Fate/false protagonist   作:双葉破月

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訳が分からない話。
そういう仕様ではありますが、書いてて自分でも訳が分からないよ?となりました。
ここから、プロットを見直しつつ、もっと内容を掘り下げていきたいところですが……完結するのか、これ(遠い目)
エタらないよう、頑張ります。


Kapitel 7-5

 

どうにかこうにか積み上げ、結局のところ瓦解寸前になってしまった人生を振り返る、そんな、夢を見た。

 

 

「――――」

 

 

なるほど、確かに、俺は歪んでしまっていたのだろう。不特定多数の()()を助けたいという願いはきっと事実だ。けれど、それは別の願いにすり変わってしまっていて、その事に気付くことが出来ないでいた。だって、()()()()()()とを繋ぐ耳飾り(くさび)は、海の底に沈んでしまったのだから。自分が放り出したのだ、今更取り戻そうとは思わない。だが、それすら思い出さぬまま、空虚な人形となり朽ち果てる筈だった俺が、"原初の願い"を思い出せたのは、俺が契約しているサーヴァントが()()()()だったからに他ならない。俺が捨てた耳飾りと、同じものを持つ存在。むしろ、彼の存在そのものが、俺を()足らしめているのかもしれない。けれど、それは、微々たるものだ。()()()()()()()多くの(まじな)いが施された耳飾りは、既にない。俺が()に還ることはもう、無いのだろう。

 

 

「そんなことねぇよ。アンタは還れる、絶対に。オレが、還してみせる」

 

 

目が覚める様な蒼が、視界を覆いつくす。気が付けば、俺は見渡す限りの草原に立ち尽くしていた。見事な蒼空(そら)、鼻を擽るのは若草の香り。陽光は穏やかに降り注ぎ、淡く光る妖精たちがこちらを誘うように踊り狂う。どこまでも幻想的で魅惑的、けれど一歩身を引いてしまいたくなる神々しさすらあるその場所は。

 

 

「――――常若の国(ティル・ナ・ノーグ)

「そう、"Tír na nÓg"――――綺麗なもんだろ?」

 

 

これは、果たして夢か現実か。困惑を通り越して冷静になる頭を回転させ、周囲を見渡す。ふくふくと肥えた豚とそれを追い立てる者がいる。瑞々しい林檎をたわわに実らせる木々がある。顔を赤らめてエールを片手に談笑する者たちがいる。そして、簡易な皮鎧を身に着けたランサー―――クー・フーリンが目の前に立っていた。

 

 

「夢とか現実とか、難しい話は置いておこうや。大事なのは、今、アンタがここにいる、その意味だ」

 

 

視線をクー・フーリンに投げる。きめ細やかな髪が陽を浴びて輝き、優しく吹く風に靡いている。

 

 

「どうしてだと思う?」

「……お節介な魔術師の悪戯だろうか」

「あー、半分はそうだな。だが、もう半分は違う」

 

 

苦笑を浮かべてクー・フーリンは言う。俺がここにいる意味とは。

 

 

「アンタが来たいと願い、オレが来てほしいと願ったからだ」

 

 

けれどそれは、決して、叶うはずのない願いだ。いくらパスが繋がっているからとはいえ、こんな事が起こり得る筈がない。記憶を夢に見るのとは、訳が違うのだから。

 

 

「これは極めて希で、現実には起こりようもない出来事なのは確かだ。だが、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は存在する」

 

 

つい、と。クー・フーリンの指先が俺の胸、ちょうど心臓の上をなぞるように走る。バチリと目の前で火花が散ったような感覚と共に、心臓がある場所が熱を持つのが判った。まるで機械仕掛けの人形のようだな、と。心の中で呟けば、その考えが正解だとでも言うように、さらに熱がこもる。

 

 

「――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

クー・フーリンの言葉が答えだった。見た目ばかり本物に似せた人形は、当然ながら、心まではヒトにはなり切れない。その役割を補完する役割を持つヒトの魂も、楔を手放したことではがれかかっている。このままいけば、残るのは伽藍洞になった外側(からだ)と、心臓の代わりをしていた遺物だけ。そこに()()()()()()()()()()()()。後戻りの出来ないところまで来ている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実がある。()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()。逢いに行くと、約束したのだ。ここで終われる筈がない、終わらせる事など出来ない。人形であるならば、辛いなどという感情なんて抱くはずもない。だから。

 

 

「辛くはないさ」

 

 

目を、醒まそう。幻想から抜け出し、現実に戻るために。

 

 

「俺には、"願い"があるからな」

 

 

――――――――さあ、まだまだ、聖杯戦争を続けよう。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

(side : ■■■)

 

 

 

 

「随分と変質してしまった」

「在り様は変われど、本質は取り戻したようではあるが」

「そうは言っても、ほんの少しだ。微々たるものだ。彼が()に還るためには全然足りない」

「頭が固い、もっと柔軟に思考せよ。あれは、魂さえ外側(にくたい)に縛り付けてあれば、輪を廻る。後は元通りだ」

「簡単に言うけれどねぇ」

「実際、簡単なことだろう。狗を焚きつけてやれば、存外上手くいく。あれがあれである限り狗に弱い」

「そうかなぁ……どちらかというと、弱いからこそ、遠ざけると思うのだけど」

「馬鹿め、それでよいのだ。狗は狗で、逃げられれば後を追う。事象は確定した、後は彼奴らが自覚すれば勝手に還る(もどる)

「まるで実際に目にしたことがあるようだ」

()にしたのよ、実際に。とは言え、まだまだ不安定であることに変わりはないが」

「貴方も泥に塗れちゃってるしね」

「ふん、我こそが変質しているとでも言いたいのか」

「違うのかい?」

「相違ない」

「認めるんだ」

「大元からは反れている、それは相違ない。だが、結局は元々持っていた苛烈さよ、今更と言う他ない」

「なるほどね」

「それよりも貴様、こんな所で油を売っていてもよいのか?そろそろ、あれが目覚める頃だろう」

「あれ?もうそんな時間?……仕方がない、戻るとしよう」

「そうさな……疾く失せよ。次に会うは、この幻想の終わりになろう」

「……そう、願いたいものだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争終結まで、あと――――――――


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