月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら 作:マタタビ
「え?」
ニアはあまりのことに声を出してしまった。
「どうかしましたか?」
捜査員が心配そうに声をかける。
「いえ、大丈夫です」
終わってないとはどう言うことだ?そうして煜の方を向いたとき、ニアは驚愕した。なんと笑っているのだ。体が震えていたのはそのせいだった。負けておかしくなったのではない。勝利を確信した笑いだった。
「あははははは!聞いたか!?ジェニファー、トドメをさせ!」
「ジェ、ジェ、ジェニファーだと?」
「そうだここのコンピューターはすでにジェニファーの手に落ちている。さすがはワイミーズハウスNo. 1の天才だ、誰にも気付かれずここを乗っ取った!ここに録音された音もすべてジェニファーには聞こえている!お前らが死んでもインターネットには公表されない!さらにジェニファーはノートを持っている!」
そんなはずがあるか。ジェニファーは死んだはず。ノートもニアが持っている。それに誰にも気付かれずここのコンピューターを乗っ取っただと?
そんなチート能力ありかよ。だがもし、煜の言っていることが本当なら相当まずい。ジェニファーはニアを含むすべての捜査員と面識がある。しかもさっきショーンが名前を読み上げたせいで全員の本名が分かる。
「今度こそ僕の勝ちだニア」
やがて捜査員が苦しみ始めた。ニアは自分の負けを理解した。
まさか『絶対』に裏切らないように送り込んだジェニファーが裏切っているとは思いもよらなかった。ニアは過去を振り返った。確かにジェニファーは正義感に溢れているわけではなかった。むしろ自分のためだけにその能力を使っていた印象さえある。
Lなら気づいていただろうか?その可能性が1%でもあれば徹底的に調べていたのだろうか?もしかしたら今までニアに対して何かヒントを与えてくれていたのではないのか?そしてLとの今までのやりとりを思い返したときニアは自分がLを超えられなかったことを知ったのだった。
だがおそらく煜もジェニファーに殺されるだろう。彼女は全てを欺き、騙し、自分だけがノートを手にするに違いない。
「L...すみま..せん」
ニアは薄れていく意識中で最後の力を振り絞り、そう言った。
「ニア、残念です」
Lは少しだけ悲しそうな顔をしてそれだけ言うとどこかへ飛び去っていった。
煜は倒れたニアからノートを奪い取った。勝ったのだ。僕の勝ちだ。
「うまくいったね煜」
しばらくしてジェニファーが現れた。
「ショーンもよくやってくれたけどもう不要だから殺しておいたよ」
煜はジェニファーの方を向いた。
「名前を書いたノートのページは処分してくれた?」
当然だと言わんばかりにジェニファーは頷いた。
「あと一つ仕事が残ってるけどね」
「え?」
驚く煜を気にもとめずジェニファーはノートに煜の名前を書き、それを見せた。
「ごめんね。これで本当に終わり」
煜は怒りを感じるよりも悲しくなった。やはりジェニファーは最後にこうするつもりだったのか。煜はあの小屋でのことを思い返していた。
「もう君の演技には騙されない。さよならアリス」
煜はそう言ってペンを走らせた。
「そんな」
ジェニファーが絶望した。
だが、煜は名前を最後まで書いていなかったのだ。そのノートはもともと箱に入れていた1ページ目だけが本物の偽のデスノートだった。こういう時のために1ページだけ本物にしておいたのだ。
しかし、
「だ、だめだ書けない」
煜の手は名前を書き終わる途中で止まっていた。
「煜、書いてないの?」
「うん」
ジェニファーはこのとき煜の仲間になると言ってきた。私を信じて、あなたの力になりたいのと潤んだ目で訴えてきたのだ。煜はその言葉を信じたふりをした。
そしてそのとき持っていたノートをジェニファーに渡した。それから煜とジェニファーはニアとその仲間を殺す方法を考えた。それは上手くいった。煜が記憶を取り戻したときすでにジェニファーは捜査本部の監視カメラをハッキングしていたのだ。
煜が記憶を取り戻したことを確認すると、煜から渡された死の直前の行動が細かく記されたノートの切れ端にアンディの名前を書き、それを燃やして処分した。
そして神森とショーンには中のページだけが本物の偽ノートを渡し、リュークで二人を操った。
ここまでがジェニファーが知っている作戦。だが煜は一つだけジェニファーに嘘をついた。実はショーンに渡したノートこそが本物で、ジェニファーに渡したノートは1ページ目だけが本物の偽ノート。
煜がジェニファーの名前を書くふりをしたのはそのとき煜が持っていた、「エロ本と入れ替えた偽のデスノート」をジェニファーが本物だと思い込んでいるか確認するためだった。
つまり、
「そのノートで僕は殺せないよ」
煜は静かに言った。
「何を言ってるの?ニアたちはこれで死んだのよ?わかってる?」
ジェニファーは馬鹿にしたような声を出した。
「うん、1ページ目だけが本物だからね」
煜は自分が手に持っているノートを見せた。
「君が偽物だと思っているこのノートが本物のデスノートだ」
「ククッさすがは煜だ。ゲームになると冴え渡ってる、その上容赦ねぇ。ワイミーズハウスNo. 1の天才に圧倒的勝利だ。お前の狩りをサポートできて本当に面白かったぜ」
いつの間にか側に来ていたリュークが囁いた。
「ああ、これで裏ボス撃破だ」
煜はなんの躊躇いもなくジェニファーの名前をノートに書いた。
ジェニファーは煜が名前を書く様子をぼんやり見ていた。二度までもこの私が出し抜かれた。煜に協力したのは当然その方がデスノートを手に入れて、ニアを殺しやすいと思ったからだ。私の頭脳とデスノートがあれば、何の誇張でもなく世界征服も夢ではなかった。
なのにこんなやつに。
「さよならヴェネーナ A ホワイト」
「くっ」
こうなったら少しでも私を殺したことを後悔させてやる。ジェニファーは煜をそっと抱きしめ、その唇に口付けをした。
「煜、大好きだったよ」
ジェニファーは微笑みながら息絶えた。
煜はジェニファーの亡骸を抱いたまま目に涙を浮かべた。
「ああ、あああ!」
涙が止まらなかった。一体自分は何をしているんだろう?
「おい、泣くなよ俺たちの完全勝利じゃないか」
それでも煜は泣き止まなかった。あの小屋でジェニファーを騙すことを決めたときにアリスへの気持ちも捨てたはずだった。どんな犠牲を払っても構わないと思った。なのになぜこんなに悲しいんだ。さっきのキスもジェニファーの演技だ。そんなことは分かっている。でも、アリスとの思い出が走馬灯の様に蘇った。
「おい煜!さっさとここを出ないとさすがにやばいぜ」
リュークが焦った声を出す。
煜は涙を拭いた。煜にはまだやらねばならないことが残っている。
「分かった。いくよ」
冷たくなったジェニファーを横たえた。
そして、煜はペンを持ち、''平和な世界''に向かって旅立った。
最終話でした。今まで読んでくださった方、お疲れ様でした!至らないところもあったかと思いますが楽しく投稿させてもらいました。本当にありがとうございました!!また次があるかは分かりませんがネタが思いつけば書くかもしれないのでそれまでしばしの別れです^_^