ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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やっと九人が揃います!
長かった……では、どうぞ。



第十八話 やりたいことは

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト……よし、みんな完璧!」

 

「よかった、これならオープンキャンパスに間に合いそうだね!」

 

 場所は変わって屋上、μ'sはダンスの練習をしていた。

 結局あのあと、なにがなんでもやるしかないということでまとまって、そのまま練習に向かった。

 僕は基本的には傍で練習を見ているだけだが、今日はいつにも増してみんなやる気があることが見て取れた。

 

「でも、ほんとにライブなんて出来るの? また生徒会長に止められるんじゃない?」

 

「それは大丈夫、部活紹介の時間は必ず取ってくれるから。そこで歌を披露すれば——」

 

「まだです」

 

 そのとき、ことりさんの話を遮るように、姉さんが言った。

 

「まだタイミングがずれています」

 

「海未ちゃん……分かった、もう一回やろう!」

 

 穂乃果さんがそう言うと、みんなも再び元の立ち位置に戻る。

 そしてもう一度。

 

「ワン、トゥー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト……」

 

 そしてひと通りのダンスが終わる。

 

「完璧!」

 

「そうね、よかったんじゃない?」

 

「ふふん、やっとにこのレベルに追いついてきたわね」

 

 口々にみんなが言う中、僕は思う。

 確かに、ダンスは間違いもなく、みんなよく踊れていたとは思う。

 でも……

 

「まだだめです」

 

 姉さんが言う。

 

「ええ?」

 

「もうこれ以上上手くなりようがないにゃ……」

 

「だめです。それでは全然……」

 

 そのとき、しびれを切らした西木野さんが姉さんに詰め寄って言った。

 

「なにが気に入らないのよ! はっきり言って!」

 

「……感動できないんです」

 

「え?」

 

「いまのままでは……」

 

 姉さんは曇った顔で言う。

 それは僕も、同意見だった。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 帰りは姉さんと一緒に帰った。

 しばらく無言が続いたが、やがて姉さんが口を開いた。

 

「すこし、言い方が尖っていましたよね」

 

 さっきのことだろう。

 

「大丈夫だよ、みんな分かってくれるよ」

 

「……そうですね」

 

「……姉さん、生徒会長のことを考えてたの?」

 

「はい。もし私たちが生徒会長の半分でも踊れるようになれば……」

 

「じゃあさ、ちょっと案があるんだけど」

 

「案……ですか?」

 

「うん、っていうのは——」

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 翌日、僕たちは生徒会室にいた。

 案というのは、生徒会長にダンスを教えてもらうという案だったのだ。昨日の夜に電話でそれをみんなに伝えたところ、いろいろと反対意見もあったが、結局頼むだけ頼んでみるということになった。

 

「それで、私にダンスを?」

 

「はい、私たち、上手くなりたいんです!」

 

 すると生徒会長はなにを思ったのだろう、姉さんの方をちらりと見ると、

 

「分かったわ。あなたたちの活動は理解できないけれど、人気があるのは間違いないようだし、引き受けましょう」

 

 と、辛辣な言葉も交えながらも、あっさりと承諾してくれた。

 

「でも、やるからには私が許せる水準になるまで頑張ってもらうわよ、いい?」

 

「……! はい、ありがとうございます!」

 

 そして副会長が、誰にもきこえないような声で呟く。

 

「星が動き出したみたいや……」

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

『うぅ……ひっぐ……ごめんなさい……』

 

『あら、まただめだったの? ……大丈夫、大丈夫。オーディションなんて、気にしなくてもいいわ』

 

 

 

 ハッとする。

 ときどき、昔のことを思い出してしまうことがある。どれだけ努力しても届かなかったあの表彰台、そして優しくなだめてくれたおばあさま……あの苦くて優しい思い出を。

 

 

 

「にゃああっ!」

 

 どてーん、と、元気系のこの子、星空凛さんが盛大に転ぶ。

 

「痛いにゃあ!」

 

「全然だめじゃない……よくこれでここまで来れたわね」

 

「えへへ……」

 

「……ちょっと、足開いてみて」

 

「こう?」

 

 そして私は星空さんの背中を一気に押す。

 

「にゃああああ! いたいにゃあああああ!」

 

「これで? ならまずは柔軟からね。このままじゃあ本番、一か八かの勝負になるわよ?」

 

 そして、ひと通りのレッスンを始める。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

「ほら、お腹がつくまでできるようにする!」

 

 ○ ○ ○

 

「バランス感覚も絶対に必要よ!  ほら、あと十分!」

 

 ○ ○ ○

 

「筋力トレーニングもまた一からやったほうがいいわ! ほら!」

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 そして練習の最中、私は唐突に言う。

 

「……今日はここまでにしましょう」

 

「え、もう終わりですか?」

 

「なにそれ、まだ途中じゃない!」

 

「……これで自分たちの実力が少しは分かったでしょう? 今度のオープンキャンパスには、学校の存続がかかっているの。もしできないっていうなら早めに言って。時間がもったいないから」

 

 私はキッパリと言う。

 性格が悪いとは思う。わざと厳しい練習をさせて諦めさせようだなんて。でもこれで分かったはずだ、自分たちがいかにできないか、そして諦める方がいいということが——

 

「あの!」

 

 リーダーの高坂さんが言う。

 

「なにかしら?」

 

「ありがとうございました! 明日もまたよろしくお願いします!」

 

「!?」

 

 私は耳を疑った。しかし他のメンバーも高坂さんに続いてお礼を言ってくるではないか。どうして、なんで? あんなに厳しくしたのに。

 私はいたたまれず、その場を後にした。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 夜、亜里沙の部屋を覗くと、亜里沙はなにやら音楽を聴いているようだった。部屋に入って覗いてみると、それはμ'sの曲だった。

 

「貸して」

 

「お姉ちゃん」

 

 私は亜里沙からイヤホンを片方貸してもらう。なかなかいい曲ではある。それは認める。

 

「……私ね、μ'sのライブを見てると、胸がかーっと熱くなるの。一生懸命で、目一杯楽しそうで……」

 

 私はイヤホンを外すと、

 

「全然なってないわ」

 

 と言いすてる。

 

「お姉ちゃんに比べればそうだけど……でも、とっても勇気が貰えるんだ」

 

「…………」

 

 私は……なにも言えなかった。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 次の日の朝、自分でもどうしてかわからないが、私は屋上の扉を開けられないでいた。

 なにか引け目を感じるところがあるのだろうか。いや、どうして私がそんな……

 

「あっ! 絵里先輩!」

 

「あ」

 

 星空さんは私に気づくと、問答無用で屋上に引っ張り込んだ。

 

「ちょ、ちょっと」

 

「あ、絵里先輩! おはようございます! まずは柔軟からですよね!」

 

「……辛くないの?」

 

 私は問う。

 

「え?」

 

「昨日あんなにやって、今日また同じことをするのよ? 第一、上手くなるかどうかもわからないのに——」

 

「やりたいからです!」

 

「っ!」

 

「確かに、練習はすごくきついです、体もすごく痛いです……でも、廃校阻止したい、学校を守りたいという思いは、生徒会長にだって負けません!」

 

 ——だから、よろしくお願いします!

 

 ……私には分からない。分からない分からない分からない。

 ……どうしていいか、分からない。

 私はそのまま踵を返す。

 

「絵里先輩……!」

 

 高坂さんの言葉も無視し、私は屋上を後にした。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 分からなかった。自分の気持ちが、いまどうであるのか、分からなかった。分からなくなった。……いや、最初から分かってなかった。

 そして廊下を歩いて行く。どこへ向かうでもなく。

 

『やりたいからです!』

 

 さきほどの高坂さんの言葉が頭を過る。

 

『……私ね、μ'sのライブを見てると、胸がかーっと熱くなるの。一生懸命で、目一杯楽しそうで……』

 

 亜里沙が言っていたことを思い出す。

 目一杯、楽しそう……か。

 

「うちな」

 

「希……!」

 

「えりちと友達になって、一緒に生徒会やってきて、ずーっと思ってきたことがあるんよ」

 

「えりちは、本当はなにがしたいんやろうって」

 

「……え?」

 

「一緒にいると、分かるんよ。えりちが頑張るのは、いつも誰かのためばっかりで……だから、いつもなにかを我慢してるようで……全然自分のことは考えてなくて——」

 

「!」

 

 もういい聞きたくない。そう言葉にもせず、私はその場から離れようとする。

 

「学校を存続させようっていうのも、生徒会長としての義務感やろ!? だから理事長は、えりちのことを認めなかったんと違う? えりちの……えりちの本当にやりたいことは!?」

 

 ——本当にやりたいこと。

 そう言われて、私はハッとした。

 外からμ'sの練習の音が聞こえる。

 私の、本当にやりたいことは——。

 

「なによ……なんとかしなくちゃいけないんだから、しょうがないじゃない! 私だって、好きなことだけやってそれでなんとかなるんなら、そうしたいわよ!」

 

 涙をぼろぼろと零しながら、私は言う。

 本当にやりたいこと。そんなのもちろん、みんなと楽しく踊ることに決まってる……でも!

 

「……いまさら私がアイドルを始めようだなんて、言えると思う?」

 

 そう言って私はその場から走り去る。

 そして、気がつくと私は、生徒会室の片隅にある一席に座っていた。

 ぼーっと、窓の外から雲を眺めていた。いつも頑張っているんだもの、たまにはぼーっとしたっていいじゃない。

 ……本当にやりたいこと。

 ……私だってみんなと楽しく踊りたい。

 ……でも、そんなこといまさら——

 

「生徒会長」

 

 すっ、と、手が差し伸べられた。

 

「!」

 

 気づくと、そこにはμ'sの全員が、それに園田優羽と希もいた。

 

「いえ、絵里先輩。お願いがあります」

 

「練習? それなら、昨日言った課題を——」

 

「絵里先輩、μ'sに入ってください!」

 

「——え?」

 

「私たちと一緒に、歌ってほしいです! スクールアイドルとして!」

 

「……な、なに言ってるの、私がそんなことするわけないでしょ」

 

「さっき希先輩から聞きました」

 

「やりたいなら素直にそう言いなさいよ」

 

「にこ先輩に言われたくないけど」

 

「ちょっと待って、べつにやりたいなんて……だいたい、私がアイドルなんておかしいでしょ」

 

「べつにいいんやない?」

 

 希が言う。

 

「やりたいからやってみる……本当にやりたいことって、そんな感じで始まるんやない?」

 

「!」

 

 心の中のしがらみが吹き飛んでいくような、そんな感じがした。そして今、μ'sのメンバーの顔を見て、ようやく分かった気がした。亜里沙の言っていたこと、そして自分のやりたいことが。

 ゆっくりと、私はその差し伸べられた手を握る。

 ようやく、私の『本当にやりたいこと』が始まるのだ。

 

「これで八人……!」

 

「九人や、うちをいれて」

 

「え?」

 

「占いに出てたんや、このグループは九人になったとき、未来を開けるって。だから付けたんよ、九人の女神の名前——『μ's』って」

 

「えっ……じゃあこの名前、希先輩がつけたんですか?」

 

「うふふ」

 

「希……まったく、呆れるわ」

 

 そう言って私は歩き出す。

 

「あの、どこへ……」

 

「決まってるでしょ? ……練習よ!」

 

 本当にやりたいことと……μ'sと共に!




ひと段落ついたので、そろそろ番外編を書こうと思います。
感想などでリクエストがあればそれを書こうと思うので、どんどん言ってくださいね。

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