俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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一回投稿して消したのは、ちょっと見逃せない矛盾があったからです。
申し訳ないばかり。


暫定艦隊旗艦!!ボルド建造中

 大マゼラン雲の大海原は銀河系よりは小さいが、決して、人類が直感的に認識できる程度の大きさではない。

 しかし、基地の情報から得たガミラスの版図は、どうやら大小マゼラン雲を『制し』、銀河系に到達する程だというのだ。

 

 ……繰り返しになるが、大マゼラン雲は、銀河系よりは小さいとはいえ数百億個の星系が存在するれっきとした『銀河』である。

 ガミラス人はその全てを支配したのだろうか、そんなことを出来る文明相手に人類は立ち向かえるのか?

 

 答えは、どちらも『ノー』だ、そんなことを可能にする文明なら、いかにあのような弱小な艦であっても数千、数万、数億と差し向け地球文明を破壊してしまえるだろう。

 そして、ガミラス人はそのような大それたことをしでかしてはいないし、出来もしない。

 

 これはつまり、『銀河を制する』というのはそこまで大事業ではないということを示している。

 そう、この世界の『制するべき星』というのは、我々が想像する大宇宙の中の、ホンの一握り……生命が、それも地球と同じ生命……『人類』が存在する星だけということなのだ。

 ……なぜ、地球人やガミラス人のような生命体が宇宙に点在しているのかは分からないし、ガミラスも明らかには出来ていないようだが……。

 とにかく、ガミラスなどの星間国家はそのような惑星や、恒星系を狙って支配することによってマンパワー(奴隷)や職能者、技術、文化などを奪い、勢力を増しているのだ。

 

 要は、ガミラスが『大小マゼラン雲』を支配していても、その勢力下の惑星というのはそこまで莫大な数ではなく、戦力、人口自体も、結局のところ一つの惑星国家をめいいっぱい増強した程度のものでしかないということだ。

 

 

 「ということで、ガミラスの戦力は俺達が全力で食い荒らせばなんとかなる程度のものだと推測される」

 

 「……『基地』から入手したデータに着地する考察モドキじゃないですか」

 

 『ジト目』と言うやつだろう、武本が睨む。

 

 「そう言うな、理屈を立てるというのは正誤はともかく、楽しいものだろう、暇つぶしとでも思ってくれればいい」

 

 「まあいいです、それで、これからどうするのですか?」

 

 「うむ、まず、ガミラスの勢力圏は大小マゼラン雲、そして銀河間空間を跨いで銀河系の一部に存在している」

 「我々の至上目的は地球の防衛、そしてガミラスの撃破である……が」

 

 「ガミラス勢力の大きさから考えると、地球の防衛を優先した場合、それに対応するため戦力を集中したガミラスと正面切って戦わねばならなくなりかねない、ということですね」

 

 武本が先回りをする、そうそう、こういう相槌こそが、無味乾燥な作戦立案を楽しげで、豊かなものにするのだ。

 ……ダメ上司そのものじゃないか、というのはこの際置いておこう。

 

 「その通りだ、本土防衛のためにワープAで超長距離航行を成功させ、太陽系からガミラスを撃滅しても、更に巨大な勢力が襲い掛かってくることは必然だろう」

 「そうなった時、我々の手だけで地球を守ることは難しく……もっと言うなら、俺が当初予測したような数千数万の艦隊を送り込まれる危険性すらある」

 

 「いくらこの艦隊と言えど、数百倍の艦隊に襲われれば……」

 

 「為す術もないだろう、そもそも、今の戦力のままでは地球を襲う艦隊を正面切って相手取ることすら難しいかもしれない」

 「そこで、だ」

 「まず、マゼラン雲を渡り歩きながら通商破壊に近い形で荒らし回り、収奪によって力を蓄えつつ、ガミラスの目をこちらに向ける」

 

 「海賊行為により防備を増強させることで、銀河系に割ける戦力を削っていくというわけですね、……少し姑息っぽい策です」

 

 苦味を孕んだ笑みで武本が返す、まあ、彼女は散々『鼠』をやったんだ、思う所はあるのだろう。

 

 「我々は強力とはいえ無勢……、ならばそれを逆手に取って、『超強力な少数勢力』というアドバンテージを最大限に活かすことこそが必要だ」

 

 「……そうですね、引っ掻き回してやりましょうか」

 

 「安心しろ、勢力が成長し次第大規模会戦の機会もある……何より、最終目的は────」

 

 「「ガミラスの滅亡」」

 

 ニヤリ。

 

 「復讐心の混ざった作戦なんて、軍人としてどうなんですかね」

 

 「我々は既に独立愚連隊……いわば『宇宙海賊』だ、高潔な精神で動く必要はない……そうだろう?」

 

 

 

 ────さて、現状の戦力を確認しよう。

 

 母艦として生命要塞『ベルメイト』一隻、輸送生命体『ノーザリー』一隻。

 小型機としてバイドシステムαとフォースのセットで二小隊、ジギタリウスとフォースセットで3小隊の戦闘機隊。

 さらに、補給機と工作機、あまり役に立たない要撃生命体リボーに、雑用ばかりさせている汚染物運搬機ストロバルト、制圧時のみ活用できる人型機動兵器『キャンサー』。

 それに薄らでかい動くミサイルサイロ『タブロック』を合わせたのが、今の我が艦隊の全戦力だ。

 

 ……ううむ、バイド軍編序盤というのは、どうしてこんなにも戦力が乏しいのだろうか。

 現在、収奪した資材を利用して暴走巡航艦『ボルド』を建造中だが、それを戦線に投入してもなお、この戦力不足を補うことは出来ないだろう……。

 赤いボディに金色のアンテナを生やした暴走巡航艦『ボルド』の売りは比較的高い機動力にある。

 R戦闘機は高い戦闘力と機動力に加え、燃料が持つ限りでの戦線維持能力(ゲームではZOC、つまり、隣接したマスで敵が移動するのを防ぐ能力による壁として表現される)まで備えたまさに万能の戦力だ。

 しかし、あまりの戦闘速度に、戦艦、輸送艦や生命要塞などの『重い』艦艇はついていくことができず、結果的に進軍の足かせになることが時々…というか、しょっちゅうある。

 その点、この『ボルド』は状況に左右されない高い機動力まで有していることによって高速進軍時の母艦として用いるのに適している……。

 ……と、言いたい所なのだが、実はこの『ボルド』は艦載機運用能力に乏しく、大規模戦闘における母艦としての役割を完璧に果たせるとは言えないのだ。

 

 そう、ボルドは有ったら便利ながら、あまり使い所のない艦艇の代表格なのだ。

 先のアステロイドベルトでの戦いに居たら、大活躍させてやれたのになぁ……。

 

 しかし、この機動力を重視し、耐久力に乏しいガミラス軍を相手とした戦いでは一定の居場所を見出す事もできるかもしれない。

 地球文明圏での戦いは基本的にお互いの軍勢を進めていき、カチあった所で戦闘するというものだが、これから行う通商破壊作戦では高速の戦闘艦が有効になってくることだろう。

 この『ボルド』と、まだ建造は出来ないが『ファインモーション』の中型高速艦はガミラスとの戦いで役に立つはずだ。

 

 ……うむ、ボルドは嫌いではない、むしろバイド艦艇としては好きな部類に入る艦だ……、できれば活躍させてやりたい。

 俺は、居住性も考え一度艦隊旗艦をボルドに変更することにした、遭遇戦になった際動かしやすいのは他艦艇に対する確かな優越点だと思われる。

 

 

 「この『ボルド』が完成し次第、これに旗艦機能を移し航海を開始する」

 

 そう言いながら背後で建造(金属とバイド肉塊を増殖させ組み合わせていく作業であり、近くで見ると一般的な感性の人間は嫌悪感を催すだろうが、遠目に見れば面白いものだ)中のボルドを指してやる。

 

 「随分大きな戦艦ですね、全長で言うと……」

 

 「一キロは下らんな……しかし、これは戦艦ではない、巡航艦だ」

 

 武本が訝しげな顔をする。

 

 「大きさはともかくとして巡『航』艦……?」

 

 「我々の世界ではスペース・クルーザーを宇宙巡航艦と訳すんだ、巡洋では意味が通らんからな」

 

 武本は額のシワを増やして更に返してきた。

 

 「航海とか提督とか、水上艦の用語を使っておいて今更では?」

 

 「……そう言うな、こちらでも多少取り沙汰される問題なんだ、そちらにも一つや二つあるだろう」

 

 「確かに……ありますね、官名の無意味な呼び変え、水上艦のものを踏襲しながらも命名規則に反して付けられた艦名……」

 

 武本は目を瞑り、少し思案するような、嘆息するような雰囲気をまとい返してきた。

 

 「うむ、どこも似たようなもの、ということだな……」

 

 しばしお互いの軍に関する四方山話をかわした後、本題に入る。

 

 「で、提督、航海と言いますが、最初の目標はどこになるのですか?」

 

 「今回の航海における目的地は小マゼラン雲辺縁のガミラス軍基地だ」

 

 「銀河系、大マゼラン雲間の航路破壊ではないのですか?」

 

 武本が疑問符を浮かべる。

 

 「もっともな質問だろう、我々が守るべきは銀河系にある地球で、その上ここから大マゼラン雲辺縁、銀河間空間までの距離に対し、小マゼラン雲への距離の方が長い……、しかし、これを見ろ」

 

 鹵獲したガミラス製モニターに、大小マゼラン雲星図と幾つかの宇宙艦艇が表示される。

 星図の方は小マゼラン雲を中心に大粒の光点に彩られたもので、宇宙艦艇の方は黄緑色の、既存の地球文明艦艇、ガミラス艦艇、そして国連宇宙軍艦艇のどれにも類似していない、分かりやすく『異文明』のものだ。

 

 「ガミラスの艦艇とは違うように見えますが、これは一体……」

 

 「これは『ガトランティス帝国』の艦艇だ、連中は小マゼラン雲を中心に出没し大規模な破壊活動、略奪行為を繰り返す国家……、平たく言えば蛮族だ、ガミラスもそう呼称している」

 

 航路図に表示された光点は、ガトランティス帝国軍とガミラス軍の戦闘や略奪行為による被害が発生した領域だ。

 光点は大きさと色によって種別、規模が分けられており、大粒の光が散りばめられたその有様は、ガトランティスがガミラスの頭痛の種であることを、克明に示している。

 

 「我々は、ガトランティスの侵攻を防ぐために設置された基地や補給線を破壊することによって戦線を崩壊させ、ガミラス帝国に大きな損害と混乱をもたすことを目的に行動する」

 

 「……なるほど、敵の敵は味方、というわけですね」

 

 「その通りだ、彼らと直接同盟を結ぶ予定は、今のところ無いがな」

 

 「確かに、地球に害をもたらしかねない攻撃的な文明ですからね……、しかし、だからといってガミラスにならって我々まで彼らを『蛮族』と呼ぶのは……」

 

 武本が遠慮がちに言う、確かに、他国を蛮族呼ばわりするというのは、文明国家の一員としてあまり気が進まないだろう。

 

 「文字通りだ、ガトランティスは行動様式、精神性ともに地球上での未熟な文明そのもの……、ガミラスもこのような文化レベルの文明が宇宙に出られた理由を測りかねているらしい」

 

 画面上には(地球人の美的感覚からしたら)悪趣味な色彩の艦橋の中に、動物のものと思われる骨や皮、太鼓と思わしき楽器が並んでいる光景が映し出されている。

 

 「更に、その略奪行為に至っては、有用な資材と技能者のみを回収し、他の船員は女子供であろうと皆殺し、という有様だ」

 

 「降伏勧告をしてきたガミラスの方がマシなくらいじゃないですか」

 

 武本が語調を強めて言う、信じがたいといった顔だ……しかし。

 

 「目くそ鼻くそだろう、降伏などという選択肢は地球人には存在しないからな」

 

 「……目くそ鼻くそに『してしまう』ということですか、我々も大概、意地っ張りですから」

 

 うって変わって、自嘲するような、儚げな顔と声色の武本がつぶやいた。

 

 「安心しろ、俺は美徳だと思っているとも……、あの星を異星人に渡してなるものか」

 

 「……お互い様というわけですか、提督」

 

 「我々の時も、バイドから逃げようと外宇宙に飛び出した連中は居たよ……、移民船は皆食われ、若き英雄ジェイド・ロスがバイドを倒した後も音沙汰なしだがね」

 

 

 

 クロガネ提督の放った一言は、まるでピンを抜かれた手榴弾のようにその場に留まり、場…というか、私を凍てつかせました。

 

 「ああ、やっぱり的中か、そうじゃないかとは思ったんだが」

 

 ……カマをかけられたというわけですか、よく考えれば文脈も繋がっているようで繋がってはいません。

 とはいえ、隠していたのも、後ろめたい事実であるのも確かなこと、ここは何らかの弁明を行わなければならないでしょう。

 

 「あの、提督……」

 

 「別にどうということはない、後で話してくれればそれでいいさ」

 

 「ですが……」

 

 「あの時……、俺と共に戦うことを決めた時のお前の目は……『故郷のために戦う』と、『一度捨てた筈の希望を拾い、今度こそは命がけで守る』と、そう言っていた……だから、俺はそれを信じることにした……お前はどうだ、武本」

 

 ……ここまで先回りされてしまうと、清々しくすらあります。

 私も、答えなければなりません。

 

 「私は───」

 

 「待て武本!緊急連絡だ!」

 

 「──っへ!?」

 

 提督はひとしきり周りを見回すような動作をすると、画面上にこの星系の星図を投影しました。

 

 「あ、あの───」

 

 「敵は、事前に用意してあったか、確認してあった航路を利用して一直線に星系内にワープしてきた、そのせいで確認できなかったが……クソ、こういうのもあるのか」

 

 「ええと……」

 

 「ああ、デコイなどの撹乱が行われていないと仮定するなら、敵の数はおよそ50と言ったところか、艦種については今識別中だ」

 

 「そうではなくてですね……」

 

 「進路は航路図に表示する、……だが、放っておけばいつワープや、危険な拠点攻撃兵器を使用されるかわからない……今すぐ、迎撃作戦を練らねばならないな」

 

 「……はい」

 

 「俺は勝利したとはいえ、ガミラスとの交戦経験自体は数度に過ぎない……、だから、君のような本式の教育を受け、戦歴を学習した士官の存在も重要になるはずだ……君は、地球のため、私と共に戦ってくれるのだろう?」

 

 ……この人は、想定していたよりも遥かにお茶目で、ズルい人なのかもしれません。

 

 「もちろんです、提督」

 

 「ありがとう、……ボルドはまだ使用不可能だ、このベルメイトで出る……頼むぞ、武本」

 

 「はい!」

 

 

→出発する




武本は賛否両論だろうけど、他者がいないと執筆してて苦しくなるので致し方なし。


入手トレジャーは忘れたり、思いつかなかったりして少ないのです。
後から思いついても、改定前のバージョンを読んだ方々に悪いので編集でねじ込むのはやめてます。
……いっそ、10話くらい書いた後に一辺に公開してしまおうかしら。

ところで、ガミラス艦に命中した地球軍の光子砲が一回戻ってから直進を再開するのはどういう理屈なのだろうか。
いや、野球漫画やサッカー漫画で、バットやキャッチしようとする手とボールが暫くせりあうのと同じような描写だということは分かるけど、SFである以上は技術的な解説が欲しい……。

追伸:UAとお気に入りがすごい勢いで伸びている…一体何があったんでしょうか。
    ともかく、ご愛願いただきありがとうございます!

2018/4/30:少し改定、感想で指摘を頂いた文章の問題点や、情報の不足、未回収になった伏線について対処

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