Fate/false protagonist   作:破月

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突拍子もなく仲が進展する二人。もっとゆっくりしろよ、と自分でも言いたくなりますが、こうも進展がはやいのには理由があります。そこら辺の話も書きたいとは思いますが、予定は未定です(-"-)

そろそろ戦闘シーンも入れていかなきゃ……。



2月8日 叔父と甥
Kapitel 8


 

 

――――――――そうして、そいつの夢を見る。

 

 

 

英雄の座に祭り上げられた男の記憶。

 

最期まで誰にも理解されなかった、或る騎士の物語。

 

 

 

それは簡単な話だった。ようするに、そいつはどうにかしていたのだ。それなりの力があって、それなりの野心もあった。なのに力の使いどころを終始間違えて、あっけなく死んだだけ。

 

それも当然だろう。力っていうのは、自分自身を叶える為のものだ。"情けは人の為ならず"。そんな言葉がある様に、あらゆる行為は自身に帰ってくるからこそバランスがとれている。行為はくるっと循環するからこそ元気が戻って来て、次の活力が生み出されるのだ。

 

それが無いという事は、補充がないという事だ。例えば自分の為ではなく、誰かの為だけに生きてきたヤツなんて、すぐに力尽きるに決まっている。

 

 

 

使い捨ての紙幣があるとしたらそれだ。

 

散々他人に使われて、終わってしまえば消えるだけ。

 

付け入る事は簡単だし、利用するのは既に前提。

 

 

 

そんなんだから、そいつは、結局。色々なものに色々な裏切りを見せられて、救ったうちの"誰か"の手によって、その生涯を終えていた。

 

 

 

……とにかく、それが無性に頭にきた。どうしてだ、と文句を言いたくなる。頑張って頑張って、凡人のくせに努力して、血を流しながら成し得た奇蹟があった。その報酬が裏切られて死んだ、なんて笑い話にもならねえ事だったのに、そいつは満足して死んだのだ。

 

他人の人生に口を挟む気はないが。その一点だけは絶対に認められねえ。

 

 

 

それが今まで何度か見てきた夢の感想。いつもならここで目が覚めて、現実とは程遠い世界で、見たくもねえ男の面を拝んでいる。

 

―――だっていうのに。今朝に限って、夢には続きがあるようだった。

 

 

 

――――――――その地獄に、そいつは立っていた。

 

おそらくは何かの事故現場で、争いによる惨状じゃなかった。

 

 

 

『契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい』

 

 

 

契約の言葉を紡ぐ。その後、そいつは何かに憑かれたように様変わりして、本来救える筈のない人々を助け出していった。……ああ、ようするにコレが、そいつが()()になった事件なワケだ。

 

……そうしてみると、なんだ、わりあいあっけねえ。そいつが救った命は、きっと百人にも満たないだろう。オレが言うのもなんだが、そんな数では"英雄"なんて呼ばれる事もねえし、"英霊"として登録される事もない。

 

だが、重要なのは数じゃあない。要はあれだ、本来()()()()()()()()()()を救えるかどうかこそが、英雄、人間を超えたモノの資格なんだ。

 

 

 

それは運命の変更。規模は小さくとも、もうどのような手段を用いても変えられない災害を打破したのなら、そいつ本人に英雄としての力がなくとも構わない。

 

否。もとよりその奇蹟の代償として、世界は"英霊"を手に入れるのだ。

 

そいつは英雄になって、救えない筈の命を救った。その結果、死んだ後は英霊となって、生前と同じ事を繰り返している――――――――

 

 

 

つまりは奴隷(サーヴァント)

 

 

 

死んだ後も他人の為に戦い続ける、都合のいい使い捨ての道具になる事が、奇蹟の代償という事らしい。

 

 

 

英霊。

 

人間から輩出された優れた霊格、人類の守護精霊。

 

―――だがそれは、サーヴァントのように自由意思を持つモノではない。

 

 

 

英霊とは、人類の守護者である。守護者に自由意志などなく、ただ"力"として扱われる。人の世を守る為、"世界を滅ぼす要因"が発生した場合にのみ呼び出され、これを消滅させる殲滅兵器。

 

サーヴァントシステムとは、その()()()を利用した召喚儀式に他ならない。

 

守護者はあらゆる時代に呼び出され、人間にとって破滅的な現象を排除した後、この世から消滅する。……こんな酷えもんだったか疑問があるが、そいつは覚悟の上だったのだろう。いや、もしかしたら望んでいたのかもしれない。

 

 

 

死んだ後も人々を救えるのなら、それは願ってもない事だと。

 

生前は力がなく救えなかったが、英霊になればあらゆる悲劇を打破できると。

 

 

 

そんな事を思って、世界との取引に応じて死後の自分を差し出して、百人の命を救った。

 

……その後は。もっと多くの、何万人という命が救えると信じきって。

 

 

 

――――なんて、バカなヤツだろう。

 

そんな事ある筈がない。なんなら、英霊(オレ達)が呼び出されるという時点で、そこは死の土地と化している。

 

 

 

英霊、守護者が現れる場所は地獄でしかない。

 

 

 

オレ等は、世界が人の手によって滅びる場合にのみ出現する。人間は自らの業によって滅びる生き物。だから、滅びの過程はいつだって同じはずだ。

 

 

 

嫉妬。憎悪。我欲。妄念。

 

 

 

人を愛して、その為になろうとしたそいつは、死んだ後も同じ醜さ(もの)を見せられ続けた。その場所に呼び出されて、契約通り守護者として責を果たした。

 

――――殺して。

 

殺して殺して殺して殺して、人間っていう全体を救う為に、呼び出された土地にいる人間をみんな殺した。それを何度繰り返したのかオレには判らん――――これから何度繰り返していくのかも、知る術はない。

 

……だから、言える事は一つだけだ。そいつはずっと、色々なものに裏切られてきたが。

 

結局最後は、唯一信じた理想にさえ、裏切られたという事だ。

 

 

 

……そして、そうなることを、叔父であるその男は知っていたのだろう。知っていて、知っていたからこそ、最期はそいつの手で討たれたのだ。世界が切り捨てると決めた命。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こそを救う男を、世界が厭わない訳がなかった。

 

だからこそ、あんな最期を迎えた。

 

……二人共、ただのバカに違いない。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

(side : Lancer)

 

 

 

 

「そろそろ来る頃かと思っていたが、本当にやってくるとは。律儀なのか暇人なのか……こんな辺鄙な所に来てもつまらないだろうに、正しく変わり者だな君は」

 

 

開戦すぐ宝具ぶっぱならぬ、出会い頭皮肉ぶっぱとは、これ如何に。前回同様、いきなり殴りかからなかったオレを誰か誉めてほしい。

 

 

「好きで来てるわけじゃねぇよ、このド阿呆が」

「顔を合わせるなり、酷い言い様だな。光の御子の名が泣くぞ」

「泣かせとけ、自分から名乗った訳でもねえし」

「――――――」

 

 

オレの投げやりな返答に、そいつは困った顔をする。そうして、顔色を窺いながら言うのだ。

 

 

「……何か、君を怒らせてしまうような事をしただろうか」

 

 

ああ、した。そう言いかけた口を閉ざす。そう言えば、この自己嫌悪の塊はきっと謝罪の言葉を口にするだろうし、別にオレは謝罪してもらいたいわけじゃねぇ。上手い言い方が思いつかずに黙り込んでいれば、それすらも悪い方に考え始めたそいつの顔色が悪くなっていく。―――めんどくせえ野郎だ。

 

 

「別に怒っちゃいねえ、だからそんな顔すんなよな。……ただ、テメェがどんな風に世界と契約したか、知っちまっただけだ」

「……ああ。そうか、それで」

 

 

今度は苦笑。気持ちの良いものではなかったろう、と。諦めにも似た感情を吐露するように。

 

 

「英雄というものに―――()()()()()に、夢を抱きすぎていた。それが、私の過ちだ。爺さん(キリツグ)は限られた期間でしか成り得ないと言っていたし、叔父貴(ユキツグ)だって、オレが思うような綺麗なモノじゃないと言っていた。それを理解しようとせず、ただ盲目に、漠然とした象徴を追い求めていた。当然、終わりはすぐにやってくる。自業自得だ、自然の摂理だ、だから」

 

 

そう言って、(あかがね)色の空を見上げるそいつの横顔は。

 

 

「―――だから、初めから、()()()()()()()

 

 

泣いているように見えた。

 

 

― ―

 

 

姦しい声に、目を開く。昨日からずっと、同じ体勢で寝ていたらしい。目の前にはマスターの胸板、少し顔を上げれば幼く見える寝顔と規則正しい寝息。抱込まれた形のまま顔を胸板に押し付けてやれば、柔らかく髪を梳かれ頬を撫でられた。

 

 

「犬猫のようだ」

「んな可愛いもんじゃねえよ、オレは"クランの猛犬"だぜ?」

「ああ、そうだった」

 

 

寝起きの、低い声。そろそろ起きようと促され、一度霊体化してその温かな拘束から逃れた。

 

 

「そら、起きるんだろ?」

 

 

再び実体化して、ぱきり、と関節を鳴らす。黒のスラックスに白いTシャツ。慣れた格好の俺を、ベッドの上でぼんやり見つめているマスターの手を引いて立ち上がらせ、風呂場へと向かう。

 

 

「頭から熱い湯でも被って、そのしまらねぇ顔をシャキッとさせねえとな」

「酷い言いようだ」

 

 

苦笑気味の言葉が耳朶を掠めていく。戯れのようなこの時間、一瞬の、逢瀬というほど甘くは無く。けれど確かに愛しい時間。たとえこれが仮初めのものだとして、マスターが、いずれは()()()()()()()()()()のだとして。

 

 

「オレは、アンタが好きだぜ。マスター。仕える者として、人として、一人の男として。だから」

 

 

覚悟はとうに決めている。英霊(同じモノ)であるアイツの記憶を夢に見て、マスターの記憶の一部を垣間見て。胸の裡に巣食う暗雲など、切って捨ててしまえばいいと思った。あの魔術師が言ったことを気にして闇雲に走るより、よっぽどいい。ただ死ぬためだけにこの聖戦を終わらせようとしている、バカで真っ直ぐなこの男に惹かれてしまった。ならば、オレは、オレらしく。

 

 

「――――――()()()()()()()、奪わせてくれや。オレに、アンタの()()を」

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

――――もう、奪われているとも。

 

 

「――――――――――――」

 

 

男くさい笑みを浮かべるランサーを見つめ、言葉を失う。奪わせてくれ、なんて、それは可笑しなことを言う。俺の心臓は……心は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それとも、この仮初めの心臓の、本当の力を欲しているのだろうか。いや、君はそんな男ではなかった。なら、やはり、それは、どういう意味で――――?

 

 

「なあ」

 

 

風呂場の前で立ち止まる。何も答えられないまま中に引き込まれて、着の身着のまま、二人で浴室へと雪崩れ込む。一瞬で近づく距離、焦点が定まる前に触れた唇、鮮やかな紅い瞳。

 

 

「マスター」

 

 

艶のある声が、少し弾んだ吐息が、熱を孕んだ瞳が、その全てが。

 

 

「世界にもくれてやらなかったアンタの死後を、オレに――――――っ」

 

 

衝動に任せて、呼気ごと唇を奪う。ずっと、それこそ、俺が雪嗣(オレ)ではなく、雪■(ぼく)だった時――――いや、そうじゃない、もっと前。■■■■だった頃から、俺を魅了してやまない、蒼い風のような君。出会える筈もなく、手が届くこともなかった君。

 

 

「――――――――っ」

「ふ、ぁ―――――ます、た」

 

 

――――――自分の存在意義を、考えていた事がある。見つけることが出来ずに果てた人生の先で、新たな生を受けた。傲慢な王に手を引かれ、気高き勇士に守られ、手に入れた報酬に願ったのは、()()()()()()()()()()だった。より多くの人間(ひと)を生かすために、切り捨てられざるを得ない存在。その存在を救う事こそが、自分が存在する意味だと思って。そうして託した願いの先、衛宮雪嗣(おれ)創られ(うまれ)た。願いはいつしか、()()()()()()()()にすり替わっていて、兄貴や甥が泣く泣く切り捨てた者を救うことで、彼らの心を救おうとした。目的が、いつしか手段になっていた。そのことに気づけたのは―――そのことを思い出せたのは、奇蹟だ。彼が、ランサーが、君が。俺の傍にいたから。

 

 

「ランサー」

 

 

だからこそ、俺は君にこの言葉を捧げよう。

 

 

「この戦いを終えてなお、その思いが変わらないのなら、その時は。――――――君に捧げよう、()()()()、この心臓(こころ)を」

 

 

一瞬、瞳が大きく見開かれ、花が綻ぶような笑みが次に浮かぶ。――――ああ、君は、こんなにも美しい。


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