劇場版組の2人の生死を逆にしてみた   作:rockless

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その後のお話 ~圏内事件・後編~

 次の日、ヨルコさんから聞き取り調査をする

 

「ねぇヨルコさん、グリムロックという名前に心当たりはある?」

 

 姉さんは最初にそう質問する。昨日の夜、姉さんと宿で合流して、お互いが得た情報の交換は行っている。グリムロックとは、カインズさんが死亡した(ということになっている)ときに刺さっていた槍の製作者である

 

 それにしても・・・昨日、私は『死亡したか確認してくる』と言ってあの場を離れた・・・なのに今日会ってもヨルコさんはカインズさんの生死を聞いてこない・・・姉さんは伝えていないから、知らないはずなのに、気にならないのだろうか・・・?

 

 怯えた態度で姉さんの質問に答える彼女。しかし、食事を共にする仲のカインズさんの生死を心配していない。そんな矛盾が気になって仕方がない

 

「グリムロックさんは、私とカインズが昔いたギルドのメンバーだった人です」

 

「そのグリムロックさんが、カインズさんに刺さっていた槍の製作者なの」

 

「そんな、まさか・・・ということはやはりあの人は半年前のことを・・・」

 

「半年前に何があったのですか?」

 

 そこから半年前の事件が語られる

 半年前、レアドロップで敏捷が+20付与される指輪を入手して、その指輪を売ってお金にするか、ギルド内で使うかで揉めたらしく、最終的には多数決で売ることになり、リーダーのグリセルダという人が前線付近の競売屋に頼むために行ったのだが、その後行方知れず、生命の碑で死亡を確認したとのこと

 

 あーうん、私その指輪持ってる・・・しかも4つも。しかも補正値は私が持ってるもののほうが高い・・・

 

 手袋越しに、その指輪たちを触る。ちょっと気まずい思いをした私だった

 

「ちなみにグリムロックさんとは・・・?」

 

「彼は、グリセルダさんの旦那さんでした。もちろん、このゲーム内の、ですけど・・・」

 

 出た。このゲームの中で、なぜ存在するのかわからないシステム第2位。結婚したからといって、戦いの面で強くなるわけでもない。ストレージが共有化なんてされるせいで詐欺に使われ、結果として本当に好き合ってても、そのシステムを使用する人は少ないという意味不明さ。ちなみに第1位は倫理コード解除設定だったりする

 

「グリムロックさんが犯人なら、あの人は指輪売却に反対した3人を狙っているのでしょうね・・・」

 

 仮に彼女の言うとおりならば、凶器に自分が作った槍は使わないだろう・・・実際、こうやってヨルコさんが私たちと一緒にいるということは、犯人にとっては犯行のチャンスが潰されているわけだから、好ましい状況とはいえないはずだ・・・

 

「指輪の売却に反対した3人のうち2人は、私とカインズなんです」

 

「もう1人は?」

 

「シュミットというタンクです。今は攻略組の聖竜連合に所属していると聞きました」

 

 聞きました・・・?

 

「ちょっといい?そのシュミットさんという人とは、カインズさんとのように食事に行ったりはしていますか?」

 

「いえ、ギルドを脱退してからは1度も会ったり連絡を取ったりはいません」

 

 姉さんの質問を止めて、私が質問する

 

「それはカインズさんも?」

 

「はい・・・そうだと思います」

 

 連絡を取ったり、会ったりしていないのに、現在の所属を知っていると・・・?

 

「あの、シュミットに会わせてもらえませんか?きっと、まだこのことを知らないでしょうから・・・」

 

「その前に、もう1つ」

 

「なんでしょう・・・?」

 

「そのシュミットさんを、あなたはフレンド登録をしていますか?」

 

「いえ・・・さっきも言いましたが、シュミットとはギルドを脱退してからは1度も会ってませんので・・・」

 

 なぜそんなことを?という表情をして答える彼女。私は『そうですか』っと返して、姉さんに視線を送り、会話をバトンタッチする

 

 たまに、日常的に会う人より、たまにしか会わないような人をフレンド登録する人がいる。日常的に会うから連絡を取る必要もなく、逆にたまにしか会わないからこそ、所在がわかったり、連絡が取れたほうがいいと考えるのだけど、彼女はそれも否定した

 

「わかりました。シュミットさんを呼びましょう」

 

 

 姉さんとキリトがシュミットを呼びに言ってる間、私とユナはヨルコさんに付いて宿で待っていた

 

「今回の件、どう思ってる?」

 

「私はカインズさんは生きてると思ってる」

 

 ユナの問いかけに、私は推理を語る

 

「死んだとする場合、手段がどうにも説明がつかないんだよ。デュエルならカインズさん自身が降参をすれば継続ダメージは止まるし、首を吊られてた意味がわからない。既にあるトリックを組み合わせてやったなら、私のハルバードを弾いた理由が説明できない」

 

 圏内にいるプレイヤーを殺す方法は、過程の違いはあるものの、結局のところ2つしかない。デュエルモードを起動して圏内の保護を一時的に無効化して殺すか、圏外に連れ出して殺すかである

 

「私が知らないような、圏内の保護を突破するアイテムやスキルがあれば別だけどね」

 

「そんな反則みたいなもの、あるのかな?」

 

「どうだろうね」

 

 去年のクリスマスにキリトが手に入れた蘇生アイテムが、死後10秒以内なら本当に機能するのならば、ありえるだろう

 

「死んでいないのなら、この事件っていったいなんなの?」

 

「例えば、グリセルダさんの死の真相を知るために、ヨルコさんとカインズさんが組んで起こしたものと考えると動機の説明はつく。レアアイテムを持ったギルドのリーダーが謎の死を遂げ、その後ギルドを脱退したメンバーが、どうやって強くなったか知らないが攻略組にいるわけだから」

 

「シュミットさんがグリセルダさんを殺して、レアアイテムを奪った・・・っとヨルコさんたちは思ってもおかしくないね」

 

「間違いなく、シュミットさんが来たら何か起こるだろうね」

 

 姉さんたちがシュミットさんを呼びに行き、『これから準備します』と言わんばかりに、1人にしてほしいと言って私とユナを宿の部屋に入れなかった彼女のことだ、必ず何か起こすだろう

 

「さて、何を見せてくれるのかな?」

 

 色々突っつきたいところはあるけど、あえて傍観に徹してみようかな・・・

 

 

「ヨルコさん!!」

 

 わーすごい・・・拍手を送りたい・・・

 

 目の前で起こっている事態に、私はそう思った

 シュミットさんを連れた姉さんとキリトが宿にやってきて、ヨルコさんが取っていた部屋で話を聞くことになった。シュミットさんとヨルコさんは、恐怖と焦りを滲ませながら喧々とやり取りをしていた。やがてヨルコさんは発狂し、窓の傍まで移動し、そしてたった今、ヨルコさんの背中にダガーが刺さり、ヨルコさんは窓から外に落ちて死亡した、ということになっている

 

「後を頼む!!」

 

 キリトは遠くに見えた、ダガーを投げたであろうローブのプレイヤーを追って飛び出して行った

 

「あのローブはグリセルダのものだ・・・やっぱ俺たちに復讐しに来たんだ。ハハッ・・・幽霊なら圏内でPKするのもワケないよな・・・アハハハ」

 

 彼女の演技にすっかり騙されて、精神的にかなり追い詰められているシュミットさん。もうヨルコさんの劇場は終わったみたいだし、そろそろ発言しようかな

 

「シュミットさん、私から1つ質問です」

 

「な、なんだ・・・?」

 

 私の言葉に、シュミットさんは酷く怯えながら返した。彼の前に昨日取ったメモを見せる

 

「ここに2つの名前があります。どちらもカインズと読めなくもない綴りですが・・・あなたたちと同じギルドにいたカインズさんの綴りはどちらですか?」

 

「え?あ、うーん・・・」

 

 シュミットさんは差し出されたメモを手に取り、『どっちだったかな・・・』っと記憶を漁っていた

 

「スマン、わからない。名前の綴りなんて気にしたことないからな」

 

 やがて、申し訳なさそうにそう言って、メモを私に返した

 

「気にしないでください」

 

 綴りを知りたくて聞いた質問ではないですから・・・

 

 私は返されたメモをクシャッと握り、姉さんに視線を向けた

 

 

 シュミットさんを聖竜連合に帰したあとで、4人で集まって情報交換することにした。姉さん特製のサンドイッチを食べながら各々情報を出し、意見を交わす

 

「確かに、情報をまとめるとヨルコさんが怪しいのはわかる。でも彼女は死んだ」

 

「それがフェイクだとしたら?カインズさんも含めて」

 

「フェイクって、じゃああの時俺たちが見たのはなんだったんだ?どうやったのかわかったのか?」

 

「さぁ?でも他殺より、自殺の演技のほうがシステム的にはハードルが低いと思わない?」

 

 今までの情報で推理した私の意見を話すと、キリトが大筋で納得しつつも疑問をぶつけてきた

 

「今、私が気になっているのは、今回の件にグリムロックさんがどれくらい関わっているのか、かな?ゲーム内とはいえ、奥さんを殺されているわけだし、真相を知りたいと思うはず」

 

「そういえば、武器の製作者がグリムロックってだけで、それ以外では半年前のことでは名前が出てくるけど、今回の件では出てこないな」

 

「普通なら奥さんの死の真相なんだから、元ギルドメンバーとはいえ人任せになんてできないよね」

 

「奥さんの死の真相を知りたくない理由・・・」

 

 あるいは、もう既に知っている・・・?まさか・・・

 

「半年前の事件の犯人が、グリムロックさんだったなら・・・?」

 

「でもあの2人は夫婦だったって・・・」

 

「そこは夫婦だからこそ、じゃないかな?」

 

 姉さんの否定の言葉を、ユナがそのまま返して否定する

 

「おい、待て。それが事実だったなら、死の真相は誰にも知られたくないんじゃないか?」

 

「でも、今回の件で彼は凶器となる武器の製作をした・・・つまりはカインズさんとヨルコさんの計画を知っている」

 

 それはなぜか・・・そんなのは簡単だ

 

「今回の件を利用して、グリセルダさんの死の真相を探る人をまとめて殺すため・・・」

 

「あの3人が危ない!」

 

 行き着いた結論に、私たちは焦る

 

「でも、3人の居場所が・・・」

 

 しかし、焦ったところでどうしようもなかった

 

「あ、待って、ヨルコさんの所在ならフレンド登録をしたから」

 

「「「・・・」」」

 

「な、何?」

 

 そんな中、姉さんの言葉に、姉さん以外の3人はジト目になった

 

 フレンド登録してたなら言おうよ、姉さん・・・

 

 

 これは、とんだ大物が来たものだ・・・

 

 ヨルコさんたちがいたのは19層の街の郊外だった。そして、彼女らを襲おうとしている殺人ギルドに、PKKとして少なくない数のプレイヤーを殺してきた私でも冷や汗が流れた。PoH、XaXa、Johnny Blackの3人。最凶最悪の殺人ギルド、笑う棺桶だったからだ

 殺人ギルドが関わっている可能性が高いということで、ユナには血盟騎士団の本部に待機を指示し、さらにここに来るまでに黒制服の部下に召集をかけた。今は隠蔽状態で監視をしながら到着を待っているが、この相手とはできれば今はやりあいたくない

 

 ここで変に突っついたら、今準備している一斉撲滅作戦がパーだもんね・・・

 

 幸い、先に突っ込んでいったキリトが、うまく言葉だけで退けたようで、私はホッと一安心する。到着した部下に周囲を見張らせ、私もヨルコさんたちの所へ向かうことにする

 

「どうしてよグリムロック?!」

 

 キリトたちに合流すると、ちょうど姉さんが連れてきたグリムロックさんを、ヨルコさんが問い詰めていた

 

「どうやら私が推理した通りのようだったみたいですね」

 

「えぇ、ユナが言ってたこともね・・・」

 

 グリムロックさん、否、グリムロックから半年前の事件の真相と動機が語られている。嬉しくないが私の推理は正解だった

 グリムロックとグリセルダさんは現実でも夫婦だった。お互い何も知らないことはないくらいで・・・しかし、SAOに囚われて、彼女は変わったとグリムロックは言う

 

「要するに、嫉妬したわけですか。デスゲームにビビッてヘタレた自分は、いつか彼女に捨てられる、っと・・・そりゃそうだ、現実でどんな家庭を築いていたか知らないけど、いざとなったらヘタレる男、私だったらゴメンだし・・・」

 

 恐らくだが、この夫婦に子どもはいない・・・そして、SAOに囚われていなかったとしても、子どもが生まれたら、近いうちに夫婦関係は破綻していただろう・・・その後、どういう結末になるかは、わからないが・・・

 

「みなさん、この男の処遇は、私たちに任せてもらえませんか・・・?」

 

 カインズさんの申し出に、私と姉さん、キリトは顔を見合わせた。私としては処刑してやりたいが、グリムロックは一応カーソルがグリーンだし、姉さんの前で人を殺すわけにもいかないので、引き下がることにする

 

「わかりました」

 

 3人とも異議はないみたいで、姉さんが代表して返事をし、カインズさんたちがグリムロックを連れて去っていった

 

「結婚か・・・ねぇ、君ならどうした?もし結婚して、その後に、相手の隠された一面を知ってしまったら・・・」

 

 夜が明け、朝日が登る中、姉さんがキリトにポツリと質問した

 

「ラッキーだった、って思うかな?結婚するってことは、それまで見えていた面はもう好きだってことだろ?だから、その後に新しい面に気付いて、そこも好きになれたら・・・」

 

 好きになれなかったら?という質問はするだけ無駄か・・・結婚した相手なら、好きなところも嫌いなところも、全てひっくるめて愛しているわけだから・・・

 

 そんなことを思いながら、もうここには用はないので、街に向かって歩き出す。周囲の見張りをしていた部下に撤収の指示をメッセージで送り、ユナにもこれから帰る旨のメッセージを・・・

 

「リリィ!!」

 

「なに?急に大声出してどうしたの?」

 

 一瞬強く風が吹いたが、気にせずメッセージを打ち込みながら歩いていると、姉さんが慌てたように大声で私を呼んだ

 

「あれ・・・って、あれ?」

 

 姉さんはグリセルダさんのお墓があるほうを指差すが、そっちを見ても特に変わったところは見られない

 

「ユナが心配してるし、早く帰ろう?」

 

「う、うん・・・じゃあね、キリト君」

 

「あぁ」

 

 姉さんはキリトに手を振って、小走りで先を歩く私の隣までやってきた。そんな様子に、自然と顔がにやけてくる

 

 あらあら、ずいぶんと親しくなりましたね・・・姉さん?昨日は私とくっ付けようとご飯まで誘ったのに・・・

 

「え?なにかおかしかった?」

 

「ううん、別に・・・」

 

「もう、なによー・・・」




 はい、くぃーつかです

 圏内事件、完結です

 ヨルコさんから聞き取りシーン。黒制服の活動で、すっかり人を疑う性格になってしまっているリリィ。でも生死不明の状況で、確認した結果が気にならないなんて、もう結果を知っていると見られても・・・それに生死不明なのに、『死んでいるに違いない』と思い込むのは薄情としか・・・

 おまけで廃人プレイの一端を描写。もちろん自力ドロップ。そんなのいつ手に入れたかって?廃人プレイといえば、寝ない・食べない・休まない、の3ないプレイでしょう?リリィが黒制服の活動で初めて人を殺したあたりの頃、眠れなくてアスナが寝たあとで、コッソリと抜け出してレベル上げを・・・という設定。もちろん朝起きたら妹のレベルが上がってるわけだから、アスナにはバレてる。黒制服の活動も、『私が知らないことを何かやってる』程度には感づいているが、本人が隠しているから、気付かない振りをしている

 さらにリリィの結婚システムに対する思い。ぶっちゃけ言うならコレ必要?リソースの無駄じゃない?という感じ
 『その前に、もう1つ』。ちょっと右京さんっぽくしてみた(笑)

 宿での待機シーン。推理というより、消去法で可能性を潰してるだけ
 そういえば、始まりの日に、『全ての蘇生アイテムは機能しない』とはっきりと言われたのに、なぜキリトはあの蘇生アイテムに固執したのだろう?あの蘇生アイテムが時間制限が関係なく機能しなかったら・・・?

 ヨルコさん発狂のシーン。あの死亡シーンが演技だったなんて・・・女性はみんな役者って言葉が頭を過ぎった

 夕食シーン。死んだ(ように見せた)トリックは本人から聞けばいい、というのがこのときのリリィの思考。それより重要なのは『さらなる面倒事』に発展する可能性。結婚後のストレージのことも、どうでもいい

 ラフコフとの接触シーン(リリィは直接接触をしていませんが)。もうこの時点でラフコフ討伐戦に向けた準備をしているという設定。もちろんリリィには捕縛する気はさらさら無い

 前編でも書いたけど、ユナ×リリィにしたいので、キリトとアスナは原作どおり

 今度こそ続きはない

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