月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら   作:マタタビ

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覚醒

 煜は捕まってから何日経ったのか覚えていなかった。その間同じ部屋に閉じ込め続けられていた。食事の時に皿を持ってきてくれる以外、人と会うこともなかった。頭がおかしくなりそうだ。そんなときドアが開いた。

 なんだ?まだ食事の時間ではないはずだ。

 もしかして解放されるのか?煜は期待して入ってきた男にもう出られるのか聞こうとしたが、男は黙って黒いノートを差し出してきた。触れてみろ、ということらしい。

 わけがわからないが何をされるかわからないので煜はおとなしくノートに触れた。

 その瞬間煜の脳に直接電流が流れるような強烈な衝撃が走った。そして煜はすべてを思い出した。すべてを理解した。なぜ自分はここにいるのか、自分は何と戦っていたのか、何をしようとしていたか。

 

  (計画通り!!)

 

 ニアは必ず僕に自供させるためにノートを触らせると思っていた。だからわざと馬鹿な奴を選んでノートを持たせるようにリュークに指示したのだ。そうすればすぐにノートが回ってくる。

 ただしアンディをもう一人の仲間に確実に操らせるため煜が捕まってから23日後にノートを持たせたのだ。完璧だ。ここからは僕の番だ。このゲームには負けない。そのとき部屋に取り付けられたスピーカーから声が流れてきた。

 

  「思い出しましたか?自分が何をして、なぜここにいるのか」

 

  ニアだな、ああ思い出したとも。もう勝ちだと思っているだろうがそんなに簡単にはやられてやるか。

 

  「うん、思い出したよ」

 

  「では自分の罪をすべて話してください」

 

  煜は少し黙った後、こう言った。

 

  「明日まで待ってください」

 

  煜はデスノートに名前を書いたあと必ずそのページを切り取って燃やすようにしていた。

 つまりあらゆる状況証拠は煜をキラだと言っているが、肝心の物的証拠は一つもない。煜が自白しない限り法的に裁くことは不可能。

 

  「なぜです?こちらにはあなたを待つ義務も理由もない。無駄な時間稼ぎはやめて、さっさと自分がキラだったと認めなさい」

 

  「無理だ。僕はキラじゃない」

 

  「まだそんなことを...!」

 

  「キラに操られていたんだ!今はまだ話せないけど、明日知っていることすべてを話す!だから待ってくれ!」

 

  煜はできるだけ必死に見えるように訴えた。ニアはこれがどういうことか考えるだろう。

 それが煜の狙いだった。

 

  「わかりました」

 

  「ありがとう。あと記憶を失わないようにノートの紙切れだけでいいから触れさせていたい」

 

 しばらくして再び音声が流れて来た。

 

  「そうですね、では腕輪をつけてもらいましょう。その裏にノートの切れ端を貼り付ければ常に触れている状態になる。ただし腕輪は絶対に外さないでください。そして常に捜査員を交代で1人そばにつけさせます」

 

  「わかったそれでいい」

 

 

 

 

 

 

 

  「いいんですか?」

 

  捜査員の一人が不安そうに尋ねる。

 

  「いいんです。どうせあそこでは煜自身は何もできません。何か作戦があるようですが、逆に利用して決定的な負けを突きつけてやりましょう」

 

  アンディがニアの顔を覗き込んできた。

 

  「なんですか?」

 

  ニアが聞いてもアンディは何も答えずただ部屋の中を歩き回るばかりだ。ニアはもうこの男のことはあまり気にしないようにした。

 

  「取り敢えず朝日が何を考えているのか探り当てる必要がありますね。何か切り札を隠し持っている可能性も十分にあります」

 

  ニアがそういうと本部に再び緊張感が戻った。

 

 

 

 

 

 

 その日、男は自宅に戻るとすぐにPCの電源を入れた。無表情のまま画像を添付したメールを送ろうとしたときだった。

 

  「そこまでだアンディ!」

 

  男は捜査員に包囲されていた。

 

  「それをどうするつもりだった!?」

 

  アンディが送ろうとしていたのはニアを含む捜査員全員の顔写真だった。

 

  「ニア、やはりアンディはキラに操られていました」

 

  「やはりそうですか」

 

  ニアは電話越しに少し考える素振りを見せたあとこう言った。

 

  「すべてわかりました。今から私のいうとおり動いてください」

 

  ニアはそういうと受話器を置いた。

 

  「どうして23日たったはずのアンディが操られていたのか気になりますね」

 

 Lが呟く。

 

  「それは今アンディが写真を送ろうとしていたもう一人の仲間に朝日 煜がアンディを23日たったタイミングで名前を書かせたのでしょう」

 

  「その仲間はアンディの名前は分かっても顔はわからないはず」

 

 Lがまだ何かひっかかるように言ったが、ニアにはもう煜の作戦はすべて理解した。そんな細かいことはすでにどうでもいいことだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

  煜は顔を上げた。煜が記憶を取り戻してから1日経った。だが誰もこない。当たり前だ。みんな死んだのだから。もうすぐ煜の仲間がここに来る。アンディがこの場所を教えたはずだ、中に入るのもアンディが手引きする。

 今から来るのは狂信的なキラ信者だ。頭は良くないがキラのいうことは何も疑うことなく実行する。

  やがてその男が現れた。

 

  「か、神よ!!」

 

  男は煜を見るなり感激したようにそう言った。煜は勝利を確信した。

 

  「ああ、よくやってくれた。あとはここを抜け出すだけだ。独房の鍵は持ってきてくれたかい?」

 

  「はい!今お助けします」

 

  ついに煜は独房から解放されたた。

 

  「ありがとう本当に助かったよ。君の名前は?」

 

  「ショーン テイラーです」

 

  「そうかじゃあ行こうか、ショーン」

 

  煜が出口に向かって歩き始めたときだ。

 

  「行かせません」

 

  なんと死んでいたはずの捜査員たちが息を吹き返したように立ち上がり始めたのだ。

 

  「な、なんで!?」

 

  ニアが煜の前に移動した。

 

  「初めまして、ニアです」

 

  「どうして!?お前たちはショーンに殺されたはず!」

 

  「ええ、本来ならそうなるはずでした。しかし、アンディの様子がおかしいと気づいた私は彼を監視しました。すると驚いたことに私たちの顔写真をそこにいるショーンに送ろうとしていたのです。おそらくショーンは死神の目と本物のノートを持っている。神森が持っていたのは中に本物のデスノートのページを挟んだ偽のノート、だからあなたは常にページを身につけていないと記憶を維持できない。そしてショーンはアンディから送られてきた私たちの顔写真を見て、本物のノートで殺すつもりだった。ショーンと神森には死神を通して指示を出したのでしょうね。死神をも仲間にするとは恐ろしい」

 

  煜は唇を噛んだ。やはりニアは強敵だった。こんな作戦では騙せなかったわけだ。ニアがさらに続ける。

 

  「私はその作戦を利用してやることにしました。ショーンに公表されていない死刑囚の顔写真を送り、私たちが死んだと思わせた。さらにわざとアンディを操らせたままにし、ショーンをここに迎え入れさせた。そして彼はあなたを神と呼んだ。決まりです、お前がキラだ」

 

  煜は頭をふらふらさせながらニアと捜査員一人一人の顔を見て、不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。

 

  「そうだ、僕がキラだ」

 

  全員の表情が強張る。

 

  「ショーン、ノートは持ってきたか?」

 

  「はい!言われた通りに!」

 

  「爆弾は?」

 

  ショーンがニヤリと笑い、上着を脱いだ。彼の腹にはいくつもの爆弾が巻き付けられていた。

 

  「よくやってくれた。おいニア、お前たちのうちの誰かが少しでも動けばこの爆弾を爆発させる!」

 

  煜は自分の第一の作戦が暴かれることはある程度想定済みだった。だから保険のためにショーンにはリスクを冒してもらい、爆弾と本物のノートを持ってきてもらったのだ。さすがに捜査員たちの顔からは血の気が引いていた。

 

  「よし、お前の力でこいつらを皆殺しにしてやれ。一人ずつ名前を読み上げてノートに書いていくんだ。おい!動くなといっただろう!?」

 

  捜査員たちはどうすることもできなかった。動けば爆発に巻き込まれて死に、動かなければノートで殺される。絶望的な状況だった。

 そうしているうちにもショーンが名前を大きな声で読み上げながら書いていく。

 

  「ネイト リバー!ジョージ....」

 

 そしてついにショーンは全員の名前を書き終えた。

 

  「よし、最初の名前を書いてから何秒たった?」

 

  ショーンが腕時計をみる。

 

  「32,33,34,35,36,38、、」

 

  煜がニアの方を向く。

 

  「僕の勝ちだ、ニア」

 

 だが、40秒経っても何も起きなかった。

 

  「な、なんで!?」

 

 ショーンが信じられないという顔で煜を見た。

 

「か、神!!私は、仰せのままに!」

 

「何も起きないのは当然です」

 

  ニアが口を開いた。

 

  「本物のノートはここですからね」

 

  ニアは漆黒のノートを取り出した。

 

  「ショーンが持っているのは偽物です」

 

  煜がたじろぐ。

 

  「馬鹿な!どうやって!?ショーンに渡したのは正真正銘本物のノートだった!」

 

  「ええ、ですが、ジェバンニが一晩でやってくれました」

 

  煜はあまりの驚きに膝から力が抜けた。

 

  「ジェ、ジェ、ジェバンニだと?」

 

  「はい。PCのメールアドレスからショーンの自宅を特定し、精巧な偽物と取り替えたのです。捜査員全員にノートを触れさせておいたおかげで死神も確認できる、つまり逆に死神に気付かれないように行動することができた。ちなみに爆弾も爆発しません。さらに言うと私たちが死ねば、ここで録音された音声がインターネットで公表されます。逃げ道はない」

 

  「そんなチート能力ありかよ」

 

  煜は膝をつき、うつむいた。体が小刻みに震えている。

 

  「終わりましたね、ニア」

 

  ジェバンニが声をかける。

 

  「ええ、これでやっと、」

 

  ニアがそう言いかけたときその言葉を遮るようにLがこう言った。

 

  「いや、多分終わってません」


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