劇場版組の2人の生死を逆にしてみた   作:rockless

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 前話でポカったのに懲りずに投稿


その後のお話 ~圏内事件・前編~

 2024年3月

 ある日、最前線のフィールドボス攻略会議が行われていた

 

「ボスを町の中に引き込み、NPCを襲っている間に攻撃を・・・」

 

「ダメだ!そんなことをすればNPCが」

 

「死ぬ、とでも?」

 

 姉さんが示した作戦に、異議を唱える1人の剣士。彼は攻略組としては珍しく、ギルドに所属していないソロプレイヤーのキリトだ

 彼の異議を姉さんは一睨みして黙らせた

 

「NPCは死んでもリポップするだけです。犠牲にしても問題ないでしょう」

 

「だけど!」

 

 諭すように言う姉さんに、食い下がるキリト

 2人の口論はしばらく続き、攻略会議の進行が中断してしまう。そんな光景に周囲に呆れとため息が広がっていった。私もそんな1人であり、ため息を1つ吐き、目の前に広げてあるマップに目を落とした

 

「リリィ?何か気になることでもあるの?」

 

 そんな私の様を傍にいるユナが気付き、話しかけてきた

 

「そうだね。今回のボスと町の配置についての意味が、ちょっとね。システム的な点でもシナリオ的な点でも・・・」

 

「どういうこと?」

 

「システム的な点っていうのは、この配置をゲームとして見た場合の話で、ボスの行動範囲内に都合よく町があるなんて『どうぞ囮に使ってください』って感じがするじゃない?なら、シナリオ的、つまりこの町が、どうしてこんなところにあるのか。あるいはいつボスがここに住み着いたのか。ボスについてこの町のNPCはどういう考えを持っているのか・・・とか、そういう歴史みたいな感じ。当然、ボスが先に住み着いてたなら、こんなところに町を作ろうなんてNPCは思わないはず」

 

「確かに・・・」

 

 実際、攻略作戦を立てる段階で、この辺りのフィールド調査を行っているので、この町にも足を運んでいる

 

 あの時、思ったのは・・・

 

「あの町って、若い人が少なかった気がする」

 

「そうだね。空き住居も多かったし、ボスが住み着いたから、若い人は大きい街に逃げていったのかな?」

 

「っと考えると、ボスがいなくなると、若い人が戻ってくる可能性があるね。それで人口が増えると、圏外だった町が圏内になったり、あとはNPC商人の店も増える・・・なんて」

 

「それでその商人が、今いる商人よりいいものを売ってくれたなら・・・」

 

 っとユナとマップを見ながらそんな話をしていると、周囲からの視線を感じたので、顔を上げると姉さんやキリト、他プレイヤーが私たちに視線を向けていた

 

「何?」

 

「いや、何って・・・」

 

「ユナと話してたのは、全部『そうだったらいいな』的な話だよ。だから私は姉さんの作戦に異論はないよ。ボスを倒したからって、そんなすぐに町に活気が戻るわけじゃないだろうし、戻った頃には私たちはもうこの層にはいないだろうから。安全確実に倒せるなら、それに越したことはないよ」

 

 私たちが攻略するのは、現実に帰るためであって、NPCに感謝されるためではないのだから・・・

 

 

 

 

 

 それから1ヶ月とちょっと経った4月下旬。現在59層攻略中

 

「ちょっと!昼寝なんてしてないでダンジョンに潜るなりしたらどうなの?」

 

「今日は1年でもっとも気持ちいい気候設定の日だ。こんな日は昼寝しないなんてもったいない」

 

 街から迷宮区に向かう道すがら、木陰で昼寝をしていたソロの剣士ことキリト。そんな彼に姉さんは食って掛かっていた

 私とユナはそんな2人に、『喧嘩するほどなんとやら・・・』っと優しい目で見守っていた

 

「あんたらも寝てみたらどうだ?風が気持ちいいぞ」

 

「・・・」

 

 キリトの言葉に姉さん黙るとともに、フワッと風が吹いた。キリトの言うこともわかる気がした私は、ユナに『どうする?』っと視線を投げかけてみると、彼女は笑顔でコクリと頷いた

 

 あぁ、こんなゆっくりとできる時間がとれるなんて、いつぶりだろう・・・?

 

 

 2時間経った

 

「う、う~ん・・・」

 

 先に寝ていたキリトが目を覚ました。そして体を起こし、隣で寝ている姉さんの姿を見て驚いた。すぐに周りを見回して、私と目が合った

 

「あんたは寝なかったんだな」

 

「そりゃあ誰かは起きてないと危ないからね」

 

 そう言いながら、膝枕してあげているユナの頭を撫でる。ユナにはノーチラスの一件からこっち、黒制服として活動する時に、姉さんの相手をしてもらったり、ダミーの理由として使ったりしている

 

「それに、こんな何もしない時間なんて久しぶりすぎて、眠るのがもったいなくて・・・」

 

「どんだけ廃人プレイしてんだよ・・・レベルだけならヒースクリフより上って噂は本当なのか?」

 

「んー、どうだろう?団長のレベルは聞いたことがないからね」

 

 キリトの疑問に、私は笑って誤魔化す

 

「でも、1つだけ言えることは、モンスターと向かい合って、生きるか死ぬかのときは、全てを忘れられる・・・不安も、恐れも、嫌な記憶も・・・」

 

「あぁ、わかる・・・」

 

 私の言葉に、キリトが少し俯いた。攻略組のプレイヤーで人が死ぬところを見たことがない人なんていない。みんな後悔や悲しみを背負っている

 彼の過去の行動は黒制服の活動の一環で調査している。去年の6月に、入っていたギルドのメンバーが、彼を除いて全滅している。その後、『蘇生アイテムがドロップする』という噂のクリスマス限定のイベントボスをソロで討伐するも、蘇生アイテムは死後10秒間しか機能しないものだったという

 

「戦ってるときだけは、私は自由なんです」

 

「そうか・・・」

 

 そう言って、彼は優しげに笑った

 

「あなたは、どうして攻略組に?」

 

「俺は・・・」

 

 私の質問に、彼は少し考える素振りをして、口を開いた

 

「約束を果たすため・・・生きて、この世界の最後を見届ける。そして、この世界が生まれた意味を、俺がこの世界にいた意味を、見つける・・・そのために、俺は攻略組(ここ)で戦ってる」

 

「そっか・・・」

 

 彼の理由を聞き、なるほどっと思った。別に彼の理由に共感したわけではない。単純に、私の戦う理由を聞いた彼が、優しげに笑った理由がわかったのだ

 

「それで、その約束した子とは、どこまで?」

 

 重い話ばかりだと雰囲気が暗くなるので、ついでとばかりに、気になったので聞いてみる。誰と交わしたのかは知らないけど、そんな約束を交わす相手は当然女の子だろう。男の子という可能性もなくはないけど、どうだろう?私も嫌いではないけどね

 

「どこまでとは?」

 

「キスとか?」

 

「キッ?!」

 

 彼の顔が赤くなった。声を上げそうになったが、姉さんやユナが眠っているので、なんとか止まった

 

「まさか、付き合っていなかったと?それとも逆に、もう・・・」

 

「してないから!」

 

「ふーん。まだ童貞っと・・・」

 

「ど、ど、童貞ちゃうわ!」

 

 先ほどまでの暗い雰囲気を吹き飛ばすように、からかい、笑う

 

「も、もう俺は行くからな!」

 

「えー、まぁまぁ、もうちょっと話そうよ」

 

 逃げるように立ち上がった彼を私は引き止める

 

「こんなバカみたいなやり取りするのも、久しぶりなんだからさ」

 

「・・・ったく」

 

 あぁホント・・・こんな楽しいのは久しぶりだ・・・

 

 

 さらに時間は過ぎ、夕方になった

 

「クシュン!!」

 

 キリトと内容のない話をしていると、姉さんがくしゃみをして目を覚ます。寝惚け眼で辺りを見渡し、ここが外であることを認識した瞬間、口元に草を付けたままの表情がハッと引き締まった

 

「おはよう、姉さん。口元に草の葉が付いてるよ」

 

「なっ、もう、起こしてよぉ・・・」

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる姉さんに、ホッコリとする

 

「ゴメンゴメン。こっちもおしゃべりに夢中になっちゃってて」

 

「もう・・・1日無駄にしちゃったじゃない」

 

「まぁまぁ。それじゃ、どこかで食事をして、宿に帰ろうか」

 

 姉さんを宥めながら、膝枕しているユナを起こす

 

「じゃあ、俺も宿に帰るかな・・・」

 

「じゃあね。またいつか、今日のようにゆっくり話せたらいいね」

 

「それはゴメンだ・・・またな」

 

 立ち上がって去っていこうとするキリトに、手を振って見送っている私。そんな私を見て、姉さんがニヤニヤとしている

 

「ねぇ、もしよかったらなんだけど、一緒にご飯とか、どう?」

 

「は?」

 

 

 気が進まないキリトを、姉さんが押し切るようにして、53層のレストランへ

 

「あ、そうだ、忘れないうちにお礼を言っておくね。私たちが眠っている間、傍に付いててくれてありがとう」

 

「いや、別に俺がいなくても、リリィが起きてたから・・・」

 

「でも女の子だけと、男の子がいるのじゃ、違っただろうからね」

 

 ねぇ、リリィ?っと、キリトの隣に座らされた私に話を振る姉さん

 最近は睡眠中に勝手にデュエルモードを起動しプレイヤーを殺す、なんて方法も出てきたから圏内でも昼寝なんてしないほうがいいんだよね。ホント、結構レッドプレイヤーを殺してきたはずなのに、まだいなくなんないの?

 

「それで、私たちが眠っている間、2人はどんな話をしてたのかな?」

 

「どんなって・・・キリトがまだ童て」

 

『キャアアアアアアアッ!!!』

 

 リアクション早いよ!!ってか今のリアクション誰?!

 外から聞こえてきた悲鳴に、店内にいたプレイヤーは騒然となる。私たち4人も、ご飯の途中であったにもかかわらず、店を飛び出して悲鳴の聞こえてきた方向へ走る

 

「こっちだ!広場でなにかあったようだ」

 

 広場に着くと、2階建ての建物のバルコニーから、鎧を纏ったプレイヤーが首を吊られ、さらに槍が刺さっていた

 

「早くその槍を抜け!!」

 

 キリトが鎧のプレイヤーに向かって叫び、姉さんは建物の中に突入した

 

「リリィ、ロープを!!」

 

「わかってる!!」

 

 ユナの言葉と同時に、私の手からハルバードが放たれる

 槍系ソードスキルの投擲技のシューティングスター。ユナを助けたこの技で、ロープは切断され、首を吊られていたプレイヤーは落下し、地面に衝突した

 

「今抜いてやるから」

 

「危ない!!」

 

 駆け寄ろうとしたキリトを、ユナが引き止めたその瞬間。私が投げたハルバードがバルコニーの手摺りに当たって跳ね返って、鎧のプレイヤーに向かって落ちてきた

 

 マズイッ!!急いで投げたからロープを切ったあとの軌道まで気が回らなかった・・・これは当たってしまう!!!

 

 そう思ったときだった。バシンっと障壁が発生して、私のハルバードは弾かれた。そのコンマ数秒後、鎧のプレイヤーは死亡エフェクトとともに消滅してしまう

 

「死んだ・・・のか?」

 

「でも、圏内の障壁、出てたよな?」

 

 野次馬が驚きで固まる中、私は地面に転がったハルバードを拾い、周囲を見回す。圏内で、私のハルバードを障壁で弾きつつ、且つダメージを受ける状態。それは・・・

 

「デュエルのウィナー表示を探せ!早く!!」

 

 そう、デュエルしかありえない・・・

 

 キリトの叫び声が広場に響き、野次馬たちは我に帰って周囲を見回した

 しかし、表示を発見することはできなかった

 

「建物の中には誰もいないわ」

 

「どういうことだ・・・?」

 

「すみませんが、誰か今のを最初から見ていた人はいませんか?」

 

「あの、私・・・」

 

 私が、野次馬たちに問いかけると、1人の女性が前に出てきた

 

「話を聞かせてもらえますか?私は血盟騎士団のリリィといいます」

 

「はい・・・私は、ヨルコです。カインズと食事をするために」

 

「ちょっと待ってください。あなたはさっきの消えた人と知り合いなのですか?」

 

 被害者(?)のと思われる名前が出てきたことに、私は慌てて質問した

 

「はい・・・以前、同じギルドで・・・」

 

「ならまずフレンドリストでその人の所在を確認してください」

 

「え・・・?どういうことですか・・・?彼は今、ここで・・・」

 

「確認です。彼が本当に死んだのかどうか、という・・・」

 

 圏内の障壁が機能していたが、デュエル相手は近くにはいなかった。ここにいる野次馬も、本当に死んだのかという疑問が拭えない。それを確認するには、1層の生命の碑で確認するか、フレンド登録をしているであろう人に、その人の所在を確認してもらうのが手っ取り早い

 

「・・・」

 

 しかし、なぜか彼女はウィンドウを開こうとしない

 

「どうかしましたか?」

 

「その、していないんです・・・フレンド登録」

 

 していない・・・?かつて同じギルドに所属していて、今も一緒に食事する仲なのに・・・?

 

 私はヨルコさんの言葉に疑問を持った

 

「そうなんですか・・・なら、カインズさんの綴りを教えてください。生命の碑で確認するので」

 

「・・・わかりました」

 

 私は、ヨルコさんから聞いたカインズさんの名前の綴りをメモし、あとのことを姉さんに頼んで、私とユナの2人で1層の生命の碑に向かった

 

 

「名前、消えてるね」

 

「そうだね」

 

 生命の碑を見て、ヨルコさんの言った綴りの名前が暗く表示されている、つまり死んでいることを確認した

 

「ま、これが本当にあのとき消えたプレイヤーの名前だったらの話だけど」

 

「だよね。普通は一緒に食事する仲ならフレンド登録するよね」

 

「しかも、フレンド登録すらしていないのに、綴りは覚えてるなんて怪しすぎる」

 

 まるで、何かで必要だから覚えたようだ・・・

 

 私も含め、ゲームの中ということもあり、現実では聞きなれない西洋風の名前を使っているプレイヤーは多くいるが、この世界は、名前の綴りを覚える必要はない。まず普通に生活していれば自分や他人の名前を書くことがない。それなのに名前の綴りを覚えるほどやり取りをする間柄なら、すでに、同じギルドに入っていたり、フレンド登録なりをしているだろう。つまり綴りを確認する手段はいくらでもあるわけで、結局覚える必要はないのだ

 

「ざっと見てたら、今カインズって読めると思う別の綴りの名前を見つけたけど・・・」

 

「ホント?」

 

「ホラこれ・・・しかも生きてる」

 

 もしこっちがヨルコさんの知り合いのほうのカインズさんだったら?さてはて、何が目的なのかな?ヨルコさんからの聞き取りは明日することになっているけど、どう転ぶかな?

 

「よし、確認も終わったし、今日はもう宿に帰って休もう」

 

 別の綴りのカインズの名前も一応メモに書き、上層に戻るためにその場を後にした




 はい、くぅーつかです

 圏内事件です。アニメで見たのが大分前でいまいち記憶が定かじゃないです

 冒頭の攻略会議のシーン。リリィのボス攻略の作戦方針は、①死亡リスクが低いこと、②簡単であること、③今後の攻略への影響、④時間がかからないこと、⑤コストがかからないこと、の順で重視される
 今回の目的はフィールドボスを倒す(ことでこの層の攻略を進める)ことで、町を救うことではないので、『町を救うことで今後の攻略にいい影響があるかもしれない』という可能性を捨てました。町を救った結果のいい影響も、死者を出してしまったら帳消しどころかマイナスになってしまうし、その影響も攻略上絶対必要というわけではないなら、例えボス攻略で町が壊滅して、その町が機能しなくなろうとも、安全策を取るべき(その町が転移門のある主街区から迷宮区への中継地となる場所であっても)というのがリリィの思考

 昼寝のシーン。なんとかユナ×リリィに持っていきたい書き手の私(笑)
 キリトのことを調べた理由は、攻略組なのにソロという自ら進んで危険なことをしている理由がわからなかったから、自殺志願者ならまだいいが、ソロであることを利用して、攻略組ギルド同士を争わせようとしていたら、黒制服が秘密裏に処刑する算段だった。他にも黒制服は、攻略組の全プレイヤーの名簿を持っていて、怪しい思想を持っているプレイヤーの素性調査や行動の監視を行っている・・・という設定
 姉が肉食系(攻略系?)女子ということもあり、恋バナに興味津々なリリィ。少し下品な話もホモォな話も・・・BLが嫌いな女子はいません!!

 最初の事件のシーン。リリィは転生者設定ではないですが、黒制服の活動でこの手の調査は慣れています。だから段取りに従って被害者の生死を確認しているだけです

 後編があります

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