Fate/false protagonist   作:破月

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結構な急展開に今回の話を書いた私もびっくり。どうもお久しぶりです。
1ヶ月くらい間が空いてしまいましたね……申し訳ないです。

生憎とメルトはお迎えできませんでした。
代わりと言ったらあれですが、御前様とリップちゃんが宝具3になりました。
ありがたや~、ありがたや~。

今後も更新は不定期です。
そろそろ原作乖離も始まるかもしません。




Kapitel 5-4

 

 

屋敷に帰り着き、賑やかな夕飯を終えると桜ちゃんと大河ちゃんを玄関で見送って自室に戻る。途中、士郎に呼び止められもしたが、報告会に参加するつもりはない旨を掻い摘んで話せば渋々引き下がった。ランサーは居間に残り、アーチャーは屋根の上へ。バゼットはハサンと連れ立って夜の街に繰り出し、ランサーの他に居間に残ったのは、士郎とセイバー、遠坂嬢の三人のみ。

 

 

『残ってあげればよかったのに。年長者の助言がまだ必要な年頃だろう?』

 

 

不貞腐れたような顔をした花の魔術師をスルーして、自室の襖を開ける。俺の横をすり抜けて畳んである布団の上に腰を下ろした彼は、腕を組んで俺を睨み付けた。

 

 

『余計なお世話だと言われるくらいが丁度いいんだよ?君はあまりにも彼らに関わらなさすぎる』

「俺は君とは違うからな」

『まったくだ、ぐうの音も出ないね!』

 

 

物を掴むことが出来るらしく、器用に布団を敷いてその上に寝転んで俺の本を適当に漁っているあたり、かなり現世を満喫していると思った。

 

 

― ―

 

 

「―――おい、聞いてくれよマスター!」

「建付けが悪くなる、出来れば静かに開けてくれ」

「あ、おう、悪ぃ。……って、そうじゃなくてだな!」

 

 

スパン、と小気味いい音を立てて襖が開かれる。もう何度読んだかわからない、表紙が擦り切れた単行本を手に、来室者を迎えた。どかりと腰を下ろしたランサーは、憤りを隠しもせずに言い募る。

 

 

「坊主の話を聞いて、セイバーの奴が寺にいるキャスターに挑もうって言いだしてな。嬢ちゃんや坊主が乗り気じゃねぇのに、折れやがらねぇ。アーチャーの野郎も呼んでみたが、マスターの意向に従うの一点張りで話になりゃしねぇ。だから、アンタからも何とか言ってくれや」

「――――」

 

 

それは、出来ない相談だろう。彼女はそうと決めたら、なかなか意見を覆さない。ようは頑固者だ、そんな彼女が俺の言葉を聞くとは思えなくて言葉に詰まる。適当なページにしおりを挟み、机の上に置いて座椅子を回す。すると、思った以上に近くにランサーは鎮座しており、振り返れば端正な顔がそう遠くないところにあった。二重の意味で言葉をなくし、その神秘的な瞳に魅入る。

 

 

「マスター?」

 

 

その瞳に写る俺の顔―――瞳が、一瞬、淡い青に変わった気がして、瞬きをする。

 

 

「いや、なんでもない。それより、セイバーの事だが――――」

 

 

気のせいだ。色が変わったように見えたのは、ランサーの背後で意地悪く笑う魔術師のせいだ。おそらく、きっと、たぶん、そう、思いたい。

 

 

「俺に彼女の動向をああだ、こうだという資格はないだろう。なにせ、彼女のマスターは士郎であって、俺ではないからな」

「そら、まあ……そうだけどよ」

『あはは、ぐう正論』

「(黙れ花の魔術師)」

『酷いなぁ、もう……』

 

 

ランサーには、つまらないなぁ、とこぼす男の姿は見えていないようだった。やはり、俺にしか見えていないのだろうか。案外、彼の上司である彼女には見えているのかもしれないが。一々ふざける魔術師の相手をしているのも疲れるため、目の前にいるランサーに集中することにした。昨夜の殺伐とした気配は感じられない。案外あっさりした男だな、と思うと同時に、少しだけ安堵した。バゼットから代理を任された身ではあるが、昨夜のままランサーとの仲が険悪だった場合には、彼女に令呪を返還しなければならないだろうかとも思ったのだ。なので、そんなことにならなそうで、安心した。

 

 

「……なァ、マスター?」

 

 

瞬間、部屋の電気が消える。微量な魔力の流れを感じたから、おそらくランサーの仕業だろう。ルーン魔術でも使ったのだろうか。

 

 

「なんだ」

「アンタはオレのことを、伝承やらなんやらで知ってんだろうが、オレはアンタをよく知らねぇ。だから――――教えてくれよ」

 

 

細身の、しかし、しなやかな筋肉が付いた身体がしな垂れかかってくる。暗闇の中でも光って見える紅玉の瞳に熱がこもり、ぐるる、と猫のように喉を鳴らし、ランサーは上目遣いで俺を見た。……いや、まて。この急展開は何だ。

 

 

『行け!そこだ!!はやく押し倒すんだよ朴念仁!!』

 

 

そこの変態魔術師は黙っていてほしい。それに俺は断じて朴念仁ではない。

 

 

― ―

 

 

―――――――夢を見た。

 

 

 

意識は微睡み、体は眠りについたまま指一本も動かない。故に――――これは、きっと夢だ。

 

 

『いつまで眠りこけているのだ、貴様は。暇だ、退屈だ、ゆえに、疾く目覚めよ阿呆』

 

 

そう言って眠ったままの()の額を小突き、■は小さな子供のように唇を尖らせた。その傍らで、青年が苦笑を浮かべて()の右手を両手で柔らかく包み込む。

 

 

『いつまでも、待ってる。だから――――絶対に、目を覚ましてくれ()()()()

 

 

その声は、切実だ。……そう、まるで、帰らぬ恋人に届かない想いを告げるように。額に()の手を押し付けて、震える声を誤魔化すように。

 

 

― ―

 

 

また、違う日を夢に見る。

 

 

『――――目が覚めたら、どうか連絡してほしい。本当は彼が覚醒するまで待っていたいのだけれど……僕はもう、■■■■に戻らなければいけないから……』

 

 

癖のある髪を頭上高く結い上げた、柔和な表情の男が言う。

 

 

『伝えておこう。貴様も、手が足りなくなりそうな時には呼ぶがいい』

『ありがとう、■■■。キミのような英霊が、彼のサーヴァントで良かったと心から思うよ』

『フンッ』

 

 

未だ昏々と眠り続ける()と、その傍らに寄り添う青年を見つめて、男は小さな笑みを浮かべた。いずれまた、会おうと。再会の言葉を残して、男は去っていく。その背に向けて、■は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

『再会は近い、それまで精々足掻けよ■■■■』

『……その名前は、今の僕には相応しくないかな』

 

 

へにょり、と自信なさげに垂れ下がった眉が、彼の人柄を表しているようだった。

 

 

― ―

 

 

また、違う日の夢だ。

 

 

『今日は■■と一緒に中華料理を作ったんだ。勿論■も一緒だったから、三人で。■■■■が美味しいって連呼しながら完食してくれて、それに対抗した■■■■や■■■■■■なんかも、相当な量を食べたんだ。だからさ、そらもう、見てるだけのこっちが気持ち悪くなるくらいの量を、三人で消費したんだぜ?驚きだったよ』

 

 

赤銅色の髪、琥珀色の瞳を持つ青年が、()が横たわるベッドの傍に備え付けてあるスツールに座り、そんな話をする。その後ろには、金糸を揺らし翡翠色の瞳を弓形にした少女がいた。

 

 

『あれは、貴方たちの腕がよく、大変料理が美味だったから箸が進んだのです。決して、私の食い意地が張っている訳ではありません!』

『はいはい、そういうことにしておくよ』

『■■■!!』

 

 

― ―

 

 

これも、違う日の夢だ。

 

 

『聞いてください、わたし、姉さんに手伝ってもらって、サーヴァントを召喚したんです。触媒なんて何もなかったから、相性召喚というモノだったんですけど……とても、優しい(ひと)が、応えてくれんです。わたし、すごく嬉しくて……思わず小躍りしちゃったんですよ?』

 

 

生来の色を取り戻しつつある薄っすらと紫がかった黒髪を恥ずかしそうに弄り、青い瞳を細めた少女は背後を振り返る。

 

 

『ねぇ、■■■■?』

『■がそう言うのであれば、そうなのでしょう。私は、私自身が優しいとは思いませんが』

『もうっ、どうしてそんなこと言うの?』

 

 

そこに、長身で、眼鏡をかけた女性がいた。地面につくかという長さの艶やかな紫苑色の髪を三つ編みにして、女性は穏やかに笑って少女を見返した。

 

 

― ―

 

 

きっと、これが最後の夢だ。

 

 

「■■■■に行くことになったの。本当なら、貴方と一緒に行くはずだったのよ?でも、いつまで経っても貴方が目覚めないから、仕方がなく、このわたしが、一人で、先に、行くことにしたってわけ。感謝しなさい、わざわざわたしが先遣隊の真似事をしてあげるんだから。……ねぇ、わたし、あの時から、随分と強くなったの。魔術勝負で貴方に負けてばかりだったわたしはもう、いないの。貴方が昏々と眠りこけている間に、わたしは次のステージに進んだの。だから、早く――――追いついてきなさい。そのためにはまず、さっさと起きなさい。待ってなんか、やらないんだから」

 

 

勝気な笑みを曇らせて、少女は言う。青い瞳に涙すら浮かべて、丁寧にまとめられた黒髪を乱しながら。

 

 

『これが俗に言うツンデレか』

『あんたそれ、どっから仕入れてきたの!?まさか、それも■■の知識とか言わないでしょうね……?』

『アンタの妹さんが教えてくれたぜ、マスター』

『ちょ、わたしの■■■■■■になんてこと教えてんのよ■!!!!』

 

 

傷だらけの顔を笑みに歪めて、男は言う。

 

 

『……いい加減に起きねぇと、面白れぇことが全部なくなっちまうぜ』

 

 

― ―

 

 

―――――――目が覚める。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

(side:Lancer)

 

 

 

 

「――――ん、」

「……起こしてしまったか。いやいい、まだ眠っていろ」

 

 

気配の揺れを感じて目を開ければ、穏やかな声が頭上から降ってくる。聞き慣れた、とても落ち着く声だ。エーテル体であるのにもかかわらず襲ってくる倦怠感を心地よく思いながら、顔を上げる。暗闇と同化する黒髪と、魔術を行使しているのか魔力の流れを感じる淡い光を灯す瞳、武骨な指先はオレの頬を滑り眠りの淵に誘うようでもある。

 

 

「……キャスターが動いたか」

 

 

その言葉で、微睡んでいた意識が一気に覚醒した。布団を跳ね飛ばす勢いで起き上がり、潤沢にある魔力で武装を編もうとして止められる。

 

 

「セイバーとアーチャーが行った、放っておいて大丈夫だろう」

 

 

オレの手首を掴む手にはさほど力は入っておらず、引き留める意思は酷薄だ。それでも、その言葉に従ってしまうあたり、この謎ばかりのマスターの事を、なんだかんだとオレは気に入っているのだろう。そうでなきゃ、雑な言い訳を募ってまで床を共にするわけがない。

 

 

「アンタが、そう言うなら」

 

 

一瞬の後、マスターの顔に、幼い笑みが浮かんだ。


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