それでも構わないのであればどうぞ。
主人公side
「落ち着いたかな?」
「・・・」
少女がスープを飲み終えて、しばらく僕をにらみつけている少女に声を掛けた。
でも、少女は一向に口を開かずただにらみつけていた。
まるで、目の敵を見つめるような、それでいて怯えているような目だった。
「君はどうして、僕の家の庭で倒れてたの?」
「は?」
「覚えてないの?
君はこの雨の中、庭に倒れこんでたんだよ?」
「そんなの、私が知るわけないでしょ!」
僕が少女が庭に倒れていたことを聞くと、少女が眉をピクッとひそめ突き返すように言った。
どうやら、自分でもわからない様子だった
「そうなんだ・・・。
じゃあ、君は誰なの?」
庭にいたことはこれ以上聞いても意味がないと思い、僕は名前を聞くことにする。
「・・・」
少女はしばらく黙りこんでいたが、小さい声で、口を開いた。
「・・・ティアマトよ」
「ティアマト?」
ティアマトside
「君は誰なの?」
目の前にいる人間がそのように聞いてきたので、私はどう答えれば良いか悩んでしまった。
なぜなら、もしそのまま本名を言ったら殺されるかもしれないから、目の前にいるこの人間がこの家から追い出されるかもしれないからだ。
しかし、かといって人間相手に嘘の名前を言うのは癪に触るので本名を言うことにした。
「ティアマト?」
「そうよ、メソポタミアにおける神様みたいなものよ」
この人間、まるで聞き覚えのないような言い方で聞き返してきた。
本当に私のことを知らないのかと思った。
「ティアマト、良い名前だね」
「は?
あなた、バカじゃないの!?」
目の前にいる人間はほほ笑みながら私の名前のことを良い名前と言い出したのだ。
仮に知らないにしても、こんな人類悪の存在の名前を良い名前というのはどういう神経しているのか。
「いや、良い名前だなぁって思っただけだよ。
そうだ、僕は
「別にあなたの名前なんて聞いてないんだけど?
まったく、なんでこんな人間に拾われて気を使われないといけないのよ・・・」
「別に気を使っているわけじゃないよ、普通に接しているだけだよ?
それで、君はこれからどうするの?」
「っ!
そ、それは・・・」
これから、どうするのか。
そんなこと今まで考えたことがなかった。
確かに私はついさっきこの世界に来たばかりだ、寝床をどこにするかなんて決めてない。
どうしよう、このまま目の前の人間を殺してこの家を奪い取るか、それとも今すぐこの家から出て適当な場所を探して寝床にするか。
でも、今の私の力は人間よりも強いとはいえ人間を殺せない。
そんなことしてしまえば、この世界に来る前の自分の気持ちに嘘をつくことになってしまう。
だったら、ここは大人しく出ていって・・・。
「ねえ、良かったらこの家で一緒に住まないかな?」
人間が、大翔が私に微笑みながらそんな提案をする。
この家に住む?
人間風情が、私と一緒にこの家で住む?
何だ、この怒りにも喜びにも似たような、それでいて身体中が暑くなるようなこの感情は?
「一緒に住む?
あ、あなたと私がこの家で?」
「そうだよ、そもそもここは僕の家でもあるからね」
「は、はぁ!?
あなたバカじゃないの、何で私が人間なんかと一緒に住まないと行けないのよ!」
大翔の言葉に驚きを隠せず、私は声を荒げる。
人間が怖い、そんなこと言いながらきっと私を殺すかもしれないから。
人間は噓つきだ、隙を狙って私を殺す気なんだ。
私の頭の中でそのようなことが巡り巡った。
でも、大翔はそんな事気にせずに私に言い聞かせるように口を開いた。
そんなことはしない、ともに居たいとでも言いたげな目だった。
「でも、行くところはないんでしょ?
それに今親も海外に出張してて僕一人だけなんだ。
まぁ、この家にもお金が入るようにしてくれてるし、正直言って僕だけじゃ使いきれないからさ、どうかな?」
大翔が私に手を差し伸べる、ついさっき会ったばかりで知らないとはいえ人類悪である私に。
まるで、それを知ったとしても一緒に居ようとほほ笑みかけるようにも思えるような姿勢だった。
「な、何よそれ・・・。
人間のくせして、どうしてよ・・・」
気が付いたら私の声が震えていた、涙が溢れそうだった。
「でも、そういってる割には手が僕の手の方に伸びてるよ?」
「あ・・・」
私はそんな大翔の姿勢に感化されたわけでも、絆されたのでもないのに、自然と手が伸びていた。
そして、大翔は私の手を取り、優しく微笑みかけた。
「人間は一人では生きていけない、だからこうやって手と手を繋いで互いを知りながら懸命に生きるんだ。
だからね、一緒に居よう、ティアマトさん・・・。
そして、これからもティアマトさんのこと、教えてよ」
「うん・・・」
私は優しく微笑みかける大翔に見られないように顔を俯いて静かに涙を流した。
おそらく私は嬉しかったのだろう、かつて敵として私を殺した人間に暖かく手を差しのべられたことが嬉しかったのだ。
次回から次第にメイドラゴンのキャラも入れていこうと思います。