケーキで懐柔してるところだし」

「む」

 

 イリヤの背後の、メイドさんだろうか……? ちょっと片言っぽいしゃべりをする彼女は、俺たちに一度頭を下げた。

 そんな彼女に「先に帰って!」と言ってから、イリヤはこちらの方に駆けて来て。セイバーが間に挟まるカタチにはなったが、それでもイリヤは頭を傾げて、笑った。

 

「ね、お話しよ? わたしね、話したいコトいっぱいあったんだから」

「話?」

「フツウの子供って、仲良くお話するものなんでしょ? だから、お話」

「……」

 

 脳裏に過ぎるのは、セイバーが話してくれた事実。彼女が、切嗣の娘かもしれないってこと。

 外見からして違和感はあるが、だったらなおのこと、話しておきたい。

  

「シロウ?」

「……わかった。俺も話したいことがないわけじゃなかったからな」

「うん! それじゃ、あっちの公園にいこ? ちょうど誰もいなかったから!」

 

 そんなことを言いながら、俺たちをせかすイリヤ。

 

「セイバー、何かあったら頼む」

「何かあったらって……、正気ですか!? シロウ」

「嗚呼。言ったろ? 切嗣(オヤジ)に文句があるんだったら、俺が聞く。セイバーもだし、イリヤだってそうだ」

「それは……」

 

 セイバーは、下を向き、眉を寄せる。失敗した、と何か表情が物語っているようだ。

 だけれど、イリヤに戦意がないのが本物だと直感しているのか、結局止められることはなかった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「それで結局、切嗣については話題にも上がりませんでしたね」

「ダメだ、いざ話すとなると話題を選んじゃって……」

 

 つーん、とした目で見てくるセイバー。

 

 それでも、とりとめもない話題の応酬でわかったことがある。切嗣について確かに知ってる口ぶりだったけど……、それでも、今日、俺に敵意を向けては来なかった。

 

 さっき話したイリヤは、マスターじゃなかった。

 

 それだけは確かだ。

 

「悪い、セイバー。昼食が遅くなっちまって」

「いえ。……やはり、シロウに話したのは失敗だった」

「? それって、オヤジのことか」

「はい」

「なんでさ。俺、嬉しかったぞ?」

「ですが……、それで貴方を危険にさらしてしまっては、本末転倒だ」

「いや……。確かに今日は、イリヤと話したけれど、戦いの場ではまた別だぞ?

 あいつがマスターとして戦うなら、きちんと止める。何も変わらないじゃないか」

「止める、ですか……。

 貴方も筋金入りだ、シロウ」

 

 嘆息するセイバーからは「打つ手ナシ」と言わんばかりの態度を感じ取った。

 

「さて、じゃあとりあえずホットプレートを――――、ピンポン?」

「シロウ、来客のようですが」

 

 ちょっと行ってくると断りを入れて、小走りで玄関に向かう。

 この時間、夕方、誰かが尋ねてくるなんて珍しい。藤ねえはチャイムなんざ鳴らさないし、なにより合い鍵持ってる。誰だろうか、一体。

 

 挨拶をしながら玄関を開けると。

 途端。

 

「――――――」

「――――――」

 

 ばったり思考が停止した。

 

 ぴりぴりしている遠坂と見詰め合うこと数秒。

 

「な、なんで?」

「学校。休むなんて聞いてなかったから様子見。学校内での契約を、いきなり無視されるとも思わなかったし」

 

 それって、あれか。学校内でアーチャーに、遠坂だけじゃなく俺も守って貰うっていう例の。

 

「大丈夫なの? 貴方」

「あー、とりあえずは大丈夫。昨日の今日だし、今日はセイバーにみっちり授業してもらいたかったってだけだから」

「昨日の今日って、むしろ普通は……。まぁいいわ。ところで、なんでエプロン姿なの?」

「これから昼食」

「え!? うそ、そんなにセイバーと打ち合って立ってわけ?」

 

 事実は少し違うのだが、イリヤのことをいう訳にもいかない。そこは適当にぼかしながら、のらりくらりとかわしていると。

 

「ふぅん。衛宮くんの料理、ちょっと興味あるわね。私ももらっていい?」

「興味っていったって、お好み焼きだぞ? って、あ、おい――――」

「昨日の残り物とかもあるでしょ? 少しでいいから、何か食べさせて」

「そんなに俺の料理の腕が気になるのか……?」

「もっちろん! 相手の戦力は分析しないと」

 

 何を分析するというのだろうか。

 

「っていうか、太るぞ?」

「なによ、失敬ね貴方! いいのよ、毎日じゃなしい、それくらいのヘルスコントロールは出来て当たり前よ!」

 

 そんなことを言いながら、ずかずかと家に上がりこむ遠坂。……って、いやいや、なんか、とんでもない状況じゃないのかこれ!? 学園のアイドルで同学年の女の子だぞ、遠坂!!?

 

 動揺している俺に、苦笑いを浮かべた声が聞こえる。

 

「――――察してやってくれ、セイバーのマスター」

 

 どこか気だるげなそれは、間違いなくアーチャーのそれだ。……なんでだろう、どうしてかこいつの声を聞いていると、こう、気分が鬱屈してくる。

 

「……何を察しろって?」

「マスターの名誉なんぞ関係ないから話すが、少し気が立ってるのだ。今日は昼を抜いている上に、帰り際に絡んできた男子生徒をぶん殴って帰ってきたからな」

「穏やかじゃないな、それ……。何だったんだ?」

「人畜無害な生徒だったよ。

 だがまぁ、癪には障ったんだろう。俺もよくは覚えていない」

「? なんでさ、今日のというか、さっきの出来事なんだろ?」

「キッチンタイマーで計測していない時間なんて、俺にとっては膨大すぎる」

 

 いまいち言っている言葉の意味がわからない。

 というか昼を抜いてるって……?

 

「要するに、お前が作ってくるだろう弁当をアテに――――」

「アーチャー! 余計な事は言わない!」

「――――む! っ、っ、……」

 

 そして遠坂の言葉に、何故か過剰に反応するアーチャーだった。

 

 

 

 

 で。

 ダンダンと豪快に肉を捌く。キャベツだけは山のように用意してあるし、ホットプレートの準備も充分。卵もちょちょいちょかき混ぜて、てんかすその他もろもろボウルに開けて。

 

「よし、ぶた玉はこれでいいとして、後は……」

「シーフードは待ってろ。今、海老に包丁を入れている」

 

 ……で。

 何故か今、俺の隣にアーチャーが立って、俺の作業を手伝っている。

 

 遠坂が突如「いいかげんセイバーもお腹空いてるだろうし、二人で準備すれば早いんじゃない?」なんてのたまいやがってからに、アーチャーも俺もしぶしぶ協力する形に。

 にしても、エプロン似合わないなコイツ……。別段、字面からして変なところはないのに、映像として組み合わせるとこうも違和感を撒き散らすのだろうか。

 

 しかし、海老の頭の落とし方とか、殻の剥ぎ方とか、包丁の入れ方とか、明らかに技量は俺よりはるか上だ。とてもじゃないが、神話とかの英雄が持っている技能じゃない。

 

「お前、どこの英雄なんだよ。明らかに素人の細工じゃないぞ、それ」

「知らん。なんでかな、体が覚えているというか……。ほら、味見はお前がしろ」

「なんでさ」

こればっかり(ヽヽヽヽヽヽ)はどうしようもないからな。…………もっとも、俺が気にするのもおかしな話だが」

「?」

 

 アーチャーは眉間に皺を寄せて、不可思議そうに肩をすくめる。すくめながらも手作業にはよどみがなく、それが一層シュールだ。

 

「俺としては、もっと雑な方が楽なんだが」

「ハンバーガーとか?」

「ああ。焼いて挟むだけ。効率的だろ。いつどんな時間でも、一人で好きに食べられるし、味も関係ない」

「味は関係あるだろ。というより、流石にそこまで食事に効率性を求めはしないが……」

 

 そしてやはりというか。何故かこのアーチャーとの会話は、大した会話でなくとも気落ちさせられる。まるで、手塩にかけて育てた子犬が、交通事故で引かれて死んでしまったような、そんな縁起でもない気分になる。向こうもそんな感じなのか、表情は優れない。

 ただ、それでも饒舌なのは、色々と溜め込んでいるストレスがあるせいかもしれない。……時折、遠坂の話題で嗤うので、どう考えてもそこが原因みたいだけど。

 

「栄養をとるんだったら、ちゃんとした料理の方がいいだろ。それに、みんなで食卓を囲んだ方が合理的だ」

「なんでさ」

「それこそ、なんでさ。栄養は取った方がいいし、なにより、食事は賑やかな方が楽しいし」

「これはまた異なことを言う。

 前者はともかく、後者は食事に求めているものが違うな」

「む――――?」

 

 頭を傾げながら紅しょうがの準備をする俺に、アーチャーは少し嗤った。

 

「合理的、効率的とは言うが、突き詰めれば前者は自己中心的な考え方で、後者は楽観的な考え方にしか過ぎない。今の話でそれを振りかざすのは、あまり意味がない」

「? なんでさ。意味が繋がらないぞ?」

「繋がるぞ。

 どっちにも、何に対して理に適っているか、効率が良いのか、という視点が欠けているからな」

 

 ……イカを解体しながらそんな話をされても、俺はどんな顔をすれば良いのだろう。

 アーチャー本人も嗤っているので、何とも反応に困る。

 

「組織と構成員に当てはめてみろ。

 組織からすれば、合理的なのは『短期間に低コストで高い成果を上げる』ことで、効率的なのは『最初から最後まで従業員が勝手にやって勝手に終わらせて、問題を発生させず成果を納入する』ことだ。

 だが、従業員からすれば真逆になる。『いかに組織の方針を自分の都合にあわせられるか』、『いかに自分に被害が及ばない範囲で、単純作業化し、問題が発生しても組織に引き取って貰うか』だ」

「それは……、なんか、穿ってるぞ?」

「極論だからな。だが、究極的にはそうなる。

 お前がさっき挙げた話は、この意味からすればまた別だ。それぞれ全く異なる合理をもって食卓に臨んでいることになるからな」

「なんか、すごい修羅場みたいだな、そう言うと」

「人生そんなもんだ。

 ……強いて言えば、従業員の都合が一切みとめられない場所だと、従業員が段々と磨耗していくってくらいか」

 

 一通り捌き終わると、アーチャーは姿を消す。どうやら最初に言ったように、本当に食事をとるつもりはないらしい。

 

 でも、なんでだろう。

 

 

「あら、三種類あるのね、へぇ~」

「……シロウ?」

「…………なんでもない」

 

 最後のあいつの言葉。

 

 それだけは、妙な実感が篭ったような、そんな疲れた表情と声音だった。

 

 

 

 

 

 




本日のおしながき・・・
 
・おこのみやき
 ・ぶたたま
 ・めんたい
 ・シーフード
 
・野菜炒め(昨夜残り)
・煮物(昨夜残り)

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