月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら   作:マタタビ

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お久しぶりです。この話は本編のサブストーリー的な感じで後付けで作りました。笑
本当に久しぶりなので色々矛盾が発生しているかもしれませんが、かるーい気持ちで読んで、暖かく受け入れてください。


夕斗君の憂鬱

  「あの、私、夕斗くんのことが好きです!付き合ってください!」

 

  放課後、 校舎の陰、靴箱の中にあった女の子からの来てほしいという置き手紙、この三拍子が揃えばこうなるのは夕斗にとっては至極当然のことだった。背が高く、誰が見ても認める爽やかな容姿を持ち、人当たりもいい夕斗には小学生の時から自然と女の子が集まってくる。

  今日、夕斗に告白してきたのは一年生の吹奏楽部に所属する子だ。男子の間で可愛いともっぱら噂になっている子だ。幼めのルックスに艶のある黒髪のロングヘアー、背が低い割には胸が大きく、少しおっちょこちょいという男の好みを詰め合わせたような子だった。クラスは違うが、夕斗も何度か見かけたことがあった。そんな女の子に告白されれば大抵はOKを出すだろう。しかし、

 

  「ごめん、俺、今は部活に集中したいから付き合うわけにはいかないんだ」

 

  夕斗はあっさりと交際の申し込みを断った。

 

  「私、夕斗くんの邪魔にならないようにするから、本当に好きなの!」

 

  少ししつこいな。夕斗は心の中で毒づいた。ここまで言われれば普通は嬉しくなるものだろうが、夕斗は違った。

 

  「俺は部活の片手間に恋愛するなんて器用な真似は出来ないし、何より君に失礼だと思う。だからここではっきりと断らせてもらうよ」

 

  「分かり、ました」

 

  女の子は少し傷ついたような顔をして俯いて夕斗の前から去っていった。今まで生きてきた中でフラれたことがないのだろう。私に告白されて断る男がいるはずがないと、ある意味たかを括っていたに違いない。何度も女の子からの交際を断ってきた勘でそんな邪推をして夕斗もまた、帰路に着いた。

 

  「あんな可愛い子からの申し出を断っちゃっていいのー?」

 

  夕斗が歩いているといつのまにか側にいたアイスが話しかけてきた。

 

  「ふん、あんなやつ興味ねーよ。それより外では話かけんなって言ってるだろ、お前と話してる時の俺はただの独り言を呟いてるあぶねー奴なんだから」

 

  アイスは自称「天使」で数年前に夕斗が、名前を書いただけで人を殺せるというおかしなノートを拾ってから見えるようになった。

  アイス自身は天使を自称しているが、見た目はどちらかというと悪魔だった。青白い肌で、ガラスのように光を透過する四枚の大きな翼を持ち、いつ使っているのか怪しい鞭のような武器を持っている。

 

  「でもーアイス的には今まで夕斗に告白してきた女の子の可愛さランキングで言えばトップ3には入ると思うけどなー」

 

  真っ赤な口紅を塗ったような肉感のある唇にスラリとした指をあてながらアイスは夕斗に並んでついてくる。

 

 

  「だからー俺が興味あるのは一人だけだっていつも言ってるだろ?」

 

  夕斗は少しイライラしながら自宅の扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。

 

  「ただいまー」

 

  誰もいない室内に向かって声を出す。母親は昼間はパートで家を空けており、夕方に一度帰ってきて夕斗のために食事を作り、夜にまた仕事に行くという生活を、父親が死んでから続けている。決して裕福ではないが、母は辛そうにすることなくハキハキと毎日を送っている。夕斗はそんな母親にいつも感謝していた。

  夕斗の家は煜の住む住宅街から少し離れた場所に立地する団地のマンションの一室だ。夕斗は自分の部屋に入るとすぐに机に向かって今日1日の授業の復習を始めた。

 

  「また勉強するの?アイス構ってくれないと拗ねちゃうよ?」

 

  甘えた声ですり寄ってくるのが鬱陶しい。

 

  「うるさいって。また一週間無視されたいのか?」

 

  「え、それはやだ。お勉強頑張ってね」

 

  前のお仕置きが相当効いていたのだろう、アイスはすぐに大人しくなった。

  しばらく勉強を続けているとただいまーという声と共に母が帰ってきた。

 

  「夕斗、また勉強?」

 

  居間から訪ねてきた。

 

  「うん、試験が近いからね」

 

  「そう、でも頑張りすぎて体調崩したら元も子もないからね、夜更かしはしちゃダメよ」

 

 

  「分かってる」

 

  短い会話を終えると夕斗はまた勉強に集中し始めた。母親が夕ご飯を作り終わってまた出て行く音を聞いてさらに1時間、ようやく夕斗はペンを置いた。時計を見ると8時前だった。

 

  「そろそろ飯を食うかー」

 

  「もう話しかけてもいい?」

 

  アイスが嬉しそうに近寄ってきた。

 

  「別にいいけど」

 

  夕斗は見向きもせずに応えて、晩御飯を食べ始めた。

 

  「ねぇーアイスのノートはもう使わないのー?」

 

  「あんな恐ろしいもんもう二度と使ってたまるか」

 

  夕斗は思い出すのも不快だといった風に吐き捨てた。

 

  「ふーん、はじめの1人はためらいなく名前を書いたのにね」

 

  夕斗が名前を書いて殺したのは他でもない夕斗自身の父親だった。父親はまだ夕斗が小学生に上がる前に会社をクビになってから次の仕事に就くこともなく、毎日酒を飲み、家族に暴力を振るうどうしようもない男だった。

 

  「俺がそうすると分かっていてノートを見つけさせたんだろ」

 

  「まあ、そうだけどね。でもそこからどうなるか見たかったのに全然使わないじゃん。使わない人間の方が珍しいからそれはそれで興味あるけどね」

 

  アイスが形のいいアーモンド形の目で夕斗を覗き込んできた。瞳が大きく、さらに紅に染まっているのに、宝石のルビーを連想させるほど澄みきった目を見つめると、なにもかも見透かされそうで空恐ろしく、夕斗は顔を背けた。

 

  「もう、照れなくてもいいじゃん。まあ、こんなに美人じゃしょうがないか」

 

  「照れてねーし、美人ってなんだよ。そもそもお前は人じゃねーだろ」

 

  「ねぇ、サラダのプチトマト食べてもいい?」

 

  「スルーかよ、まあいいや勝手に食えよ」

 

  夕斗が許可を出すとアイスはさも美味そうに目を細めてトマトを食べた。

 

  「おい、口の端に汁がついてるぞ」

 

  「えっ、もう恥ずかしい」

 

  そう言うと、アイスは長い舌で器用にトマトの汁を舐めとった。

 

  「お前って恥ずかしいって概念持ってたんだな」

 

  「え?」

 

  「なんでもない」

 

  夕斗は突っ込むのが面倒でそれ以上は何も言わなかった。実際、アイスの服装は人間界の基準で言えば充分「恥ずかしい」に当たるものだった。

 肩が露わに出て、豊かなバストを隠そうともしない胸元の大きく空いたキャミソールのようなものを一枚と、下は太ももが大きく露出するようなホットパンツだけであとは裸足というとんでもない格好だった。

 

  「さて、飯も食ったし、勉強するか」

 

  夕斗はご馳走さま、と呟いて立ち上がった。

 

  「また勉強するの?」

 

  「そうだよ」

 

  「なんでそんなに頑張るの?」

 

  「前にも言っただろ、勉強して、いい大学行って、警察のお偉いさんになるんだよ」

 

  夕斗は自分で確かめるようにそう言った。

 

  「なんでそんなの目指すの?警察官でも別にいいじゃん」

 

  「いいか、俺は少しでも偉くなって金を稼いで、母さんに楽をさせたいんだ。しかもそれだけじゃなくて、俺自身の夢としてこの国の犯罪を少しでも減らしたいんだよ」

 

  「まあ、立派ねぇ。でも、そんなに抑え込まないで、もっと欲望に素直になってもいいのよ?」

 

  アイスはクリーム色のセミロングの髪をくるくると弄びながら夕斗の耳元で囁いた。

 

  「ああ、もう鬱陶しい。皿洗いと居間の片付けやっといてくれ。あと、勉強するからしばらく話しかけんなよ」

 

  夕斗はアイスを手で払う仕草をして勉強机に向かった。

 

  「あと、全部終わったら部屋にいてもいいけど気が散るからいいって言うまで透明化しといてくれよ」

 

  「もうーそうやっていいように使って」

 

  ぶつくさ言いながらもアイスは素直に従って、夕斗の皿を洗い始めた。

 


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