この話をまとめると二人がいちゃついてるだけです
ヒカルの碁書く人少ないから、もっと増えて欲しいな|д゚)
申し訳ありませんが、相変わらず一話の量少ないです
次回からプロ試験の話!
いつかこんな日が来るかもしれない。頭のどこかではそう感じていたが、想像しているのと実際現実になるのとではまるで違う。自分の鼓動がやけに大きく感じられた。ヒカルは今、“こっち”に来る前にアキラへ話をしたときと同じくらい緊張している。ジュースと一緒に入れていたコップの氷が、カランと音を立てた。
「オレの言うこと、嘘みたいな話ばっかりだ。だから、信じるも信じないもあかりに任せる」
あかりはこちらを見てこくりと頷いた。それを確認して、ヒカルはどこから話をしようかと考える。
「小学生の頃のオレはもう、やんちゃなクソガキだった」
その言葉に、あかりは信じられないという顔をした。
「そんなことない!ヒカル、そこら辺の男の子よりずっと大人だったよ」
「その理由は後半に話すよ。後で質問はいくらでも受けつけるから、最後まで聞いてほしい。どこにでもいる小学生だったオレは、じいちゃんの蔵の中で古い碁盤を見つけた。碁盤には、神様が宿っていた」
神様との出会い。それはヒカルにとって人生のターニングポイントの1つだ。
藤原佐為という、平安時代の碁打ちの存在。本因坊秀策との繋がり。佐為が好きなだけ打てるように、saiとしてネット碁で無双していたこと。塔矢アキラとヒカルの関係。あかりは、ヒカルを馬鹿にするでもなく、ただじっと話を聞いていた。
「最後の記憶は、本因坊のタイトルを防衛し続けて10年目の日の夜。塔矢と、佐為が眠っていた碁盤で一手目を打とうとしたときに、視界が真っ暗になった。目が覚めたら、小学1年生の入学式だった」
佐為の話をした時点で何を言っているのか分からないうえに、ヒカルが未来から来たというありえない話。ヒカル本人にだって訳が分からないのだ。それを第3者に理解しろというのは無理な話である。
「ヒカルは、未来から来たの?」
「そうだ。“こっち”に来る前はちょうど30歳。今の精神年齢だと…考えたくないな」
あかりは特に驚いた様子はなかった。
「その様子だと、気付いてた?」
「なんとなく、ね」
あかりの頭の中に浮かぶのは、いつからか大人びたヒカル。同級生の男子からの冷やかしをサラリと躱し、困っているあかりを助けてくれた。思い出すと恥ずかしくなる場面も多く、顔が赤くなる。ふと、あかりは思った。
「そういえば、ヒカルは結婚したんでしょ?相手は、誰なの?」
聞いてしまって、少し後悔した。
「それは、内緒」
(ヒカルのこんな顔、知らない)
愛しくてたまらないと訴えてくる。こちらを優しく見つめる目は、言外にあかりだと言っていた。ヒカルと結婚。先ほどから既に赤く染まっていた顔が通り越して、熱が出てしまったみたいだ。そんなあかりを笑いながらしばらく眺めていたヒカルは、真剣な表情に戻って言った。
「…さっき説明したように、オレはあかりが幼いころ一緒にいた“進藤ヒカル”じゃない。それでも、あかりの隣にいることを許してくれるか?」
初めて見る、ヒカルの不安に揺れる目。まるで迷子の子どものよう。あかりは、そんなヒカルをぎゅっと抱きしめた。強張っていたヒカルの体の力が少しずつ抜けていくのを感じる。
ヒカルの目を見つめて、はっきり伝える。
「それでも、ヒカルはヒカルだよ!私がヒカルを否定する理由なんてどこにもない」
大きな目から、涙が溢れた。
「ちょっとヒカル、どこか痛いの?」
「…ううん、あかりが受け入れてくれたのが嬉しいんだ。拒絶されるのが怖くて、ずっと話せなかった」
初めて見るヒカルの涙。佐為がいなくなってしまった後、かなり自分のことを責めている様子だったからきっと沢山泣いたのだろう。“こっち”に来て初めて流した涙が、嬉し涙だといい。その原因が自分だと、もっと嬉しい。
(これからもヒカルの涙の原因が、嬉しいこと、楽しいことだといいな)
「もう、私がヒカルのこと嫌いになるわけないじゃない」
あかり。その名前の通り、いつだってヒカルの心にそっと灯りをつけてくれる。どこまでもあたたかく、優しい。碁を続けていく中で手に入れたもの。同じだけ失ったもの。それでも変わらないものがここにある。
「わっ」
気付けばあかりは、ヒカルの腕の中にいた。
「ありがとう」
囁くようにヒカルは言った。存在を確かめるように、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる。それに応えるように、あかりもヒカルの背に腕を回した。
プロ試験まで、もう少し。