ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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 輪転する力の循環は、既に崩壊に向かっていた。
 俺の目の前に浮かぶそれは、この場の多くの命を世界からか削り取ることを万人に約束していた。
 
 だから、俺はこんなところで引けない。
 
 こんなところで、無意味に、大勢の命が奪われる瞬間を、見過ごすことなんて出来ない。
 
 
 ――――脳裏を過ぎる、月夜の誓い。運命の夜。
 
 
 不意に、そいつが「手を指し伸ばした」。手、というにはあまりにお粗末で、あまりにおぞましいナニカ。
 
 それは、俺の求める答えを知っていた。
 それは、俺が求めた、そのものだった。
 
 だから――――――。
 
 
「――――――それで、誰も泣かずに済むのなら」
 
 
 俺は躊躇いなく、そいつに自分を委ねる事が出来た。
 
 
 
 
 


接触事故ⅮⅠE! その2

 

 

 

 

 

 

 ――――欠けた夢を見る。

 

 手の届かない夢を見る。霞み行くつながりに手を伸ばし、そっと目を開き。

 

 何のために戦い、何のために走り続けたのだろうか。蒙昧に混乱し、混線した認識と映像。いつもその起点は同じ。多くの命が失われる場所で、その原因に目を向け。

 

 

『――――――それで、誰も泣かずに済むのなら』

 

 

 伸ばされた手に、そいつは、当然のように応えた。

 

 自分の意味を売りわたし、誰にも己の裡を語らず。周りから見たら妖精か宇宙人。とんだ偏屈か変わり者。おまけに肝心なことを全然話さないから、無慈悲な人間とさえ思われただろう。

 

 そいつの目的は、だから誰にもわからない。

 

 少なくとも、知っている者は周りにはいない。

 

 英雄とかいう位置づけに押し上げられたって、色々なものを背負うようになったって、決して語ることのなかったこの動機。

 話すまでもなく、そいつは最後まで不気味にしか映らなかったんだろう。理由がわからない。救いの手を差し伸べる原理がまるで理解できない。そんなの不安にならないわけはない。だから、何か一つでも持っていけばよかったんだ。アイツは。

 

 富。名声。我欲。激情。愛――。

 

 そんなわかりやすいものを掲げるなら、あんな結果は待ってはいなかったんだから。

 

 願いの報酬は、いつも裏切り。すくい上げた物は砂のように、手のひらから零れ落ちて行く。

 

 それもいつか慣れて、そいつは笑わなくなった。

 だってそいつにとっては、ただ、助けられるだけでよかったんだから。それがそいつのやりたいことだったんだから。

 その最初の理由なんて、もう、思い出す必要だってなくなったんだから。

 

 ――――そんなことが何回も続いた。殴りたくなるような感情がこみ上げた。

  

 そいつは最後まで語らなかった。

 

 ――――馬鹿じゃないかと、本気で思った。

 

 長い長い、気が遠くなるような道のりの中。何が正しいのか定かでなくなってしまっても、ただの一度も、最初の願いを踏み外さなかった、その奇跡に。

 泪さえ流させる、その奇跡を起こしてしまったそいつに。

  

 

 そして、だからこそ――――願いを踏み外さないために、斬り捨ててきたからこそ。そいつは、とびきり性質の悪いものに引っかかった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 昼休み。

 生徒会室から帰ってきて、じき五時限目。次の科目の準備をしていると、机の中に妙なものがあった。

 

「なんだ、これ」

 

 ―――――覚えの無い紙切れ。発掘されたそれには、デフォルメされた猫のイラストが描かれていて。

 

 そして、定規で引かれた線で、以下のように書かれていた。

 

 ――――――放課後の弓道場裏 雑木林。来るべし。朝の事怒ってないから。

 来なかったら××(殺す)帰ります。

 

「……」言葉が無い。万一に備えて筆跡を変えているのだろうか、これは。「……遠坂、だよなこれ」

 

 朝の事、怒っていないっていってるし……。今朝方、結局断れず校門まで着いてきたセイバーと登校すると、珍しく朝早かった遠坂。セイバーの格好に一瞬あっけにとられたものの、俺の姿をみとめると、何故かこう、妙に苛立ったオーラを出していた。

 嫌な予感を覚えて逃走を計り、今日一日は何事もなく平和だったはずだ。セイバーの分の昼食だって用意したし、後は家に帰って……、と、本来ならそんなくらいの意識のはずだ。

 

 正直、こんな脅迫状はなかったことにしたいが、最後の一行が気になりすぎる。斜線が透けて見えるのまで計算していないだろうに、こういうところまで妙にドジっぽいというか。しかしこう、言い表したくない何かが出ている気がする。

 

 でもまぁ、気は乗らないが、遠坂と会話できるのは助かる。

 何分、学内での安全対策を考えないと、いよいよもって来週から「イギリスからきました、セイバーです」とか言って、藤ねえのお古を持ち出し、転校して来かねないような迫力がある。それはそれで見ては見たいけど、それはそれ、これはこれだ。

 

 

 ともあれ、既に夕暮れの放課後。

 約束の時間、アイツが何を企んでるかは知らないが、生徒の残った校舎だ。万一なにかあってもここまで逃げれば良いだろう。まっとうな魔術師なら、まず人目につくようなことはしないはずだ。その点、俺は遠坂を信頼している。

 

 深山町はその名の通り、山中に出来た町。当然坂も多く、中には小さな山に続いた道もある。学校の通学路だってそんな道の一つで、ここは丘の上だ。

 何が言いたいかというと、学校の裏手は未開拓の雑木林ということだ。セイバーをしてつまらなさそうな様子を見せるくらいには、ヒトの手が届いていない。

 

「?」

「あ」

 

 と、そんなことを考えていると、一人の女生徒とすれ違う。ショートカットに、メガネの上から大きなゴーグルをつけ、何やらピンセットとか持って腰のホルダーに採集しているような、こう、異様な雰囲気だ。

 今日はリュックを背負ってないみたいだが、見覚えがある。でも向こうは「どうも」と頭を下げるだけで、足早に弓道場の裏を後にした。

 

 ――で、ともかく。

 山登部とかも滅多に足を踏み入れないその奥で、一人、ご機嫌ななめな大魔人の姿があった。

 

「――――」

 

 どうしようセイバー、俺、すごく帰りたい。

 思ったところでどうしようもない。こんなことでセイバーは呼べないし、かといって引き返せばそれこそ終わりだ。脅迫状の主は、休戦協定とか容赦なく狙撃してくるに違いない。

 

 かといって近寄ることもはばかられるため、この場から声をかけてみる。

 

「あー、遠坂、来たぞー」

「……」

「おーい! 聞こえないのかー、遠坂! 手紙の通りに来たぞ!

 ……おい遠坂!」

 

 

「き こ え て る わ よ!

 そっちこそ、大声でヒトの名前連呼するなーーーーーーっ!」

 

 

 わざわざこちらまで突撃してきて、怒鳴る遠坂だった。

 

「すごいな遠坂、俺の時より反響大きいぞ」

「へ? あ……嘘、弓道場まで聞こえたかしら……」

 

 舌打ちして後ろに下がる遠坂。

 

「まーた調子狂わされたわ、ホント……」

「? 大声出したのがそんなに恥ずかしかったか?」

「そんな小さなコトに怒ったりしないわよ、この、送り羊!」

「なんでさ、なんだよ送り羊って。普通、狼じゃないのか? そういうの」

「擬態じゃないんだもの。狼を返り討ちに出来る突然変異種とかよ、きっと」

「もはやそれは羊でさえないんじゃないか……? こう、バフォメットとか、ジュプニグラスとか」

「マイナーなの知ってるわね貴方……。

 まぁいいわ。逃げずによく来たわね、士郎」

 

 遠坂の言葉に、衛宮士郎は思わず苦笑い。

 

「あんな物騒な脅迫状送られたら、無視できるわけないだろ」

「は? ちょっと、何よ脅迫状って」

「いや……、誰が見ても脅迫状だろ、アレ。俺以外のヤツが見つけてたら、一発でタイガー召喚案件だ」

「しょ、しょーがないでしょ、あんまり時間なかったんだし、伝言頼んだら絶対目立つし。用件だけ書くしかなかったのよ」

 

 それにしては全体的に、迫力がにじみ出ているというか。

 

「で、一体何の用だよ遠坂。今朝の様子、世間話をするって感じじゃなかったけど」

「それは……」

 

 遠坂は、俺をじっと見つめる。……何故だろう、そんな訝しげな視線でも、見つめられるとドキドキしてくるのは、流石に学年のアイドルとでも言うべきだろうか。

 

 しばらくしてから「……なんでこれが」と、何か残念がるような声を上げた。

 

「(でも、アレはたぶん、そういうことよね)」

「遠坂?」

「あ、うん、なんでもないわ。こっちの話だから。

 でも衛宮くん? セイバー連れてくるのはいいけど、途中までじゃ結局意味がないわ。逆にうかつな行動になってるわよ。自分はマスターだって喧伝しながら、肝心の学校で無防備なんだし」

「それはセイバーにも言ってる……、って、あれ? 遠坂、俺を心配してくれた?」

「そ――――、そんな訳ないでしょ、アーチャーみたいな言いがかりは止めてよね。

 私が呼び出したのは、そのことでよ」

「そのこと?」

「そ。衛宮くんはセイバーを学校に来させたくない。でも、学校内での安全は確保されていない。そんなところかしら」

 

 ふふん、と手で顔を覆って、悪い笑顔を浮かべる遠坂。知ってる。知らないけど知ってる。これ、絶対ロクなこと考えていないやつだ。

 

「……否定はしない。というより、むしろその話を遠坂に相談しようと思っていたところだった」

「あら。じゃあ渡りに船じゃない。

 それなら、この契約書にサインなさい?」

 

 ひらり、と。どこからともなく取り出された一枚の用紙。達筆な英文と和文で記されたその書類。

 

「……ボディーガード契約書?」

「そ。今は私の警護もしてるアーチャーだけど、契約すれば貴方の方も守ってくれる。これなら単純に、学内において貴方も鬼に金棒。

 ――――まさに遠坂・マネーイズパワーシステム!」

 

 そのすごく頭が悪そうなネーミングと、「うぉっしゃあああ!」とでも言わんばかりの遠坂の表情はともかく。

 

「正直、すごく助かる。助かるんだが……、支払いについて何も書いてないんだけど、そこはどうなんだ?」

「あら。だって貴方、私が本気で取り立てたら何が起こると思ってるの?」

「?」

「私、ここの土地のオーナー。在住している魔術師、お布施基本。おーばー?」

 

 頷きたくない良い笑顔。俺じゃなきゃ見逃しちゃうネ。それだけ短期間であっても、遠坂の表情がわかるようになってきたのが、良い事なのか悪い事なのか……。人間的に魅力的な面を知ると同時に、俺の中の優等生像は、ロンドンに遠征に出かけたらしい。きっと向こうで討ち死にして、戻ってくることもないだろう。

 

「……えっと、つまり?」

「そ。空手形をよこせって言ってるの。あーもちろん、交渉決裂したらその場で切ってもいいわよ。その場合、それまでの分で妥当な取立てをするから」

「遠坂が取り立てとか言うと、しゃれになってない感じがするのはなんでなんだろうな……。

 でも……、そうだな。そうしてもらえると助かるよ」

「じゃ、契約成立ってことで」

 

 だけど、と俺は前もって宣言する。

 

「セイバーの令呪をよこせーだとか、裏切れだとか、そういうのはナシだ。それは呑んで貰う」

「あら、へー、ちゃんとマスターとしての自覚が出てきたんだ。ふぅ~ん」  

「……なんだよ、その笑いは」

「べっつにぃ。

 んーじゃそうねぇ……。まず最初だけど」

「え!? まずって何だ、まずって」

「言ったじゃない、空手形だって」

 

 契約が続く限り、士郎は私に借りっぱなしってことだから、と。得意げに、楽しそうに指を立てて笑う遠坂だった。

 

「てはじめに、明日からお昼を謙譲するがよかろぉお。士郎、料理が上手らしいじゃない?」

「……はいはい、お姫様の仰せのままに……」

 

 誰さ、誰からの情報だよと問い返す気力も無く。

 諦めて肩を落とす俺を、何が楽しいのか遠坂はやっぱり笑っていた。

 

「うんうん、士郎の反応は良いわよね。飾ってない感じで、実にわかりやすくて」

「う、うるさいぞ、このあくまめっ」

「はいはい。

 あ、そうだ。ボディーガードついでにだけど、衛宮くん、一つ教えておくわ」

 

 と、急に真面目な顔になる遠坂。

 

「最近、冬木で起きてる昏倒事件だけれど。あの事件、引き起こしているマスターは柳洞寺にいるわ」

「!? 柳洞寺って、あの柳洞寺だよな」

「ええ。厄介な相手だから手を出すのなら気を付けなさい。命までとらずとも、無差別にヒトを襲ってるわ。

 ってことは、それが出来るだけの実力を併せ持ってるってことだから」

 

 下手に手加減しているんじゃなく、計画的に手を抜いている、と遠坂は語る。

 

「契約結んでいきなり死なれたんじゃ話しにならないし、これはサービスだと思っておいて。なんであんな辺鄙なところなのかってのは、ちょっと気になるけど……。

 まー、どんなに魔力を蓄えても人間が扱える分はたかが知れてるから、しばらく傍観するべきだと思うけれど」

 

 それじゃあね、と手を振って雑木林を後にする遠坂。

 

 ……俺も家路に踏み出そうとした瞬間、何故か「うひゃああ!?」とかいう、変な悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 深夜。衛宮家の庭にて。

 

「柳洞寺にマスターがいると。

 ……確かに、あそこに至る竜脈に作為的な何かを感じます。あの寺院を押さえれば、その程度の魔術は造作も無い。魔術師がいることは間違いないのでしょう」

「造作もない?」

「ええ。あそこは、落ちた竜脈――地脈の中心点の一つです。この地域の命脈が流れ落ちる場所ですから、そこに手を加えれば、労力なく効率的にヒトの魂を集められるでしょう」

 

 セイバーに遠坂から聞いた情報を話すと、それに対して確証のある返答が得られた。

 

「しかし、あの山はサーヴァントにとって鬼門です。正面突破以外の進入を阻む結界がある。軽はずみな侵攻は避けたい」

「鬼門?」

「あの山には、自然霊以外を排除する結界が張られている。生身の人間に影響はありませんが、私たちにとっては……」

「それじゃあ、セイバーたちは中で戦えないってことか?」

「能力は低下するでしょう」

 

 流石は人類史の英雄。そんじょそこらの幽霊とは格が違うようだ。もっとも、それでも十全とはいかないらしい。

 

「内側を除けば、寺に続く山道のみその限りではないと聞きます。もとより、完全封鎖すれば気の流れが淀んでしまう」

「つまり、正面突破しかないと。……でも、そんな手の込んだことをするマスターだ。罠が無いとは言い切れない」

「いえ。その必要はありません。早々に決着を付けるのならば、正面から力で踏破するのみです」

「……確かに、民間人に被害が出ている。一刻も早く止めなくちゃいけない。

 でも、だからこそ慎重に行きたいんだ。相手のマスターと、どのサーヴァントを連れているかの確認。今日の作戦目標はそうしたい」

 

 セイバーがそういうからには勝算もあるのだろう。だけれど、俺の脳裏には今でもあの時のセイバーの姿が映る。バーサーカーに切られ、血を流し、今にも体を崩しかねなかった。そこにアーチャーの狙撃が加わっていたら、どうなっていたことか。

 情けない話だが、今の所、俺はセイバーを援護できない。初めての稽古は夕食後、三時間ボロボロにされただけだ。それでも動ける程度の打ち身に留まっていたのは、セイバーの腕の成せるところか。

 

「何故です、マスター。初めから無傷での勝利など、我々にはない」

「バカ言うな! ケガしてもいいなんて、そんな話あるか。セイバーは俺から魔力供給を受けられないんだ。いくらセイバーがすごい英雄でも、今はまだその時じゃない。無理して共倒れになったら、それこそ本末転倒だろ」

「む――――――」

「言ったろ。一緒に戦うって。セイバーは放っておくと、行くんだーって思ったところまで真っ直ぐ進もうとするからなぁ……。なさけない話、俺がマスターなんだから、セイバーは本調子じゃない。それは理解しているな?」

「……判りました。判断はシロウに委ねます」

 

 しばらく黙った後、冷静な目でこちらに答えるセイバー。葛藤の時間が長かったことが、彼女が無理に納得したことをこちらに思い知らせる。

 

「ありがとう。って、色々いったけど、俺は戦闘経験が少ないからな……。俺の判断が正しいか、間違っているか。思ったコトがあったらその時に言ってくれ」

「わかりました。その時は忠告を。

 それならば、忠告するのみでは、貴方のためになりません。シロウの判断が間違っていたときは、私から、なんらかのペナルティを負ってもらう事にします」

「……む、具体的に言うと、どんなさ」

 

 俺の言葉に、セイバーは藤ねえを思わせるような、含み笑いとしたり顔を足したような表情になった。

 

「さあ、それを口にしてはつまらない。数少ない愉しみですから、私だけの秘密にしましょう」

「……なるべく、後に引かないような内容で頼む」

 

 というか冗談でないと困る。この感じは……今は帰った藤ねえだが、セイバーに与える影響は良くも悪くも大きいようだ。

 

 

 緊張感を上げ、意識を切り替える。

 マスターとして、セイバーの足手まといにならないように。今はその意識で、セイバーの後方から状況を見て、指示を出すのだ。

 

 そして、至る。柳洞寺の階段。

 

「――――」

「確かに、これは」 

 

 門へと至る階段は長く、風は山頂付近だというのに生暖かい。

 

「空気が淀んでいる。風が死んでいる」

 

 異様な雰囲気である、ということだけは俺も理解できる。一成と一緒に来た時には感じなかった何かが、今あの山門の向こうから発されていることくらいは判る。

 

「シロウは私の後ろに」

「ああ。ちゃんと見てるぞ、セイバー」

「……ええ。それでは、下手な格好は見せられない」

 

 少しだけ微笑み、セイバーが俺に先行する。大きく距離を離さず、つかず離れずの位置で俺達は前進する。

 

 そして頂上。あとわずかというところで、そいつは現れた。

 

 

「――――!」

 

 セイバーが見えない剣を構える。

 俺は一瞬体がこわばる。

 

 さらり、という音がするほどに自然体。信じがたいほどに隙がないくせに、向ける視線はただ「興味」のみ。敵意がない。

 

「侍の、サーヴァント?」

 

 セイバー。ランサー。アーチャー。バーサーカー。どれもこれも西洋、ないしは西洋文化圏に準じている存在だと思っていた。アーチャーも、個人的にはアメリカあたりと思ってはいるけど、それだって大元を辿ればイングランドにいきつく。

 

 だから、完全に日本の文化圏のサーヴァントの存在に、大きく驚かされた。

 

 セイバーも戸惑っている。そりゃ、自分以外にあんな剣を持った存在がいるから、当然かもしれない。もっとも、後で聞いたところによると「話にしか聞いた事の無かった侍を初めてみたから」という理由だったらしい。

 

「……シロウ、気を付けて。

 あのサーヴァントは、異常だ」

「…………異常?」

「英霊らしさがない。ランサーのような矜持もなければ、バーサーカーや、あの邪道なアーチャーでさえ持っていたはずの宝具も、魔力さえほとんど感じない」

 

 にもかかわらず、セイバーが踏み込めない。セイバーほどの達人をして、足を留まらせる何かがあの侍にはあるということか。

 それにしても、あの刀は長い。長すぎる。間合いが狂う上に、坂の上からとなると圧倒的にセイバーが不利だ。弓と同じで、高所をとった者は場を広く支配することができる。

 

 何か違和感を感じる。あの長さには、何か所以があるはずだ。人目で名前を知りうる以上に、何か別な。

 

 

「…………訊こう、その身は如何なるサーヴァントか」

 

「――――暗殺者(アサシン)のサーヴァント、佐々木小次郎」

 

 柳洞寺を守るサーヴァントは、あっけなく、歌うように応えた。

 

 

 

 

 




ボブ「・・・来たか」

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