Fate/false protagonist   作:双葉破月

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Kapitel 6-5

(side : Archer)

 

 

 

 

「――――ある少女の体の中に埋め込まれた()()()()()()()()()()()()のだが、協力してもらえるだろうか」

「――――っ」

 

 

聞き違いだろうか、"聖杯の欠片"だと?

 

 

「ああ、そういうこと。貴方が言っているのは、この娘のことね?」

 

 

手のひらに水晶玉を出し、該当する人物を浮かび上がらせたキャスターは確かめるように尋ねた。そこに映っていたのは、

 

 

「――――間桐、桜……?」

 

 

表情に暗い影を落とした、一人の少女だった。急に与えられた情報に、脳内の処理が追い付かない。そもそも"聖杯の欠片"とはなんなのか、なぜ衛宮雪嗣がそれを知っているのか、そして、彼女は―――間桐桜は、いつから犠牲者だったのか。彼女は大人しい性格で、とにかく我慢強いがどこにでもいる普通の少女だ。それが、なぜ、どうして――――

 

 

「アーチャー」

「!」

 

 

呼ばれ、飛んでいた思考が戻ってくる。暗い瞳が、私に向けられていた。その瞳が、落ち着けと言っている。

 

 

「不遇な娘よ、助けを乞うているのに誰もそれに気づいてあげられない。植え付けられた強迫観念が深く根付いて、彼女を縛っている。そんな娘を――――貴方は助けたいと、救いたいと、そう思うの?」

 

 

視線が外れる。淡々としたキャスターの問いかけに、衛宮雪嗣は何も言わず頷いた。しばしの沈黙。先に口を開いたのはキャスターだ。時間にすれば一瞬だが、重苦しい沈黙に何時間も経過したような気さえした。

 

 

「分かったわ、見返りは当然あるのでしょう?」

「無論、()()()()()を約束しよう」

「そ、れは―――」

 

 

衛宮雪嗣の言葉に、キャスターが息を呑む。"未来"とは、英霊にはとんと縁のない話だ。聖杯戦争に呼ばれた英霊は、サーヴァントという枠に収められているのだから、戦いが終わればそれ以上現世に留まることもない。つまりはその場限りの存在で。それこそ、聖杯に受肉を願いでもしなければ、永遠と訪れる事はない。それを約束するということは、この男には、なにか策があるのだろう。

 

 

「具体的に、どうやって私をこの世界につなぎ留めておくつもりか、お聞きしてもよくて?」

 

 

その方法が気になるのだろう。魔術師としても、その恩恵を受ける者としても。キャスターの疑問は至極当然で、しかし、その問いに男は首を傾げる。なぜ分からないのか、と言いたげに。

 

 

「おかしなことを。■■■■(聖杯)に願う、それ以外に方法があるとでも?」

 

 

それもそうか、と納得する私とは対照的に、キャスターの纏う空気が変わる。

 

 

「――――私を馬鹿にしているの!?」

「いいや」

 

 

意味が分からない。衛宮雪嗣の言葉は、聖杯戦争に限っては理に適っているし、どこもおかしな点はない。私が何か見落としているのなら別だが。

 

 

「どういうことだ、私たちにも分かる様に説明してくれ」

「弓兵の言う通りだ、お主達の会話には言葉が足りぬ」

 

 

今にも男に掴みかからんばかりの勢いだったキャスターはその怒りを収め、きつく唇を噛んで俯く。どうやら話す気はないらしい。それならばと衛宮雪嗣に視線を移せば、視線はかち合わず、虚空を見つめていた。そして、ぽつり、と。

 

 

「……()()()()とは、何のことだ……?」

 

 

無気力に呟いた。誰に言う訳でもない、ただ吐き捨てるように落とされた言葉を、キャスターは拾い上げたのだろう。ハッとしたように顔を上げると、フードに隠れてよくは見えないが、信じられないものを見るような目で衛宮雪嗣を見つめる。

 

 

「貴方……そう、そういうことね」

 

 

どこか戸惑うような様子から一転、納得したように頷くと彼女はフードを取り去った。絹糸のような細髪が流れる。

 

 

「良いわ、契約を結びましょう。――――我が魔術の師ヘカテの名の下に、貴方と()()()()()()()に敬意を払い、この身が朽ち果てるその時まで、裏切らず、見限らず、貴方の意向に添うことを誓いましょう」

 

 

それは明確な分岐点だったに違いない。衛宮雪嗣に歩み寄り、キャスターは作り物染みた笑みを浮かべた。

 

 

「私は貴方に、私の魔術とアサシンという手駒を与えましょう。では貴方は、私に()()与えてくれるのかしら?」

「――――()()()()を」

 

 

焦点の定まらない瞳で、男は何とも表現しきれぬ音を紡ぐ。そして、左手を胸―――ちょうど、心臓がある位置にかざして詠唱する。

 

 

Pray to my heart(心に祈りを).

 It shall be given to you(さらば与えられん).

 My heart is ―――(我が心臓こそ―――).」

「たわけ!!此処で死ぬ気か貴様は!!!!」

 

 

怒号と共に無数の鎖がキャスターと衛宮雪嗣との間に飛来した。すかさず黄金の鎧を纏う男が現れ、キャスターを一瞥すると衛宮雪嗣の首に手をかける。キャスターは怯むように後退り、その前にアサシンが陣取る。私は使い慣れた干将莫耶を投影し、黄金の男を睨み付けた。

 

 

「その手を放してはもらえないだろうか、その男は我がマスターの同盟相手でね」

「慎めよ雑種、誰の許しを得て(オレ)に口を利いている。貴様は贋作者(きさま)らしく、我の足元に跪いていろ。さて……この愚か者を、どう躾てやるべきか……」

 

 

セイバーやランサーにも負けぬ、その美しい顔に怒りを滲ませた黄金の男は、衛宮雪嗣の首にかけていた手にギリギリと力を込めていく。言葉が駄目ならば力尽くになってしまうが、仕方があるまい。あの男に此処で死なれては困るのだ。

 

 

「動けばこの頸を圧し折る」

「――――」

 

 

思考を読まれた。動きかけた足を全霊で引き留め、奥歯を噛む。背中を冷汗が流れていくのを感じる。どうすればいい、どうすれば――――

 

 

「叔父様から離れなさい」

 

 

不意に、幼い声が聞こえた。いつからそこにいたのだろう、雪色の少女が山門に立っていた。少女を守る狂戦士の姿はなく、霊体化しているのかと思って気配を探ってみるも、あってしかるべきのものがそこにはない。正しく、少女は一人だった。

 

 

「聞こえなかったのかしら」

「……良かろう、此度は引いてやる」

 

 

あっさりと引いた黄金の男に、その幼さに見合わず少女は妖艶に笑って見せる。それから衛宮雪嗣に駆け寄り、その手を握る。

 

 

「馬鹿なヒト……()()()()()()()のだから、無理なんてしなければいいのに」

 

 

娘が父親に甘えるかのように、握った手に頬を摺り寄せて少女は言う。すると、糸が入れた操り人形のように、ストンとその男は尻もちをついた。少女は男の足の間に陣取ると、スカートが汚れるのも気にせずに腰を下ろす。黄金の男はいつの間にか姿を消していて、この場には私たちだけが取り残されている。が、少女の登場によって、私やキャスター、アサシンは完全に置いて行かれていた。

 

 

「……心配、させたか」

「うん」

「それは、すまない」

「そんなこと思ってない癖に」

 

 

まだどこか虚ろな瞳で、しかし、実の娘を愛でるようにその白雪のような髪を優しく撫でている。表情こそいつもの鉄仮面ではあるが、そこに慈しむ感情があるのは分かる。

 

 

「イリヤ」

「なぁに?」

「……俺は、何者なんだろうか……」

「――――もう、本当に馬鹿なヒトね」

 

 

一瞬、少女の姿に、女性の姿を重ね見る。瞬きの間に消えてしまったそれを幻影と切り捨て、踵を返す。すっかり興が削がれてしまった気分だ。それなりに時間は経っているが、凛達はどうなっただろう。思考を切り替え、背後のやり取りからは意識を反らす。そんな私にキャスターがこそこそと近寄り、同盟を組むことへの承諾の旨を伝えてきた。

 

 

「あそこはまだ二人の世界から出てくることはなさそうだから、貴方に伝えておくわ」

 

 

と言って寺の中へと戻って行ってしまった。アサシンは、やれやれと肩を竦め山門の定位置へと戻っていく。

 

 

「……割に合わんな」

 

 

妙に感じる疲労に眉間のしわを揉み解し、もう一度肩越しに男と少女を一瞥してから跳躍した。衝撃の事実も聞いたが、とりあえずは置いておこう。問い詰めるにしても、今の衛宮雪嗣に尋ねても意味がない気がした。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

士郎達の帰りを待ちながら、台所に立つ。正直な話、柳洞寺から屋敷まで、どうやって帰ったのかは記憶にない。気が付けば自室で立ちすくんでいた。覚えているのは、おそらくキャスターに暗示をかけられたことと、それを強制的にギルガメッシュが解除しようとしたこと。しかし、解除は完全ではなく、途中でイリヤが来たことまでは覚えている。その後の記憶は酷く曖昧だが、愛車であるヤマハのVMAXは車庫に入っていた。乗って帰ってきた、と考えるのが当然なのだろうが。

 

 

『私が君の体を借りて運転したよ。あの状態の君に任せると、事故になりかねなかったからね』

 

 

傍で浮遊する魔術師がそう言うのなら、そうなのだろう。魔術師が騎乗スキルを持っているのかが甚だ疑問だが、この男の事だ、どうにかしたに違いない。そしてそのまま、俺の体に憑いて自室まで来た、と。

 

 

「意外と便利だな、君」

『それほどでもないよ。それより、キャスターは君との契約……というか、同盟を承諾したようだよ』

「そうか」

『それから、イリヤ嬢から君に伝言だ』

「……は?」

 

 

まて、それは、イリヤに魔術師の姿が見えているという事にはならないか?

 

 

『細かい事はこの際置いておこう』

 

 

魔術師は両手で俺の頬を挟み、()()()()()()()()()()()()()()額同士を合わせて言う。

 

 

『"貴方は貴方らしく、ただ貴方の望むままに、最期まで行きて(足掻いて)活きて(足掻いて)生き(足掻き)続けて"』

 

 

それが一番の近道だと、そう締め括り魔術師(しょうじょ)笑った(泣いた)




一応、オリ主×ランサーのはずが、それ以上に出番のある魔術師に嫉妬←

そういえば、亜種特異点2クリアしまして、呼符をちみちみ回していたら不夜城のキャスターとアサシンがいらっしゃいました。やったね!エルドラドのバーサーカーも欲しかったんですけどねぇ……

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