月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら   作:マタタビ

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接近

 捜査員たちの活躍により、例のソフトの位置が判明した。パソコンの画面には日本の関東のとある住宅街の住所がうつされていた。そこに住んでいるのは現在高校2年の青年、朝日 煜とその母親、朝日 朋子だった。父親は現在、単身赴任中で地方にいる。ジェバンニが昨日一晩で調べてくれた結果だ。

 

  「怪しいのは断然高校生のほうですね」

 

  ニアがそういうとアンディがなぜかと聞いてくる。

 

  「主婦と高校生どちらかがゲーム好きです。あなたならどちらだと思うんですか」

 

  ニアが返すとアンディはそれ以上何も言わなかった。とりあえず容疑者は1人になった。ここからばれずにノートを確保するにはやはりLの言っていた通り絶対に裏切らない知り合いを作るのが確実に思えた。

 

  「ジェニファーに日本で潜入捜査をしてもらいます。朝日 煜の高校に、転校生として」

 

  ジェニファーはワイミーズハウスの現在のトップ、優秀な頭脳を持ち、ニアがL以外で認めている数少ない探偵だ。

 

  「ジェニファー、入って来てください」

 

 ニアが呼ぶと、まだ幼さを残した少女が部屋に入ってきた。

 

  「これからみなさんの捜査に協力させていただきます」

 

  硬い表情のまま少女は言った。

 

  「しかし、いくら優秀と言えどまだ16歳。1人では不安です。アンディに保護者として一緒に行ってもらいます」

 

  「私ですか?!」

 

  「ただしアンディはジェニファーの捜査に手を出さず、保護者としてのみ生活してもらいます。余計なことをして勘付かれれば終わりです。くれぐれも気を付けてください」

 

  アンディに行かせるのは不安だという顔を隠しきれないでジェバンニが他の者を用意しようかとニアに耳打ちしたが、

 

  「結構です。私はアンディに行ってほしい。

 アンディ、できますね?」

 

  「はい!もちろん!必ずノートを確保します!」

 

  「ええ、余計なことは絶対にしないでください。ジェニファーに指示されたとき以外、捜査員として行動することは禁止します」

 

  ニアはそれだけ言うとさっさと自分の部屋に戻った。

 

  「ニア、あのジェニファーという少女、可愛いですね」

 

  「L、私は今あなたを少し見下げましたよ」

 

  「...冗談です」

 

 

 

 三日後

  煜はいつもより30分ほど早く目が覚めた。

 

  「おはよう、リューク」

 

  「お、今日はいつもより早いじゃねーか」

 

  「うん、昨日の話の続き、教えてよ」

 

  煜は一昨日から前のキラ、夜神月の話をリュークから詳しく聞いていた。

 

  「昨日は確か月さんが魅上 照に偽のノートを持たせたところまでだったよね」

 

  「めんどくせえなぁ〜」

 

  「もう少しでおわるって昨日言ってたじゃない。今日の帰りにりんご買ってやるから」

 

  「分かったよ、仕方ねえなあ」

 

  煜はリュークが話すのを、学校へ行く準備をしながら聞いた。

  「煜ー朝ごはん出来たわよー」

 

  階下から母の呼ぶ声が聞こえた。

 

  「すぐ行くよー」

 

  煜は鞄を持って下の階へ降りた。

 

  「おはよう、今日はすぐにきたわね」

 

  「僕だって毎日ギリギリなわけじゃないよ」

 

 もっとも8割くらいの日はギリギリなのだが。

 

  「昨日、お隣に引っ越してきたクラークさん、アメリカから仕事でこっちに来たって言ってたけど日本語上手だったわ。煜はそのときいなかったけど、今度会ったらちゃんと挨拶するのよ」

 

  「分かってるよ。じゃあ朝ごはん食べ終わったからそろそろ行ってくるね」

 

  「気を付けてねー」

 

  母がいつものように言う声を聞いて煜は家を出た。

 

  「外国人かー今度、英語教えてもらおうかな」

 

  「ククッ、お前英語が一番出来ねーもんな」

 

  「まだ僕がノートの説明を四苦八苦して読んでたこと覚えてるの?」

 

  「あれはなかなか面白かったぜ」

 

  「うるさいなぁ」

 

  煜は道端に落ちている空き缶を拾ってゴミ箱に入れた。

 

  「なんだか今日は学校に行きたくないな」

 

  「それ、毎日言ってるぜ」

 

 煜の重い気持ちとは裏腹に木立が朝の光を浴びてキラキラと輝いていた。

 校門をくぐり教室に続く廊下を歩く。いつもと変わらない光景だ。

  そんな煜の後ろで、男が一人ほくそ笑んだ。

 男は油断した煜の背後に気づかれる限界まで近づいた。

 

  「ひっかるくーんおっはよーう!」

 

  西谷 夕斗は背後からいきなり煜に抱きついた。

 

  「うわっ!やめろよ気持ち悪い、びっくりしたじゃん」

 

  「そんな冷たいこと言うなよ。それよりさー今日来るって言うアメリカ人の転校生、超かわいいらしいぜ!」

 

  興奮気味に話す夕斗を押しのけて教室にはいっていく。

 

  「ふーん、そうなんだ」

 

  「なんだよその反応、嬉しくねーの?」

 

  「だってそんな可愛い子僕たちには見向きもしないよ」

 

 諦めたような悟ったような口調で煜は呟いた。

 

  「たちは余計だよ、たちは!」

 

  夕斗が笑いながら返す。そうこうしているうちに、チャイムが鳴り、担任が教室に入って来た。

 

  「今日からここの生徒になるクラークさんを紹介します、どうぞ入って来てください」

 

 はい、と言って入って来たのはブロンズのロングヘアーに高い鼻、まさに西洋人といったような容姿の持ち主だった。

 

  「アメリカから来ましたアリス クラークです

 アリスって呼んでください」

 

  少し照れるようにニコッと笑ったのを見て、煜は瞬きができなくなった。周りのヒソヒソ話さえ聞こえなかった。

 

  「ええ、じゃあ君の出席番号は3番だから、朝日の隣だ」

 

  ええー俺の隣にしてくれよと夕斗が喚いている。

 

  「だったら朝日と結婚でもして苗字を変えるんだな」

 

  担任がそう言うとみんなが笑ったが、煜はそれどころではなかった。あの子が隣にくる、どうしようなんて話しかけよう。よろしくとかでいいのか?でもそれだと普通すぎる。そんなことを考えているうちにアリスが隣に座った。

 

  「よろしくね煜君」

 

  「あ、えっとよ、よろしく」

 

  煜は顔が熱を帯びていくのがわかった。後で夕斗とリュークになんと言われるのだろう。もう1人の冷静な自分がそんなことを考えていた。

 

  そして帰り道

 

  「それにしても今日はいいもんが見れた」

 

 リュークがやたら嬉しそうに話しかけてくる。ほらやっぱり、煜はなぜか笑いそうになった。

 

  「もういいだろ、りんご買わないよ?」

 

  「あああ!ごめんごめん」

 

  あの後一日中、煜は横にいるアリスが気になって全く授業に集中できなかった。髪が揺れるたびにいい香りが漂ってきたし、一度目が合ったときは完全に顔が真っ赤になったのを自覚した。あんなにドキドキしたのはノートを拾って以来だった。

 そういえば前にニアがキラ逮捕のため動き出したとニュースで言っていたが、あれ以来なんの報道もされていない。まあ捜査のしようがないのだろう。そのことについてはあまり深く考えないようにしていた。

 

  「煜くーん!」

 

  その声を聞いて煜の心臓はキュッとなった。

 

  「あ、」

 

  「アリスでいいよ。私の家、煜君の家の隣だから一緒に帰ろう?」

 

  これは夢なのか?女の子と、しかもこんな可愛い子と一緒に帰れるなんて。

 

  「うん、いいよ」

 

  煜はできるだけ明るくそう言った。アリスが左側に並んだ。

 

  「私、日本に初めてきたけどいいところだね」

 

  「えっ?日本語そんなに上手なのに?」

 

  「これは日本のアニメを見てたおかげかな?

 それに、こっちの授業についていけるように日本語を勉強しなさいってパパに言われてたからすっごい頑張ったんだよ」

 

  「本当にすごいよ。僕なんか英語が苦手でどんなにやっても覚えられないんだ」

 

  アリスが日本に来たのが初めてというのに驚きながらも、これだけスラスラと話せている自分にもっと驚いていた。

 

  「じゃあ今度私が英語を教えてあげようか?」

 

  「えっ?いいの?」

 

  「もちろん。あっ、家に着いちゃったね。じゃあまた明日ね。バイバーイ」

 

  バイバイと振り返して見送った。明日もあの子に会える、そう思うと学校も悪くないなと煜は思った。

 

 ジェニファーは煜が家に入るのを確認してから自分の家に入った。

 

  「ただいま」

 

  「おかえりなさい、ジェニファー」

 

  「だからこっちではアリスと呼んでっていったでしょう?」

 

  靴を脱ぎ、アンディを睨む。

 

  「ああ、すみません」

 

  「それと、私とあなたは親子ということになってるんだから話し方にも気を付けて。この瞬間も死神に見られているかも、常に監視されていると思った方がいいわ」

 

  「わかったよアリス」

 

  「うん、じゃあ私、シャワー浴びるから、気を付けてねパパ!」

 

  ジェニファーが奥に入っていった。アンディはため息を吐いた。なんで私があんな小娘にいいように使われるんだ。私がちゃちゃっと捜査すればデスノートなんて一発で見つかるというのに。ニアの指示で捜査員としては絶対に動くなと言われていなければなぁ。アンディはイライラしながらも晩御飯の準備を始めた。

 

 その頃、 煜は自分の部屋でぼーっとしていた

 

  「おい煜ゲームしようぜ」

 

  「……」

 

  「おい煜」

 

  「あ、ああごめん。今日の裁きと勉強が終わったらね」

 

  「しっかりしろよ。どうせあの女のこと考えてたんだろ」

 

  「うん、本当に日本に来たのが初めてなのかなって思ってた」

 

  「それはお前が英語できないから僻んでるだけだろ」

 

  「それは関係ないだろ。まあいいや今度英語教えてもらえるんだし」

 

  だが煜は、このとき自分がすでに追い詰められつつあることに気づいてはいなかった。


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