ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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長く間を空けてしまってごめんなさい。
言い訳としては、やっぱり四月は忙しくて……

まあしかし、この物語もやっと動き出します。この辺からはアニメで映された場面をそのまま書くことも多くなるとは思いますが、ところどころ台詞や行動がアニメとは違うこともあります。そのあたりはご了承ください。

では第十一話、どうぞ。


第二章 Pure girls project
第十一話 同級生たち①


 五月も中旬となり、学校生活もある程度落ち着いてきた。僕はあれから、μ’sのサポートをすることになった。サポートというのは、主に宣伝活動だ。インターネットで情報を伝えたり、活動記録を付けたりしている。あとは、ときどき放課後の練習を見て客観的な意見を言う役もしている。そしてなにもないときはアイドル研究部にいってにこちゃんと世間話(といってもにこちゃんのアイドルの話を聞くだけ)をしている。

 そんなある日の休み時間だった。

 

「かーよちん! 決まった? 部活。 今日までに決めるって、昨日言ってたよ」

 

 別に聞くつもりはなかったのだが、向こうの小泉さんの席での星空さんと小泉さんの会話が聞こえてきた。

 

「そ、そうだっけ……明日、決めようかな……」

 

「そろそろ決めないと、もうみんな部活始めてるよ?」

 

「う、うん……えと、凛ちゃんはどこ入るの?」

 

「凛は陸上部かなー」

 

「陸上部か……」

 

「あ、もしかして——」

 

 そこだけ急に星空さんは小声になって、よく聞き取れなかった。

 すると今度は、いままで声が小さかった小泉さんの声が大きくなる。

 

「え、ええ!?」

 

「ふうん、やっぱりそうなんだ?」

 

「そ、そんなことない……」

 

「だめだよ、かよちん嘘つくとき、指合わせる癖あるからすぐ分かっちゃうよー」

 

「うぅ……」

 

 すると星空さんは、小泉さんの腕を持って言う。

 

「一緒に行ってあげるから、先輩達のところに行こう?」

 

「ち、違うの! ほんとに……私じゃ、アイドルなんて……」

 

「かよちん、そんなに可愛いんだよ? 人気出るよー」

 

「でも待って……待って!」

 

「うん?」

 

「あ、あのね……わがまま、言ってもいい?」

 

「しょうがないなあ。なに?」

 

「もしね、私がアイドルやるって言ったら、一緒にやってくれる?」

 

「……凛が?」

 

「うん」

 

 そして一瞬の沈黙。

 

「……無理むり、凛、向いてないし、それにほら、女の子っぽくないし……あ、そうだ、優羽くん! 優羽くんもそう思うよね?」

 

「え? あ、えっと、その……」

 

 いきなりこっちに振られて慌ててしまう。というかそんなこと言われても、僕はなんて返せばいいんだよ。「可愛いと思うよ」とか言うのは普通に恥ずかしいし、「女の子らしくない」なんて言ったらもう男として最低だろう。

 まあ本当のところを言うと、星空さんはかなり可愛い女の子だと思うけど。

 そして僕はそんなことを一瞬の間に考えた後、ベストだと思われる返答を返した。

 

「うん……いいと思うよ?」

 

 ……なにが?

 いやいや全然いい返答とかじゃないじゃん!

 いいと思うって、なにがいいと思ったんだよ……なにについていいんだよ……

 すると星空さんは小泉さんに向き直して、少しだけ俯いて言う。

 

「やっぱり、凛はいいよ……凛は、アイドルなんて……」

 

「凛ちゃん……」

 

「あ、そうだ! 凛、ちょっとパン買ってくるね!」

 

 そう言って、星空さんは教室を出て行ってしまった。

 そしてふと、小泉さんと目が合う。

 

「あ、えっと……僕、なにかまずいこと言ってた?」

 

「ううん、大丈夫だよ。ごめんね、巻き込んじゃって」

 

 そう言って、小泉さんは前を向いてしまう。

 間も無く、星空が帰ってきて、それと同時に休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 放課後、僕はアイドル研究部の部室に来ていたのだが、教室に忘れ物をしていることに気付いて取りに戻ることにした。

 そして教室に入ると、そこには小泉さんが一人で教室に残っていた。

 

「あれ、どうしたの?」

 

「あ、園田くん。私、日直の仕事があって……園田くんは?」

 

「うん、ちょっと忘れ物を……」

 

「そっか」

 

 と言う小泉さんの手元を見ると、かなり多くの量のプリントを整理している。本来日直は二人のはずなのだが、もう一人はなにをやっているのだろうか。

 

「大変そうだね。手伝うよ」

 

「え? だ、大丈夫だよ」

 

「いいからいいから」

 

「うぅ……あ、ありがとう……」

 

 なんだか申し訳なさそうに言う小泉さん。あれ、もしかして嫌だったかな……いや、これは気にしたら負けな気がする……

 

 そうして僕たちがプリントの整理を完了させ、帰る準備をして廊下に出ようとした、そのときだった。

 

「ん? あれは……」

 

 廊下の、ちょうどμ’sの張り紙やビラが置いてある場所に、一人の見覚えのある少女が立っていた。

 ——西木野真姫だった。

 

「あれって……西木野さん?」

 

 僕の隣から廊下を見ている小泉さんは、不思議そうに彼女の様子を伺う。

 そして西木野さんが立ち去って、僕たちは廊下に出た。というかなぜ隠れたのだろうか、僕にもよく分からない。

 西木野さんが立っていたところに行くと、なにか手帳のようなものが落ちているのを発見した。

 これは……西木野さんの生徒手帳だ。

 僕と小泉さんは「どうする?」と少し話し合った結果、彼女の家に届けることにした。

 

 ○ ○ ○

 

 にこちゃんと姉さんに一応連絡をして、僕たちは生徒手帳の住所を頼りに西木野さんの家に着いたのだが……そこはなんというか、見たことのないような豪邸だった。

 

「ほえぇ〜……す、すごいなぁ」

 

 小泉さんは気の抜けたような驚き方をして、その豪邸を見上げる。

 西木野さんの両親は西木野総合病院という大きな病院を経営しているという話は聞いていたが、それと同時にかなりのお金持ちのようだ。

 僕が代表してインターホンを鳴らすと、すぐに女の人の声で、

 

「はーい?」

 

 と、この豪邸を前にしていると少し拍子抜けするような、ゆったりとした感じの声が聞こえた。

 

「あ、あの、西木野さんのクラスメイトの園田という者ですが……」

 

「はーい、ちょっと待ってちょうだいねー」

 

 そして数秒後、ひとりでにドアが——というより門が開いた。

 

「うぅ……なんだか緊張する……」

 

「大丈夫、安心して……僕もだから」

 

「そっか、なら安心……って、それ意味ないよぅ。…」

 

 小泉さんの方はそんなノリツッコミをする余裕があるではないかと突っ込みたいところだったが、僕はそんな余裕はなかった。

 こんな豪邸に入ることももちろんなのだが、よく考えると、そんなに喋ったこともないような女子の家に今から乗り込もうというのだ、そりゃ緊張するだろう。

 しかし、ここまで来た以上、引き下がるわけにもいかない。

 ……よし!

 僕はパンッ!と両手で自分の顔を叩くと、扉を抜けてその敷地内へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 僕たちはそのままリビングのようなところへ通され、紅茶を出されていた。

 

「ちょっと待ってて。病院の方に顔出してるところだから」

 

「病院?」

 

 小泉さんが聞くと、西木野さんのお母さんはおっとりとした声色で、

 

「うち、病院を経営していて、あの子が継ぐことになってるの」

 

「そ、そうですか」

 

 小泉さんが納得し、そのまま会話は終わると思われたが、西木野さんのお母さんはそのままニコニコして続けて言った。

 

「でもよかったわ。高校に入ってから真姫ちゃん、友達一人も連れてこないから心配してて……でも今日は二人も来てくれて、とっても嬉しいわ」

 

「は、はあ……」

 

「じゃあ、もうすぐ帰ってくると思うから、ゆっくりしててね」

 

 そういうと、今度こそ西木野さんのお母さんは部屋から出て行ってしまった。

 バタン。

 閉められたドアの音を最後に、部屋から音が消える。すなわち、沈黙の時間が流れる。

 …………

 うぅ、気まずいよ……はやく帰ってこないかな、西木野さん……というかなんで僕まで一緒に来ちゃったのだろう。こういうのは普通、女の子同士だけのものじゃないか。なんでこうなった……

 そんな風に、どうにもならないことを考えて気まずい時間を過ごしていると、意外にも、隣に座っている小泉さんがこの沈黙を破った。

 

「あ、あの……」

 

「え?」

 

 突然話しかけられて僕は少し驚いてしまう。

 

「園田くんは、凛ちゃんのことどう思う?」

 

「え?」

 

 僕はその質問の意味がよく分からなかった。

 

「だから、えっと……男の子から見てどうかな?」

 

「それはつまり……異性としてってこと?」

 

「うーん、そう……そんな感じ。どう思う?」

 

「どう思うって……」

 

 いきなりなんて質問するんだこの子は!

 純粋な僕の心は、そんな質問をされるだけで揺れ動いてしまう。

 これ、どう答えりゃいいんだよ……

 しかし、チラッと横を見たとき、僕は小泉さんの表情を見て、彼女が真剣であることがすぐに分かった。

 

「可愛い……んじゃ、ないかな?」

 

 僕は恥ずかしい気持ちを抑えて、真剣に答えた。

 すると、小泉さんはいきなりテンションが上がり、

 

「だよね! 園田くんもそう思うよね!」

 

 と、座りながら目をキラキラさせてこちらを見てくる。

 

「でも、なんでそんなこと聞いたの?」

 

 すると、さっき上がったテンションが、今度は一気に下がってしまった。

 

「……凛ちゃん、自分に自信がないの」

 

 小泉さんは、少し下を向いて言った。

 

「自分に自信がない?」

 

「うん。凛ちゃん、昔いろいろあって……自分は女の子らしくないって、そう思ってるみたいで」

 

「そう、なんだ……」

 

「でも、男の子の園田くんが可愛いって言ってるのを知れば、凛ちゃんも自信がつくと思うの! だから——」

 

「待って待って! 言わないで! 星空さんに僕が可愛いって言ってたことは言っちゃダメだよ!?」

 

「な、なんで?」

 

「それは、その……恥ずかしいから……」

 

「そ、そんな……」

 

「うっ……なんかごめん」

 

「……ううん、いいの。凛ちゃんのこと、可愛いって言ってくれただけでも嬉しい」

 

 小泉さんは、まるで自分が言われたかのように嬉しそうだった。

 するとそのとき、入り口のドアが前触れなく開いた。

 

「あ、西木野さん……」

 

「あんたたち……なんでいるのよ?」

 

「あ、その、えっと……あ、そうだ、学生手帳を届けに来たんです」

 

 そう言うと、小泉さんは持っていた手帳を西木野さんに渡した。

 

「え? わざわざ来てくれたの?」

 

「ま、まあ……」

 

「……そう、ありがと」

 

 意外と素直に礼を言うと、彼女は僕たちの向かい側のソファに座り込んだ。

 

「で?」

 

 ソファに深く腰掛けながら、西木野さんはこちらを、特に僕の方をじっと見てくる。

 

「え?」

 

 我ながら間の抜けた声で聞き返す。

 

「なんであなたもいるのよ?」

 

「いや、僕も拾ったから……」

 

「まあいいわ……」

 

 そう言って西木野さんは一口お茶を飲む。そしてつられて僕も一口……って熱! こんな熱いの、よく平気な顔して飲めるな……

 

 

 

「あ、あの……μ’sのポスター、見てたよね?」

 

 

 

 と、唐突に突然小泉さんが切り出した。

 すると、西木野さんは驚いたような顔をして、

 

「わ、私が? ……知らないわ。人違いじゃないの」

 

 と言ってそっぽを向く。

 

「でも、手帳もそこに落ちてたし……」

 

「! ……ち、違うの!」

 

 そう言って西木野さんは立ち上がろうとしたとき、膝を勢いよくテーブルにぶつけてしまい、

 

「っと、っと、あぁ!」

 

 と、ソファごとひっくり返ってしまった。

 ……もう、なんというか。誤魔化すの、下手だなあ。

 見ていられなかったので、僕はそっと立ち上がり、テーブル越しに手を貸そうとする。

 

「なにしてるんだよ……ほら、大丈夫——」

 

 と、そのとき。ひっくり返った西木野さんを見て、僕はある重大なことに気づいてしまった。そのことに驚きすぎて、僕はその手を止めてしまう。

 

「いったーい! ……もう、どうしたのよ、早く助けてよ……」

 

「…………」

 

 ダメだ、まだ驚きが収まらない。こんなこと、誰が予想できただろうか。いつもクラスでは孤高を保ち、常に冷静沈着、クールビューティーを極めるあの西木野真姫が、こんな……

 

「イチゴ柄……」

 

「!!」

 

 その直後、西木野さんはすぐに一人で立ち上がった。

 なんだ、一人でも大丈夫じゃないか。

 自然と僕のその『驚き』を収まってくる。そして。

 

 パチーン!

 

 僕の頬へ手のひらが飛んできたことは、言うまでもなかった。

 




真姫ちゃんごめんなさい、とだけ言っておきます……

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