ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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全く丁寧に説明するつもりのない「彼」のせいで、一体何が起こっているのかとかさっぱりさっぱりわからない;


Unlimited Lost Works (改訂版)
プロローグだったZe!


 

 

 

 

 

 まず己自身が、英雄として他者から呼び出されることはあるまい。

 何かの拍子で自身を知ったとしても、その在り様と、所業と、後に残るものを考えれば当然、そんなことは誰からも望まれず、許容されもしない。

 

 故にこの身は永遠に人類史に従属する外郭でしかない――――正義の味方を目指したかつての己の。

 だが、しかし。俺にとって幸か不幸というのは別にして、今のところ同時代、同場所に共に呼び出されたことはない。ないはずだが、だからこそ目の前の光景が理解できなかった。

 

 呼び出されたこの場所には、見覚えはないはずだ。ないはずなのだが、しかし何かが引っかかる。その引っかかりは、呼び出した誰かを見て核心に至った。

 

「やっちゃったことは仕方ない。反省。

 それで。アンタ、なに?」

 

 なんとも酷い言い草だが、どうやらこの娘が、俺を呼び出したらしい。荒れ果てた、おそらく俺の召喚に失敗した結果荒れ果てたこの場所。またとんでもない誰かに呼び出されたものだが、さて、状況を察するべきだ。

 

 少なくとも俺が呼ばれたのだ。効率的な殺戮の末の解決が望みだろう。

 

 年代は二十一世紀初頭といったところか。それにしては屋敷が古いように思うが、周囲の空気のこの嫌な甘ったるさ、平穏さが俺に時代を告げる。自身が青春を過ごした事のある同時代だというのが、またなんとも皮肉なものだ。

 この平和さに一擲を投じたのは、はてさていかなる大魔術ゆえか。

 

 ぼんやりと意識すると、召喚に際して与えられたらしい知識が脳裏をめぐる。聖杯戦争ねぇ。万能の願望器ねぇ。

 

 ……しかして同時に、やはり自分が召還されたのがイレギュラーだと知識面から理解できていしまうのが、またなんとも嗤えて来る。

 本来ならば、この場に立つべきは、この紅い少女にふさわしい弓兵だったろうに。腐り果てたこんな有様が呼ばれた時点で、どう考えてもまともじゃない。

 まともじゃないからには、そうである理由がある。

 「あの時」は女という怪異そのものが原因だったように、本来召還されるべき誰かがいたはずだ。

 

 そして……、嗚呼、そうだな。腰に引っかかるこの宝石は。中に何も込められていないこの宝石こそが、少女との縁であったのならば。

 

 「俺は、こんなものを持っていた記憶がない」。

 

 であるとするならば、俺が召還されうる条件から考えれば。……異なる歴史の果てに、かつての己とこの少女とには縁があったということだろう。

 

 ――――――。

 

 いけない。また時間が経過してしまった。

 気が緩むとすぐこれだ。まったく、時間が果てしない。

 

 学校の屋上から小娘を抱えて飛び降りる。背後への銃撃は慣れたもの。

 

 ――――――。

  

「アーチャー。手助けはしないから――貴方の力、今ここで見せて?」

 

 おっと。短時間ながらまた時間が飛んだか。

 だがしかし。眼前の同類、といっても反転はしていないが、それを見ながら切り札を準備。詠唱し、投影した弾丸内部に世界の起点たる剣の欠片を込める。

 

 槍は、早い。

 正直打ち合い自体はやり辛いわけでもないが、その代わりといってはなんだが弾丸に対する反射が激しい。決して当たらない、ということではない。ただ飛び道具に対する反応が明らかに、通常攻撃よりも過敏に察知しているというべきか。

 

 そういう加護でももっているのだろうか?

 嗚呼、なるほど。こいつはそういう英霊か。この「狗」の殺し方には王道があるが、生憎俺の心根では全く成功すまい。

 

 だったら簡単だ。弾丸が当たり辛いだけ、というのならば。そもそも弾丸との距離を詰めてしまえば良い。

 

 ――――――体は剣で出来ていた。

 

 投影した薙刀が砕ける。当たり前といえば当たり前だが、そこまでの強度も今は必要ないだろう。

 

 すべては起点さえ打ち込めれば。

 

 起点さえ打ち込めれば、あとはそこに世界を展開するだけで良い。

 

 強いて言えば相手の眼前で詠唱を、心の在り様を完成させ、詠わなければならないという制限が存在するくらいか。

 

 ……?

 誰かいるな。だが関係あるまい。この場所で完成させれば、俺の後方はともかく、あれくらいの距離なら「一緒に殺せる」。

 

 だが残念なことに、俺よりも先に察知したのか、狗は第三者を食い殺しにいくようだ。

 追えと言われれば追うが、もはやそこに俺自身の積極的な意思は介在させる必要はないだろう。

 

 目撃者は殺す。

 俺がやるか奴がやるかと言う程度の違いでしかない。

 

 だからマスターの言葉に、適当に返答しておく。

 

 ――――――。

 

 ダメだ……。なんでさ。相変わらずというべきか、また時間が飛んだ。苛立ちを覚えないわけではないが、しかし嗤うしかない。

 

 見覚えがないはずの小民家の手前。

 ここで聞こえる稲光。ほとばしる、生命の奔流。その息吹。

 

 ――――嗚呼、これはいつのことだったか。

 俺の記憶にはない。だが、俺の霊基は確かに「覚えている」。本来呼ばれるべきだった誰かこそが。

 

 だからこそ、嗚呼――――――。

 

 見に覚えがないはずの、黄金の少女を前に。俺は、意味もなく嗤い、涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 




ボブ召喚→セイバー遭遇まで
 

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