月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら 作:マタタビ
「よっしゃああ!!裏ボス撃破ぁ!」
ゲーム機を片手に煜とリュークがハイタッチする。
「やったな煜これで最強装備が作れる。それにしてもお前勉強や運動はダメなのにゲームとなるとホントつえーな今回もお前のプレー冴えてたぜ」
「いやいやリュークのサポートがあったから倒せたんだよ一人じゃ無理だった」
「やめろよ照れるじゃねーか」
普通の人はキラがこんなことをしているとは思わないだろう。はっきり言って煜は余裕を感じていた。夜神月のように相手の挑発に乗り、倒そうとしない限りデスノートでの殺人がバレるはずがないからだ。少なくとも自分が犯人を見つける側だったらどうすればいいか見当もつかない。
それでも気になる点はいくらかあった。一つはキラに対する世間の態度が前のキラ事件とは明らかに違うのだ。以前は表立っては言わなくてもインターネットを見ればキラの支持者が大半を占めていたが、今はキラは悪だとする者とキラ支持者が半々という状態だ。
これは何とかしなくてはと思った。たとえ捕まることがなくとも全世界の人々に認めてもらってこそ平和な世界を築くことが出来るのだ。もっと多くの悪人を裁くか?いや、それでは根本的な解決にはならないし、犯罪者は遅かれ早かれ皆殺しにするつもりだ。リュークに相談することも考えたがリュークは人間がデスノートを使っているのを見て面白がっているからそもそも平和な世界などには興味がない。相談してもめんどくさがられるだけだろう。
そんなときふと付けっ放しのテレビの内容が目に入った。下校中の小学生児童にナイフで斬りかかり死傷させた疑いで捕まっていた容疑者が心神喪失状態ということで不起訴となり釈放されたところだ。その容疑者は暗い笑みを浮かべて建物から出てきた。世論は当然この男を死刑にすべきだと主張したが、すでに決定してしまってはここから変えることは難しい。
許せない。煜は強い怒りを感じた。こういう奴がいるからデスノートは、キラは必要なんだ。今すぐにでもお前を裁いてやる。煜は名前を書き、テレビを見つめた。
38、39、40秒画面の中の男が苦しみだし、ほどなくして息絶えた。場は騒然となっていた。さっきまで静かに現場を伝えていたアナウンサーが興奮気味にキラの仕業ではないかとまくし立てている。これでいい悪は滅ぶべきなんだ。
次の日、いつものようにインターネットでキラについて調べると今までと少し様子が変わっていた。キラの支持者が明らかに増えている。
「本当にありがとうございますキラ」「ああいう奴がいる限りやっぱキラの裁きって必要だよな」「マジで犯罪者はキラに全滅させてもらえ」
こういった意見がインターネットに見受けられ始めていた。あの事件は世間の注目度が高く、犯人に非難が殺到していたからだろう。煜はこれだと思った。まずは世間から強く非難されている者から消していき少しずつ認めていってもらうのだ。煜は神などになりたい訳ではなかった、ただ世界を平和にしたかった。それをする方法がデスノートであるというだけなのだ。
「煜〜最近はやたら熱心にノートを書いてるな」
「うん、人々の理解を得つつ僕が日本にいることをバレないように殺すには結構頭を使わないといけないからね」
「大変そうだな。でもボケモンもポンハンも全クリしてやることねーし最近暇だなー」
「そのことなんだけどリューク」
「ん、なんだ?」
「このチラシ見てよ」
煜は朝、たまたま新聞に挟まっているのを見つけてきた広告をリュークに見せた。
「おっこれ面白そうじゃん」
「でしょ!しかも三日後に関東限定で50000本だけ先行販売されるんだ」
「マジかよ!?てことは手に入れるのは厳しくないか?」
「そんなことないだろう?リュークが買ってきてくれればいい、お金は渡すから」
「めんどくせーなーでも確実に手に入れるにはそれが一番いいか」
「見つからないように気をつけてね」
「ああ、任せろ!!」
このときリュークはすでにゲームにどハマりしており一人、いや一匹のゲーマーになりつつあった。
(あのゲームソフト本当は予約して買わないとダメなんだけどお金はちゃんと払うし、こうでもしないと手に入らないだろうからな。)
煜は少し嫌な感じを受けつつも自分を納得させた。
SPK本部ニアの部屋
「今日ですねパズカミの関東での発売日」
「ええ、もしNキラが関東にいれば今日結果が出るということです」
「私もやることにしました」
「え?」
「このゲームはオンラインで他プレイヤーとチャットしながら協力プレイができるんですもしかしたらNキラと話せるかもしれません」
「というのが建前でやってみたかっただけでしょう」
「あ、バレてました?」
「そんなことをしてもあまり意味があるとは思えませんからね」
「ニアもやりますか?」
「しません。大体今そんなことしたら、連日進まない捜査でイラついているSPKのメンバーに殺されます」
「物騒ですね、わかりました一人でやります」
そういうとLはハードに電源を入れ始めた。
(Lは一体何を考えているんだ?最初に来たときはキラ事件を解決するといっていたのに私の捜査に口出しもせずただ見ているだけだ。
確かにこの作戦が終わるまで何もすることはないといえばないが)
2時間後 SPK捜査本部
「今日はまだNキラの裁きはありませんねニア」
「はい、しかしまだ裁きが行われる可能性はあります。引き続き犯罪者の不審死がないか注意しましょう。ところでパズカミの売れ行きはどうだったんですか?」
「完売ですよ、すごい人気だ。購入者の情報を得られるよう完全予約制にしたにも関わらず当日はどの店でも人が凄いことになってました」
「そうですか。では監視カメラの映像から怪しい人物を見つけるのは難しそうですね」
「いえ、店内は厳しく入場規制した上に入店者には整列してもらい予約を確認してから商品を渡させましたので、店内の監視カメラからなら可能だと思います」
「ジェバンニ...」
「何ですか?」
「グッジョブ」
「はい」
その後二日間Nキラの裁きは止まった。
「これは..」
「決まりですね、自分で言っておいてなんですがこんなに上手くいくとは思いませんでした。とりあえず購入者の情報と全ての店の監視カメラの映像を確認しましょう。それから他にも何か気づいたことや気になったことはどんなに小さくてもいいので私に報告して下さい」
「わかりました!」
そう返事をする捜査員達からは息を吹き返したかのようにすばやく動き始めていた。ニアはようやく本格的に捜査が進んだように感じていた。だがこれからどうやって五万人の中からNキラを探し出すか、それがまた大きな問題となって自分の前に横たわっているのも事実だ。これからどうするか、そんなニアの思考を遮って一人の捜査員が声を上げた。
「ニア、2人だけ予約していたにも関わらずゲームソフトを手に入れられなかった者がいます。」
「手に入れられなかった?予約していたのでしょう?」
「ええ、しかし確かにあったはずのソフトが消えていたのだそうです。ソフトにはナンバーが振り分けられており予約の時点で何番のソフトを渡すか決まるのですが14444番と14445番のソフトが無くなっていたそうです」
「どの時点で無くなっていたのかは分かりますか?」
「トラックに積み込む時に確認したときは確かに全て揃っていたようです」
「では盗まれたのはそれ以降になりますね」
髪を弄りながら呟く。
「盗まれた?なぜそう言い切れるのですか?」
「そう考えた方が面白いじゃありませんか、徹底的に管理していたはずです、ただ失くしたというのは考えにくい」
「それはそうですが」
捜査員のアンディは何か言いかけたが、すぐに遮られた。
「14444番と14445番のソフトはどの店に運ばれたものですか?その店のトラックから販売するところまでのすべての監視カメラの映像を確認します」
ニアの指示ですぐに映像の確認は行われた。
「これはトラックからソフトを降ろしているところですね」
「ええ、一つの箱に千本のソフトが入っているので二人掛かりでその箱を店内に運んでいます。」
「このトラックの駐車場には誰かが入ることは可能ですか?」
「難しいと思います。周りは高い塀で囲まれていますし入口にはゲートと2人の警備員がいますからね」
「分かりました。あっ14000番から14999番のソフトが入った箱が見えますね。このときはまだあるのでしょうか」
するとニアの言った箱の上側がひとりでに開き、ソフトが2つ、宙に浮きそのまま飛んで行ってしまったのだ。ちょうどハコをハコんでいた2人がいない間の出来事だった。
「信じられない」
誰かが言ったのを皮切りに捜査本部が混乱し始める。
「皆さん落ち着いて下さい!」
ジェバンニが声を張る。そしてニアが話し始める。
「驚くのも無理はありません。私も予想外でした。おそらくこれは死神の仕業でしょう、というかそれ以外に説明のしようがない」
「その死神というのはデスノートに憑いているという化け物のことですか?」
アンディが困惑気味に尋ねる。
「そうです。そしてNキラにとっては死神を使うのが一番手っ取り早く、そして確実にソフトを手に入れられる方法だった」
静まり返った部屋は捜査員の困惑を顕著に表していた。
「14444番と14445番のソフトの現在位置は分かりますか?」
「私が調べておきましょう」
ジェバンニがすすみでる。説明はなされたものの混乱が収まりきらないため、その日の捜査はそれで解散となった。
男が二人ともいないときを狙ったかのように動き出すゲームソフト。そしてそのまま宙に浮かんでいく。ニアはそこで映像を止めた。
「どうです?死神はいますかL?」
ここはSPK本部のニアのために用意された部屋だ。
「最初に言ったとおり、私が死神であるから分かることは教えることができません」
「その力を使えば早く事件を解決させられる。犠牲者も減るはずです」
「そうです。しかし、だからこそ生きている人間が事件を解決しないといけない。デスノートがある限りこれからも同様の事件が起こる可能性はある。そのときにまた、死神の力を借りられるとは限りませんからね」
そう言い終わると、Lはシュークリームを食べることに集中し始めた。
まあいい、ニアはそう思った。盗まれたソフトの位置が分かれば、Nキラの居場所も分かる。そのあとは証拠となるデスノートを見つければこちらの勝ちだ。ただ気を付けなければいけないのはNキラにこちらの動きがばれ、ノートの所有権を放棄されると面倒だという点だ。
捜査員に尾行させるにしても、こちらからは見えない死神にまでばれないようにするのは難しい。そもそも外でノートを使う可能性は低いのだ。家をキラにも死神にも勘付かれないように捜査する方法を考えなくてはならない。
それだけがNキラ逮捕の最後の関門だと思った。そのことをLに伝えみる。
「そうれすねぇ」
クリームを器用に舐めている。
「知り合いか家族に協力してもらえばいいんじゃないです?」
「いい考えですがこちらを裏切る可能性があります。そうなれば非常に厄介です」
「じゃあ絶対に裏切らない知り合いを作りましょう」
簡単そうにLはそう言った。